唐突にそれは
ガンマルクが仲間になった後、勇者一行は数日ほどでフリーレスを立つ事になった。本当は情報収集をし、装備体調を整えた後に街を出る予定だったためあと数週間は滞在する予定だったのだが、情報収集をしようとした矢先に魔王軍進行が開始されたとの報せが入ったためだ。
その情報は既に広まっているため、街は活気という文字が消え失せたかのように張り詰めた空気になっている。
「勇者様。旅の準備は出来ましたか?」
王女が勇者に問いかける。
勇者は大きな鞄を背負い、宿の階段から降りてきていた。
「ああ、バッチリだ」
「それにしても、勇者様。荷物多すぎませんか?それに、私には荷物はあんまりいらないって……」
王女が指摘した背中のバックには数週間分の保存食と緊急手当の道具が入っている。
そして、それに対照的なのが王女の鞄だ。
勇者の指示があって食料などは全部王女ではなく勇者が持っている。
「それはだな……」
「おい、カリム。まだ言ってなかったのか?」
勇者が説明をしようとした時、宿に入ってきた者がいた。
その者は入ってきて一番に勇者達に口を開いた。ガンマルクだ。
ガンマルクの言葉に勇者が口篭り、王女は首を傾げる。
「ガンマルクさん。おはようございます。言ってなかったことってなんですか?」
ここ数日でガンマルクは勇者たちと仲を深めていた。
そのため、王女に対してもフランクに話す。
「俺の口から言うのも変なんだがよ。王女様はここに置いてくらしいぜ」
「っ!?」
王女の顔が驚愕に染る。
ショックを受けているような。驚いているような。
「勇者様!!どういうことですか!?」
裏切られたと言わんばかりの凄い気迫で迫る王女に、勇者は表情を崩さずに言う。
「すまんな。俺は知ってたんだよ。お前が無理やり王について行くように言われてたことをな」
「……」
王女は黙りこんでしまった。
勇者の言ったことは間違ってない。実際王女は王の命令で無理やりについて行くように言われていた。
なぜ勇者がそれを知っているのかは定かでは無いが、そんな背景があったため王女は何も言えなくなったのだろう。
「まあ、大丈夫だ。魔王の心臓はちゃんと持ち帰る」
「分かり、ました……」
王女は複雑な面持ちで勇者に応えた。
何かが抜け落ちたような、それでいてどこか申し訳なさげな表情だ。
「……」
「……」
お互いの沈黙で気まずい空気が流れる。
ガンマルクはそんな中でどこ吹く風に、近く座って剣の手入れをしている。
そんな中でポツリと口を開いたのは王女。
「一つだけ、聞いてもいいですか?」
「……なんだ?」
「どうして、私を置いていくのですか?」
「それは……」
勇者は口ごもる。
そして、その問いに答えたのは勇者では無かった。
「お前さんのためだよ。王女様」
「どういうことですか?ガンマルクさん」
怪訝な面持ちで尋ねる王女。
それに対してガンマルクはニヤリと笑う。
「あんたの実力じゃこの先はやってけないのさ」
「……そう、ですか」
「ああ、だから悪いことは言わねぇ。王城に帰りな」
「分かりました」
ガンマルクの言葉をすんなりと受け入れた王女。
しかしその顔には作られたような表情しかなく、最初の召喚の際とおなじ微笑みを浮かべていた。
それは不自然なくらいで、実際勇者もその様子に驚いているようだ。
「では、この先の旅の成功をお祈り申し上げます」
張り付けた笑みのまま王女は頭を下げるとそのまま部屋へと引き返して行った。
残されたのは荷物を持った勇者とガンマルク。
「なあ、カリム。これで良かったのか?気があったんだろ?」
「……だから尚更だ」
「そうかいそうかい」
勇者とガンマルクはすぐに宿を出た。
行先は決まっているためか、その足に迷いはなく確実なものだった。
そして、一方で部屋に戻った王女。
その瞳には涙が浮かんでいる。
そして、自分自身に言い聞かせるように呟いていた。
「これで、良かったのでしょう。ここまで拒絶されればお父様も無理は言わないはずです。それに、危ないことはしないなら、しない方が……いい……はず……だから」
その瞳の涙が一滴、また一滴と溢れ出す。
呟きはやがて嗚咽に変わり、一滴の涙は流れるように溢れ出す。
泣きじゃくる彼女は、少し落ち着いた後にたった一言。
「もう少しだけ、一緒にいたかった……」
寂しげに呟いた。




