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第壱話 水音



 その日はひどく蒸し暑い夜だった。

 まだ夏も始まっていないのに、じっとしていると自然と汗が滲むような、そんな暑さだった。

 大学進学に合わせて東京に引っ越した僕の住むハイツにはいつも水の流れる音が聞こえる。ハイツの前に川が流れているのだ。

 そんな川の音を聞いていると、シャワーでも浴びて汗を流したいと感じ始めた。僕は思い立つとすぐにシャワー室に入り五分ほど熱いシャワーを浴びた。

 シャワー室から出た僕は体をタオルで吹きながら、真っ直ぐ冷蔵庫の前に向かい、その扉を開いた。冷気が漂うのを肌に感じながら、スポーツドリンクのペットボトルを掴み、そのまま半分程の量を飲み干した。

 そして気づいたのだ。背後に何者かの気配を感じるのを。

 水の音が聞こえた。いつもとは違う水の音。川の水流の音ではなく。まるで何かから滴り落ちるような水の音。

 ひたひたとフローリングに落ちる音が聞こえる。 

 ゆっくりと振り返った。特に恐怖心はなかったと思う。

 僕は水溜りと長い黒髪をそこに見た。三十センチ程の直径の水溜りに纏まった長い黒髪。さっきまで確かにそこには何かが存在していた。そう思わざるをえない光景だった。

 部屋にはいつも通りの川の音が微かに漏れ聞こえる。

 梅雨を前にしたある夜の出来事だった。


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