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このセカイで笑っているのです。  作者: コモンピープル


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今回の始まりの物語

「さあ、勇者よ。魔王討伐についての話をしよう」

「……」

 

 場所は移り王座の間。

 ここは部屋と呼ぶには広く、ホールと言って差し支えない程の大きさ。先ほどとは打って変わってきらびやかな内装。

 

 壁には数点の肖像画が飾っている。ローブを羽織った老人を中心に、左右に分かれて並べられている。それらは皆悠々とした佇まいで描かれており、その中には王の姿もあった。

 歴代の王だ。

 

 そこに先程の貴族や騎士たちは一人としていない。

 痛々しいほどに宝石や貴金属等の装飾品で飾られた玉座に王が一人座っているのみだ。

 

 入り口の大きな扉から玉座に続くように敷かれた赤いカーペット。

 カーペットの上で玉座に向かうように跪き、頭を垂れている勇者。

 そして、それを見下しながら告げる王。


 表向きには誰もいないにも関わらず、まるで立場の違いを誰かに知らしめているよう。

 


 ――こつん、こつん。

 

 玉座の肘置きを一定のリズムを保ちながら人差し指で叩く。

 これは王の癖。

 その癖が余計に彼を傲慢にみせる。

 

「ふむ、何も言わぬか」

「……」


 異様なまでに終始無言の勇者。

 その不気味な様に、王は顔を顰めた。

 

「……まあよい面を上げよ」


 その言葉に勇者は頭をあげる。

 その顔からは表情は読めず、どこか剣呑な雰囲気を醸し出している。

 

 だが、その勇者の様子を気にも留めない王。

 何食わぬ顔で勇者のことを見つめている。


 何を考えているのか全くもって読み取れないような。そんな、なにも無い表情のままに口を開いた勇者。

 

 「……なぜ騎士をつけない?」


 勇者の言うように、本来ならばこの場所には王を護衛する騎士がいるはずだ。

 実際先ほどの部屋には十数名の騎士がいた。

 しかし、どこを見てもそんな者は見当らない。

 

「それは、護衛という意味で受け取っていいのかね?それならば人類最高峰の戦闘力を持つという勇者がこの場にいるのだ。それ以上の護衛はいらぬであろう?」


 感情のこもっていないような笑みを浮かべる王。

 その表情は意味ありげなものだった。

 言葉ではない、態度で言っていた。

『お前は私を傷つけたりはしないであろう?』と。

 そんな王に対して勇者は鼻で笑うと黙り込んだ。

 

「して、勇者。汝にしてもらいたいことはただ一つ。魔王を倒してその心臓を持ち帰ることだ」


 王は傲慢な態度のまま勇者に告げる。

 勇者が無言で頷く。

 勇者の薄い反応にか、王の機嫌が見るからに悪くなった。

 機嫌に比例するように、人差し指の動きが少し速くなる。


 「心臓を持ち帰る理由は聞かぬのだな?」

 

 「……俺は勇者として魔王を倒すだけだ」

 

 「はっ、殊勝な心掛けだな」

 

 馬鹿にしたように王が言う。そして、その目は据わっている。

 だが、それに負けないほどに勇者からも攻撃的な雰囲気が滲み出ていた。

 

 勇者も勇者で目を細めてひどく冷酷な視線で王のことを睨みつけている。

 

 両者共に今日初めて知った間柄であるはずだが、余程お互いのことが気に食わないのだろう。

 

「資金などは支援する、足りなくなったら冒険者ギルドに向かえ。しかし、必要ならば仲間は自分で探すといい。なにか聞きたいことはあるか?」

 

「……ない。だが、ついてくるなよ?」

 

「ふん。大層な物言いだな。どうせ私が付けるものは信用できないのであろう?そのために仲間は自分で探せと言ったのだよ。まあ、最も自らの意思でお前に付いていく者がいたとしたらどうしようもないがな」

 

「たいそうな物言いと言うが、目に見えて利用されるのが分かっていながら下手に出るものはいないだろう?」


 勇者と王の間の雰囲気が一層悪くなる。

 今にも殴り合いでも始めそうな雰囲気。

 両者がお互いの悪意や疑いのこもったような態度を隠そうとしないから尚更にだ。

 

 そんな悪意を剥き出した勇者に、王がさらに告げる。

 

「……そうか、まあ良い。では向かうといい。勇者よ!汝にすべてがかかっておる!世界を頼んだぞ」


 仰々しく声を張り上げて言った王の言葉に、勇者は心底嫌そうに顔をゆがめた。

 

 勇者が立ち上がり出ていく。

 扉が開き、閉まる。

 残ったそこには不満げな顔をした王。


 勇者の態度が余程癪に障ったのか、人差し指の動きが一層激しくなる。

 

 勇者が出て行って、五分ほど。王は感情を抑えるように指をせわしなく動かしていた。

 しかし、それも時期に止まる。

 そして、残った玉座で独りごちる。


「気がついているようだったな。あんなのでも勇者か」

「そうですね、私にも。この部屋の隠密にも」


 その言葉に応えるのは玉座の後ろから現れた王女。

 彼女は王と勇者の会話の間、ずっと玉座の後ろで待機していたのだ。


「マリア、話は聞いたな。あの勇者についていけ」

「し、しかしお父様。勇者様はついてくるなと」

「『勇者が心配だ』とでも言え。年頃の男だ、最悪色仕掛けでもすればよい」

「そ、それは……」

 

 俯く王女。王の言葉に納得がいっていない様子だ。

 ぎゅっとその拳を握り締めている。

 だが、それを意にもしない様子で王が告げる。

 

「勘違いするな。いけ、王女。これは王としての王女に対しての王命だ。逆らうことは許さん」

 

「……分かりました。王様」


 この国での絶対権力者であり、父親でもある王に命令されれば王女に逆らう術はない。

 それは彼女自身もわかっていることであったようだ。

 王女は暗い表情のまま出ていこうとする。


「ああ、まて。お前の任務は分かっているな?」

 

「はい、勇者の監視と現状報告ですね」

 

「ああ、わかっているならよい。だがもう一つ。奴が心臓を手に入れたら必ずここに持ってこさせろ。いらぬ欲をかいたりして持って帰らないようであれば後ろから刺して殺しても構わん」


 王が放った一見横暴にも思えるような発言にも、王女は表情一つ変えなかった。

 これは、彼女が初めから王の目的を知っていたためだ。

 

「分かりました。では、失礼します」


 どこかやるせない顔で王女が出ていこうとする。

 それが気に食わなかったのか、王は王女を呼び止めた。

 

「まて、マリア。そんな悲しげな顔はやめなさい」

 

「……はい」


 それは、父親としての言葉。

 その切り替えは不気味な程で、そこだけを見れば優しい父親そのものだった。

 全体を見たものは不気味と思うしかないような流れではあったが。

 王女は表情を作り直すと、微笑みを浮かべて玉座の間から出ていった。


「お前らも下がれ」


 王が一言発すると、その場の気配は王のみになる。

 そこに残るのは、今度こそ王ただ一人だけだ。


「禁忌とされていた勇者召喚も、やってみると意外とあっけないものだ」


 王の表情は完全に抜け落ちており、どこか虚空を見つめている。視点が定まっていない様子だ。

 その落差は、先程の激しい感情がまるで噓だったかのよう。


「犠牲も大きかった。だがやっと。やっと悲願が叶うな……」


 誰に話すでもない。

 しいて言うならば、自分自身に話しかけるように王は淡々と言葉を紡いでいく。


「アレさえあれば、私の悲願は叶う」


 虚ろに呟く王は、目に宿る光はなく、表情も漂白されており、人形のようにだらりと座っていた。


「さあ、勇者よ持って来い。我が願望を叶えるために……そして願わくば娘だけでも」


 不気味な王はそっと目を瞑った。

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