第八十一話 畑仕事の帰郷
翌日早朝、依頼書に指定された時間に間に合うよう、ルドー達は生まれ故郷のゲッシ村に戻るために転移門を潜る。
ただ厄介なことに、一番近い転移門でも村から二つ隣の町と大分距離があった。
山道を通らずに行けるかと期待していたルドーとリリアは落胆して同じく転移門を潜ってきた人物たちがいる横を見る。
どうやらカゲツがあの後色んなやつに声を掛けて一緒に来ないかと誘ってくれたらしい。
食べ物と聞いて飛び付いてきたメロン、メロンが心配だと後に続くイエディ、リリア目当てについてきたトラスト、トラストが行くならばとパートナーのビタ、なぜかビタが行くとこ行くとこ付いて来るノースター、庶民の生活を見てやろうと大笑いしていたフランゲル、ハイハイとついてきたウォポン、物凄く機嫌の悪そうなカイムと楽しそうにはしゃぐちびっ子三人組。
『思ったより大所帯になって良かったな』
「馬車で近くまで行った後山道通るぞお前ら」
「なんだと!? 聞いてないぞ貴様!」
「庶民の生活堪能するんだろ、ゆっくり味わえフランゲル」
「そーそー、自分で言いだしたんだしねー! あじわえー!」
「「「あじわえー!」」」
時間がかかるのでルドーはさっさと町に停まっている辻馬車を捕まえて乗り込んでいく。
村の人間は人数が少ない為町まで来ると顔が知られているのであの方面かと言わずとも出発してくれた。
程々に慣れた馬車旅にルドーとリリアはゆっくりくつろぐが、田舎にある安物の辻馬車に慣れていないみんなは固い馬車の座席で身じろぐようにウゴウゴ呻いている。
三つ子が外に身を乗り出そうとはしゃいでいるのをカイムと一緒に押し留めながら、ルドーはそういえばと黒い帽子が見当たらないのでカイムに声を掛けた。
「カイム、クロノはどうした、あいついれば大分楽になると思うんだけど」
「知るかよ」
「ルドにぃ、クロねぇは話聞いた時行かないって言ってどっか行っちゃったよ」
「あいつも逃げ足はええな……」
カイムに続いたライアの言葉にルドーは落胆する。
クロノの身体能力があればあっという間に終わるのではという期待を寄せていたが、先輩同様こういうことには聡いらしくあっさり逃げられたようだ。
カイムは三つ子がやりたいとせがんだため渋々ついてきている。
クロノがいなくてもある程度唸りながらもやりとりできるようになってきたので、それなりに馴染んできたと言っていい。
「えっほんとにこっち方面なのー!? 山道っていうかほぼ崖じゃない!?」
「道が見えん、どこだ」
「ほらそこの茂みに埋もれてる縄梯子とかその先の縄の橋とか」
「木の板が老朽化してるかもだから気を付けてね」
「どういう所に住んでいるのだ!? 庶民とはこういうものなのか!?」
「多分、違う、気がする」
「あわわわわもっとのんびりしたとこかと、思ってたのと違う」
「限界集落……侮っていたかもしれませんや」
馬車から降りた後の山道に直面した一行が愕然と文句を付けてくる中、バシャバシャと水音がして全員が振り向くと、ノースターが何やら魔法薬を自分にぶっかけていた。
と思ったらノースターが光って空中に浮かんでいく、三つ子から歓声が上がった。
「ノースター貴様! それが使えるなら全員に使うべきだろう! 寄越すのだ!」
『(ごめん、使うと思ってなかったからこれ一つしかない、材料もない)』
「この裏切り者めがぁー!」
「おーい、いつまでやってんだよ置いてくぞー」
リリアと二人でさっさと道を進み始めたルドーが呼びかけ、三つ子が楽しそうにはしゃぎながら続いていき危ないとカイムが追いかけ、エリンジが無表情に歩を進めたので諦めたように後続が続いていく。
ルドーとリリアは慣れているので、ボロボロの縄梯子を登り縄のつり橋を渡って設置された道を進んでいく中、後ろからひいひい悲鳴のような声が響いて来る。
訓練のアスレチックと比べてぼろいだけで別に体力が必要な無茶な設置をされているものじゃないのだが。
「やだー、今にも壊れそう! 怖い怖いこれ!」
「ハイハイハイ怖かったら手伝いますお手をどうぞ!」
「道、崖に沿って、ジグザグ、まともな道、設置できない」
「庶民とはこういう生活をするものなのか!? 税金の使い道はどうなっている!」
「キャラバンが時間かかるのも納得ですや! 積荷の馬車下に停めて荷物背負って毎回行き来してるんですや!」
「そ、それだと、重いから、冷却魔道具の中に入れて運ぶって方法、使えないですね、馬車までの戻りも、荷物背負ってたら、時間かかって、痛んでそう」
「全くもう、体力ありませんわね! 私のパートナーなのに情けない事!」
「えっと、手助けしてくれるんです?」
「ど、どうしてもというなら仕方ありませんわ! ほらお使いなさい!」
「おぉー、階段が生えたー!」
途中からビタが地面を魔法で変化させて道を作ったりしてくれたのでそれなりに移動しやすくなったようだ。
ただビタの説明曰く、変化魔法は一定時間で崩れるそうなのでずっとその状態を維持は出来ないらしい。
前を進み続けているルドーとリリアは会話こそ聞えているもののその恩恵にあやかれていない。
一時間ほど道なりを進み、ルドーとリリア、エリンジ、カイムと三つ子、飛んできたノースターを除いた全員がゼイゼイと息切れしている中、ようやっと村のほとりに辿り着いた。
位置としては山の中腹にかかるが、それを忘れてしまうような平地が広がっており、閑散と小さな家が離れて建ち並び、かつて魔の森だった林の反対側に段々畑が広がって既に村人が何人も働いている。
懐かしさに浸っていると仁王立ちしているハゲを帽子で隠した髭面の小柄な男が目に入り、リリアが挨拶する中ルドーはげんなりと肩を落とした。
「来たなクソガキども、三十分遅刻だ」
「うるせぇわじじい、わざわざ依頼状寄越しやがって。混ぜ土はいつものとこか?」
「ルドー達の分で最後だ、全部使え」
「全部押し付けたの間違いだろが」
「いいからさっさとせんかい、もうみんな作業開始しとるぞ」
「お兄ちゃん私畑打ち魔道具取ってくる」
「あーリリ、一人だとあれだ、大変だから誰か一緒に行ってくれ」
ルドーが村長と言い合っている中、慣れた様子で放置したリリアがそう言って離れようとするのを呼び止める。
リリアが戻ってきた事で村の若いやつが遠くから見つめていることに気付いたルドーだが、リリアがそれに気付いている様子はなく、ルドーは一瞬強烈な殺気で睨み付けて散らした後そっと周囲に警戒するような声色で伝える。
エリンジには伝わらなかったが、カゲツとビタが察したのか、トラストとノースターを引き連れて一緒に行くと声を掛けていた。ありがたい。
察していなかったメロンとイエディも付いて行っている。
いつも混ぜ土の置いてある村の倉庫にルドーは向かう、エリンジと三つ子と一緒にカイム、フランゲルとウォポンもついてきた。
しばらく林のほとりを歩いていると、あるものを見つけてルドーは悲鳴のような声を上げた。
「うっわ!」
『どうした』
「いや家の郵便受け……」
「……なんだあれは」
「というかこれは家なのか!? 納屋ではないのか? 随分小さいではないか!」
「うるせぇよほっとけ、庶民はこのサイズが一般的なんだっつの」
通り道にあった村外れの、リリアと二人で暮らしていた小さな一軒家の前に置いてあった郵便受けが、大量の手紙の封筒と花束のような枯れた植物で埋め尽くされていた。
この郵便受けを使うのは村人しかいない、しかし村の人間はルドー達二人がエレイーネーに行っている事を知っている。
ルドーはカイムに三つ子を遠ざけてくれと伝え、怪訝な顔をしてじっと見てくるので、子どもに見せていいものじゃないとルドーが言うと、ようやく三つ子を少し遠くに連れて行く。
溜息を吐いてルドーは適当に引っ張り出した一つを開いて中を見れば、髪の毛や体液の様な液体がバラバラ落ちてきて思わず呻いた。
村の若男衆がリリア一人でこっそり帰ってくることに一縷の望みを託して色々入れ続けていたようだ。
様子を見ていた男全員、エリンジでさえ小さく呻く悲鳴のような声を上げる。
「なんだこれは気色悪いな!?」
「リリ宛だよ、村の若いやつらが送ってくんだ気持ち悪ぃ、リリには黙ってろよ」
フランゲルの大声にそういうとルドーは郵便受けに入ってあったものを全部地面に投げ落とし、聖剣を雑に振り下ろして雷を叩きつけて燃やし始める。
『村にいなかった分前より悪化してんじゃねぇか』
「家はモネアネ魔導士長が魔法で封鎖してくれてたのが幸いして入られてねぇな」
「入られるのか」
「勘違いして押し入ってこようとするのは別に一度や二度じゃねぇ。その都度ぶん殴って追い返してたけど」
「ハイハイハイ確かにリリアちゃんはすごく可愛いけど普通に危ないと思います!」
「警報魔法……は使えんか」
「次帰る時はなんか考えねぇとな……」
大きく溜息を吐きつつも、家に用事はないので郵便物が燃え尽きたのを確認した後、遠くから様子を見ていたのか流石に顔を引き攣らせていたカイムと、理解していない三つ子を呼び戻して改めて混ぜ土を取りに倉庫に向かう。
倉庫の前に置いてある木製の荷車に麻袋に詰め込まれて積んであった、いつもの三倍の量が置いてあるそれを見てルドーはまた呻く。
「なんだこの量は! 多すぎるぞ! というかどう使うのだこれは!」
「これは仕上げ用、畑に均一に撒いて耕すんだよ。あのくそじじい、いつもより多いぞ」
「ハイハイハイ運ぶの一人では無理なのでお手伝いしますよ!」
「手伝う!」
「やるやる!」
「うるせぇチビどもあぶねぇから下がってろ!」
ウォポンとルドーが荷車を押し始めると、レイルとロイズが男らしいところを見せようと近寄ってきた。
流石に重くて危ないのでルドーはカイムと一緒に遠ざけようとするが、荷車を押すと聞かずに困り果てていると、エリンジが魔法でさっと小さなバケツを二つ生み出した。
「ほら運べ」
「よーっしやるぞー!」
「お、思ったより重い……」
そのまま適当に麻袋を一つ開けて入っていた黒い土をバケツ二つに入れ、ロイズとレイルに渡すエリンジ。
嬉々として運びはじめてよろつく二人をカイムが慌てるように後ろについていく。
ライアは荷車に麻袋と一緒に座りこんで足をパタパタさせて笑いながら一緒に運ばれていた。
「お兄ちゃん待ってたよ……いつもより多くない?」
「言っててもしゃーねーだろ、苗は?」
「あっちにあるのをいつもの順に植えろって」
「そんじゃやるかぁー」
荷車と同じ大きさの畑打ち魔道具を数台引いて先に畑に来ていたリリア、ルドーが念の為顔を動かさず視線だけで探るが、若男衆は村人が多くなったせいか近場には見当たらなくなっている。
カゲツとビタとメロンとはけろりとしているが、トラストとノースターとイエディが既になぜか息切れをしている。
時間は有限なのでルドーはさっさと開始する。
「ルドにぃどうするのー?」
「まずはこの袋に入ってる土を撒くんだよ、ほらこうすんだ」
荷馬車から飛び降りてきたライアにそう言ってルドーは荷車の上の麻袋を一つ引っ掴み、縛っていた口を開いて中身が飛び散るように下の方を持ってぶん回す。
独特な土の匂いが黒くて柔らかい土と一緒に飛散した。
レイル、ロイズが真似するようにバケツを振り回して土を投げ、ライアもエリンジにバケツをせがんで作らせている。
「……入学時から結構力あると思ってましたが、なるほど。この村かなりおかしいですや」
「なにが? 別に普通だろ」
「いや、あの、肥料の土を畑に混ぜるのはわかるんですけど、やり方が大分独特だと思います」
ルドーは村の人たちと一緒に混ぜ土を畑に麻袋をぶん回して飛散させ続けながらカゲツとトラストに返す。
毎年の事なのでルドーもリリアも特にこの景色に何の疑問も持っていないが、物珍しそうに見ている知識豊富な二人からすると不思議なのだろうか。
他の農村がどういうやり方をしているか知らないルドーとリリアは二人揃って首を傾げる。
ルドー達二人やライアたち子どもにばかりでは男が廃るとフランゲルが参戦し、フランゲルが声を掛けたためウォポンもハイハイやり始める。
自己洗脳魔法は相変わらずかかったままのようだ。
メロンも勢いよく麻袋をブン回し、イエディはカゲツとビタに助けを求めて三人掛かりでやり始める。
「この投げて撒いてる土、どうしてるんですか? どこかから買ってるんですか?」
「いんや? 生ごみを枯れ葉とか草とかと一緒に混ぜて発酵させた後、崖近くの土に混ぜてるだけだぞ」
「崖近く……なるほど、あっちは土質が違うからいい肥料になるんですね」
「さぁ? そこら辺は考えながらやってねぇからわかんねぇ」
三つ子たちと一緒にバケツ班に回ったトラストがルドーに聞いて来るのでわかる範囲で返せば納得したように返ってくる。
惰性でやっているので理屈が分からないルドーはその後数時間黙々と作業を続けた。
「チビどもぉ! 土で遊ぶなっつったろうがぁ!」
一通り土を撒き終わったのでと村の人たちが用意してくれた手作り弁当で昼食を取っていたところでカイムの叫びにルドーが顔を上げれば、食べ終わった後楽しくこっそり土遊びをしていた三人が全身泥だけになっていたところだった。
エリンジも巻き込まれたのか土まみれになってブルブル震えている。
怒られてキャーと三人散り散りに逃げていくのを眺めながら、リリアに合図して次の作業に取り掛かる。
畑打ち魔道具、前世で言う所のトラクター辺りが近いだろうか。
リリアが魔力を入れて起動させれば、大きな音がして下部分についていた金属部分がゆっくり回転して土を耕耘し始める。
リリアが慣れた様子でするそれを見ていたメロンも張り切って起動させたが、魔道具を持った瞬間苦しむように呻き始めた。
「おっ重いこれ! 一人じゃ無理かも手伝って!」
「メロン、後先、考えて、さっき運ぶときも、重いって言った」
「ハイハイハイお手伝いしますよ!」
「随分旧式の使ってるんですね、最新式交渉して買い付けましょうかや?」
「あー、予算とかもあるからそれするならくそじじいの村長としてくれ」
「全員分の魔道具はないですね、僕たちどうしましょう?」
『(仮に魔道具があったとしても身体能力強化薬もないからあれは重くて動かせないけど)』
「えーっと、あっちに植える苗あるから持ってきて植えてってくれ」
メロンがイエディとウォポンと一緒に、ルドー、リリア、それとフランゲルがそれぞれ畑打ち魔道具を起動させて耕していく。
耕した後自動で土を軽く固めて形作ってくれるのであとは植えるだけだ。
初めての畑仕事をしているフランゲルはやることなすこと新鮮なようでとても楽しそうにガハガハ大笑いしている。
ルドー達のところに畑打ち魔道具は四台しかないので、トラスト、ビタ、ノースター、エリンジ、カイムと三つ子が苗を貰って村の人に教えてもらいながらそれぞれ植えていく。
初めての素人ばかりなので皆手が覚束ない、大丈夫か。
「カイにぃ上手!」
「見せて見せて!」
「僕も!」
「チビどもこれ野菜になるんだぞちゃんと食べろよ」
「「「わかったー!」」」
カイムは森に棲んでいたこともあり多少経験があるのか、他の面子より動きが上手く早かった。
三つ子がわらわら集まっては学習するようにその様子を見ては真似している。
三人泥だらけのままだけど、カイムはもう諦めたようだ。
耕し終わった後魔道具を片付け、ルドー達も合流してすべての作物を植え終わった頃には日がとっぷり暮れていた。
村人たちがお疲れ様と声を掛けて帰っていく中、ルドーも手伝ってもらったお礼を言おうと疲れ切って地面に各々座り込んでいる面々を振り返る。
「いやー助かった、あの量じゃリリと二人だと一週間かかりそうだったからマジで助かった」
「ほんと早く終わったよね、いつもより多かったのに。みんなありがとう」
「ケロッとしてますやこの二人、やっぱおかしいですや」
「確かに、地力は多かったか」
「ハイハイハイいつでも手助けしますよ!」
「ふ、ふん! 別に二人の事を思ってしたわけではなくてよ!」
「疲れたが楽しかったぞ! 野菜が出来たら伝えたまえ!」
「そうそう野菜食べたいからね! 教えてねー!」
トラスト、ノースター、イエディは疲れ果てたのか地面にへたり込んだまま声も出ない様子だ。
三つ子は流石に丸一日で疲れたのか眠り始めて、カイムが三人全員髪でゆりかごのように包んでいる。
泥だらけのままでやっているので髪までドロドロだけど、後で謝ったほうがいいだろうか。
「あ、やっべ忘れてた、この時間もう辻馬車呼べないじゃん」
「なんだと貴様! これからあの転移門まで歩けと言うのか!?」
「いや……無理……です……体力……ない、です……」
「とっトラストさん!? しっかりしなさい気を失いますわよ!?」
「気絶しちゃったイエディ抱えたままあの崖の道降りる元気は流石にないよー?」
『(飛行魔法薬……量産課題……材料の調達……)』
どうしようかとルドーがみんなと相談していると、じじいもとい村長が歩いてきて終わったみんなに声を掛けてきた。
「どうも手伝いお疲れさん。ルドーとリリアも、ちょっとは強くなったかい」
「今は浄化魔法頑張って強化してます」
「あーまぁそれなりにだな」
「そうかそうか、思ったより早く終わってよかった、この大所帯じゃ泊まる場所もないからな。帰りは魔導士さん頼んでるぞ」
村長の言葉にルドーとリリアが驚いた小さな声を上げると、あちらだと村長が指さした方向から、モネアネ魔導士長が手を振って歩いてきていた。
ルドーは思わず身構えるように聖剣を鞘から抜いて構える。
「おっお兄ちゃん失礼だよ!?」
「知るか! 二回も了承もなくぶっ飛ばされたんだぞこいつに!」
「あっはっはっは、元気そうでなによりだなールドー君たち。それとエレイーネーの同級生かい?」
構えているルドーと慌てて止めようとするリリアにもお構いなしにあっけらかんと笑いながら対応するモネアネ魔導士長。
そのまま疲れ切った面々にひらりとローブを靡かせて軽く頭を下げて挨拶してきたモネアネ魔導士長に、疲れつつも何とか頭を下げてそれぞれ返している。
「まさかまたぶっ飛ばすつもりじゃねぇだろうな」
「いやーそう思ってたんだけど、思ったより小さい子も一緒にいるから危ないね? 普通に飛行魔法で転移門まで運んであげるよ」
カイムの髪の中で眠ったままのライアたちを見て告げたモネアネ魔導士長の言葉にルドーは身震いした。
三人付いて来てくれてよかった、またぶっ飛ばされるところだった。
「それだけの魔力、相当な実力と見受けるが転移は使わないのか」
「転移魔法僕興味ないんだよね、風魔法研究してる方が楽しくてさ」
エリンジの疑問にもあっけらかんと返す。
モネアネ魔導士長曰く習得できないのではなく習得する気がないという事らしい。
「そういやエリンジは転移使わねぇのか、そっちのが早いじゃん」
「流石に疲れがある。回復もなしにこの大人数は不安が残る」
『また変な場所にぶっ飛ばされるぜ』
「やめとこやめとこ、そんじゃ戻るか……」
「次はちゃんと休暇に帰ってこいクソガキ」
「やっぱ恨んでんじゃんかよくそじじい。わかったよ帰るよ」
「それじゃあ行ってくるね。えっと、お願いします」
村長と別れの挨拶を交わしたルドーとリリア、そのままおずおずと頼んだリリアに、モネアネ魔導士長は笑顔で返す。
そのまま全員巨大な風呂敷に荷物のように包まれて、風呂敷ごと全員飛行魔法をかけて転移門まで運ばれ、泥だらけでエレイーネーに帰ってきたルドー達一行は、ネルテ先生への報告前にヘーヴ先生に捕まって、校内を泥で汚したことをこんこんと説教されながら洗浄魔法でもれなく全員くまなく全身を洗われた。
 




