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【超短編小説】交通量調査

掲載日:2025/12/20

 ミニバンを降りてパイプ椅子を設置したところで初めて

「よろしくお願いいたします」

 と挨拶をした。

 湿度の高い風が吹いて、もとより少ない労働意欲を削いでいった。



 これから半日近く相棒となる男は、同じようにパイプ椅子に座ると「あぁ、こちらこそ」と言って軽く頭を下げた。

 ふたりで横並びに座り、膝の上に数取器の並んだケースを広げる。

「いつも思うんですけど、これってギターにつなげるエフェクターみたいっすよね」

 俺は半笑いになってとりあえずの冗談を放り投げた。



 実際に俺たちの膝に置かれた黒いケースには、色とりどりの数取器が並べられている。

 そして俺たちはこれから半日近くもの間、こいつをカチャカチャとやることになる。そう言う仕事だ。

 ボサボサの頭をした相棒は数取器のカウンターをゼロに戻した。俺も倣ってカウンターをゼロに戻す。

「この仕事、初めてですか」

 ボサボサの男は先ほどの投げかけに答えているような答えていないような事を言った。

 あぁ、ここでもそういう人間がこういう仕事をするのだなと思って少し可笑しくなった。

「まぁ、そうですね」

 まぁって何だよと俺は思ったが、ボサボサは何も言わなかった。


 静かな空間にカチャカチャと乾いた音が響く。

「あ、それは違うっすね」

 ボサボサは静かに言うと、俺の数取機を手早くいじった。それは何度かこの仕事をした事がある、馴れた態度だった。

「さっき通ったのは強盗殺人っすね、そんで多分30代男性っす」

 俺は小声で「あざます」と言いながら軽く頭を下げてカウンターを弄った。



 目の前を罪人が通る。

 カチャ、とカウンターが回る。

「そうっす、さっきのは子殺しの20歳女性っすね。あんくらいワカりやすいと良いんすけど」

 ボサボサは独り言の様に呟いた。

 きっと独り言としても会話としても成立する声量とかを探ってきたんだろう。

 俺は「そうっすねぇ」と言って、またひとつカウンターを回した。



 カチャ。

 カチャ。

 薄暗い河原を通る人間を数える。

 カチャ。

 カチャ。


「自己紹介とかじゃないっすけど、俺はアレなんす、殺人でして」

 無言の空間に耐えられなくなった俺が言うと「誰殺したんすか」とボサボサは食い気味に尋ねた。

 案外と会話好きなのかも知れない。

 だとしたら、我慢して黙っていたんだろうか。



「やー、まぁバックカントリースキーで行方不明になった外国人を救助隊より先に見つけてぶっ殺してたんです」

 カチャ。

 俺はカウンターを回しながら言った。

「あー、生麦っすねぇ」

 ボサボサは少し笑って相槌を打つ。

 カウンターがひとつ回った。

 カチャ。

「俺もアレっすよ、生活保護の外国人をシバき回してたんっす。何人か死んじまったみたいで」

 ボサボサは指で生麦のマークを作るとニヤリと笑った。

 同志、と言う事だろうか。俺も生麦のマークを作って愛想を打った。

 カウンターがひとつ回った。


 カチャ。

 獄卒たちの運転する回収バンは、あと半日来ない。

 カチャ。

 退屈だが、仕事があるだけマシだ。

 カチャ。

 カチャ。

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