新しい名『レオ』
「生まれ変わった君の名は――レオだ」
「レオ……」
胸の奥で何かが弾けた。
与えられた『レオ』という新しい世界の中心には、リオルが堂々と座っている。そんな光景が脳裏に焼き付いて離れなかった。
運命とか、そんな甘っちょろいもんじゃない。俺の主人はこいつしかいない。そう、獣人としての本能が叫んでいた。これは……必然だ。
胸のざわめきを隠すように低く問いかけた。
「……その名にした意味は、あんのかよ」
こんな顔見せられねぇ。
視線を逸らした俺とは対照的に、こいつの薄紫の瞳はまっすぐ俺を見ていた。
「ラテン語で“Leo”はライオンを意味するんだよ。見た目が似てるっていうのもあるけど、獣人としての誇りとか、生き抜く強さを僕に見せてみてよ」
俺を試すような、どこか期待してるような言葉だった。
ライオン……百獣の王か。
――けどよ、俺の“王”はお前だろ。リオル。
「……レオ、か。わかった。今日から俺はレオだ」
「うん! 気に入ってくれたならよかったよ」
「ち、違ぇよ!! 気に入ったとか言ってねぇ!」
顔が熱くなるのを隠しても、尻尾が言うことをきかずにゆらゆら揺れる。
……くそっ、今日はやけに感情が落ち着かねぇ。
反論しようとしたそのとき――。
グゥ~~~……。
静まり返った廊下に俺の腹の音が間抜けに響いた。リオルはきょとんとした後、にこりと笑う。
「……ふふ、長話しすぎたね。食事にしよっか!」
食事という言葉に俺の腹が勝手に反応する。期待しそうになるが首を横に振った。
これまでは、カビたパンや冷めたスープしか与えられなかった……飯なんて腹を満たすだけの作業だ。くれるだけマシだ、と自分に言い聞かせながらリオルの小さな歩幅に合わせてついて行った。
周囲を見渡すと食堂のようだ。俺とリオルしかいない。きっと俺が使用人の目を気にするから、来ないようにしてくれたのだろう。
用意された椅子に座り、目の前に置かれていたのは、見たこともないほどの分厚い肉だった。
「遠慮しないで食べてね!」
いろんな種類の食器が並んでいたが、俺は使ったことがなかった。リオルを見ると切れ味の良さそうな小さなナイフで肉を切り、上品に口に運んでいた。とりあえず真似をしてみるが、肉がうまく切れずだんだんイライラしてきた。
仕方なくフォークだけを使い、恐る恐る肉にかぶりついた。
「……な、なんだこれ……」
噛みしめるたびに肉汁が溢れ、香ばしい味が口いっぱいに広がった。一口ごとに瞳が大きくなる。止まらねぇ、そのあまりのおいしさに夢中で頬張った。
「……はぁ。食事のマナーも明日からちゃんと教えないとね」
リオルが小さく息を吐き、頭を抱えているのなんかお構いなしに俺は皿を空にした。
「はあーー。やばい、生きててよかったーーー! ご主人様、本当にありがとう。こんなご馳走を……」
尻尾をブンブン振っているのも気づかないほど、俺は目をキラキラさせて喜んでいた。
リオルが口元をナプキンで上品に拭いながら、ちらりとこちらを見る。
「警戒心が薄いね。毒でも入ってたら死んでるよ」
尻尾がピタッと止まり、血の気が一気に引いた。
「お、お前……まさか……!!」




