仲間集め
勇者は医院に寄ったその日のうちに回復して、夜は宿に泊まった。
もちろん王女と勇者は別の部屋を取っており、翌日の朝には宿に併設してある大衆食堂で落ち合うことになっていた。
先に王女が食事をとっており、そこに後から寝ぐせを立てた勇者が現れる。
「おはよう」
「はい!おはようございます。……ぷっ」
王女は勇者の寝ぐせを立てた頭を見るや否や噴き出した。
すると、勇者は不機嫌そうに言った。
「なに笑ってんだよ」
「い、いえ。すみません。寝癖がおかしくて」
「朝は弱いんだよ……」
ふてくされる勇者を面白そうに王女は見つめていた。
この勇者、本人も言ったように実は朝が弱い、そのため王都を出たときも日が昇りきってからだった。
「昨日みたいに明確な目的があれば起きられるんだけどな……」
「成程、では今日のご予定は未定ですか?」
「んー、いや、今日は冒険者ギルドってとこで資金の受け取りと仲間集めかな」
「なるほど、ちなみに仲間にはどのような方を?」
「最低限の戦闘力はもちろんだけど、野心があって尚且つ裏切らないやつかな」
「な、なるほど」
言葉とは裏腹に理解していない様子の王女。
そんな王女をよそに勇者も食事をとり始めた。
「それにしてもだ」
「何でしょうか?」
首を傾げ、またしても不思議そうな様子の王女。
「元気になってよかった」
「……はい!」
嬉しそうに微笑む王女に、穏やかな笑みを浮かべる勇者。それは、つい先日までからは想像もつかないような光景だった。
「そういえば、勇者様。こちらの世界の食事はお口に合いますか?」
「ああ、料理ってのはどこも案外変わらないしな」
「そうなのですか!?」
「うん。調理方法はもちろん似たような食材もあるしな」
「ほぇー、不思議なこともあるんですね」
「ははっ、たしかにな」
たわいもない話をしながら二人で楽しげに食事をとる勇者と王女。
人類が絶滅しかかっている世界でそこだけは朗らかな空気が流れていた。
「さて、向かおうか」
食事も終わり、勇者たちは冒険者ギルドへと向かった。
この世界において冒険者ギルドとは行政が運営するフリーランスの傭兵のコミュニティのようなものだ。しかし、冒険者は主に仕事は対人戦ではなく魔物や魔族などの人外が相手だ。最も魔族は人と姿形が似ていることもあり対人戦も決して弱くはないのだが。
宿から出てほどなくして、この世界における戦闘の専門家が集まるとも言える冒険者ギルドに勇者たちは辿り着いた。
「ここか……」
門構えも威圧感があるものではなく、至って普通の外装。ただ、外から中が見えるようになっており屈強な戦士たちがその中にいるのが分かる。
酒場が併設されているからか、周りが静かすぎるからか中は外からでも聞こえるほどに賑やかだ。もっとも、聞こえてくる話の大半は暗い話題だが。
勇者たちが一歩踏み入れると、それに気づいた冒険者たちがじっと見つめる。
王女はどうやらこの空気感が苦手なようで、いつもより僅かに勇者に寄り添うような形で入っていった。
そんな勇者たちに歩み寄る男が一人いた。
その者はスキンヘッドで身長は百九十センチメートル程。服の上から見てもわかるほどの屈強な肉体を持った大柄な男だった。
その男の前に立てば決して細くない勇者の体躯が子供のようにすら見える。
そんな男が勇者の前に立ちふさがった。
勇者は歩みを止めて男を見上げる。
「おい」
「……なんだ?ちっせえの。見ねぇ顔だが、かわいい娘を侍らせてずいぶん楽しそうだな」
勇者は男のそんな態度に怒りを見せるでもなく、ただ不敵に笑った。
その光景は異様なもので先程まで賑やかだった室内が静まり返っている。
「気持ち悪いな、なに笑ってんだよ。気でも触れたか?」
尚も煽り続ける男に勇者が口を開いた。
「なあ、お前。この世界でなりたいものはあるか?」
「ああ?なんだか意味わかんねぇけどよ。そんなもんねえよ」
「そうか、じゃあ成し遂げたいことは?」
「はぁ?ほんとに意味わかんねぇな。まあしいて言うなら、魔王の野郎はぶっ殺してぇな」
「ほう、何故だ?世界に平和を取り戻したいのか?」
「ははっ、そんなんじゃねえよ。ただそれができたら目立つしかっこいいだろうがよ」
勇者と男の問答。それに対して周りは理解できていない様子で見つめている。
そんな中、王女だけはその見方が違ったようで、割り込むように口を開く。
「ま、待ってください勇者様」
王女の言葉に対して最初に反応をしたのは問答をしていた男だった。
「あ?勇者?」
「ああ、俺は魔王を倒すために旅をしている勇者だ」
「ほう、それで勇者様はこんなところに何の用なんだ?」
「資金の受け取りと、仲間を探しにな」
「そうかいそうかい。悪かったな。じゃあゆっくりと仲間を探しな」
「いや、もうそれは済んだ」
「は?」
勇者の言葉に目が点になる男。
「お前、まさか……?」
「そうだ、仲間になれ」
勇者の言葉に頭を抱える王女。
そして、勇者の言葉にさらに驚いた様子を見せる男。
しかし、男はすぐに勇者を見下すように嘲る。
「はっ、馬鹿言うなよ。そんな言葉にほいほいついていくわけねぇだろうがよ。そもそもなんで俺なんだよ」
「お前には野心が見えた」
「野心?」
「ああ、そうだ。この世界の人間たちは基本的に野心がないようでな。まあ、魔王の侵略で明日死ぬかもしれないんだから仕方がないのかもしれないがな」
「馬鹿言うなよ、そんな野心だけならそこら辺の子供だって持ってるぜ」
「いや、違う。お前は倒したい理由を目立ちたいからだといった。それは確かに子供の夢見るものに近しい。だが、それは年を経て失っていくはずなのにお前はそれがない」
「そう、か……」
勇者の言葉に惹かれ始めているのか、男は少し考えるそぶりを見せ、口を開いた。
「話は分かった。だが、お前は俺に何をくれる?金か?金じゃ買えないような武具か?」
「正直に言うと、金も武具にしても渡せるものはない。最も仲間になれば国から出る金はあるだろうがな」
「はぁ?ふざけてるのか!?」
男は憤怒した。しかし、それを勇者は手で制した。
「まあ、まて。そもそもお前は金が欲しいだけなのか?」
「何が言いてぇ?」
怪訝な面持ちで勇者を見つめる男。
そこで、勇者はニヤリと笑みを浮かべて言った。
「いや、な。魔王を倒せば目立てるぞ?俺の故郷ではそういう世界を救ったりした者を英雄なんて呼んだりしてたんだがな」
はっと息を飲んだ様子の男。
今度は思案する間も無く口を開いた。
「お前の行く先に俺の成したいものがありそうだ。決めた。俺はお前について行く」
「おう、これからよろしく頼む。えーと……」
「ガンマルク。俺の名前はガンマルクだ」
「わかった。俺の名前はカリム。勇者をやっている。ガンマルクお前を英雄にする男だ。大船に乗ったつもりでついてこい」
勇者が差し出した手をガンマルクが掴む。
ニヤリと笑う二人に、その横でオロオロとどうしたらいいか分からないかのように動く王女。
この出来すぎた出会いは偶然が必然か。
少なくとも、勇者の思い通りではあったようで満足気に勇者は笑みを浮かべていた。
そして、王女が勇者の名前を知ったのもこれが初だったりするのだが、王女は混乱してそれどころじゃなかったようだった。




