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このセカイで笑っているのです。  作者: コモンピープル


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5/19

それは知らぬ村で

 次の日、二人は朝早くに発った。

 昨晩のことがあってか二人の間にあった壁は少し薄くなったようだ。

 相変わらず勇者から話しかけることはほとんどないものの、王女から話しかけられると嫌な顔せずに勇者も応えるようになった。


「なあ、王女」


 勇者が突飛に口を開く。


「なんですか?」

「地図には村はなかったと思うんだが?」


 勇者はそう言いながら前方を指さす。


「村なんてありませんよ?そんなのはもう何百年も前に……え?」

 

 勇者が指さすその先には小さな集落があった。

 木でできた家々にそれを囲うようにしてある柵。それは紛うことなき集落であった。


「どういうことだ?」

「んー、私にも分かりません」


 困惑する勇者と王女。

 

「案外勝手に人が集まってできたんじゃないか?」

「そんなはずはありません!そんなもの作ってもすぐに魔物たちにやられます。だから、そんな馬鹿なことするわけが……」


 思案に暮れる王女。

 しかし勇者は行ってみれば分かるだろうと集落の方に足を進めた。

 念のため勇者が先導して少し後ろを王女が進んでいくのだが、その際も王女は考えに耽っている。

 だんだんと二人が近づくにつれ全貌が見えてくる集落。

 

「廃村か?いや、でも……」


 その集落には人の気配は無かった。

 しかし、遠目で見る限り畑や家はきれいな形を保ったままであり、どこか不気味さすら感じる。


「あっ!もしかして!」


 そこで叫んだのは王女。

 何かを思い出したようで勇者を追い抜いて村の方へ走っていく。

 そして、足元の石を拾ったかと思うと村に向かって投げた。


「何してっ……!?」


 勇者が驚いたのは王女に対してでは無い。

 いや、最初は王女に対してだったのだろうがそれは直ぐに別のものへと変わった。


「これは人知れず現れて、人知れず消える。ゴーストタウンや記憶の忘れ物なんて呼ばれている現象です」

 

 王女が投げた石は真っ直ぐに柵をぬけ集落の家へと飛んでいき、すり抜けた。

 それは『ゴーストタウン』。またの名を『記憶の忘れ物』。人々の想いが染み付いて産まれる過去の世界だ。


「なるほど、言い得て妙だな」

「お、流石ですね。どんなものか分かったんですか?」


 勇者は一目みてそれがどんなものか分かったようで、一歩一歩と集落の方へ進んで行った。

 

「ああ、これは確かに記憶だ。残留思念とでも言うべきか。そんな人の強い思いが残って、そこにまたまた溜まった魔力が結びついたんだろう」

「ええ、そうです」


 勇者は村の前で立ち止まると、石を投げた場所で立っていた王女の方を振り向いた。


「この中に入ったら過去が見られるのか?」

「そのはずです。もっともこちらから観ることが出来るだけで、干渉は出来ませんが」


 王女も勇者の元へと歩み寄る。

 そして、一歩踏み出した。


 片足。そして、両足が入ると共に現れたのは活気づいた村。

 

 そこでは十代前半ほどの見た目の異形の少女と同じくらいの一人の少年が石を投げられていた。



 その集落の真ん中には杭が打ちつけられており、少年と少女はその杭に腕を括り付けられていた。


「あれは、魔族か……?」

「……ええ」


 勇者のつぶやきに王女が応える。

 勇者の言葉が指すのはのは少女の方だ。

 その額には禍々しい角が二本生えており、肌は薄い灰色だった。

 だが、もう一人の少年は人間で、小さな体で魔族の少女を庇うようにして覆いかぶさっている。

 


『気味の悪い化け物め!』

『化け物を庇うお前も同罪だ!』


 少年と少女は投げつけられる石で所々腫れ上がり、顔に至っては歪んで原型が分からないほどであった。


「なぁ、王女。これはなんだ?」


 勇者の拳がぎゅっと握られる。

 絞り出されるようなその声には怒気が含まれており、怒りを必死に噛み殺しているようだった。


「これは人の業です。そして、これは記憶です。それ以上でも、それ以下でもないものです……」


 王女の方も苦い顔をしていた。


「……多分これは魔族が魔族と呼ばれる前の話」


 王女の言葉も耳に入っていない様子の勇者。

 その顔は怒りと悲しみで酷く歪んでいた。

 その瞳には涙すらも浮かんでいる。

 

「案外魔王が人類を滅ぼす理由もここにあるのかもな」


 勇者の呟きに王女は何も返せなかった。


「まあ、人類を滅ぼす理由なんてあっちゃいけないんだがな」


 勇者が精一杯明るく振る舞おうとしているが、それはどこか痛々しい。

 王女もそれには何も言えないようで、ずっと少女達を見ていた。

 この集落のリーダーなのか村人の中でも質のいい服を着た男が叫ぶ。


『こいつがこの村に来てから変な化け物がで出したんだ。召喚しただかなんだか知らねえがあの呪い師諸共殺してしまうのが村の為だ!』


 それに続いて周りの村人たちも声を上げる。

 

『そーだ!殺せ!』

『一纏めにして燃やしてしまえ!』


 勇者たちが見つめる中、村人たちの叫びは激しくなるばかりだった。


 その時。村の奥の方からローブを羽織った一人の老人が現れた。


『まったく、貴様らときたら。ワシがこの村にもたらした恩恵も忘れたか』


 酷くしゃがれた声のその老人の言葉には、言い知れぬ圧が篭っていた。


『う、うるさい!確かにお前には色々としてもらったがそれとこれは話が別だ!』

 

 その老人にまで石を投げる村人たち。

 しかし老人の前には目視することのできない壁があるようで、その石は老人に届くことなくはじかれていた。


『くそっ。相変わらず不気味な術を……』


 それを見つめている勇者たちの表情はだんだんと険しくなる。

 そして、彼らのやり取りを横目に勇者が口を開いた。


「なあ、王女。あの老人を俺は知っているぞ」

「……」


 王女は黙り込む。

 それはきっと王女にも心当たりがあったからだろう。


「王女。一つ聞きたいことがある」

「……何でしょうか」

「人の国ができたのは何年前だ?」

「今からおよそ四百年前に、魔法の存在を民衆に広めたとある魔術師が建国したと言われています……」


 王女の応える内容が示すことはただ一つ。

 勇者と王女は王座の間でこの老人の姿を見ていた。

 王座の後ろに掲げられていた肖像画。その真ん中内在った者。


 ゴーストタウンに出てきたこの老人こそが王国の初代国王その人であった。


 王女と勇者が食い入るように見つめていると、不意に村人たちが石を投げるのをやめた。

 村人の中のリーダーらしき人物が投げるのをやめたからだ。

 

『もう今日はこのくらいしておこう』


 リーダーらしき村人の言葉で村人たちは次々と家に戻っていった。

 そして、初代国王もいつの間にか消えている。

 皆がいなくなった後に残るのは杭に繋がれた少年と少女だけ。

 二人きりの空間で少女の息を殺してすすり泣く声が聞こえる。

 

『だいじょうぶ?』


 震える声で少年が問いかける。


『ごめんなざい』


 涙を流しながら少女が少年に謝る。

 少年はただひたすらに優しい面持ちで血の滴る右手を少女の頭の上に置いた。


『大丈夫だよ。君は何も悪くない』


 ひどく腫れた顔で優しく微笑む少年。

 その優しさに少女の心が決壊する。


『あ゛あ゛あ゛あ゛!……ごめんなざい!ごめんなざい!』


 大声をあげて泣じゃくる少女に少年は優しく胸を貸した。

 

 だが、村人には少女の鳴き声は不快だった。

 

『うるせえぞ!』


 一人の村人が家から出てくると、足元のこぶし大ほどの石を投げつけた。

 それまでは、投げた石のほとんどが体に向けられていた。偶に当たるのも顔面が多く、後頭部などには当たっていなかった。

 だが、男が投げた石は少女の顔面へと飛んでいき。


 それをかばった少年の後頭部にぶつかった。


『ぐっ』


 少年のうめき声。

 だらりと抜けていく力。


『……ああ』


 気の抜けた少女の声。


『くそっ。もう死んだか』


 苛立ちの籠った男の声。


 『あああああああああああああ!』


 響き渡るのは少女の慟哭。


 その瞬間。


 周りの物は全て吹き飛ばされた。

 

 そして、ゴーストタウンが消える。

 いままの全てが幻だったかのように。

 

 草原に取り残された勇者と王女。

 辺りはもう日が沈み始めて赤く染まっている。


「なあ、王女」


 口を開いた勇者に王女の方がびくっと跳ねる。


「終わらせないとな。戦争」


 その勇者の言葉に王女は何も発することはなかった。

 ただ、涙を浮かべて何度も頷いていた。

 


 

 

 

 

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