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女神のギフトがコーヒーってどういうことですか  作者: きゅっぽん
ギフトを勘違いした男
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第6話 英雄領主は、麦を売れない

 フィオに会った翌日、二人は広場の市に来ていた。いつもはガランとした街の広場も、週に一度の市の日は、所狭しと屋台や店のテントが並ぶ。この日は街の周囲の村々から、農民達が穀物や野菜を売りに来て、それに便乗して他の屋台も出る。シュウ達はコーヒーの屋台を休んで、朝から自分達の買い物に来ていた。


 二人が品物を選びながら歩いていると、突如ざわめきが走り、人波が左右に割れた。通りを進んできたのは、場違いなほど巨大な男だった。乱れた長髪に褐色の肌、背には装飾のない大斧。革の胴着の金具を鳴らしながら、群衆を押し分けるように歩いてくる。

 「……何あれ、人なの?」

 アヤナの囁きに答える者はいない。人々は視線を逸らし、距離を取るばかりだった。その威圧感に、シュウも身を引く。男は二人に目も向けず、通り過ぎていった。


 直後、露店の裏から聞こえた話し声が耳に入る。塩漬け野菜と干し肉を並べた店の主たちが、噂話に興じていた。

 「なあ、さっきの見たか? あれ、巨人殺しのバルドだろ」

 「見た見た。何でもこの時期にオーツ麦を売りに来たんだってよ。穀物商の店に持ち込んだらしいが、相手にされなかったって。それで今度は市の行商に売ろうとしたが、そっちもダメだったってよ」

 「はぁ? 今売るって、去年の夏に取れた奴だろ。もうすぐ新しいのが取れるってのに、そんな古いの買う奴がいるのか?」

 「いや~、英雄さまもご領地は上手く回せてないみたいでさ。かなり金に困っているらしいぜ。」

 「それにしたって、余ってるなら去年のうち売ればいいのに」

 「それが領民に冬の間に飯を切り詰めさせて、残ったのを売りに来たんだって」

 「うわ~、そりゃ善良で真面目な農夫達にはご愁傷様だな」

 「全くだ。彼らには俺の塩漬けを分けてやりたいよ。有料だがな!」

 「「わっはっは」」


 その会話を聞いたアヤナは、興味深そうに笑みを浮かべた。

 「面白そうな話ですね。領主の相談役なら、今よりももっと豊かな生活ができるでしょう」

 「そ、そうかな?」


 シュウは半信半疑のままだったが、アヤナの熱に押される形で、結局は調べることにした。


 二人は昼過ぎまで掛けて、バルドの領地について街で調べた。どうやら村の窮状は、彼の計画性のなさや、交渉力の低さが問題で、それはアヤナの得意分野でもあった。さらに、バルドが余らせているオーツ麦も、穀物商に持ち込むより、宿や兵舎などに小売りすれば売り切ることも出来そうである。

 二人は広場の隅で少し遅い昼食を取りながら、オーツ麦を売り切る可能性や、領主の相談役ができるかについて相談した。アヤナは今の自転車操業のような生活には不満を抱えており、可能性があるなら領主の相談役に挑戦したいと言い、シュウもそれに同意した。





 そして昼食後、聞き込みを頼りにバルドを探す二人だったが、街の片隅、倉庫の間の路地で彼を見付けた。彼は荷台に積まれたオーツ麦の袋の上で寝ていたのだ。


 「……いたな」とシュウがぽつりと呟くと、「……いましたね」とアヤナも静かに応じた。

 「ふがっ――!」

 突然、鈍い鼾が空気を震わせ、二人は小さく跳ねる。

 「うおっ」「きゃっ」

 その瞬間、さっきまでピクリとも動かなかった巨体が、まるで弾かれたように跳ね起き、次の瞬間には、片手に握られた大斧の刃がシュウの眼前に突きつけられていた。

 「……誰だ、お前ら。物取りか?」


 「待って下さい、バルドさん! 僕たち、お手伝いができると思うんです!」

 「ああ?」

 バルドは訝しげに眉をひそめたが、とりあえず斧を下ろしてくれた。


 「私たち、村では荘園の管理をしていました。でも、親族に乗っ取られて追い出されて、アローデールに仕事を探しに来たのです」

 おいおい、そこから話すのか。そう思うシュウだったが、ノリノリで話し始めたアヤナに口を挟む事はなかった。

 「それで、もしバルドさまが村の管理でお困りなら、私達がお手伝いできるのではと思いまして。手始めにそちらのオーツ麦の売り先をお探しできると思いますが、いかがでしょうか?」


 スラスラと出て来るアヤナの語り口に舌を巻くシュウ。バルドの様子を窺うアヤナ。彼はそれを聞いて難しそうな顔をしていたが、やがて考えがまとまったのか口を開く。その手が荷台の麦の袋をぽんと叩いた。

 「いいだろう。この荷台の麦を銀貨百枚で売ったら、雇ってやる」


 「無理です。私たちが調べた限りでは、穀物商の買値は馬車一台で銀貨四十枚から四十五枚が限度です」

 「それじゃ、ここまで来た甲斐がねぇだろう!」


 「でも、私たちなら、それより高く買ってくれる人を見つけられます。銀貨五十枚以上になるでしょう」

 「クソが、たったそれだけか」

 バルドの口から呪詛が漏れる。

 「では、穀物商に銀貨四十枚で売りますか?」


 それからしばらくバルドは怒りの形相と難しい顔の間を何度も行き来して、最後には諦めたような顔になってからアヤナにポツリと言った。

 「分かった。任せる」

 バルドはそう言って、再び麻袋の上にどっかりと座り込んだ。


 翌日、アヤナは前日に当たりをつけていた宿と兵舎を回ったところ、予想以上に話はすんなりとまとまった。

 宣言通りオーツ麦を銀貨五十五枚で売り切った二人は、バルドの相談役として彼の村に行くことなった。しかも、アヤナはこれまで写本とコーヒー屋台で稼いだ金で、彼の村までの道中で売れそうな野菜や豆など買う。バルドの荷馬車には、オーツ麦の代わりにこれらが積み込まれた。




 アローデールの街を出てた三人は、北の鉱山街リヴェンベルクへの街道を進んだ。途中の村々では、ただ休むだけでなく、アヤナの買った野菜などを売った。それらの村は麦などを中心に育て、野菜などは不足しがちであったから、銀貨を集めることができた。

 道中、彼の村についてより詳しく聞いてみると、村の運営が上手くいなない理由は、彼自身の資質だけではないようだった。巨人討伐の功績で、急に領主になったかられに対して、古くからの領主一族である隣の領地の領主ブランシュモンが、近くの街の商人に圧力を掛けたり、嫌がらせをしてくるらしい。

 ただこの時、二人はそれを、領主同士のよくある軋轢程度に受け止め、その深刻さまでは考えが及ばなかった。




 そしてアローデールを出て四日目、昼前に街道を逸れ、森の中へと続く脇道へと入る。バルドの村はこの先なのだ。だが、森に入って約一時間を過ぎた頃、バルドは急に馬車を止めた。


 「バルド様、どうしたのですか?」

 訝しんだアヤナが聞くが、彼は御者台を降りてしゃがみ込む。二人が彼の近くに回り込み、その手元を見ると何かの骨をつまんでいた。よく見ると、彼の足元にはまだ同じような骨が散らばっていた。ただし、人の骨のような大きい物ではない。

 「それ何ですか?」

 「鶏の骨だな」

 今度はシュウが聞いてみたが、答えは端的に返って来た。シュウは森に鶏の骨があったとしても、それが大して重要なものだとは思えなかった。フライドチキンではないが、誰が鶏肉を食べながら森を歩いて、投げ捨てただけではないかと考えたからだ。


 「そこにロープの切れ端がありますね。ひょっとして、誰かがここに鶏をつないでいた? でもなぜ?」

 アヤナは小首を傾げて、頬に指を添え考える。


 しかし、バルドは鼻をクンクンとさせ、何かを嗅ぎ始める。シュウも同じようにやってみると、微かに煙の匂いがした。バルドは匂いを嗅ぐのを止めると、荷台から自分の大斧を引っ張り出す。そして荷台から降りて、手綱を近くの木に縛った。

 「何か変だ。お前ら下手に動くなよ」

 そう言うと、バルドは腰を落として斧を構える。それから、息を潜めて周囲の気配を探っているようだった。


 シュウも周囲を見回したが、何も怪しいものは見つからない。彼は動かないでいようと思ったが、バルドの斧が届く範囲は危険な気がした。そこで避難先はないかと見回したところ、荷台の上が一番安全に見えた。何が来るにしても高さがある方が有利だろうし、見晴らしも良くなる。


 「アヤナ、荷台に上がろう」

 彼は荷台の縁に両手を掛けて体を持ち上げ、片足を掛けて這い上がった。彼は荷台から振り返って、アヤナに手を差し出す。

 「ありがとう、シュウ」

 彼女はシュウの手を取って、荷台に上がろうとする。その瞬間、突如彼女の後ろからガサガサと音がしたかと思うと、黒い影だ飛び出して来た。


 「うわっ」「きゃっ」


 驚く二人。それは三メートルはありそうな巨大なトカゲで、荷台の縁に足を掛けて登ろうとしていた。そこにバルドが掛け声とともに斧を振り下ろす。

「ゲェー」

 二人には荷台の陰になってよく見えないが、地面近くのトカゲの体を傷つけたようだ。それから荷台の上の二人の前で、バルドとトカゲの戦いが始まった。


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