傷けられた者。
まだ傷が治りきって無いようで、身体を震わせながら起き上がろうとする魔族。
震える瞳で苦しそうに王女を見つめている。
「な……なにをしている」
疑い深く、訝しげに睨みつける魔族。そして何故か不機嫌な様子の王女。
心の底から怒っているというよりは拗ねているような雰囲気だ。
「何って分からないんですか?貴方を助けようとしてるんですよっ!」
荒々しい声色で言い放った王女。
えらくご立腹のようで、先ほどとは打って変わって冷ややかな目をしている。
それを聞いて啞然とする魔族。
誰が傍から見てもわかるほどに、状況が全くもって吞み込めていないようだ。
「……何故だ?」
「そうしたいからです」
「そ、そうか」
人間が魔族を救ったことにか、はたまた回復魔法をかけながら不機嫌な様子の王女にか、あるいはそのどちらにもか、釈然としない様子の魔族。
そして、相も変わらず不機嫌な王女に、その横で警戒をしながら立っている勇者。
混沌とした状況だが、それまで静観していた勇者が口を開いた。
「おい、もう自力で起き上がれるはずだ。そろそろ行くぞ」
勇者はどこかせかしているように見える。
そんな様子に気づいていないような王女は、勇者の言葉に応えるように回復をやめて立ち上がる。
「そうですね。お礼も言えない人は知りません」
王女はどうやら魔族の態度に腹を立てていたらしい。
ゆっくりと立ち上がり、膝についた砂埃を払う。
「す、すまなかった。魔族である私でも助けてくれて……ありがとう」
魔族がお礼を言うと、王女はバツが悪そうに勇者の方を向いた。
その口元は少し嬉しそうに歪んでいる。
去り行く二人に魔族の男は問いかけた。
「ところで、名は?」
「あなたに名乗る名などはありません」
魔族に背を向けたまま言った王女は、今度は勇者に口を開く。
「行きましょう、勇者様」
王女の何気ない一言。
それに反応したのは、助けた魔族。
驚いたような顔をした後に、その顔が忌々し気に歪む。
「っ!?王女後ろっ!」
なんとか立ち上がり、千鳥足の魔族が放ったのは泥で創られた槍。
気づいたのは王女の方を向いていた勇者だった。
二方向から飛び散る鮮血。
混ざりあう濃い赤色。
右肩から腰元まで深く付いた魔族の傷は、とめどなく鮮血を流し続けている。
その反対側では王女をかばうようにして傷ついた勇者。
その左肩にはこぶし大ほどの穴が空いていた。
「……え?」
そんな情けない声を漏らしたのは王女だった。
肩からおびただしい量の血液を流す勇者に半ば抱き着かれるように立っている。
「ああ、ああああああ」
状況が飲み込めたのか、王女は正気を失ったように叫び声をあげながら回復をかける。
無我夢中で回復を続けるが勇者は一向に目を覚ますことはない。
次第に回復の光が強くなっていき、潤っていた王女の肌が乾燥しだす。
「……大丈夫だ。落ち着け。すぐに治る」
「あっ……ああ」
目を閉じたまま項垂れて告げる勇者に王女が正気を取り戻した。
大きな深呼吸で王女の呼吸も整っていく。
それに従い肌の乾燥の進行も収まる。
「そうだ。落ち着け」
「……はい」
いつの間にか勇者の肩にあった傷は埋まっていた。
「もう、大丈夫ですか?」
「ああ、おかげでな。早いところフリーレスを目指そう」
なにも無い風にいう勇者だが、その足取りはおぼつかなかった。
明らかに負傷が響いている。
「あまり自分を責めるなよ」
「……」
前に進みながら呟いた勇者に、王女は無言のままそっと肩を貸した。




