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このセカイで笑っているのです。  作者: コモンピープル


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11/19

本物だ

 私は結局なにがしたかったのだろうか。

 最初に勇者様について行く時は正直嫌々だった。お父様の命令がなければきっとついて行ってなんかいない。

 この街に着くまでも勇者様は話しかけても冷たい態度だったり、無視をされたり正直良い印象は持てなかった。

 だから、話しかけていた時の表情や感情も作っていた。偽物だった、はずだ。


「それなのに……」


 涙をふいて手鏡で自分の顔を確認する。

 酷い顔だ。腫れぼったい目に、真っ赤になった鼻。

 すぐさま目に回復魔法をかけると少しは良くなったが、まだ涙の痕などは残っていた。

 濡らしたタオルで顔を拭き、荷物をまとめて一度宿を出る。

 せっかくだからこの街を少し回ってから帰ろうと思ったのだ。

 

「おう、お嬢さん。こんなしけた空気の中だが、良かったら串焼きでも食べてくかい?」


 街の大通りを歩いていると、陽気に話しかけてきたのは屋台のおじさんだった。

 王都にはこういったお店は無いので、あまりこういったところで食事を取ったことがない。冒険者の街ならではなのだろう。


「それじゃあ一本頂いてもいいですか?」

「あいよ!」


 おじさんに代金を渡して串焼きを頂く。

 私の拳大程のお肉が三つ刺さって、それに何かの調味料が振りかかっているシンプルなものだった。

 その味は繊細さはないものの、口に含んで一口噛むと大雑把な旨みが押し寄せてきてとても美味しかった。

 野蛮な味という者たちも一定数居そうだが、私はこういった味は好きだ。

 そして、どうやら食べ物じゃ心の穴は埋まらないらしい。


 一通り街回った後、再び宿に戻ってきた。

 そのままベットに飛び込むが、気は晴れない。


 私は何故あの時ついて行きたいと思ったのだろうか。

 勇者様達について行ったら危険な目に会うのは分かりきっていたはずで、実際ついてくるなと言われた時安堵した。

 それなのに、ついて行かないと決めたあの瞬間から胸のつっかえが取れない。


 「だいたいお父様も一人娘に護衛もつけずに送り出すなど、どうかしているのです」


 護衛がいたら、勇者様の元についていけたかもしれないのに。足でまといなんかにならずに。

 ああ、駄目だ。自分の中で責任転嫁が始まった。

 

 考えれば考えるほど廃れていくような気がして、私はその日はもう何も考えずにふて寝した。


 数日程、何もせずに街の中を見て回る日々が続いた。

 そろそろ王都に帰ろうかと思ったりもするが、護衛をつけなければさすがに危ないだろう。


 もう見慣れた街並みを歩きギルドに向かう。

 雰囲気が好きじゃないため避けていたが、護衛を頼むなら冒険者が無難だろう。


 ギルドに入るや否や聞こえてくる声。

 噂話や、馬鹿話。

 だが、それのほとんどが魔王軍の話だった。

 そんな中、ひとつの話題が耳に入ってくる。


「なあ、聞いたか?勇者様とガンマルクのやつが負けたらしいぞ」


 喧騒の中でもやけにクリアに聞こえてきたその言葉に私の鼓動が高鳴る。

 少しづつ、視界が狭まり、呼吸が荒くなる。

 気がつけば私の足はその話をしていた冒険者たちの元へ向かっていた。

 

「その話詳しく聞かせて貰えますか?」


 話していた冒険者たちは突然来た私に驚いていた。

 私のような小娘がこんなところで、しかも食い入るように話しかけてきたから当たり前なのだろう。

 しかし、怪しみもせずにすぐに話してくれた。


「勇者様が四天王と戦ったとかでよ、一人は倒したらしいんだが倒し終わって消耗していた時に来たもう一人のやつにやられたらしいんだよ」

「そ、それで無事なんですか!?」


 冒険者の言葉に心がざわめく。

 気が気じゃない、心臓が持たない。


「まあ、無事じゃねぇけど命はあるって話だぜ?」

「そう、ですか」


 ほっとした。

 膝の力が抜け落ちそうになるが、ぐっと堪える。


「ありがとうございます。ご迷惑おかけしました」


 とりあえず情報だけでも勇者様の生存が知れた為、安心した。

 

 知らず知らずのうちに拳に力がはいっていく。

 悔しさ、不甲斐なさ、そしてこんな気持ちを持っていることへの困惑が心に絡みつき、重くする。

 一緒に過ごしたのはほんの数週間で、そもそも私はあの人の事が好きではなかったはずだ。

 普段は無愛想で、ぶっきらぼうで。

 そのくせたまに優しく話してくれて。

 だんだんと心を開いてくれたと思ったら急に私を仲間から追い出して。

 一見冷たいのに本当は周りのことを誰よりも思ってて、身を呈して私のことを守ってくれたりして。


「おい、お嬢ちゃん大丈夫か?」

「……?」

 

 冒険者のおじさんが心配そうに話しかけてくる。


「あ、いや、こんなギルドの中で涙浮かべてよ」

「あ……。だい、じょうぶ、です」


 浮かべた涙は溢れ出す。

 ポツリとポツリと、止めようと思えば思うほど流れ出す。

 

 その涙が落ちる度に湧いてくる感情。

 

 ああ、そうか。


 その想いはずっとずっと蓋をしていたもの。


 そうなんだ。

 

 私は。


 私はきっと好きだったんだ。


 たった数週間でも。


 たとえ遠ざけられても。


 ごめんなさい。夢の中の人。

 

 私はあなたに出会う前に恋をしてしまった。

 好きな人が出来てしまった。

 

 だから、だからせめて最後にあなたに顔向けができるように私は行かなくちゃ。


 「お、おい。ほんとに大丈夫か?」

 「ええ、ありがとうございます」


 涙は拭った。

 もう流さない。


「本当か?なんだったら……」

「大丈夫です。それより、護衛依頼はどこで頼めばいいですか?」

「護衛依頼ならそこのカウンターで出来ると思うが……」

「ありがとうございます!」

「お、おう。気ぃつけてな」


 冒険者のおじさんに教えてもらった通りにカウンターに向かう。

 そこに居たのは若い女性の受付嬢。

 

「本日は、どう言ったご要件でしょうか?」

「護衛依頼をお願いしたいのです」

「分かりました。いつからどちらの方までですか?」

「出来れば今日中に、バーゼリアの塔まで」


 私が告げるのは、今勇者様がいるであろう所。

 そこは最前線で、人類の最後の砦とも言われていて、大きな塔がある所。

  

「そこは、戦線の最前線ですが……」


 受付嬢が怪訝な表情で尋ねてくる。

 

「ええ、なんなら少し手前まででも大丈夫です」

「分かりました。募集してみますね。本当にバーゼリアの塔まででよろしいでしょうか?」


 尚も聞いてくるのはきっと心配してくれているのだろう。

 だが、私は大丈夫。

 きっと彼はそこにいるから、好きな人が傷ついて守ってくれるのを待っているような女じゃいたくないから。


「ええ、きっと待ってる人がいるので」


 この気持ちは作ってなんかない。

 私の想いは、きっと本物だ。

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