第21話:名前を呼ぶ日
光に満ちた空間の中、須藤来夢は一歩ずつ足を進めていた。
アオラと、そしてもう一人のライダーの少年とともに。
「思い出せそうなんだ。君の名前。
……でも、あと少し、何かが足りない気がするの」
彼女の声に、少年は静かに頷いた。
「それはきっと、“心の奥に鍵をかけた記憶”。
君がここに来るまで、絶対に触れたくなかったものなんだよ」
足元に、記録の欠片が浮かび上がる。
それは、彼女が異世界に来る直前の、誰にも話していなかった日の映像だった。
──病院の白い廊下。
ベッドで眠る幼い男の子。心臓の病。
何度も見舞いに通う来夢の姿。
「……ユウ、くん……?」
彼女はその名を口にした瞬間、全身を電流が走るような感覚に包まれた。
瞳が震え、記憶が奔流のように押し寄せる。
──彼は、幼なじみだった。
病弱で、小さくて、だけど笑顔の似合う男の子。
いつも「君がいてくれるから、僕は怖くない」と言っていた。
そして、最期の日。
彼はベッドの中で、こう言った。
> 「来夢。
僕がもし、もう一度どこかで生まれ変われたら……
君の冒険の中に、そっといさせてね」
来夢の頬に涙がつたう。
隣にいたアオラも、そっと彼女の手を握りしめる。
目の前の“少年ライダー”が言った。
「君が転移したあの日、僕も君と一緒に来た。
君の記憶の中に、“名前”として。
君が僕を忘れた時から、ずっとここで待っていた」
来夢は、確かに思い出していた。
あの日、空へと昇っていったユウ。
彼の笑顔。
そして、自分が心の中で強く願ったこと――
> 「“どこかでまた出会えますように”。
……名前を、呼ばせてください。もう一度」
来夢は、少年を見つめて、そっと手を伸ばした。
「ユウ――おかえりなさい」
少年は微笑んだ。
「ただいま、来夢」
その瞬間、記録の核が開かれ、
二人の心に刻まれていた“約束”が真の力を帯びる。
世界が再び揺れる。
記録の深層が閉じようとしていた――
(つづく)
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次回予告(第22話)
『世界の境界、記録の番人』
全ての記憶が揃った今、記録の番人が現れ、来夢たちに“選択”を迫る。
帰還か、戦いの続行か、それとも――記録そのものの継承か。