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女神のギフトがコーヒーってどういうことですか  作者: きゅっぽん
コボルトの巣と最初の財宝
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第13話 見えない敵の数

 フィオが穴の中を調べている間、シュウとアヤナは脇道の奥を見にいく。だが、すぐに行き止まりで、成果はなかった。



 分岐に戻ると、ロレンツィオが木片を手に持って見ているようだった。しかし、彼が実際に見ているのは、木片ではなく、それに付いた白っぽいビラビラだった。指の第一関節から第二関節ほどの大きさで、うちわ状のそれらは横に連なり、薄い半円が幾層にも重なっている。

 「何ですか、それは?」シュウがのぞき込みながら聞く。


 「これは光キノコだ」ロレンツィオは手元から目を離さずに言った。

 「それって光ってませんよね」シュウは首を傾げる。

 「松明の近くでは分かりにくいが、僅かに光っている。洞窟内にはこれが幾つも落ちていたから、コボルト達はこの光で見ているのだろう」ロレンツィオは面倒そうに言った。

 「ちょっと見せて下さいよ」

 そう言うと、ロレンツィオは無言で差し出した。シュウは松明から少し離れ、木切れを手で覆って目に近づける。すると、闇の中でそれがほんのりと光っているのに気付いた。

 「アヤナ、見てみなよ。光ってる」

 少し楽しくなったシュウが差し出すと、彼女は「そうですか。では」と受け取り、覗き込んで小さく感心した。


 だが、二人がそんなことをしているうちに、ロレンツィオ達がいなくなってしまった。洞窟の奥に小さな明かりが見え、それがゆっくりと遠ざかっていく。置いて行かれたことに気づいた二人は慌てて追いかけた。




 すぐに追いついたシュウは、ロレンツィオの後ろから文句を言った。

 「置いていかないで下さいよ」

 「はぐれる君らが悪い」

 「それは、すいません」

 にべもない彼の言葉に、シュウは反射的に謝る。気まずい空気の中、話題を変える。

 「そう言えば、槍穴の裏には何かあったんですか?」


 「いや、何も。むしろあったのは、警戒部屋だ」

 「警戒部屋?」

 「あの半広間だ。隅に鐘があって、結び付けられた綱が壁の中の小さな穴に続いていた。何らかの仕掛けで鐘が鳴り、中のコボルト達に侵入者を知らせる。あそこは、そのための警備室のようなものだろう


 「そんな物があったんですか?」

 「ああ、君らは呑気にキノコを見ていたようだがな。どうやら、私達の進入は既に知られていたらしい。勿論、この先にいる奴らもしっかり迎撃の準備をしているだろう」

 シュウは息を呑む。消えかけていた緊張感が戻って来て、背筋に冷たいものを感じた。




 コボルトと戦闘した分岐を越えてしばらく進むと、フィオが鼻をひくりと動かし始めた。そして五十歩も行かないうちに、次の分岐へと行き当たる。シュウはその脇道から、カビ臭さと、生き物の脂が混じったような匂いを感じ取った。


 「さて、どうするか?」顎に手を当て、ロレンツィオが考え込む。


 「すでに私たちの存在は察知されているはずです。この奥にコボルトがいるなら、迎撃の準備は整っていると見るべきでしょうね」

 アヤナは、彼の思考をなぞるようにそう言った。


 「狭いところは好かん。お前らだけで見て来い」

 バルドは洞窟の奥を睨み据えたまま、ぶっきらぼうに言う。


 「なら、ロレンツィオさんは来てくださいよ」

 シュウはそう提案した。バルドの次に強いのがロレンツィオだと、彼は考えている。少なくとも、自分は行くつもりだった。


 「私も行くよ~。何かありそうだもん」フィオが軽い調子で名乗りを上げる。


 「それではバルドさん以外全員になりますね。それでよろしいですか?」

 そうまとめたアヤナに、バルドは無言で頷いた。




 「じゃあ、僕が先頭を行こう。アヤナは最後尾で」

 シュウはそう言うと、右手のピックフォークを闇の先に向け、左手に掲げた松明を高く持ち上げて歩き出す。フィオがその背に続き、ロレンツィオが三番手に、アヤナが最後尾についた。


 「何じゃこれ?」

 脇道に入って十歩ほど進んだところで、先頭のシュウが思わず声を上げた。通路の壁には、いくつもの穴が穿たれている。さらに、通路の左右の壁の間には、何枚かの布が吊るされていた。


 「おい。どけ」

 そう言ってシュウの肩を押し、ロレンツィオが前に出る。シュウはすぐに道を譲った。ロレンツィオは壁の穴の中を一つずつ照らして確認しながら進み、通路に掛けられた布は、手にした剣でためらいなく切り裂いていく。

 背後からシュウの肩に手が掛かる。振り返るとアヤナと目が合い、彼女が小さく頷いた。シュウも応じて、再び歩き出す。




 壁に空いた穴の大きさは五十センチから六十センチほど。奥行きは一メートルほどしかなく、中には枯草や枯れ葉が敷き詰められていた。湿り気があり、鼻につく生き物の匂いがこもっている。

 「このカプセルホテルみたいな穴。ひょっとして、コボルトたちの寝床なのか? それに、この布はハンモック?」

 シュウのつぶやきに、アヤナはわずかに眉をひそめる。

 「そうでしょうね。この汗とカビの不快な匂いからしても、そのようです」




 そこへ、奥からロレンツィオが戻ってきた。その顔はアヤナ以上に露骨な嫌悪を浮かべており、シュウは反射的に道を空ける。続いてフィオもひょこひょこと姿を現し、同じようにうんざりした表情をした。

 「何もいないし、何もないのよ。コボルト達の悪臭以外はね」

 その言葉に、シュウとアヤナは顔を見合わせる。そして無言のまま、来た道を引き返した。




 戻る途中、先頭のロレンツィオが誰にともなく話し出す。

 「穴の数は二十程度だったが、枯草や枯れ葉が敷かれたものと、カスだけで明らかに片付けられたものがあった。吊るされた布も七つで、使われていたのは半分程度」


 そこで、彼はひと呼吸おいて続けた。

 「つまり、ここで寝ているのは十五、六匹程度。さっきの奴らや入口の見張りも含めて、少なくともそれぐらいはいるな」


 これを聞いたアヤナが、すぐに計算する。

 「寝床がここだけだとすれば、残りは七匹ほどですね。ここまでに見つけた寝床と、遭遇した数を突き合わせていけば、全体数もある程度は絞れそうです」


 「あっ、アヤナ、頭いい~。じゃあ、計算は任せたのよ」フィオが楽しそうに声を上げる。


 アヤナはわずかに眉をひそめ、どこか釈然としない表情を浮かべた。その様子を見ながら、シュウもまた、自分なりに頭の中で数を組み立て始めていた。




 分岐に戻り、さらに奥へ進むと、ほどなく五本目の脇道に行き当たった。ここも調べてみると、やはり寝床だった。ただし、四本目のように壁に穴が穿たれているわけではない。脇道の奥は削り広げられ、そこに石や枝で土台を組み、厚く敷いた枯草の上に革や布を重ねた寝床が九つ並んでいた。


 「ここで九匹。前の部屋と合わせて奥にはまだ十六匹前後いる、ということですね」

 アヤナの眉が引きつった。


 「それだけじゃない」 ロレンツィオが言う。

 それらは隙間なく詰め込まれているのではなく、一つ一つに余裕を持たせて配置されている。ここにも姿はなく、使われていた形跡だけが残っていた。

 「前の部屋よりも上の連中が、まだこれだけいる。上とは、おそらく強いということだ。そしてこれで終わりじゃないだろう」


 「そうですね」

 アヤナはロレンツィオの推測に同意する。

 「でも、最下層が十五から十六匹、次の層が九匹なら、その上は数が絞れるのではありませんか。次は四、五匹で、さらに上に長が一匹とか。もちろん、まだ同じような部屋が続くなら別ですが」


 ロレンツィオが振り返って、目を細める。

 「面白い考えだ。それに理屈も悪くない」


 「お褒め頂きどうも」賛辞かどうか分からない、彼の言葉に一応礼を言うアヤナ。

 「ただ、敵がまだニ十匹以上いるのは確実そうだ。奥で集まって待ち構えているなら少し、面倒かもな」

 ロレンツィオの言葉に、洞窟の闇の向こうを想像するシュウだった。

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