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トナカイの妖精    作者: 弐屋 丑二


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第七話ヨーチューバー 前

「ねーねー。おっさんさー、YO!TUBEで、

 顔出しで、動画を投稿する人をヨーチューバーっていうんでしょ」

"ふふん、私もネットにくわしいのよっ"といった自慢顔で

ノーナがのたまう。

「だいたい、当たってるな」

お前らもYO!TUBEで元気な兄ちゃんたちが

商品紹介してるところを一、二回は見たことあるだろう。

あれのことだ。

動画に広告を貼ることで、アクセス数に応じて

儲けられる仕組みなっているらしい。

極一部のスター達は専業で年収数百万とか数千万いくらしい。


「で?お前もヨーチューバーになんの?」

「題材は何でもいいんでしょ?アクセス数さえ稼げれば」

たしかにその通りで、お菓子から心霊、はたまた政治論にいたるまで

様々なヨーチューバーたちが日々、YO!TUBEに動画を投稿している。

「なんか稼げそうなネタでもあるの?」

「まっかせなさーい!リアル悪魔なので余裕よ!」

ノーナの自信たっぷりの笑みに、俺は嫌な予感しかしなかった。


数日後……


「準備できたから来て!」

数日間部屋でマンガしか読んでなかったのに何の準備が……

と思いながら、家から出て

ノーナが教えてくれた場所まで1時間ほど車を飛ばした。


ノーナから導かれるままに薄汚れたマンションの

ドア開けっ放しのエントランスに入り、エレベーターに乗る。

エレベーターにのった瞬間から、霊感ゼロの俺にも

"ぞわっ"とした嫌な感覚がまとわりついた。

「何なんだここ……?」

9階にゆっくりとあがっていくエレベーターは

"キキキキキ"という嫌なモーターの駆動音をあげている。

「おっさんごめんねー。悪魔だからさー。こういうとこのが楽でねー」

ノーナは嬉しそうにキラキラした笑顔で俺を見上げている。

またこいつ、やばいことやるんじゃないか……。

と思っていると、「大丈夫だよー。人様には迷惑かけてませんっ☆」

またこいつ思考を読みやがったな。まあいいか……。


9階にたどり着き、エレベーターを降りて

外付けの廊下を端の角部屋まで歩いたのだが、

そこも真昼間というのに、後ろから複数人の気配はするは、

子供の笑い声が下からしたので見ると、子供の影だけが数体走っているわで、

ノーナを睨むと、大慌てで「違う違う」と両手を振って

自分のせいではないとジェスチャーしてきた。


角部屋にたどり着くとノーナはチャイムを押した、

"ジジジジ"と嫌な呼び出し音がして

坊主で不精髭を生やしたジャージ姿の大男がドアをあけた。

「あ!紹介するね!もっさんです!」

「どうも」と俺が頭を下げると、もっさんも軽く頭を下げてきた。


「どうぞ」ともっさんが、ぶっきらぼうに中へと俺たちを入れる。

部屋は2LDKの広くて日当たりも良いところで

ベランダからうちの市が一望できた。


もっさんから畳が敷いてある方のダイニングの

ちゃぶ台に案内され、俺とノーナは座布団に座る。

「もっさん!私ケーキと紅茶ね!おっさんはコンソメ味ポテチがいいかなー」

ノーナが偉そうにもっさんに指図して、もっさんがキッチンに行った隙に

俺はノーナに小声で話しかける。

「あれだれだ……」

「あー話して無かったかなー。私の使い魔なの」

「まさか……おまえ……」

まさか人間の身体をまた乗っ取って……俺の再びの疑いの眼にノーナは笑い出す。

「おっさんまさか、もっさんが人間に見えたの?あはははっ」

どう見ても人間なんだが……。

「おっさんってさー。物質界寄り過ぎるわ。

 私が間借りしてもまったく壊れないわけだ。あははははははっ」

ノーナは足をバタバタして笑い転げている。

「どうぞ」

もっさんが音も無く、お盆から丁寧に山盛りのケーキやお菓子とティーポットと、

そしてティーカップを二人分おろし

「では、わたくしは用意が残っているので」

と短く言い残して、向こう側のダイニングに行ってしまった。



「詳しく説明をしてもらおうか」

ケーキにかぶりついているノーナに俺はせまった。

「もっさんは元狸の使い魔で、ここは幽霊マンションで

 もっさんをヨーチューバーにします」

「はぁ?」

一個ずつ話してくれ、わけわからん。

「んーと、じゃあまずは短そうなところからいくかな」

ノーナはケーキを食べていたフォークを咥えたまま、

腕を組んで少し考えてから、話し出した。


「このマンションはさー、

 前に何があったかは分からないけれど、

 とても悪魔である私に親和性が高いのよ。

 つまりさー地獄や天国……日本ではあの世っていうのかな?

 この世にありながらも、半分ぐらいあの世な感じね。

 "あの世に汚染されている"って言い方のほうが正しいかも?」

「よくわからんが、要するにお前がここなら活動しやすいわけか」

ノーナがかわいらしく紅茶を飲みながらうなづく。

「そうね。おっさんの家では実はそうでもないんだけど、

 ここなら、私の力を百パーセント近く使えるわ」

「で、どうやってここに使い魔を入れたんだ」

そうだ。それが一番重要なところだ。

「んとさー、このマンションの管理人さんが、この棟全体のオーナーでね。

 彼女、半分くらいこっち側の人だから、

 もっさんが会いに行って理由を話したら面白がってねー。格安で部屋を貸してくれた」

意味が分からん。

「わりといるものよ。半分くらいあの世に足突っ込んでいる人。

 おっさんの近くなら賀寿明さんがそうね。

 彼は六十五パーセントくらいかなー」

「それにしてもこんないい部屋、管理会社も通さずに貸してくれんの?」

「ああ、霊障が酷すぎて誰も借りないから、管理人さんが電話入れたら

 管理してる不動産屋もあっさり了承したそうよ」

うむ。上手くいきすぎで何か怪しいが、

まあ、一応人様にご迷惑をかけていないならいいだろう。


「もっさんはね。数百年前にポーランドの森でほら、

最近飛行機が落ちたとこよ。あそこのあたりで私が半死で拾ったの。

 ポーランドもねー、色々大変よねー。悪魔とも悪い意味で関係が深いし」

ポーランドの国内事情はまったく知らんが、つまりは

もっさんは数百年前に拾われた元狸ということだ。

ぶっ飛びすぎてて、もうツッコむ気もないな!

「そして、私が魔術を施して使い魔になったわけよ」

ケーキをフォークで突きながら、ノーナは微笑む。

「ふーん、まあ詳しい話はこんどでいいや」

理解が追いつかないので俺は話を一度切った。

「だね。最後の話が一番大事だし」


 

「で、もっさんをヨーチューバーにする話なんだけど」


ノーナが白い歯をキラキラさせて、ニカッと微笑んだ。

手元のフォークが怪しく光る。

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