入道雲
目が覚めたとき、自分が立っていたのは何処とも知れない町の路上だった。
――――――何処だ、此処は……?
ボロボロの雑嚢を手に思わず空を見上げ、感嘆する。
――――――きれいだな………
そこには無限に広がる青空をバックに、とても大きな入道雲が浮かんでいた。
この時、ついさっきまで自分がエアコンをきかせた部屋で昼寝をしようとしていたことが思い出せなかった。ただ、目の前に広がる青空に浮かぶ入道雲にただただ見入っていた。
「………“蒼穹に 浮かびしものは 雲の峰”……、か……」
思わず、数か月前に現代文の課題で作った俳句を口ずさむ。普段なら恥ずかしくてとても口に出すことはできない。無論この空間にも周りには結構古い服を着た人が結構いるのだが、だがこの空間にいると、自然とそんな思いはどうでもよくなってしまった。
景色に見入っていると不意に、いつもの癖であるような動きでヨレヨレの略帽を頭にかぶり直し、雑嚢を右肩から斜め掛けする。
この後、この時自分が着ていたのが戦時中の国民服であったことを思い出したのだが、この時の自分はまるでソレを何年間も来ていたかのように違和感を感じなかった。
丸眼鏡の鼻掛の位置を少し下げ、歩き出す。
どこに向かって歩いているのかわからない。だがそれは長きにわたって身についた習慣のようにしっかりとした足取りだった。
数十歩歩き、古い赤ポストを左に曲がる。と、河原にでも遊びに行くのか、嬉々として駆けていく数人の子供とすれ違った。
そんな小さな背中をを微笑ましく見送った直後だった。
ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッ!!!
消防や、工場のソレとも違う、重い音のサイレンが町中に木霊した。
途端、身体が一気に硬直し悪寒が背筋を走る。
聞き覚えのあるサイレンだった。いや、聞き覚えのあるなんて程度じゃない。これは………
「っ!」
ふと、先ほど見上げた入道雲から黒い点が2、3見えた。
「カンサイキだーーーーーーッ!!」
叫んだのはほぼ条件反射に近かった。
そして叫んだ直後、一様に硬直していた人々が、まるで訓練された兵隊の如き素早さで道脇の穴に飛び込む。
――――――なんで俺はあれを“カンサイキ”なんて呼んだんだろう?
そんな疑問を頭の淵で唱えつつも、俺も人々に続く、が、
さっき曲がった道の6メートルほど先、さっきかけていった子供の一人であろう少女が一人、ぽつんと立っていた。
そしてさっき見た機影は、今はもうその機体の青の塗装がはっきりと見える距離まで近づいてきていた。
「くそっ!」
反射的に駆け出す。なんでかはわからない。ただ足が動いただけだった。
――――――間に合えっ!
渾身の力で足を動かして少女にかける自分、そしてその向かいからは、ドダダダッ、と工事現場の掘削機に似た音を立てて連続的な土埃が舞う。
最後の数10センチ。
力を振り絞り一気に地面を蹴り、驚愕に目を見開いた少女を抱え込む。
ドッ、という鈍い音と背中に暑さを感じたのは一瞬、意識が落ちる瞬間、腕の中に抱え込んだ少女のぬくもりだけがやけにはっきりと感じられた。
「………………………あれ?」
再び目が覚めると、そこは自室のベッドの上だった。
エアコンがキンキンにきいているのにも関わらず身体、特に背中は寝汗にまみれ、両腕で枕をしっかりと抱きかかえていた。
「…………………………………………」
あまりの今の自分の姿のシュールさに脱力しつつ、とりあえず渇いたのどを潤そうとベッドを降りた。その時ふっと、無造作にカーテンの開いた窓から、あの時と同じ青空と大きな入道雲がみえた。
――――――もし今度あの夢を見て、そしてあの少女に逢えたら、名前くらいは聞いておこう。
入道雲を見、思わず笑みをこぼす。
蝉時雨の絶えない、とある夏の一日の事だった。
では皆さん。私における“にじファン”はこれで終了です。
できれば“にじファン”の閉鎖をこの目で見届けたいところですが、あいにくと当日は高校の終業式でこちらに入れません。
心残りもありますが、ひとまずここで別れの挨拶とさせていただきます。
今まで私の作品を読んでいただいた読者の皆様。
面白い作品をたくさん投稿してくれた作者の皆様。
そして、私に“二次創作”というものの面白さを教えてくれたにじファン。
皆さん、本当にありがとうございました。
私は引き続き“pixiv”にてssの連載をこちらと同じペンネームで続けていきますので、皆さん、もし気が向いた時に“pixiv”でも私の作品を読んでいただければ幸いです。
さようならは言いません。いずれまた、皆さんと会える事を願って。ではまた!!