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ムカつくほど可愛い女装ボディーガードの為に諦めようとしたのにいつの間にか攫われていました

作者: たんぽぽ
掲載日:2026/02/24

ムカつくほど可愛い女装ボディーガードの為に諦めようとしたのにいつの間にか攫われていました。

私は今日も念入りにメイクをする。しっかり肌を保湿して、ベースのクリームとパウダーを駆使して触り心地の良さそうな肌を目指す。その上には柔らかそうなブランウンのアイラインと、優しい桃色のリップをのせる。マスカラは、学校でも目立たないようにするために控えめに。……よし、今日も完璧だ。

髪をとかし、制服も規定通り……でも少し崩して今時っぽく着る。私がここまで念入りに準備するのには理由がある。私は、桜木家という、由緒正しい家に生まれた、れっきとしたお嬢様というやつなのだが……そんなお嬢様には、昔からボディーガードという、自分の身を守る人があてがわれる。そこまではいい。そこまではいいのだが……その……ボディーガードが

「あ、みのるー!おせぇよー!早く行かねーと遅刻だぜ?」

「…………はる、それはごめん。……でさ……あなたさ」

「ん?どーした?」

私はゆっくり深呼吸をして、再度自分のボディーガードである『日野ひの はる』の格好を確認し、大きく溜息を付いた後、彼にビシッと指をさして、言う。

「なんで今日も女の子の制服着てんのよ!!!」

その叫びに陽は特に悪びれる様子もなく、にっと答えた。

「だって似合うだろ?ほら」

そうくるりとその場でスカートをひらりと翻す陽。……うん。悔しいが、本当に悔しいがめちゃくちゃ似合う。私より。


そうだ。私が朝から念入りにメイクをするのは、この、とんでもなく可愛い顔をした、女の子の格好が兎に角似合うボディーガードである陽に負けないためだ。今のところ全敗だけど。

陽は、こんな感じで男の子の喋り方だし、女の子にデレデレすることもあるし、女の子になりたいわけでは無いみたいだけど、何故か昔から女の子の格好をすることが多かった。なんでそんな恰好なのか聞くと、「似合うから♡」と、可愛いポーズ付きで言われた。くそ、確かに似合っている。

髪の毛も長いから、アレンジも無限大だ。今日の彼のハーフツインは、よくやっている、彼の似合う髪型の1つだ。



「陽は……今日も可愛いね。羨ましいよ」

「……そんなの世界の常識だぜ?そんなんで落ち込んでたらきりねーよ。……それに」

陽は私の顔を覗き込み、「うん」と納得したように頷いた。

「今日のまつ毛、いい感じ。な?オレのアドバイスの通りだろ?実は、元々まつ毛長いから、のせるマスカラはちょっとでいいんだよな」

その誇らしげな、嬉しそうな笑顔に、私は少し、くすぐったい気持ちになり、それを誤魔化すように、顔を逸らした。

「……陽も、早く背、伸びるといいね。牛乳だけじゃなくて、夜更かしをやめないと駄目だよ」

「あーー!!オレの唯一の弱点!!くそ、ぜってぇ、お前より高くなるからな!!」

「……ふふ、私も今日から牛乳飲もうかな〜」

「やーめーろーよ!!」

そんな話をしながら今日も、まるで守られてる気がしないボディーガードを受けながら、学校に向かい歩みを進めるのであった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 

桜木実は、いいところのお嬢様のくせに警戒心がなく、人当たりのいい、お人好しな性格だった。

だからだろうか、昔から誘拐犯や変質者に狙われやすく、彼女の父である桜木家の当主は、頭を悩ませ、そして、常日頃一緒にいても違和感のない、同年代であるオレをボディーガードとして雇ったのだ。

実と初めて会ったのは、10歳の頃。その頃から彼女は可愛らしく、朗らかな性格も相まって、人に好かれそうな、そんな子だった。

当時緊張から無愛想になっていたオレにも、彼女は優しかった。

「あなたがボディーガード?ふふ、可愛い!私より、あなたが守られなきゃいけないんじゃない?」

そうオレを撫で、「案内してあげる!」と柔らかな手でオレの手を引き、屋敷を一緒に巡った。

一目惚れ、だったと思う。まあ、年齢的にもちょうど、そういうことに興味が出る年頃だし、そんなときにずっと一緒にいることが約束された可愛らしい女の子が近くにいれば、気になる存在として認識しても、不思議ではない。

妙に冷めた性格のオレは、彼女に惹かれながらもそんな、どこか冷静なことを思いながら、彼女と自分の身分差もしっかり自覚していた。だから、この胸の高鳴りは、淡い初恋としてとっとと終わらせ、彼女が何処かに嫁ぐまでは、しっかりボディーガードとしての責務を果たそうと、ついでにとっくに自覚済みの自分の顔の良さを活かして、お嬢様学校にいる綺麗なお姉様方とちょっとした火遊びでも……と、我ながら可愛くないことを考えていた。だから、実のことはそこまで本気ではない。ちょっとした気の迷いだと、そう思っていた。


ある日の、ことだった。実のお遊びだったか、気まぐれからか、びっくりするほど似合う女装をさせられて、そのままの格好で外に出ていた時があった。その時だ。誘拐されたのは。ああ、実じゃない。誘拐されたのは、オレだ。なんとお馬鹿な誘拐犯が、桜木家から出てきた女の子というだけで、オレが桜木家のお嬢様だと勘違いしたそうだ。実じゃなくてよかったなと思いながら、縛られているロープをこっそりと解き、桜木家に連絡する。

程なくして外が騒がしくなったなと思ったら、桜木家の助けだった。はえーなと感心しながら、桜木家に戻ると、そこには、これでもかと目に涙をためた実がいた。オレを確認するや否や、迷いなくオレに向かって抱きついてくる。甘い花の匂いが、広がった。柔らかな腕が、心地よかった。

「……よかっ……た……!」

そう、ただのボディーガードであるオレに対して、なんとも心のこもったような言葉を投げかける。

実は顔をあげて、オレの頭を、頬を優しく撫でた。

「怖かったね、大丈夫?……痛い所はない?」

その優しい声が、言葉が、眼差しが……甘い、甘い毒のようだった。


オレには親がいない。いや、正しくはオレが親を認識する前にオレの親は失踪したようだ。孤児院で育てられ、厄介払いのようにボディーガードとしての仕事をさせられ、愛というものからかけ離れた環境で育ったオレは…………彼女のこの言動に、戸惑ってしまった。困惑した。なんだ?これは?……よく、分からない、分からないけど……。彼女から向けられる眼差しが、甘やかしてくれるようなその手つきが、触れ合いのあたたかさが……妙に苦しくて仕方がない。

「……大丈夫……です……」

そう、戸惑いながら言うと、彼女は「そっか」とほっとしたような顔をする。大丈夫だ。ボディーガードとして、雇われている身としては、正しい言動をしたはずだ。なのに、なのに……

もし、「怖かった」と彼女に抱きついたら?「もっと撫でて」とお願いしたら?

彼女はオレを甘やかしてくれるだろう。「怖かったね」「私のせいでごめんね」「大変だったね」そう、甘い、甘い言葉を囁きながら。

…………うわ、されてーな、それ。真っ直ぐな、優しく純粋な甘い甘い毒で、駄目にされたい。

もしそれで本当に駄目になっても、彼女は責任を感じ、オレをより大事にしてくれるだろう。

……あー……これはまずい。よくない感情だ。よくない気持ちだ。間違っている。オレにとっても、彼女にとっても。分かってる。分かってるが……。

「……陽……?どうしたの?」

なかなか動かないオレに、彼女は心配そうに顔を覗き込む。その上目遣いも、困っているような、困らせたくなるような眼差しも……無意識なんだろう。……くそ、本当に厄介だ。

「……なんでもねーよ!!」

そう走り出すオレと、「だ、大丈夫かなっ」と戸惑いながら周りに相談しはじめる実。くそ、周りの大人どもめ!!微笑ましい目でみてんじゃねーぞ!!そう計算外の感情に振り回されながら、絶対叶わない恋情に、当時のオレは頭を抱えるしかできなかった。


歳を重ねて、実と関わりながら、少しずつ免疫をつけながら、徐々に感情の整理が出来るようになったのはつい最近だ。ボディーガードとして常に実の近くにいられるのを、嬉しく思うべきか恨めしく思うべきか……その答えは見つからないままだが、せめて彼女の安全がよく確保されるようにと、今日も女装をして彼女の隣を歩く。そうすればオレを桜木家のお嬢様として、勘違いする馬鹿に、実が攫われることはないだろう。

……それに、女装していると、いいことがもう一つある。それは……。

「……あっ!ちょっと陽!!あんまりベタベタしないの!」

「えー……だってなんか今日寒くね?実、あったけぇんだもん」

そう、甘えるように腕に身体を預けても、実は「もー」と言ったきり困った顔をしながらも受け入れるし、周りも微笑ましいものを見るかのような目で見てくれる。女同士というものは、ベタベタしてても周りは引かないらしい。公に実にくっつくことができる、女の格好というものは、実に便利だ。

「陽は本当に甘えんぼうなんだから……ふふ、ボディーガードのくせにね」

そう、嬉しそうにオレを甘やかす実。実のこの甘やかし癖は、本来ならもっと身分相応の、優秀な男に向けられるべきなのだが……

「へへ、さーせん」

……今だけは。今だけはオレに向けて?オレだけに。そう、願いにも似た気持ちを抱えながら、その気持ちがバレないよう、誤魔化すようにへらっと笑った。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――



陽は今日も私にベタベタしてくる。本当は怒らないといけないのかもしれないが……。

「……ん?なぁーに、実?」

「…………なんでもない」

陽が、陽が可愛すぎてっ!なにこの上目遣い!!ズルいよ!!可愛すぎるよ!!

あー、だめだ。今日も怒れなかった。そう反省しながらも、陽の頭を無意識に撫でてしまう。

そう反省している心とさらに甘やかしてしまう体のちぐはぐさにため息をつきながらも、学校に到着することができた。

「……あ、陽様よ!」

「あらー、今日も可愛らしいわね」

そんな遠くからのキャイキャイとした声が耳に入る。陽は、学校では有名だ。めちゃくちゃ似合う可愛い女装している男子というものは、このお金持ちばかりが通っている学園では珍しいのだろう。そして、陽のこの容姿だ。目立つのは、致し方ないことだと思う。

……昔、陽は誘拐されたことがある。私に、間違えられて。彼は目立つ。優れた容姿とこの堂々たる立ち振る舞いは、ただのボディーガードには見えないだろう。……だから、私は……もっと可愛く、もっと素敵にならないといけない。彼が、二度と私の代わりに誘拐されないように。



そんなことを考えながら教室に入ると、そこには、私の友人である『一条いちじょうまい』がいた。彼女は、父がホテル事業で成功した、一代で財を築いた、成り上がりの富豪だ。彼女はいろんな世界を知っているため、気さくで優しく、いつも様々な相談に乗ってもらっている。陽も、彼女にはよく懐いている。

「実に、陽!おはよう。今日も目立ってるわね」

「あ、舞じゃーん!はよー」

「陽、おはよう。今日はちゃんと課題はやった?」

「オレ、ボディーガードだから必要ねぇーんだもーん」

「……その言い訳、先生に通用するした所見たことないけど……もー、あなたが補習になったら誰が実を守るのよ。ほら、私の写していいから」

「さっすが舞!あざーす!!」

「……はいはい。いいから早く手を動かす!」

そんなまるでお姉ちゃんと弟みたいな2人は、見るたびにお似合いだなと思う。陽も、私みたいな頼りない人間よりも、舞みたいな、しっかり者の、それにて時折甘やかしてもくれる、そんな人についていく方がいいのではないだろうか。

……もし、2人が恋仲になったとしても、舞は一人娘で、婿を欲している立場だ。陽みたいな、容姿も、立ち振る舞いも、しっかりしている男の子なら、結婚しても不思議ではない。お似合いだし。

……未来のない、私なんかといるよりも、よっぽど陽の為になる。

私は、陽と、ずっと一緒にいることはできない。何処か家のためになるところに嫁ぎ、そのお相手の家人になるのだ。男のボディーガードを、一緒に連れていくことはできない。

舞なら……舞なら、陽とずっと一緒にいられるだろう。陽を、ずっと安泰で、幸せに、することができる。

私自身も、陽が全く知らない人のところに行くによりは、舞と一緒にいてくれた方が嬉しいし……友人としてまた会える可能性もあるし……。

ああ、私はなんて浅ましいんだろう。そう、落ち込みながらも、陽と舞が結ばれるように、ひっそりと動くことを、静かに決意するのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



最近、実の様子がおかしい。何かとあればオレと舞を2人にしようとするし、オレと距離を取ろうとするし、何より……表情が暗い。理由を聞いても教えてくんねーし……変だ。おかしい。そう、何かあったことは分かっているのに原因が分からないから、解決しようがない。

今も、何故か舞と二人で実の為の昼メシを買いに行っているところだ。頭を捻っているオレに気が付いたんだろう。舞が、話しかけてきた。

「実が心配?」

その言葉に「まあ一応、ボディーガードなんで」と軽く答えると、舞はふふっと笑った。

「実は多分、考えすぎて空回りしているんだと思う」

「……?舞はなんか知ってんの?教えてくんねぇ?」

そのオレの言葉に舞は「うーん」と考えた後、言う。 

「実はね、私とあなたを、結ばせたいみたい」

その言葉に「はあ!?」と思わず声を大きくするオレと「まあまあ。ほら、深呼吸!」とオレを宥めようとする舞。言われた通り少し息を整えた後、言った。

「実、なんでそんなことしてんの?」

「……それは、実に直接聞いてみたら?」

そんな舞のアドバイスに、オレは少し考えた後、俯く。

「……無理」

「なんで?」

「…………だって……」

実が、オレと舞を結ばせたい理由は分かんない。けど、少なくとも、オレが別の人と一緒になってほしいと思っているということは、実は、オレと……離れたいと思っているのかもしれない。もしかして、好きな人でもできたのかもしれない。それか、婚約者ができたとか。それで、オレの存在が邪魔になって。……だから……

ここまで考えて、オレはその場に蹲る。うわぁ、無理。本当に無理。「もー、情けないんだから〜。大丈夫ー?」とオレの背中を撫でる舞に、小さく零した。

「……金持ち界隈って、女側が傷物になれば婚約無しになる?今すぐ実、押し倒してきてもいいと思う?」

「…………それに私がいいって言うと思ったの?」

舞はオレに「落ち着いて。押し倒すのは実から話を聞いてからでもいいでしょう?」と説得し、まあそれもそうかと納得したような、ただただ問題を先送りにしただけのような、そんな状態で取り敢えず実に、「今日帰ったら一緒に課題しねぇ?」と声をかける。実は、少し嬉しそうな顔をした後、ハッと何かに気が付き、そして、俯きながら「それなら舞も一緒に3人で」と言う。そこに舞はすかさず「ごめんね今日用事あって」と断りを入れた。断りを入れられたにも関わらず、実が妙にホッとしたような、嬉しさが滲んでいるような表情をしていたのが、不思議で不思議で仕方がなかった。




取り敢えず実は約束通り、屋敷に戻った後2人で課題をする準備を整えてくれた。テーブルで2人、向き合って座る。こうして2人で過ごすのは、久しぶりかもしれない。最近は屋敷の中でも、なんだかんだで避けられてたし。でも、喜びを噛み締めている場合ではない。オレは、実に、今までのこの行為について、どんな理由があるのかを聞かなければならない。オレは、課題をやり始める、ほんの少し前。実に、聞いた。

「最近、オレのこと避けてるよね?なんで?」

オレの言葉に、実は分かりやすく動揺していた。そんな実に構わず、オレはさらに詰め寄る。

「しかも、学校では舞とオレを2人きりにしようとするし……なんで?」

オレの言葉に、実は顔をそらし、瞳を揺らし、手を交差させながら、戸惑うように「えっと」「その」と言葉を重ねる。……やっぱり、言いにくいことなんだろう。オレは、実に言わせるのはなと思いながら、優しさのつもりで言った。

「……オレのこと、嫌い?」

その言葉に実は「違う!!」とすぐ否定に入った。少し、驚いた。図星で黙ってしまう実を、想像していたからだ。……嫌いではない……か……。まあ、それがわかっただけでもよかったかもしれない。そんな、何処か諦めにも似た感情を抱えながら、オレは「じゃあなんで?」と言葉を重ねた。

好きな人ができたとか、婚約者ができたとか、まあ、そんな所だろう。そう、思っていたのだが……。実から言われたのは、オレが予想していたどの理由にも当てはまらないものだった。

「だって、私じゃ……陽と、結婚できないじゃん!!」

その怒りが混ざっているようなそんな叫びに、オレは脳の処理が追いつかずに、呆然と実を見ることしかできなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



陽が悪い……そう、陽が悪い!!私は頑張っていたのに、陽が、可愛いお顔で一緒に課題しようと誘ってくるし、オレのこと嫌い?なんて、不安そうに聞いてくるし!なんなの!?なんなのもう!!

私だって、私だって本当は陽ともっと一緒にいたいし、舞とお似合いな様子見てモヤモヤしちゃうし、でも私じゃ陽を幸せにできないし!!

陽は昔から妙に冷静で、なのに、自分を大事にしようとしない所があって……放っておけないなと思って構うと凄く嬉しそうにする所が、本当に、本当に可愛くて。

当たり前に自分を犠牲にしようとするその危うさが、自分にくれる愛を大事そうにするその愛らしさが、時折見せる冷静さが……好きで、好きで好きで仕方がないのに。

「…………私じゃ、陽を、一生は守れない」

本当は、私が守りたかった、愛したかった、一緒にいたかった。でも、私はいつかこの家から離れる存在で。危うい、愛らしいあなたを守る力はなくて。だから、だから。

「……舞となら……あなたは幸せになれると、そう、思ったの…………だから……」

舞なら、お金も権力も力もある。陽を、守れるし、優しいから陽の心も救えるだろう。羨ましい。羨ましいけど仕方がない。陽が、幸せになるのが一番だ。そう思う。そう、心から思ってる……なのに、なのに……。

「……早く、舞と……幸せに、なった姿を見せて?早く、早く私を………諦めさせて」

ああ、悔しいな。どうして私は、陽の手を、離すことができないんだろう。

私は、陽を見ながら、愛おしい、愛おしい陽を見ながら、そう、願うように、言った。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――




オレは実の言葉を聞きながら、頭を抱えていた。えーーと?つまり?……押し倒していいってことか?…………いや、違う。冷静になれオレ。つまり実は?オレと結婚したいと思っていて?オレに幸せになってほしいと思っていて?一生守りたいとまで思っていて?……なるほどわかった。つまり押し倒していいってことか。

「…………って、ちげーーよ!!」

そう自分に対するツッコミをしながら、机に突っ伏すオレ。実は、心配そうに「だ、大丈夫?」と声をかけてくる。くそ、お前のせいだからな!

そう思いながら、実から握ってきてくれた手を握り返しながら、顔を上げる。

実は、オレが手を握り返したことに気が付いた瞬間、顔を赤くしながら、恥ずかしそうに視線を逸らした。は?かわい。

可愛すぎてムカつくが、取り敢えず誤解を解かねばと、オレは実に話しかけた。

「実、今からいいこと、2つ教えてあげる」

オレの言葉に実は「2つ?」と不思議そうに首を傾げた。

「1つは…………オレ、実のこと好きだよ。……ちょー、好き」

そう笑うと実は分かりやすく顔を真っ赤にして、「ㇸ」と吐息のような、小さな声を出す。そんな彼女の動揺する可愛い姿をしっかり目に焼き付けながら、続きの言葉を投げかける。

「あとね、オレ……実はお坊ちゃまだったみたい」

「………………え?」

今度はきょとんと、目をまん丸にする実。そんな彼女にオレは再度、説明をした。

「失踪したオレの両親の父親、有名な武士の生まれのいい所のお坊ちゃまだったわ。丁度世継ぎいなくて、不貞の子のオレに、どうか来てくれないかって声かけられてたところ。……いやー実を奪って逃げる先に使えるかなと、自分の血筋を辿っていたらまさかの成果が出てきちゃってさー。……ね、実?」

オレは、実を見ながら、首を傾げた。

「オレに誘拐されて一緒に逃避行するのと、オレと結婚するの、どっちがいい?」

そんな、選択肢があるかどうか分からない問い掛けに、実は少し可笑しそうに笑った後、目に涙を浮かべながら、嬉しそうにはにかんだ。

「陽と一緒にいられるなら、どっちでも!」

そう言う彼女の笑顔は、オレがどんなに念入りに整えた女装よりも、よっぽど可愛く、輝いていた。

 

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