表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/36

第3話:名前という異物



森の奥――


静寂を破ることなく、来夢とアオは“里の中心”へとたどり着いた。


そこは、空間が泡のように歪んでいた。重力すら曖昧に感じる、世界の始まりのような場所。


その中央に、古びたスライムの長老が浮かんでいた。


巨大なスライムでありながら、その姿は半透明で、ほとんど“霊”に近かった。


 


> 「……名を持つ者よ。須藤来夢。貴様こそ、この森に歪みをもたらした“外のマザー”だ」




 


その声は、直接脳に響く。


来夢――ブレザーのスカートが揺れ、ポニーテールが風にそよぐ。

高校二年生。人間の少女。けれど、異世界では“名を与える者”として特別な存在。


 


「外のマザー……勝手に呼ばないで。私は、ただアオの名前を――友達の名前を呼んだだけ」


 


その言葉に、空気がピリリと緊張した。


アオが来夢の隣に寄り添い、じっと長老を見上げる。


 


> 「……友。絆。名。貴様ら人の感情は、我らにとって“異物”だ」




> 「我らスライムは、本来“群れ”として存在する。思考は共有され、意志は薄く、ただ溶け合う」




 


長老の身体が淡く脈打つ。


> 「だが、“マザー”が最後に産んだ核……それが“アオ”。奴は“言葉”を欲し、“個”を求めた。……それゆえ追放した」




 


アオがわずかに震えた。まるで、心臓を直接握られたように。


 


> 「名前とは、境界だ。個とは、分断だ。形無き我らが、形を持つ時――それは滅びの始まり」




 


来夢は、まっすぐに視線を返す。


「滅びじゃないよ。“始まり”なんだ」


「名前があるから、アオは私の友達になれた。だから、私もここに来られた」


 


長老は微かに沈黙した。


それは怒りではない――戸惑いだった。


 


「……君たちは、感情を恐れてる。だから“群れ”に還れって言う。でもアオは、そうじゃなかった」


「アオは……名前を持って、苦しんで、それでも生きてきた」


「――私は、それを誇りに思ってる!」


 


アオが、来夢の方を見上げる。涙のような粒が、ぷるりとこぼれた。


 


「……来夢……」


 


長老が静かに言った。


> 「ならば、見せてやろう。“名前”を持たなかった、お前の影を……」




 


光が弾けた。


異空間に、もう一体のアオが現れる。


それは――感情を捨て、純粋なスライムとして進化した“別の可能性”のアオ。


 


> 『名前とは、苦痛。感情とは、呪い。……こちらに還れ。アオ』




 


2体のアオが、向き合う。


己の“存在意義”をかけた対峙。


 


そして来夢は、再び名を叫ぶ。


 


「アオ……君は君だよ! 私が名前をつけた“アオ”なんだ!」


 


その声が、空間を震わせる。


光と闇の中で、選ばれるのは――心か、無か。


 


(続く)



---


第4話予告:『還るか、残るか』


“感情を捨てたアオ”との対話・衝突


アオの決断:「私は、私でいたい」


長老の最後の試練:来夢への“命名封印”


アオが見せる新たな力、“心を継ぐ進化”とは






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ