表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Leo Bestia 〜小さなご主人様〜【改良版】  作者: seika


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

番外編【リオル・アルベルト/レオ】

 あの日、商人のうるさい怒鳴り声に耳を塞いだ。獣人の売買か。堂々とこんな街中でやるとはな。


 あんなゲスい商売をしている店を潰す方法なんていくらでもある。僕にはそれができる。


 けれど、あの時はどうでもよかった。

 僕には関係ない。そう思って通り過ぎるつもりだった。


『やめろ……俺を、見るんじゃねぇ!!』


 ……足が止まった。


 かすれた声。

 だが、その声は全身から溢れ出すような魂の底の叫びだった。


 身体が勝手に動き、気づいた時には店の前へ駆け寄っていた。何年ぶりだろうこんなに胸が動いたのは。


 檻の中のあいつを見た瞬間、確信した。


 ――ああ、見つけた。

 きっと僕が探していたものだ。




『てめぇは……誰だ!』


 汚れた獣人は睨みをきかせ、僕をゆっくり見下ろした。獲物を狙う獣みたいに琥珀色の瞳をぎらつかせていた。


 ――いい目だ。まだ腐っていない。


 僕はほんの少し身を乗り出して、その獣人に子供らしくにこりと無邪気に笑って見せた。


『じゃあ君はどんな子に懐くの?』


 鉄格子を軽く撫でた。その指先に泥の感触が残り、檻からは血の匂いが鼻を刺激する。他の獣人たちが苦しんでいるのが見えた。本当に胸糞悪い場所だ……。


『俺をちゃんと扱ってくれる奴に決まってんだろ? 人間なんかじゃなくて優しい獣人だ』


 微かな希望を持った瞳で夢物語を語っていた。甘いな。なんの後ろ盾もない、ただの獣人が助けに来てくれるなんてあるわけないだろう。


 だが思った通り――こいつは救いを求めている。


 だったら簡単だ。

 僕が救いの手を()()()いい。


 笑顔のまま、僕は声を低くして言った。


『……君は、そうやって救いの手が差し伸べられるのを檻の中で待つだけなの?』


 そんな確信めいた言葉を囁くと、獣人の顔色が強張った。


 そうだ、気付け。

 自分が変わらないと状況なんて変えられないんだよ。


 僕の手を取れ。

 お前を育ててやる。


 ――僕だけの忠実な駒になるようにな。




 ♢♢♢



 数年の時が過ぎた。


 朝の光が薄く差し込む食堂に、(わたくし)はいつものように執事服に身を包みご主人様に挨拶を送った。


「ご主人様、おはようございます」


 静かに席に着き、ご主人様はふと私の顔を見られた。


「ああ」


「本日の朝食は、鮮度の良いトマトとレモン果汁を絞った冷製スープに、焼きたてのパンとベーコン、そして温かく煮込んだオートミールをご用意しております」


 ご主人様はナイフへと伸ばしていた手を止めた。


「そういえば……昨日の夜明けに”害虫”が出たみたいだな。処理は済ませたか?」


「はい、始末いたしました。眠りを妨げてしまい申し訳ございません」


 私は深く頭を下げた。


 ……いつからでしょうか。

 ご主人様が私の前で本来のお姿をお見せするようになったのは。


 信頼されていると申せば聞こえはよいのですが、ご主人様の真意は私には測りかねるものがございます。


 食事中もご主人様は、いつものように窓の外へと視線を向けておられました。自然と周囲を警戒なさるそのお姿は、以前と変わらず余裕を感じさせます。


 思い返すのはあの日、初めてご主人様の屋敷に連れて来られた夜のこと――。あれから幾つもの季節が巡り、屋敷には絶えず客が訪れ、私は手配に追われる日々を過ごしております。


 しかし、ご心配には及びません。私がここにおりますゆえ。


「夜会へ行く準備はできているか?」


「すべて整っております」


 背丈はわずかに伸びましたが、声色は相変わらず幼いままにございます。ですが、ご命令の重みはいかなる大人にも引けを取りません。幼さを纏った冷徹さ――それがご主人様でございます。


 ふと、目の前でカップを傾けるご主人様を見つめながら思います。私も随分とその掌の上で転がされておりましたが、その小さな手を取ったことを後悔したことは一度もございません。救われたのは紛れもない事実にございます。


 そして、流れゆく月日の中で、私はようやく知ったのです。ご主人様に科せられた運命(さだめ)の重さを。そして……私がお仕えできる年月にも限りがあることを。


「レオ、夜会は何が起こるか分からない。いつも通り僕の側にいろ」


「仰せのままに。ご主人様」


 私だけはいつか来るその日まで、ただひたすらにご主人様の味方であり続ける所存でございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ