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このセカイで笑っているのです。【完結】  作者: コモンピープル


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22/23

憎しみの果てに愛を灯して


「終わったようね」


 それは、魔王の言葉。

 光に消えた王女を見届け、勇者が立ち上がる。

 傷を自ら癒しつつも痛々しい魔王と、完全に回復した勇者。

 二人が争えば結果は火を見るよりも明らか、だが。


「改めて問うわ、貴方は何のために戦うの?」


 視線を手元から魔王へと移す勇者。

 その目には微かに涙の後が残り、その視線はただ真っ直ぐに魔王を見つめる。


「愛する女を救うために」


 それ以上言葉はいらないと言うように、剣を構える。

 

「私は、愛した男の復讐のために」


 魔王も傷だらけの身体で迎え撃つように構える。


 刹那、ぶつかる斬撃。

 だが、勇者が優勢だった。


 魔王の指先を切り落とす。


 だが、魔王も怯むことなく魔法を使う。


 拳大の隕石が勇者へ向けて殺到する。


「お前は!嘘をついている!」


 叫びながら、勇者は隕石を薙ぎ払う。


「嘘なんかついてない!私は!あなたを殺して復讐を完遂する!」


 再度放たれる魔王の魔法、風の刃が轟々と勇者を襲う。


「じゃあ、なんで!なんで、マリアを、王女を見逃したっ!」


 勇者が魔法を打ち払うと、魔王はその両手を下に降ろした。


「お前は見えていたはずだ、マリアが俺に回復をかけているのを。なのに、なんで俺が蘇るまで静観していた」

「見えて、無いわよ」

「嘘だ。嘘だから平然とマリアが朽ちるまで傍観していた」

「……気まぐれよ」


 魔王は俯き、口篭る。

 殺してくれと言わんばかりに戦闘中に晒した隙。

 だが、勇者は尚も言葉で魔王に畳み掛ける。


「お前を守る兵が一人もいないのも、お前がマリアを見逃したのも。気まぐれなんかじゃないだろう」


 一滴の雫が魔王の足元を濡らす。


「本当は傷つけたくないんだ、本当は何も奪いたくないんだ」

「そんなこと、ないわよ。私は憎い。人間が、この世界が。だから全部壊したじゃない」

「人を思って怒るヤツが、本心から壊したいなんて思うわけ無いだろう」


 キッと睨みを聞かせて勇者を見る。

 その目には溢れんばかりの涙が浮かび、忌々しげに勇者を見つめる。


「ゴーストタウンで俺たちに過去を見せたのも、わざわざ自分が不利になるように動いているのも。全部、止めて欲しいからだろう?」


 それに応えずに、沈黙を貫く魔王。

 目元を拭い、勇者へと問うた。

 

「じゃあ、私を殺さないって言うの……?」


 それに対して勇者は首を横に振る。


「殺さなくちゃいけない、俺の正義と、お前の正義が相容れないから」


 だけど、と言葉を続ける。


「嘘を抱えたままで死んで欲しくなかっし、俺を殺して欲しくもなかった」


 再度剣を構える勇者。


「魔王、お前に問う。何故戦う」


 再び戦の構えを取る魔王。

 その瞳に涙はなく、鋭い視線で勇者を貫く。


「愛した男を、弔うために」


 ひとつ頷き、振りかぶる勇者。

 それを迎え撃つように走り出す魔王。


 正真正銘最後の攻撃。


 勇者が走り抜ける、魔王が迎え撃つ。


 血飛沫をあげる。


 倒れたのは、魔王。


 勇者の剣の鋒には刺しぬいた魔王の心臓が脈打つ。


「あとは、任せたわよ」

「ああ、任せろ」


 魔王の心臓が魔力に還元され、勇者の元に入り込む。

 それは、色とりどりの光になり、熱になり、魔力となって勇者に注ぎ込まれる。


「もう一度、やり直そう。ただ幸せな世界を作るために」


 膨大な魔力が行使され、勇者本来の魔法が完成する。

 

 それは、事象を書き換える魔法。


 『愛したもの達が幸せな世界へ』


 世界は今一度色を取り戻す。


 ◇


 何もない場所を漂っていた。

 そこは、救えなかった勇者がたどり着く場所。


 いつもここから世界へ呼び出され、いつも同じ少女と出会う。


 学生だったマリアと、獣人だったマリアと、魔族だったマリアと。

 そして、王女だったマリアと。


 ただいつもと違うのは今回は救えたかもしれないこと。


「幸せな世界に辿り着いただろうか」


 呟きはどこに跳ね返る訳でもなく宙に溶ける。


「ガンマルクは、英雄になれただろうか」


 思い出すのは友のこと。

 不器用で、乱雑で、だがいい奴だった。


 英雄になりたいと嘯いていた。


「魔王は愛した男と過ごせただろうか」


 思い出したのは宿敵のこと。

 強く、それでいて確かに弱く。

 世界に壊されて、心を救ってくれた大切な人を奪われて。


 最後は、その身を差し出して自分へと託してくれた宿敵のこと。


「マリアは、幸せに……」


 思い出したのは最愛の少女。

 生意気で、明るくて、それでいて一途に自分を思ってくれて。

 壊れそうな世界でも必死に生きていて。

 弱音を吐かずに最後まで着いてきてくれて。


 笑った顔が可愛くて。


 怒った顔が可愛くて。


 悲しそうなのを見ると心が痛んで。


 嬉しそうにすると自分まで嬉しくなって。



 何度も、何度も好きになった。


 何度も、何度も愛してくれた。


「幸せ、だと、いいな」


 願わくば彼女の幸せを。

 我が身を削って行った代償魔法の成功を。


 自分が、呼び出されなくても良い世界で生きることを。




 世界が光った。


 真っ白く光った。


 呼ばれた、呼び出された。



渡りし者よカリムヨノモ・シリタワ・カリム

 


 

 

 


  


 


 

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