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このセカイで笑っているのです。  作者: コモンピープル


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勇者召喚

 薄暗い。天井に床、何もかもが石張りの大きな部屋でそれは行われていた。

 結露して湿っている天井からは水が一滴、また一滴と滴り落ちる。


 ――ぴちゃっ。ぴちゃっ。

 

 その度に立てている音が反響して響いていた。

 その場に満ちているのはカビの臭い。


 ひどい匂いだと王女は思った。

 しかし、ここで今から行われることの重要性を考えれば何も文句を言えない。

 

 部屋の中心には床に書かれた直径三メートルほどの円。そしてその円の周りにいる王女を含めた人々。

 

 その円の中には複雑な模様が描かれていた。薄紫色に発光している。

 いわゆる魔法陣と呼ばれるものだ。

 

 その不気味な光に思わず一歩引いてしまいそうになるのを王女はぐっと堪える。

 

 その魔方陣の周りで険しい顔をしながら立っている者達。

 数は四十人程度。武器や鎧で武装した者や、ドレスを着た者がいる。

 

 彼らは皆等しく鼻筋が通っており、様々な目の色を持って美しい顔立ちをしている。

 そしてそのドレスや鎧には、五芒星の中に大きく口を開けた獅子の紋様が描いてあった。

 

 それらはこの国に仕える騎士と貴族だ。

 

 そこでは、長年貯められていた魔力を用いて異界から勇者が召喚されようとしていたのだった。

 

 その中でも指輪やネックレスなどの貴金属で身を飾り、でかでかと獅子の紋様の入ったマントを背中に羽織る男。

 それは王女の父親でありこの国の王であった。

 悪趣味、そんな言葉が似あうような恰好だと王女は思った。

 しかし彼女を含めて誰もそんなことは言わない。

 王だからというだけではない、それらはサポートに必要なアイテムだったからだ。

 

 王は一際険しい顔をして額に汗を浮かべながら長い呪文を唱えていた。


 そわそわと忙しなく体をゆすってしまう王女、すこし不安だったのだ。

 それは皆に伝播していて、自分のせいで空気が淀んでいるように感じて表情がかげる。

 

「……ヨノモ・シリタワ・カリム!」


 王が呪文を唱え終わるその瞬間。

 

 魔法陣を中心にして、一寸先も見えないほどの紫色の光が部屋中に放たれた。

 その光は激しく、王女は思わず目を瞑ってしまう。

 

 激しいその光は収まることなく一刻、また一刻と時間は過ぎていった。

 王女は瞬薄目を開けたが、それもでもやっぱり眩しくて反射的にギュッと瞑ってしまう。

 

 そのまま光が収まる事のないままに幾時間か経過した。


「いつになればこの光が収まるのだ……」

 

 それが王女の耳に入ってきたのは目も開けぬほどの光だけで、静かなものだったからだと思う。

 

 誰かがつぶやいた言葉が、部屋に反響している。

 辺り一面は光で覆われているが、他の音は水滴の音が響くばかり。静かなものだった。

 そのギャップが不気味なものに感じられた。

 

 しかし、それも永遠に続くわけではなかった。光は段々と収まっていき、その光の中からうっすらと人影が現れる。

 

 光が収まるにつれてはっきりと視認できるようになったその人は、黒髪で身長は百七十センチメートル程。

 そして、程よく厚みのある体で薄い顔立ちの十代半ば程に見える男だった。

 

 腰に差した長剣と思わず目を奪われるような白銀の鎧をまとっており、いかにも勇者然とした格好だ。

 薄い顔立ちに白銀の鎧が何とも合っていないように思える。


「おお、勇者よ!」


 成功したことに対してか、酷く興奮した王。

 そのどこか異常に見える様子に、王女は少し顔を顰めた。


 しかし、軽く俯いたまま顔をあげない勇者。

 王女にはそこに現れた勇者は、酷く悲しげな目をしているように見えた。

 

 その様子は最愛の人を失ったばかりの者に酷似している。

 傍から見てその様子は、この世の生き方に迷い、惑い、光を失ったかのようだ。

 

 数年前に母親である王妃が亡くなったときの父親を見たことがあった為、彼女にはそのように感じられたのだ。

 

 そして、そんな彼が辺りを見回して口を開く。

 

「……ここは?」


 彼の問いに王は答えず、隣に立っていた王女が一歩前に出る。

 

「ここは、人の国の王城でございます。勇者様。この世界の人類は、魔王により絶滅の危機に瀕しております。どうか、魔王を討伐して我らをお救いください」

「……っ!?」

 

 頭を下げると、勇者は大きく目を見開いた。

 王女のことを知っている様子。

 そして、その顔には先程の表情が噓だったかのように暗さは消えていた。


 単純、なのか。

 見惚れたのであれば扱いやすいからいいことこの上ないのだが。そんなことを王女は考える。

 

 これは魔王の討伐ということに衝撃を受けたのか、他の理由で驚いたのか。その場の数人が疑問に思ったが、その心の内は勇者本人にしか知りえない。

 

 しかし、考えるそぶり一つ見せずに勇者は頷く。

 

「わかった」

「「おおー!」」


 爆発したようにその場が湧き上がる。

 喧噪で水の音はかき消えている。


「ふふっ」

 

 カビ臭い匂いに似合わずその場の空気は明るい。それが王女にはおかしく感じられ、思わず声を出して笑った。

 

 貴族たち、そして騎士たちの歓喜と、多少の他の感情の入り混じった声が薄暗い部屋中に響き渡る。

 

 ここで、二つ返事をした勇者は、愚者かはたまた理由あってか。

 この時点では勇者本人にしか知りえない。

 しかし、そうしてその日に魔王を討伐しうる勇者が無事に召喚されたことを誰もが祝った。


 ◇

 

 

 そんな中。歓声を一心に受ける勇者のことを王だけが訝しげに見ていたのだが、その場にいた者のほとんどが気づいていなかった。

 

「ふん。愚かだな。どうせ死ぬのだ」


 そしてその場の誰かが呟いた不穏な言葉すらも、周りの歓声が飲み込んだ。

 

 

ストックは最後まであるので完結まで毎日投稿です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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