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第6話:名を喰らう者



「……来夢、見て。あれ……」


アオが震える声でつぶやく。

森の奥――視界の果てに、“闇”が立っていた。


それは人の形をしていた。

しかし、その体の輪郭は曖昧で、まるで誰かの記憶から塗り潰された“人影”のようだった。


 


「名を……返せ」


その存在が、喉を引き裂くような声で呟く。


 


「……名を喰らう者」


《記録者》の声が背後から響く。

彼だけが冷静に、その異形を見つめていた。


 


「それは、名前を失った存在のなれの果て」


「他者の“名”を食らい、自我の空白を埋めようとする――存在の亡霊だ」


 


来夢は一歩、アオの前に出た。


 


「私の“命名”でアオが生まれたなら、その責任も私が持つよ」


 


《名を喰らう者》が動いた。


その動きは“名前のない風”のように、不規則で、空間ごとにじんでいた。


そして――アオに触れようとする、その瞬間。


 


「やめてよッ!」


来夢が叫んだ。


その声と共に、空気が震える。

アオの額に、再び“紋章”が浮かび上がった。


 


古代言語のルーンが、光となって空間に走る。


《名を喰らう者》がたじろいだ。


 


「――ッ、記されている……名が……!」


アオの身体から放たれた光が、来夢の胸にも呼応した。


彼女の胸元に浮かび上がる、同じ紋章。


それは、“命名者と命名された者”が結ぶ、契約の証。


 


《記録者》が声を漏らす。


「……始まったな。“命紋”の共鳴だ」


「それは君たちが、“共に物語を紡ぐ存在”になった証」


「だが、その輝きは――喰らわれるぞ」


 


《名を喰らう者》が、咆哮する。

その声は空間を裂き、周囲の木々の“名前”を一つ、また一つと奪っていく。


木々が崩れ落ち、草が枯れていく。


 


アオが震える。


「……来夢……わたし、また“追放”されるのかな」


「名前が、迷惑をかけてる……?」


 


来夢はアオの手を握りしめる。


 


「違うよ。名前があるから、私は“アオ”を守れる」


「だから――もう、逃げない!」


 


次の瞬間。


来夢の手から、光があふれた。


 


それは“第二の命名”。

名を持った者がさらに強くなるための、新たな“言葉”だった。


 


来夢の口が自然に動く。

それは、自分でも知らない“古の言葉”。


 


「――《アル・アオラ》」


 


その瞬間、アオの身体が光に包まれた。


その姿は、以前よりも人型に近づき、身体には淡く透き通るような触手のようなエネルギー体の尾が現れる。


目が輝き、声が響く。


 


「わたしの、名は――アオ。アオラ。

“来夢がくれた心”を持って、生きている!」


 


《名を喰らう者》が、苦悶の叫びを上げながら後退する。


名が確定したアオに、もう“喰らう余地”はなかった。


 


だがそれでも、《名を喰らう者》は消えない。

代わりに、その体の奥から……もう一つの“名”が見えた。


来夢は凍りつく。


その名は――須藤 夢音ゆめね


 


(――それは、私の妹の名前……?)


 


次の瞬間、空間が崩壊する。


《名を喰らう者》と共に、来夢たちは“名の底”へと引きずり込まれていく――


 


(続く)



---


第7話予告:『記録されなかった妹』


来夢の封じた過去、“妹”夢音の存在が浮かび上がる


《名を喰らう者》の正体に迫る


アオの新たな姿「アオラ」としての力


《記録者》が語る、「名前の重罪」とは?







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