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このセカイで笑っているのです。  作者: コモンピープル


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14/19

ここからが勇者の旅路

 魔王の元に着くまでの勇者様の方針は「逃げ」だった。勇者様いわく『面と向かって戦うと数の差で確実に潰される』との事だ。

 

 私も理由には納得して特に不満は無かったのだが、最近機嫌が悪いのはガンマルクさんだった。

 

  敵の目をかいくぐって外の大陸へと出て五日目。とある森の木陰で休んでいると遂にガンマルクさんが弱音を吐き始めた。

 

「なぁ、カリム。俺らが魔王を倒したってもう人間が残ってないなら一緒じゃないか?」


 そんなガンマルクさんを無表情で見つめる勇者様。

 仕方がないと思った。私だってこんな時に仲間が弱音を吐き出したら怒りもするし、今だって正直イライラしている。

 しかし、勇者様は一見怒っているようだがその瞳は何かを探しているようだった。


「おい、カリム。何とか言ったら……」

「……ちっ」

「ぐっ!?」


 勇者様が何かに気がついたような小さな舌打ちの直後。ずっと文句を言っているガンマルクさんの鳩尾に拳を入れた。口から唾液を垂らして気絶をしたガンマルクさん。

 私は勇者様の豹変に一瞬身構えるが、直ぐにその警戒を解く。


「いきなり、どういうことですか?」


 何かあるのだろうと真意を勇者様に尋ねると、彼はキリッとした瞳で私の方をまじまじと見つめた後に口を開いた。


「……ずっと、おかしいとは思っていたんだ」

「何がですか?」

「なぜあんなところに負傷した魔族が倒れて居たのか。そもそもなぜ、人間側はスパイの存在を疑わないのか。そしてなぜ、俺が召喚された同時期に四天王が現れ始めたのか」


 勇者様の言葉について考えようとすると頭にモヤがかかる。

 勇者様の言わんとしていることは理解出来るし、それから導かれる結論も自分の中で出ている。

 

 しかし、それが出てこない。


 おかしな話だが、出てこないのだ。



「頭部に魔力を薄く貼れ。いいか、薄くだぞ」


 勇者様の言葉通りに、魔力を引き伸ばすように頭に貼る。

 そこで、異物があることに気がついた。

 意識しなきゃ分からないほどの薄い魔力。


 それを消滅させるようにゆっくりと私自身の魔力で包む。


 ふっと頭が軽くなる。

 そして、勇者様の言葉の意味が理解出来た。


「洗脳……いや、思考誘導ですね」

「ああ、そういうことだ」


 私たちは既に随分前から魔族の手の内だったのだ。

 どこかしらで魔族の思考誘導を知らず知らずに受け、疑うことを忘れていた。


「じゃあ、どうして勇者様を召喚させたのか……」


 私の独り言に勇者様が答える。


「内密に準備して知らぬところで召喚されるよりは、目の着く範囲が良かったんだろう。これだけの規模の思考誘導となると、一人一人がどうしても疎かになって違和感に気づく奴や、誘導を受けても魔族に対する感情までは動かせないだろうからな」


 勇者様の言葉になるほどと頷くが、それで全ての繋がりに気づいた。


「っ!?だから、あの時の倒れていた魔族は敵対種族だと言うのに警戒が薄かった!そして、それなのに勇者様の正体が分かると斬りかかったのですね!?」

「ああ、恐らくあれは刺客だった。何故怪我をしていたのかは分からないが、手負いでも俺に致命傷を負わせるほどの力はあったからな」

 

 私たちは初めから詰んでいたのだ、情報はもちろん筒抜けであったのだろう。

 今まで動かなかったのは勇者様という未確定の戦力が残っていたから。

 そして、今動いたのは勇者様を引けなくして確実に詰ませるため。


 ふと、思う。

 もしかしたら勇者様はそのことに気がついていたのでは無いかと。

 バーゼリアの砦を逃げ出る時、勇者様は粗方の荷物をまとめ終えていた。

 きっとこのことを予見していたのだろう。


「うっ……とぁぇい!」

「ひゃっ!?」


 いきなり隣から叫び声がして、思わず変な声が出てしまう。

 どうやら、ガンマルクさんが目を覚ましたようだ。


「んー?なんだぁ、お前らこんな時までイチャイチャして」

「……はぁ、どこがそう見えるんだ」


 ため息をついた勇者様にガンマルクさんはニタニタと笑みを浮かべる。


「王女さんが顔赤くしてんじゃねぇかよっ!」

「……きっと疲れてるんだよ」


 勇者様が『分かってないなぁ』とため息をつきながら言う。

 そして、私は顔が熱くなるのを感じる。


 分かってないのは勇者様の方だ。


 あんなに、顔をじっと見るから……。



「……ぅじょー?王女ー?大丈夫か?」


 恥ずかしさと顔の火照りをどうにかしようとしていると、勇者様から話しかけられていることに気づけなかった。


「な、なんですか!?」

「いや、な。ガンマルクにもさっきのをやって欲しいんだよ。こいつは魔力操作が下手だし、俺も今魔力使えないしな」


 勇者様の言葉に頷いて、ガンマルクさんの頭に魔力を貼る。

 いつの間にやらガンマルクさんへの説明は終わっていたようで、不審がって拒否されるようなこともなく無事に終えた。


「おぅ、ほんとになんかされてたんだな。頭が軽いぜ。あんがとな!」

「どういたしまして」


 喜んでいる、さっきまでとはまるで雰囲気の違うガンマルクさん。

 こんな何も考えていなさそうなのに案外考えて動いているのだからまったく凄い人だと思う。


「それで、勇者様」

「ん?なんだ?」 

「今後の動きについて勇者様の考えを知りたいのです。今まで大まかにしか言われてなかった理由については先程解決したと思いますので」

「んー、そうだな……」

 

 少し思案する様子の勇者様。

 その間にガンマルクさんは食料の入った袋を漁っていた。

 その袋というのも、もうぺしゃんこになっている。食料が尽きかけているのだ。

 最悪の場合は野生動物を捕まえるとしても、それも毎日見つかるとは限らない。現にここに来るまでは小鳥や虫しか見ていない。


「王女、ガンマルク。聞いてくれ」

「お?なんだ?」


 漁るのをやめてこちらの話に入ってくるガンマルクさん。

 どうやら、残りの食料を数えていたようだった。何日持つか計算でもしていたのだろう。

 指を折りながら数えている。


「俺は一度、どこが身の隠せる場所に篭ろうかと思う」

「なっ!?」

「おいおい、カリムさんよ。この期に及んで怖気付いたのかよ?」


 いつものガンマルクさんの軽口に、勇者様は真剣な顔で答えた。


「なあ、ガンマルク。破邪の短剣を知ってるか?」

「ああ、高級品だから見たことはねぇけどよ。存在は知ってるぜ」


 話し出したのは破邪の短剣について。

 確かに魔物や魔族に対して効果があるもので、その認識阻害効果は魔に連なるものに対してだけとはいえ、高位の魔法をもしのぐ。

 

「王女はあれのについてどれぐらい知ってる?」

「前に話したように、魔族と魔物に対してしか効かないこと。一度使ったら暫くは使えないことですかね」


 ここまでの効果なら旅の初めに話したはずだ。

 もしかして、忘れていてその効果を聞きたかったのだろうか。

 もっとも、それが戻ることにどう繋がるかは分からないのだが。

  

「じゃあ、作り方はどうだ?」


 次に尋ねてきたのは作り方。

 本当に勇者様の真意が読めないなぁ、なんて思いながらもちゃんと答える。

 

「んー、詳しい話は秘匿されているようでしたが、聞いた話によると確かミスリルの短剣に教会の者たちが三日三晩祈りを捧げるんだとか」

「そうか……」


 相変わらず私たちに何の説明もないまま考え込み、一人で結論をだした。


「その短剣の作り方はだいたい分かった。話を聞く限り予想通りでほぼ間違いは無い」

「なっ!?本当かよ?今の王女さんの話のやり方はほとんど教えてないようなもんだったぜ?まさか本当に祈っただけで、出来るわけもないしなぁ」


 言った私自身もそう思う。そんなやり方は馬鹿げてるし、現実的に考えてありえない。

 もしかして勇者様は他のちゃんとしたやり方を知っているのだろうか。


「まあ、詳しい話は後から言うよ。とりあえず手頃な隠れ場所を探す。そして食料調達だ」


 勇者様の言葉に私達は渋々頷く。

 どちらにせよ私達は勇者様に全てを懸けるしかない。人類最後の希望と言っても過言では無い。

 もっとも、こういう状況じゃなくても私は全てを懸ける気では居たのだが。

 そういった訳で私達は次の行動に移ったのだった。

 

 

 

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