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女神のギフトがコーヒーってどういうことですか  作者: きゅっぽん
コボルトの巣と最初の財宝
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第17話 死ぬのは誰か

 コボルトの王は、入口に現れたグールを見て顔を引き攣らせた。解放に行かせた配下を食ったのだ。だが、大男を押し返し、剣の男に膝をつかせたのを見て考える。グールは制御できない怪物だが、今は侵入者を敵と認識している様子である。

 ならば、グールには侵入者と順に戦わせ、潰し合わせたい。一番手ごわそうな大男は最後にぶつけ、先に男女と剣の男の始末をつけさせるのがいいだろう。とすると、大男をこちらで抑えておくか。彼は、残った配下に命令を下した。


 グールに蹴り飛ばされたバルドは、立ち上がったが、その額には脂汗を流していた。コボルト達との戦闘で傷を負ったわけでも、疲労したわけでもない。グールの蹴りも大したダメージにはなっていなかった。しかし、木箱を開けた時、針が刺さった指が疼いた。

 あれから僅かな痺れが広がって、体の動きを重くしていた。それは命の危険を感じさせるほどではない。コボルトなど、この状態でもいくらでも相手にできる自信はあった。だが、殲滅速度は確実に遅くなっていた。そして、グールに力負けした。勝てないとは思わないが、苦戦は免れないだろう。

 そう考えていた時、再びコボルト達に取り囲まれた。どうやら、自分をグールのところに行かせないようにしているらしい。たったの五体なら容易い相手だが、それでも今は時間が掛かりそうだ。しかし、彼は思った。ロレンツィオやシュウが死ねば、コボルトの財宝は一人占めではないかと。


 フィオは、グールが現れてから広場の隅に身を潜めていた。これまでのどさくさ紛れに、彼女の腰の袋には拾い集めた十五枚の金貨が入っていた。少しリスクはあるが、広間をすり抜け、逃げ出す自信はあった。彼女は、状況を観察し、ギリギリまで多くのお宝を持ち帰ろうとしていた。




 シュウは、バルドを押し返し、ロレンツィオに膝を突かせたグールに恐れおののいていた。力でバルドに匹敵し、速さか技巧でロレンツィオを上回った。その上、爪には毒がある。しかも、人を食うらしいし、何より獣のような顔と赤い目が怖い。


 ずっと深くで 覗く赤い目

 舌がさぐる 息のぬくもり

 骨のかけら ころんと落ちた


 急に思い出せなかった、フィオの歌の最後のフレーズが記憶に蘇る。何が、ころんと落ちる? 胸がざわめく。視界の端で、グールの長い舌が牙の間から伸び、空を舐めるように揺れた。こちらを見据えていた赤い目が、ふと横へ逸れる。

 何を見ている。背後にはアヤナがいる。狙いは彼女か。ダメだ。彼女みたいな若い子を、こんなところで死なせるわけにはいかない。日本では五十まで生きた自分だ。先に死ぬなら、自分であるべきだろう。


 「コーヒー召喚」


 グールの頭上にコーヒーカップが現れる。だが、だが落下を待たず、グールは地を蹴った。ダメだ、間に合わない。前に立ちはだかり、彼女を守ろうとする。しかし、覚悟を決めた彼の前で、グールは消えた。きゃっ、と後ろで悲鳴が上がる。

 振り返ると、アヤナの視線が上を向いている。その視線を追ったシュウは驚愕した。天井近くの壁に、蜘蛛のように張り付くグールの姿。すでに彼を飛び越えていたのだ。

 次の瞬間、グールが跳んだ。


 「おおおっ」


 シュウは雄たけびを上げて、長柄の杖を叩き付ける。しかし、グールは杖を片手で掴むと、シュウごと振って彼を壁に叩き付けた。ぐはっ。背中が痛い。下手をすると、あばら骨にひびが入っているかもしれない。目に涙の浮かぶシュウに、彼女の悲鳴が聞こえる。

 見ると、グールは仰向けの彼女の肩をおさえて跨っていた。大きく開いた怪物の口から、尖った無数の牙がのぞき、涎が垂れる。食われる。だが、壁に叩き付けられた衝撃で、彼の体の動きは鈍い。コーヒー召喚はダメだ。あの位置ではアヤナにも熱湯を掛けてしまう。

 何かないか。地面についた手を動かすと何かが当たる。これはゴミか?壁際に何かの骨や、皮、木片などのゴミとしか言えない物が寄せられている。分からないでもないが、今は関係がない。視線を戻すと、グールがアヤナの顔を舐め上げていた。その舌は異様に長く、一メートル以上はありそうだ。


 「いやあああぁ~」


 悲鳴を上げるアヤナ。だが、僅かに時間ができた。彼はやっと戻って来た体の感覚に、身を起こそうとする。その時、コボルトのゴミの中についた手に、硬いものが触れた。

 掴み上げると、抜き身の長剣だった。装飾もない武骨な一振りだが、杖や小剣よりはましだ。シュウは両手で握り、切っ先をグールへ向ける。低く構え、一気に踏み込んだ。グールは舌を引き、噛みつこうとしていた。だが気配に気づき、振り返る。

 次の瞬間、伸びた腕が剣先を掴んだ。あの膂力だ。バルドを蹴り飛ばし、ロレンツィオの剣を弾き、杖ごと自分を投げた怪力。止められた――そう思う。だが、違った。掴まれた刃は、ぬるりとその掌を滑る。止まらない。そのまま、奥へと押し込まれていく。


 咄嗟にグールはしっかりと構え直し、両手で剣の刃を掴んだ。しかし、それでも止まることなく、握った手の間からは白い煙が上がる。


 「うおおおおっ」


 シュウは歯を食いしばる。この好機を逃せば、自分もアヤナも終わる。シュウは、かってないほどの全力を込めて押し込んだ。ついに刃先はグールの胸に届き、刺し貫く。


 「グギャァアアア~ッ、ラ=ジルヴェルタール・エルナイアス・ヴァル=ハルディム……マル=カナス・バルバロイ……!」


 明らかにコボルト達とは違う言語で断末魔を上げるグール。剣の刺さった胸からも白い煙が上がる。最後にグールは、片手で胸を押さえ、もう一方の手を天へと掲げ、それから崩れ落ちるのだった。





 「た、倒したのか?」


 倒す気で刺した。それでもシュウには、あの怪物を自分が倒したことが信じられなかった。しばし、呆然としていると、声が掛かる。


 「ほう、グールを倒したのか」


 それはバルドだった。ふと見回すが、まわりに生きているコボルトはいない。どうやら、コボルトを倒し切ったようだ。ロレンツィオは前と同じ所でしゃがみ込んでいる。そういえば、麻痺毒を受けたと言っていたか。何にせよ、やっと終わったのか。安堵の息を吐こうとしていると、アヤナが鋭い声を上げる。


 「シュウ!」


 驚いて彼女を見ると、彼女の顔は驚愕を浮かべていた。彼女の指す方向を見ると、フィオが倒れていた。


 「フィオ!」


 彼はフィオに駆け寄って様子を見る。彼女は大きく背中を切られ、血を流していた。コボルトがこんな大きな傷を負わせたのだろうか。何にしろ手当てが必要だろう。アヤナを呼ばなくては。そう思って振り返ると、すぐ後ろにバルドが立っていた。何故か彼の目がギラギラしているように感じた。


 「バルドさん、フィオが斬られています」


 「そうだな」


 焦る彼に対して、バルドは淡々と返す。


 「早く手当てをしないと」


 「その必要はない」


 シュウは彼の言葉に耳を疑った。


 「何を言っているんですか」


 「その必要はない。財宝は見つかった。小人はもう不要だから始末した」


 そこでシュウは気付く。ロレンツィオはグールの毒を受けて動けない。フィオは斬られて倒れている。アヤナはもともと戦力外。つまり、バルド以外で動けるのは自分しかいない。


 「僕たちを殺して、コボルトの宝を一人占めするつもりですか?」


 「そうだ」


 ハッキリと宣言される。彼から漏れる殺気が、本気だと示していた。


 「いつから、そんな事を考えていたのですか?」


 「さっきだな。特に障害がないことに気付いたんでな」


 そこまで言って、バルドは大斧を横に引く。横薙ぎが来る。そう判断したシュウは、彼を注視したまま後ろへ下がっていく。バルドは横薙ぎの構えのまま、前に出る。すぐに攻撃して来ないのは、自分がコボルトやグールを倒すような奥の手を持っている、と考えているからだろうか。

 シュウは頭上にコーヒーを召喚することを考える。だが、グールに通じなかった。まして“巨人殺し”の異名を持つ歴戦の勇者だ。不意を突かなければ、弾かれる可能性が高い。

 幸い、コボルトの時も、グールの時も、彼は他のコボルト達と戦っていたので、コーヒーの召喚については、はっきり見てはいないはずだ。初見である事だけが、こちらの優位性である。隙を作り、一撃で決めるしかない。シュウは必死に思考を巡らせた。

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