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女神のギフトがコーヒーってどういうことですか  作者: きゅっぽん
コボルトの巣と最初の財宝
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第11話 闇に待つもの

 シュウは洞窟の入口をくぐった瞬間、ひやりと湿った空気に包まれ、思わず身をすくめた。濡れた岩壁は松明の揺れる光を鈍く映し返し、ぬめる感触が靴底に伝わる。数歩も進めば外の草木の匂いは消え、泥と湿った岩の匂いに、かすかなカビと鉄さびが混じり合っていた。

 岩床は音を吸い込むらしく、前を行く仲間の足音はほとんど聞こえない。静寂の中で響くのは、身につけた金具が触れ合う小さな音だけだ。

 松明に照らされた仲間たちの背が前方に連なって見えるが、アヤナでさえ膝から下は闇に沈み、その先を行くロレンツィオの姿も輪郭がかろうじて浮かぶ程度だった。先頭のフィオとバルドに至っては、闇の奥でちらつく小さな灯りにしか見えず、洞窟の深さを否応なく意識させられた。




 洞窟の入口から歩き始めて五分ほどが経った頃、一行は足を止めた。右手の岩壁が不自然に削られ、その奥に黒い裂け目が口を開けている。松明の光が届くのは裂け目までで、その先は闇に沈み、何が潜んでいるのか分からない。全員が無言のまま、脇の暗がりをのぞき込んだ。


「……分かれ道か」バルドが大斧を肩から下ろし、床に突く。「いや、狭いな。脇道か」


「さて、どちらに行くか」ロレンツィオが顎に手を当てた瞬間、フィオが身を乗り出した。

「こっちに行こうよ!」元気よく指さす先は、迷いなく脇道だった。

「理由は?」アヤナが念のために問い返す。

「だって、なんか面白そうじゃない?」


 あまりに屈託のない答えに、シュウは一拍置いて口を挟んだ。

「面白いかどうかはともかく……もし脇道にコボルトが潜んでいたら、奥でコボルトと遭遇した時に挟まれる可能性があります。先に確認した方が安全じゃないでしょうか」


「だが、全員でいくほどことじゃないだろう」

「そう……ですね。どうせ一人ずつしか通れません。主力は奥でしょうし、ここをバルドさんに守ってもらって、誰かが見にいくのが良いでしょう」

「はい、は~い。私が見てくるのよ」

 フィオが即座に手を上げると、ロレンツィオも頷いた。「脇道にも何か発見があるかもしれん。よし、私が見てこよう」

「あっ、待ってよ」

 二人は松明を掲げ、軽い足取りで脇道へと入り、ほどなく闇の中へと姿を消した。




 残されたシュウたちは、裂け目の前で足を止めて待った。静まり返った空間に、湿気を含んだ松明がぱちぱちと音を立てる。

 シュウは、二人が消えていった暗闇を見つめながら思案していた。入口のコボルトはフィオの一撃で倒れた。数が多くなければ問題はない。正面にはバルドがいる。奥から来る敵は任せられる。ならば警戒すべきは背後だ。

 彼は入口側へ向き直り、ピッチフォークを構えて柄を床に突く。落ち着かず、脇道と洞窟の奥を交互に見やるのは、アヤナも同じだった。だがバルドだけは、微動だにせず前を見据えている。


 十分ほどして、ようやく二つの灯りが戻った。

「何もなかった」「何もなかったよ……」

 肩を落とす二人に、シュウは問いかける。「コボルトの痕跡くらいなかったのかい?」

「全然、全く。金貨も、何かがいた跡も、何も無しよ。つまんない」

「それは……お疲れ様だったね」

「よし、奥に行くぞ」

 短い号令とともに、一行は再び洞窟の奥へと歩き出した。




 脇道の探索も成果なく終わり、洞窟に入った当初の張り詰めた感覚は、シュウの中で少しずつほどけていった。暗闇で見えるのは、自分の足元と、前を行くアヤナの背中、その膝から上ほどまでだ。松明の光は周囲を照らすより、目の前の凹凸に濃い陰影を落とし、輪郭を際立たせている。

 目に映るもののほとんどない中で、シュウはここまでの旅路を思い返し、その中で、ふとフィオの歌が脳裏に浮かぶ。


 森かげ小道 小さな足

 夕陽色の石 ひろってはこぶ

 だれも見てない ひみつ道

 小さな手が そっとかくして

 くすくす笑い いっぱい踊る

 地面の下で 見ている誰か


 その続きは何だったか。ひみつ道はここまでの獣道か、それともこの洞窟か。小さな足、小さな手はきっとコボルトのことだろう。シュウはアヤナの後姿を見つめながら、意識は思考に沈んでいく。




 二つ目の分岐は、ロレンツィオが残ることになり、探索はフィオ、シュウ、アヤナの三人で向かうことになった。先頭には反応の早いフィオを立たせ、シュウはその小さな頭越しにピッチフォークを構える。急な動きをしないよう、あらかじめ言い含めてある。

 最後尾のアヤナは、戦力として頼れるとは言い難い。それでも彼女は、分岐に残るより、シュウたちと行動する道を選んだ。分岐にはバルドとロレンツィオが控えている。背後を突かれる心配はない――少なくとも、シュウはそう判断していた。


 バルド不在の不安はわずかに残ったが、この分岐もまた成果はなかった。最奥にあったのは、掘りかけのまま放置された岩壁だけだ。古い道具や木片はなく、獣やカビの臭いもしない。ただ湿った岩の匂いが、ひっそりと漂っている。

 肩を落としつつ引き返そうとすると、フィオは二人の足元をすり抜け、何事もなかったかのように先頭へ回り込んだ。そのまま分岐へ戻り、一行はさらに洞窟の奥へと進んでいった。




 二つ目の分岐を越えて数分ほど進んだところで、先頭を行くフィオが不意に立ち止まった。

 「……待って。匂いがする」

 囁くような声だったが、バルドは即座に足を止める。シュウも鼻をひくつかせてみたものの、湿った岩と土の匂いしか分からない。


 「少し進むぞ。静かに」

 短い合図で隊列の間隔が自然と詰まる。慎重に歩みを進めるにつれ、わずかな血の匂いと腐敗臭、カビ臭さが空気に混じり始めた。自然洞窟には不釣り合いな気配だ。通路はその先で緩やかに右へ折れ、松明の光は曲がり角の向こうを照らせない。


 ザラリと音を立て、ロレンツィオが長剣を抜く。フィオは短剣を、シュウはピッチフォークを、アヤナは長杖を構えた。数歩進み、曲がり角を越えた瞬間、視界がわずかに開ける。半広間の奥に、いくつかの影が浮かび上がった。

 入口で見たのと同じコボルトが三匹。足元には肉の切れ端と革袋が転がり、酒の匂いが漂っている。

 「ガルッ、ズグラァ?」

 吠え声が重なった次の瞬間、バルドが一歩踏み出した。

 「ズガッ! オウトル!」

 その声に、コボルトたちは一斉に背を向け、叫び声を残して闇の奥へと逃げ去っていった。




 「逃がすな!」

 低い号令と同時に、バルドが先頭に立って駆け出した。半広間の先も同じような洞窟が続き、一行は再び一列になる。後方を走るシュウの視界から、コボルトの姿はすでに消えていた。だが追撃は、あまりに突然、終わりを告げる。


 「うおっ」「きゃっ」「何っ」

 前方で何かが弾けるような気配と同時に、悲鳴が立て続けに上がり、アヤナの足が急に止まった。シュウはぶつかりそうになり、とっさに彼女の肩に手を置いて踏みとどまる。その拍子に、肩越しに見えたのは、壁から突き出した棒状の影だった。


 アヤナは振り返らず、シュウもすぐに手を離して横から前を覗き込む。

 「下がれ」

 バルドの一声で、一行は即座に後退し、半広間まで戻って隊列を整えた。

 「何があったんですか」

 問いかけながら、シュウはロレンツィオの足元に血が流れているのに気づく。


 「槍よ。壁から飛び出してきたの」

 フィオが簡潔に答える。その間にもアヤナは膝をつき、素早く手当てを始めた。バルドとフィオの前にも槍は出たらしいが、間一髪でかわしたという。

 「俺の前には二本出てきた。お前らは?」

 「三本よ」「二本だ」


 話を突き合わせると、槍は少なくとも七本。すべて右の壁から、腰から膝ほどの高さを狙って突き出されたらしい。

 「その高さなら、コボルトが壁の向こうから突いているのでしょうか」

 落ち着いた声でアヤナが言う。手当ての様子から見て、傷は軽そうだった。


 「逃げたのは誘いだったのか」

 シュウは半広間のコボルトを思い返す。

 「それで、どうしたらいいと思います?」


 「突破するしかあるまい」バルドは闇を見据えたまま言う。

 「くぐり抜けたらいいよ」フィオが首を竦める。

 「穴をふさぐ手もある」ロレンツィオが言った。


 意見は割れ、結論は出ない。

 「……こういうのはどうでしょう?」

 沈黙の後、シュウが静かに口を開いた

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