最終話 このセカイで笑っているのです。
「お父さんとお母さんの分も買ってきてくれ、マリア」
「了解!ありがと!お父さん」
お父さんからお小遣いを貰って串焼きを買いに行く。
最近好きな串焼き屋さんがあるのだ。
街の通りは様々な人で賑わっていた。
幸せそうな人々の間を通り抜け、串焼き屋さんに着く。
デカデカとおどろおどろしい文字で『魔王城』と書かれた串焼き屋さんだ。どこか物騒な店名は変えた方がいいんじゃないかと思ったりする。
「お姉さん!串焼き三本!」
店の中に入ると店主のお姉さんが旦那さんとイチャイチャしていた。
「はーい、いつもありがとね」
魔族のお姉さんと人間のお兄さんが営むこの店は、どこか温かくて好きだった。
「そういや、マリアちゃん。好きな人が出来たんだって?」
「えっ!?もしかしてお母さんから聞いたの!?」
ニヤニヤと笑うお姉さんにその答えを察する。
そう、私は最近気になる人ができた。
だが、それは夢の中の人で──。
「やってっかー?」
後ろから入ってきたのはスキンヘッドの大男と、綺麗で勝気なお姉さん。
「ガンマルクさん!アリスさんも!」
私が声をかけると頭をわしゃわしゃと撫でてくるガンマルクさん。隣にいる相棒のアリスさんと一緒にこの街を襲ったレッドドラゴンを倒した英雄だ。
「おう、嬢ちゃんも元気そうだな。あんまり串肉食ってるとこいつみたいに太っ──いだぁっ!」
「余計なことは言わない!私は太ってないからね?アリアちゃんっ!?」
夫婦漫才みたいな掛け合いに思わず笑ってしまう。
これでただの相棒らしいから信じられない。
早くくっつけばいいのにってみんなが言ってる。
「それじゃ、またね!」
そそくさと店から出た。
まだ温かいうちにお父さん達へと届けるためだ。
帰路の途中ふと先程の話を思い出す。
私の好きな人、それは最近度々夢に出てくる不思議な人。
ある時は私は獣人で、ある時は私は魔族で。
──そしてある時は、私は王女様で。
彼はいつも助けてくれる。
敵を倒し、抱きしめ、愛してくれる。
けど、夢が覚めると顔も名前も思い出せなくなる。
夢の中でだけ会える私の勇者様。
「おかえり、マリア」
気がついたら家に着いていた。
「ただいま!」
私は串焼きをお母さんに渡した。
◇
「さて、マリア。偉大な魔法使いであるお父さんがこの家に伝わる秘密の呪文をマリアに教えよう」
串焼きを買った日の夜。
そう言って真剣な面持ちで私を見るお父さん。
「この呪文は、普通の人が唱えても何も起きない。ただ、選ばれし者が使うと何かが起きると言われている。いいか、その呪文とは──」
まるでふざけたような話だがその顔は至って真剣だった。 お父さんの話によるとウチでは代々15歳の誕生日にそれを行うことがしきたりらしい。
誰もいない部屋で一人、その呪文を唱える。
ついに私の番だ。
誰もいない地下室に刻まれた複雑な魔法陣。
そこで私は唱える。
「『ヨノモ・シリタワ・カリム』」
光り出す魔法陣。
音はしない。
ただ、真っ白い光だけが爛々と続く。
嫌に眩しいが目が離せない。
その光を私は知っている気がしたから。
知らない涙が頬を伝う。
光が段々と収まり、人影が──
「あぁ、私は」
知っている人、知っていた人。
とてもとても大切で、とてもとても大好きな人。
「貴方に、あなたに逢いたくて」
愛している。愛していた。
会えなかった。逢いたかった。
光が収まり、彼がこちらを向く。
照れくさそうに、頭をかきながら。
微笑みながら、でも私の目をしっかり見つめて。
「ただいま」
「おかえりなさい。私の、勇者様」
あなたが救ってくれたから。
私は、私たちは──
──このセカイで笑っているのです。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
勇者モチーフの曲も書いたんでよかったら
⬇あの日涙を流した一夜へ
https://youtu.be/ae_ejCI1zH4




