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このセカイで笑っているのです。  作者: コモンピープル


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13/19

四天王

 私が正式に仲間に加わってから、何度か実戦に出た。

 実践に出て分かったのは、今まで何となく凄いとしか思ってなかった勇者様の力だった。

 戦場の空気は暗く張り詰めているのだが、勇者様が来たとわかった途端前向きで意欲的なものに変る。

 最初はその変わり様に驚いたのだが、実戦を見ると理由も納得できた。

 

 彼が一太刀剣を振れば、目の前の魔族が血を流し倒れる。

 そして気がつけば次の魔族の元へ。

 

 私ができることといえば回復と、魔法での援護だった。

 最もそれに徹したおかげで遠距離から動いてる勇者様やガンマルクさんに回復をかけることができるようになったりと私の成長もあったのだが。


「お疲れ様。回復ありがとうな」


 粗方の魔族が片付き、引いて行った後。

 後方で水を飲んでいると勇者様が来た。


「ええ、勇者様こそお疲れ様です」

「ひゅーっ!今日もお熱いね!」


 隣でガンマルクさんが茶化してくるが無視だ。

 最近茶化しが鬱陶しいが、これでもこの人は周りの人の事をよく見ていて毎回不快じゃない程度の適度な冗談で場を和ませている。

 その事を知っているため私は何も言わずに無視を決めた。


「それで、勇者様。いつ頃までココに滞在する予定ですか?」

「それなんだが、四天王や幹部が痺れを切らして攻めてくるまで待つつもりだ。どうせここしか通れないからな」


 この場所、バーゼリアの塔は人類最後の砦と言われている。

 なぜそう呼ばれているかと言うと、この世界は私たちが今住んでいる大陸とそれ以外で別れているのだが、それ以外から来るには必ずここを通らなければならないからだ。

 私たちが住んでいる大陸の周りには囲うように大きな崖があり、その崖は下から強い風が吹き付けているため、たとえ空を飛ぶ相手でも入って来れないのだ。


「しかし、待っている間にも相手の戦力は増すばかりなのでは?」

「いや、それは無い。何人か魔族を尋問したが幹部の人数と全体の数は把握している。それに奴らは成長速度は人間よりも遥かに遅いからな」

「それが嘘の可能性は?」

「まあ、ないだろう。色々使ったからな……」


 この世界には洗脳ができる魔法や道具がある。

 最も洗脳をしても思い通りに動かすことは出来ず、せいぜい知っていることを吐かせるくらいにしか使い道はないため人類が操られる心配はほとんどないのだが。

 何はともあれ、きっと勇者様はそういった類のものを使ったのだろう。


「それじゃあ、もうしばらくはここで滞在ですね」


 バーゼリアの塔は一本の塔を中心に壁が築かれており、壁の中や、塔の中には、部屋やお風呂まであったりと設備としては悪くない。

 その為ここに滞在することはなんの文句も無かったのだが、やはり待っている間に相手の戦力が整うのではという危惧があった。


 そんなまま、更に過ぎること数日。

 それが起きたのは唐突だった。

  

「大変です!勇者様!前線で大きな魔法が使われました!」


 いつものように勇者様は敵の指揮官や強力な魔物だけ倒し、私たちは適度に他の敵兵を倒して後は兵士たちに任せようとしていた時。

 一人の兵士が命からがらに走ってきた。


 兵士が指さす方を見れば爆煙をあげながらこちらに向かってくる二人の魔族がいる。


 勇者様はすぐさま駆け出し、それにガンマルクさんと私はついて行った。



「おう、やっとでてきたか。勇者とやら」

「……」


 敵の二人は対照的な見た目をしている。

 片や派手なドレスの女魔族。こちらは言葉を発した方。

 片やシンプルな防具の男魔族。こちらは無言でこちらを見ている。

 だが、どちらもその存在感は凄まじく、足がすくんでしまいそうになる。

 ガンマルクさんでさえ、気を張って額に汗を浮かべている。


「貴様らは、この前も来た四天王とか言うやつか?」


 勇者様は心当たりがあったようで、魔族に問いかける。


「ああ、よくご存知で。ウチの者が口を割ったのか?」

「ああ、ちょいと頭を弄ったら話してくれたさ」


 軽口の言い合い、しかし相手の魔族は勇者様の言葉に不快に顔を歪めた。


「くそっ、下衆め。これだから人間は好かんのだ」


 その表情からは怒りが滲み出ており、存在感と相まって呼吸が苦しい。

 

「そちらの魔族は何も言わないのか?」

「……」


 無口な男魔族の方も、表情を見るに怒りを感じているようだ。


「王女。ガンマルク。下がってろ」


 私達の様子に気がついた勇者様は、私に下がるように言う。

 私たちはその言葉通りに下がった。

 肌で感じて分かるほどに、この魔族は格が違う。

 ガンマルクさんでさえ下がっている。足でまといになるくらいなら離れた方がいいだろう。


 私たちは目視で確認できるギリギリの距離まで全力で下がった。

 その時間はは勇者様が牽制などで稼いでくれた。


 周りには敵の残兵のみとなっていたため、私たちはそちらの処理に回る。


 横目で勇者様の方を見ると、魔族二人を相手に上手く立ち回っていた。

 なるべく片方の背後を取るようにして戦うことで上手く相手に攻撃させないようにしているようだ。

 接近戦の素人である私から見ても、魔法も使わずにあそこまで上手く立ち回っているのは感嘆するしかない。

 とはいえ、やはり二対一の人数不利は大きいようで徐々に押され始めていた。


 勇者様の傷が少しずつ増えていく。


 私はそっと射程ギリギリのところまで近づいて、魔法をかけた。


 みるみるうちに回復していく傷。


 勇者様はこちらを見もせず、戦いを続けている。


 それが信頼の様に感じて嬉しく思えた。


 女魔族が私の回復に気がついたようで、こちらに意識を向けた。

 こちらに伸びる手。

 感じる魔法発動の力。


 だが、それを許さないのは勇者様。

 気合を入れているのか、体の底から出できたような声。

 

「はぁぁっ!!」

「っ!?」


 魔族は反応が遅れた。

 背中を大きく切られる。


 吹き出す血液。


 それに応じて顔の歪む男魔族。


 その後は早かった。

 動きの乱れた男魔族をあしらうように攻撃する勇者様。

 そして、ものの数分でその場の戦闘は終わった。



「皆様!勇者様が四天王を倒しました!」



 私の叫んだ声と共にだんだんと広まっていく勝利宣言。そして、もののの数分で湧き上がる戦場。


「お疲れ様です。勇者様」

「ありがとう。王女」


 声援を受けながらこちらに戻ってきた勇者様に広めの麻布を渡す。

 私が魔法で出した水で濡らしたその布で、鎧や剣の返り血を丁寧に拭き取り終える。

 魔力が戻れば一瞬で綺麗になるのに、とボヤきながら最後に顔や手足を洗っていた。

 

「残るのはあと一人ですね。次はいつ来ますかね……」


 追加の水のために手足を洗う勇者様の傍に立っていたのだが、水を出す以外特にすることもないので今後について尋ねてみた。

 

「ああ、その事だが。今度はこっちから出る」

「と言いますと?」


 勇者様が最初に言っていたように、相手の出方を見るのが一番堅実なはずだ。

 それなのにわざわざこちらから出向くのはなにか理由があるのだろうか。


「実はな、色々と限界が来ててなぁ」

「限界、ですか?」


 曖昧な物言いで何一つとして分からないのだが、勇者様がぼかして言うのであればそれなりの理由があるのだと思う。


「まあ、後になったら分かる事さ」

「分かりました。では、いつ頃発ちますか?」

「んー、そうだな。なるべく早く動きたいから、明後日の早朝にしようか」



 その後、私たちは明くる日の朝早くに発った。

 本来なら勇者様の言ったように一日開けて準備をして発つ予定だったのだが、その日の晩に状況が変わった。


 報じられたのは王都の陥落。


 使者として来たのは魔族。


 結果として分かったのはこの戦争における人類の敗北。


 この場の兵士たちは陥落を告げに来た魔族たちに殺された。


 一人残らず。


 だが、その隙に私たちは進んだ。


 戦は終盤。


 状況は劣勢。


 魔族は魔王が死ねば皆で死ぬ。


 戦争には負けたが、勇者様が生きている限りまだどうとでもなる。


 絶望している余裕は無い。


 あちらも四天王の三人を失っている今だからこそ勝機がある。


 そう自分自身に言い聞かせて、私は勇者様達と共に進んだ。

 

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