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このセカイで笑っているのです。  作者: コモンピープル


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16/21

とある少年の思い出

 戦争孤児というのは、この世の中珍しいものでは無い。

 俺の両親は、まだ七歳の幼い俺を残して逝っちまった。俺に残ったものは両親から貰ったこの「ガンマルク」という名前だけ。

 きっと何かしらの意味を持った名前なのだろうが、その意味は分からない。

 まあ、強そうな名前だからなんだっていいのだが、おかしな名前であることには変わりなかった。


 そんなことをふと思い出したのは、王女さんのせいだった。

 肉を食ってるといきなり俺の家族について聞いてきたのだ。王女さんは知る由もないが、それは遥か昔に置いてきたはずの記憶だった。

 ましてや女の話なんてしたくもない。


 そんなに親しくもないのに、不躾だと思う。

 だがまあこんな非常事態。気にしても仕方がない。

 恐らく王女さんもそれを分かって言ったのだろう。


 思い出すのは孤児院での日々だ。

 そういや酔った勢いで一度だけカリムのやつに話したことがあった気がする。

 孤児院の頃の俺は、まだ弱っちい糞ガキだった。



 ◇


 孤児院に入った翌日。

 お父さんとお母さんが居なくなった事に耐えられなかった僕はひたすらに涙を流していた。お父さんが辛い時に行っていた「未来は続くから大丈夫」という言葉だけが頭から離れなかった。


 結果としてお父さんの未来は続かなかったのだから今となっては皮肉にしかならない。

 

 そんな泣いている僕には誰も話しかけては来ない。みんなはきっと気を使っているのだろう。


 自分が情けなくて一向に涙が止まらない。


「うっさいわね!いつまで泣いてんのよ!」

 

 誰も話しかけてこないことをいいことに泣きじゃくっていると、気の強い女の子が話しかけてきた。


「うっ、ごべんなざい」


 その勢いに思わず謝ってしまう。

 泣いていたため上手く発音できなかったが。

 

 彼女の名前はアリスと言うらしい。

 名前に似合わず勝気な性格で僕より2歳上の女の子。子供たちのまとめ役だった。

 そんな出会いだったのもあって、正直に言うと最初は少し怖かった。


 アリスは凄い女の子だった。

 孤児院の子供たちの誰よりも強く、誰よりも働き者。そして、誰よりも優しかった。

 そんなこともあって先生たちの信頼も厚かったのを覚えている。だからこそ、彼女に対して恋心を抱くのにも時間はかからなかった。



 それは、僕が孤児院に入って二年目の月の明るい夜の事。憧れの気持ちを伝えることが出来ずに迎えた。


「ねぇ、ガンマルク。あなたは将来何になりたいの?」


 アリスは僕に尋ねてきた。

 庭でみんなで作った椅子に座って、ぼんやりと月を眺めているときだった。

 彼女はもうすぐ十二歳になり孤児院を出る。

 だからこその、この先についての質問なのかもしれない。


「んー、僕は。兵士になりたいんだ」

「ぷっ!」


 僕の言葉を聞いて吹き出すアリス。

 全く失礼だと思う。


「なんで笑うのさ!」

「だってそんなに弱っちいし、コネもないのに兵士になんてなれるわけないじゃない」


 ムッとするが彼女の言うことは間違ってない。

 実力も、コネもない。

 両親は兵士として戦場で亡くなったが、僕には無理な話だろう。


「そういうアリスは何になるのさ」

「んー、私はね。冒険者になりたいの」


 冒険者。存在は知っている。

 誰にでもなれるのだが、その分荒くれ者が多く報酬も安定しない。

 そのうえ兵士と違い武器なども支給が無いため自分で揃えないといけない。

 全てが自己責任の世界だと聞いたことがある。


「なんで冒険者なの?」

「冒険者ならいくら弱くてもなれるわ」

「うん、それは知ってるけど……」

「それにね、冒険者に成れば魔物と戦えるから強くなる機会もある」


 僕は黙って聞いていた。

 段々と彼女の言いたいことが分かってきた気がする。


「だから、私は冒険者になるわ。そして魔物を倒して、そのうち魔族も倒す。ゆくゆくは魔王だって倒してみせる」


 固く誓うように言う彼女に僕は何も言えなかった。

 その想いが眩しすぎて、僕には口を出せなかった。

 

 本音を言えばやめて欲しい。

 危ないから、命を落とすかもしれないから。

 そう思ってしまって泣きそうになるのはきっと恋心から。

 

 だけど、その気持ちがあるから僕は尚更止めることが出来なかった。だから、僕が思うのはならばせめてと。


「分かった。じゃあ僕も冒険者になる」

「……ガンマルク?」


 驚いた様子のアリス。


「僕も冒険者になって、アリスの背中を守る」

「あ、ありがとうガンマルク。……ありがとう!だいすきっ!」

「あ、ありす!?」

 

 急に抱きついてくるアリス。

 胸が高鳴る。きっと顔も真っ赤っかだと思う。

 きっと彼女の好きは友達としての好きだとは思うのだけど。


「ガンマルク!一緒に頑張ろっ!私、先に待ってるから!」

「う、うん。僕も必ず冒険者になるからそれまで待ってて」


 幸せだった。

 

 その時は。

 

 希望に満ち溢れていた。


 その時は。



 2年が経った。

 孤児院を出て、冒険者になる日だ。

 実を言うと二年前、彼女が孤児院を出てから。

 彼女には会っていない。

 冒険者になれたら彼女に想いを伝えようなんて考えていた。


 もちろん不安もあったが、孤児院を出ると連絡がつかなくなるのは割と頻繁にある事だった為、そこまで心配もしていなかった。

 その時は冒険者という命のやり取りを生業とする仕事を楽観視していたのだと思う。


 冒険者の登録にギルドに向かう。

 そこに居たのは屈強な男たち。

 この時は、僕もあんな風になるんだと気持ちが昂った。


 受付は直ぐに終わった。

 やることと言ったら軽い説明と身分証の発行だけだからだ。

 兵士と違って序列も大したルールもない組織だからこんなものなのだろう。


「すいません。ひとつ聞きたいことがあるんですが……」


 説明が終わったあと、受付のお姉さんに尋ねる。


「アリスっていう冒険者を知りませんか?ちょうど2年前にこちらで登録したと思うのですが」

「んー、私も去年から働き始めたばかりだから分からないの……ごめんね」


 お姉さんから入口でだべっているおじさんがベテランだという話を聞いた。

 思えばここで気がつくべきだった。

 登録日が昔でも受付には寄るはずだということを。


「あん?少女の冒険者?」


 おじさんに尋ねると頭をひねって考えている。

 こんなに人数の多い冒険者だ。もしかしたら皆知らないのかもしれない。


「あっ!あいつか!アリスって名前の勝気な……」

「そうです!今、彼女がどこにいるのかわかりますか!?」


 すかさず居場所を尋ねる僕におじさんは渋い顔だ。


「お前、あの嬢ちゃんの家族か何かか?」

「ええ、孤児院が一緒で。僕が十二歳になったら一緒に冒険者として活動するやくそくだったんで……」

「……死んだよ」


 ……え?

 

「思い出した。あの嬢ちゃんは早いうちに魔物を狩り始めて新人の中でも注目されてたんだ」

「……あっ、の」


 思い浮かぶ彼女の顔。

 嬉しそうな顔に、怒った顔。

 言葉が出てこない。


「まあ、よくある話だ。それが油断を誘って死んだらしい」

「……あ、う、か」



 そこから先は覚えてねぇ。

 いつの間にか一人称は僕から俺になって、その分だけ強くなった。


 墓は教会に立てたが、なんだか申し訳なくてそれ以降は行ってない。

 

 たまに来るガキや明らかに冒険者に不向きなやつを追い出すのが趣味になったりもした。

 弱いやつが無謀なことをしてるのは癪に触ったから。本当に自分が情けない。


 あの頃から心に残っているのは魔王をぶっ殺したいっていう気持ちだけだった。



 ……そうすれば、僕みたいな人を生み出さなくて済むはずだ。


 ◇


 ふと、思い出した。

 昔に置いてきた記憶。



 勇者の言う英雄になったら、墓参りにでも行こう。きっと胸を張って行けるはずだ。


 そのためにも魔王をぶっ倒さないといけないな。


 きっとこの先に未来は続くはずだ。

 

 


 

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