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このセカイで笑っているのです。【完結】  作者: コモンピープル


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世界最後の告白を


「これを使え」


 仰々しい扉の前。そう言って勇者様が私に渡すのは破邪の短剣。


「でも、もう既に……」

「これは今使って、もう一本は必要な時に使ってくれ」


 頷くしか出来ない。

 私が足手まといになることは分かっているから。

 自分の無力が悔しいが、何も返せない。


「さあ、行くぞ」


 勇者様が扉を開けた。


 ◇


 聞こえたのは、透き通った歌声だった。



 『ただ、泪で塗った千の夜

 

  枯れる頃に芽吹くでしょう

 

  優しさが萌ゆる時


  鳥が啄み無に帰るでしょう


  風見鶏が鳴いた時


  行先を示すでしょう


  諦めが萌ゆる時


  烏が啄み全に帰るでしょう』


 部屋の中に居たのは一人の少女。

 簡素な椅子に腰掛け、こちらを見つめている。

 

 そして、私達を見てクスリと笑う。


「あら、乙女の鼻歌を聞くなんて無粋な殿方ね」


 口調は穏やかだが、圧倒的な魔力の圧。

 呼吸が浅くなるのがわかる。

 幸い破邪の短剣の効果か、私は視界に入っていない様子。

 

「一人で来るなんて、お仲間は居ないのかしら?」

「仲間は、後から来る」

「ふーん、そう」


 興味無さげに椅子から降り立つ。

 白いワンピースを纏った魔族の少女。


 その瞳には何も写っていないかのような漆黒が広がっている。


「ねえ、勇者様?貴方は何のために戦うの?」

「……逆にお前は何のためにここまで壊す」

「質問を質問で返すなんて無粋ね」


 ケタケタと笑うその姿には戦意は見えない。

 だが、圧倒的な魔力の圧がそれを否定するように私達を襲っている。


「知ってるでしょ?見てきてたでしょ?ただ一人の愛する男の子の為よ?」

「随分と、ロマンチストだな」

「そのロマンに免じて死んでくださる?」


 ふと、視線を伏せる勇者様。

 腰の剣に手をかける。


「お前を殺したら、死んでやるかもな」


 ──甲高い金属音が鳴り響く。

 

 私の瞬きの内に魔王へと切りかかった勇者様。

 だが、魔王はそれを人差し指で軽々と受ける。


「我慢できない男は嫌われるわよ?」

「生憎と、お前に嫌われたってどうってことないんでね」


 魔王が引き裂くようにその手を勇者様に振るう。

 それを難なく躱し、躱しながらも一撃を叩き込む勇者様。


 その二人の攻防は、段々と私の目では追えないほどに激しくなっていく。


 動きが止まったかと思うと、傷ついた勇者様と同じくらい傷ついた魔王が現れる。


 そして、時間を重ねる毎にそれはどんどん酷い傷になっていく。


 悔しいが、何も出来ない。


 ここで手を伸ばしたって回復魔法は届かない。悔しさに握るその手が掴むのは、薄っぺらい衣服だけ。


 勇者様の傷が増える度に、私の服の皺が増える。


「そういえば、お前の配下はすんなりとここまで通してくれたよ」

「そう、ね。私が通すように伝えておいたもの」

「なんだ、死にたがりか」

「どこかの勇者が怯えて逃げたら困るもの」


 軽口も程々に、再度激化する戦闘はその余波で天井の一部が剥がれ落ちるほど。


 再度、落ち着いた二人。

 だが、その光景に息を飲む。


 左腕が外向きに曲がった勇者様に、右肩に大きな穴を開けた魔王。


 呼吸が止まるような錯覚を覚える。


 勇者様が片膝を着いた。


 魔王が両手を地面についた。 


「君は強いよ、勇者」

「……」

「だが、私の方が強かった」


 勇者様が、その身体を地面に崩した。

 すぐさま破邪の短剣を勇者様の元へと投げる。


 これで、魔王は視認できないはず。


「……」


 何も無く虚空を見つめている魔王。

 駆け寄る私、いつかのように取り乱さない。


 早くなる鼓動と、落ち着かない呼吸を無視して勇者様の傍で回復魔法をかける。


「勇者様!」


 魔法をかけながら状態を確かめる。

 脈は……止まっている。

 心臓の、音がしない。


「たす、ける」


 ポタポタと私の涙で勇者様の服が濡れて行く。

 それでも、回復魔法を止める訳には行かない。

 

 ──死んでいる。


 心臓が止まっただけだ。まだ間に合う


 ──その二つの黒い目も光を宿していない。


 動かないだけだ、まだ間に合う。


 ──もう、既に間に合わなかったのだ。


 私の回復が弱いだけだ。まだ、間に合う。


 ──もう、死んでいる。


「まだ、諦めない」


 全てを振り絞って回復をかける。

 魔力は既に尽きた、だが何故魔法は続いている。

 

 ──何を消費している?

 

 知らない、どうでもいい。


「なにを……」


 魔王がなにか呟いた。

 だか、知らない、聞く余裕はない。


「ま、マリア?」


 勇者様が目を覚ました!

 私の名前を呼んでくれた!

 声をかけたい、だが喉がかすれて声が出ない。


「どうして、俺は……お前を……救う、為に」


 勇者様の涙が、私の裾を濡らす。

 手元を見るとひび割れた両手。

 乾燥なんかじゃなく、存在そのものがひび割れるように広がっていく。


 ──勇者様、良かった。


 声が出ないのはこの為か。ただ良かった、彼が助かって。

 嬉しいような、それでいて悲しい様な。


 ──そんな顔しないで。


 泣かないで欲しい、笑って欲しい。

 貴方は、幸せになって欲しい。


「マリア、駄目だ!せっかく、せっかく今度は救えるはずで……」


 ──大丈夫。貴方なら魔王も倒せる。その魔王の魔力で元の世界に戻って幸せになって欲しい。


「行くな!いかないで、くれ……」


 そっと私の頭を抱き抱えてくれる勇者様。

 彼の涙が壊れかけの私をすり抜けて地面に落ちて行く。


 二人で旅した時の悲しげな表情が、焚き火の前での屈託のない笑顔が。私の脳裏に走馬灯となり駆け巡る。


 貴方と、出会った。

 貴方と、話した。

 貴方と、笑った。

 貴方が、愛おしい。


 私の声が届かないのがもどかしい。

 神様がいるなら叶えてくれないかな。


 私の最後の思いを彼に。


「勇者様、私は貴方を愛してます」


 ──だから、泣かないで。


「ああ、俺も愛してる」


 なんと幸せなことだろうか。

 なんと、恵まれていることだろうか。


 大切な人の腕の中で、愛を囁かれながら死んでゆけるのだ。


 ただ、欲を言うのならば。


 貴方と平和な世界を過ごしたかった。


 この荒廃した世界で出会えた最愛の勇者様へ。

 私の人生は、あなたに出会えたことで幸せでした。


 大好きな人の胸の中で、私はその生涯を終えた。



 


 


冒頭魔王の歌は自曲ですので是非聞いてみてください。

泪千夜↓

https://youtu.be/dQVZLprKuf4?si=HFemAx3Hdrxz-ZTZ

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