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第六十九話 大型魔物暴走

 ロドウェミナにも既に魔物の波は到達していた。

 避難は半分完了してはいるものの、足の遅い老人が多くキシア達三人が拡散魔法の泡で包んでなんとか運んでいるが、大量の魔物に村から逃げ惑うのに必死になっている所だった。

 夜闇の中発光する魔人族の二人兄弟が物凄く光っているお陰で分かりやすい。


「魔物が多すぎるよ姫様たすけてたすけて!」


「いやあああ魔物暴走(スタンピード)は地下に潜ってても危険! お助け姫様!」


「私別に王族じゃありません不敬ですから姫様呼びはやめてくださいまし!」


「おらぁ!!!」


 ルドーはキシア達三人が追いかけられている魔物の津波に向かって聖剣(レギア)を振るう。

 空中から路地に向かって大量の雷魔法が降り注ぎ、一気に蒸発させていく。


「人間人間!」


「エレイーネー助けて!」


「ルドーさん! みなさんに先生方も!」


「あなたも防御転移魔法いるわねぇ、こっち来なさーい」


 全員で転移したあと合流したキシアから状況を聞く。

 既に村の半数はここより大きい隣町まで避難したものの、この規模だとその隣町も危険とのことでさらにその先の町まで住民全て避難し始めているらしい。

 説明しながらクランベリー先生から防御転移魔法をかけてもらったキシアはそのまま村の構造を知っているという事で残り、発光魔人族の二人はエレイーネーに待機している保護した魔人族達のところにマルス先生が転移させていた。

 日常魔法を使える先生と生徒達が一斉に光魔法を発動させて光源を確保する中、上からネルテ先生の声と共にクロノが飛び降りてきた。


「四人一組で行動するんだ! エリンジ、パートナーがまた単独で動かないよう監視しときな!」


「言われるまでもない」


「うっざ」


「二年と三年の担任達とトルポの魔導士ももうすぐ到着予定、先生方は森から溢れ続ける魔物を森の辺境周辺で分散して対処! 生徒の皆さんは既に溢れて周辺に散らばった魔物を対処しつつ逃げ遅れた住民を救出、危険と判断したら即離脱です!」


 ヘーヴ先生の指示にその場の全員が大きな声で答えた後、教師陣は一斉に飛行魔法で森の方に飛び去って行く。

 ルドー、リリア、エリンジ、クロノの四人と、トラスト、ビタ、ノースター、キシアがそれぞれ四人組で二手に分かれ、魔物の多い森側に戦力の高いルドー達が向かって村に残る住民を探す。

 既に森の方に到達したのか、先生たちが魔物を屠り始めて対処する大きな爆発音が聞こえて、村からでも爆発の光に上空に巻き上げられる大量の魔物が見える。

 クランベリー先生がロドウェミナに結界魔法を張ったのか、淡く光る大きな膜が周辺に発生していた。


「お兄ちゃん! あそこの家とその二つとなり!」


『どんどん怪我人探知が発達してんな』


「エリンジ! 救出次第隣町まで転移で飛ばしてくれ!」


「了解した」


「ルドー、救出中の魔物対処援護するよ!」


 中規模と大規模の魔物が暗闇の中まばらに闊歩していた。

 ルドーがすかさず聖剣(レギア)を横に振りって空中から横に串刺しにするように雷魔法で周囲を照らし出しながら横に貫通して霧散させ、少し遠い場所にいた大規模魔物もクロノが飛び上がって蹴撃を与えて霧散させる。

 そうして魔物から道を作ってリリアが家に入っていき、怪我のせいで逃げ遅れて隠れていた住民を救出してエリンジが転移魔法で飛ばす。

 村の家々を転々としながらリリアの声を頼りに住民をどんどん転移魔法で隣町まで運んでいった。


『クロノ! やっぱり魔物の動きが変だ! レペレル辺境伯領では森から出た魔物はどう動く!?』


 ネルテ先生から緊急通信が入る。

 爆裂な戦闘音が聞こえながらも、上空から魔物の様子を戦いながら観察しているようだった。


「通信返す、答えろ」


「そんなの周囲の村や町に向かって人間に無差別攻撃するだけだよ、何が具体的に変なわけ?」


 通信魔法が使えないクロノの代わりにエリンジがネルテ先生に伝える。

 その間も中規模以上の魔物ばかり周辺に次から次へと闊歩してくるので、ルドーは雷魔法、リリアは浄化魔法、エリンジは虹魔法、クロノは蹴撃と各個撃破していく。

 暗闇の中、エリンジとリリアが光魔法で周囲を照らしているものの、光が届かない闇の中から突然現れる魔物たちの姿はホラー染みていて心臓に悪い。


『無差別的に動いてない! 一部分が盛り上がるように森から溢れてそれに追従するように移動している!』


『やはりなにか誘導原因でもありますか。心当たりある人いませんか』


 話を聞いていたのかヘーヴ先生の通信も入るが、全員戦いながら顔を見合わせても首を振るだけだ。

 大型魔物暴走(ビッグスタンピード)経験者のクロノも要因に思い至らないらしい。


『どこに向かって一部分盛り上がってんだ? その先になにかあるんじゃねぇのか』


 聖剣(レギア)の疑問を傍で聞いていたリリアが通信魔法でネルテ先生に伝える。

 それに対してロドウェミナの村の方に集中しているとネルテ先生から返信があった。


「この村になにかあるってか? 大型魔物暴走(ビッグスタンピード)が発生するような何かが?」


魔物暴走(スタンピード)の誘発要因はいくつかあるけど、この規模が誘発されてるってなると相当な魔力が必要だよ。こんな寂れた村にそんなものがあるようには……」


「お兄ちゃん! 魔物の動きが!」


 リリアの叫びに三人が振り向くと、大型魔物が急に進路を変えて走り始めた所だった。

 その先に一人、大きな屋敷のようなものからちょうど出てきたような男が走っているのが闇夜の中エリンジとリリアが照らしていた光魔法に一瞬映る。


『魔物が追い始めた、あいつ怪しいぞ!』


「追いかけるぞ!」


 エリンジが通信魔法で先生たちに報告しながら四人で逃げる男の方へと走る。


「あの人多分怪我してる! だから見失わずに追えるよ!」


「……まずい、森に追い立てられてる!」


 エリンジとリリアに追従するように光魔法が空中を浮遊する中、逃げる男に追いつこうとする先で、大型魔物がどんどん増えているのがうっすらと見えた。

 魔物の影に見失いそうになり、ルドーは次々聖剣(レギア)を振るって空間から雷閃を複数放ち、エリンジも虹魔法を放って見失うまいと魔物を蒸発させ続ける。

 村の建物がどんどんと閑散し始め、どんどん魔物が押し寄せてクランベリー先生の結界が切れた森の方へ向かっている。

 大型魔物に追われている男は背後ばかり見ているのかその事に気付いていない。

 このままだと魔物にのまれる自殺行為だ。


『えぇい一旦止めねぇとどうしようもねぇ! ルドーあれ使え!』


「あれってどれだよ!」


『幹部に使ったあれだよ! 途中の魔物なら蒸発するぜ!』


 聖剣(レギア)に言われてルドーは手を放す。

 走りながら空中に浮遊した聖剣(レギア)をぐるぐるとブーメランのようにブン回し、円状になった聖剣(レギア)が周囲に雷を放って明るく照らし出す。


「いっけええええええええええええ!」


 そのままブーメランを投げる要領で聖剣(レギア)をぶん投げ、円状に素早く回転しながらその射線上の魔物を切り裂き、周囲にいる魔物も拡散する雷魔法に霧散していく。

 ルドーは右手を大きく広げて聖剣(レギア)に向ける。

 男が背後から雷魔法で周囲を照らし迫ってくる聖剣(レギア)に気付いて大きく下に伏せた瞬間を狙った。


雷転斬(らいてんざん)!』


「またかよ!!!」


 男が伏せた瞬間を狙い、雷光の速度でルドーは聖剣(レギア)のある場所に移動して回転する聖剣(レギア)を掴んで握り直すと、そのまま男が動けない様に回転の速度を乗せたまま足を狙って切り伏せた。

 脚を切り付け鮮血が舞い散る中、またしても必殺技名を叫んだ聖剣(レギア)に思わず大声で突っ込む。

 しかしその瞬間振り上げた聖剣(レギア)に硬い何かが当たる感触がして、大きく上空に吹き飛ばした。


 上空に回転しながら打ち上げられたそれから、突然大量の瘴気が爆発するかのように噴き出す。


 あまりの量にルドーは足元で切り伏せた男諸共背後に吹っ飛ばされる。


「お兄ちゃん!」


 リリアが叫んで咄嗟に結界魔法を張り、吹っ飛ばされたルドーを何とか受け止め、同じく吹っ飛ばされた男をクロノが片手で服を掴んで地面に叩き付ける。


 その瘴気に吸い込まれる様に魔物が突然大量に集まってきていた。

 周囲に集まった魔物たちが一斉にそのなにかに向かって群がっていく。

 結界魔法に叩き付けられた痛みに呻きながら起き上がったルドーとその場の全員が見たのは、周囲の魔物が瘴気に当てられてどんどん巨大化していく恐ろしい姿だった。


「魔物が誘導されているのはあれが原因か! 破壊する!」


「ダメだ! あれは希望だ! 破壊するなんて許さない!」


「うるさい!」


 エリンジの声に暴れだした男を、クロノが片手で素早い手刀を首に落として気絶させた後、あっという間に服を縛って拘束して抑え込む。

 立ち上がったルドーと、横にいたエリンジ二人で空中に浮遊したまま巨大な渦を巻いて瘴気を発生させ続けている小さな何かに狙いを定めようとした瞬間、背後から突然殴られるような衝撃が走った。


「お兄ちゃん!? なに!?」


「見えない何かがいる!」


 男を押さえたまま、クロノが何かからの攻撃を防ぐように何発か攻撃を受ける様な動きをしながら叫んだ。


「くっそ、こんな時に!」


「見えん、どこにいる!?」


 ルドーはエリンジと二人周囲を探るように見ているが、見ない何者かはクロノから離れたのか、魔物が瘴気の中心に向かう濁流の隙間の中動けなくなる。


「魔物が多すぎて気配が追いきれない、悪いけど自己対処してくれる!?」


「気配ってなんだよ!? というか見えねえのにどうしろってんだ!」


「リリア、場所を探知できるか!」


「ダメ! 回復使った後なのか怪我してないせいで割り出せない!」


 どんどんと瘴気が膨れ上がり、魔物が大きくなっていく。

 まだ瘴気の周りをぐるぐる徘徊しているだけだが、満足した後解き放たれたらどうなる。


 ルドーとエリンジは周囲を必死に見渡すが、見えない何者かはまるで二人を嘲笑うかのように意識外から尽く攻撃してくる。


『ダメだ、素早い上魔物と瘴気のせいでこっちもわからねぇ!』


「いっそ全体攻撃するか!?」


「攻撃の合間にどこまで下がってるかわからん! それにクロノの足元の男が死ぬぞ!」


「あぁもうめんどくせぇな!!」


 ルドー達が迷っている間にも魔物が集まってくる。

 他の担任やトルポの魔導士も合流したのか、先生たちが必死に殲滅している爆発音と衝撃はさらに激しさを増して今もなお響いているが、森から溢れる魔物の量が多すぎるようだ。

 魔物を呼び寄せているあの瘴気を発生させ続けるなにかを対処しなければ。


「ビタさん、見えますか! あそこです!!!」


「だから姿を隠すんじゃありませんわよ卑怯者!!!」


 背後からトラストとビタの叫び声が聞こえた。

 二人は手を握ったまま、トラストをビタが背負うような形でこちらに走り向かっている所だった。

 トラストの黄色い魔力と、ビタの紫の魔力が混ざり合うように光り輝いている。


 魔力伝達だ。


 ビタの瞳がトラストの黄色い魔力で光り輝き、そのまま走り寄りながらしゃがんで地面に勢いよく右手をつくと、ルドーとエリンジの背後の地面から巨大な拳が勢い良く生えた。

 その拳は空間にある透明の何者かを思いっきり殴りつけたような衝撃を発生させ、そのまま何者かを逃がすまいと大きく手を開いてがっしりと掴み上げる。

 物凄い勢いで握りしめ、透明の何者かが悲鳴を上げ、なんとか逃げようともがいている。


『(もう邪魔させないから!)』


「お手伝いしますわ!」


 ノースターが懐から瓶を取り出し、逃げようともがき続ける透明の男に大量に投げ、キシアが拡散魔法でその範囲を盛大に広げる。

 男は掴まれた大きな手の指を徐々に広げて今にも脱出しようもがいていたが、二人がかけた魔法薬によって様々な色で奇天烈に染め上げられ、透明化してもはっきり見えるようになる。

 透明男は自身を見下ろしてその状態に気付いてようやくがっくりと拳の中で動かなくなった。


「これで邪魔は消えた!」


 エリンジがそれを見てすかさず空中に浮遊したままの何かに向かって虹魔法を放ったが、まるで結界魔法でもはっているかのようにあっさりと弾かれてしまう。


「だめですエリンジさん! あれは古代魔道具、破壊できません!」


「えっ!?」


「なんだと!?」


「古代魔道具!? なんでそんなものがここにあんだよ!?」


「道理で魔物が誘導されるってわけ」


 トラストが続けた叫びにルドー達は改めて空中を回転しながら瘴気を噴き出し続けるそれを見る。

 両掌に収まるほど小さく、木の枝のような形をしたそれに、大きな真珠のような宝石のようなものが三つそれぞれの枝についている。

 男を掴んだ拳をそのままにルドー達の横に走り寄ってトラストを下したビタが息を切らしながら一気に捲し立てる。

 後ろからキシアとノースターも合流してきた。


「エルムルス商会が隠し持っていたんですわ、それが急に変になってしまったと!」


『なるほど、強欲に、倫理観もなしに使い過ぎたか』


「使い過ぎても暴走すんのか!?」


『使い方による』


 聖剣(レギア)曰く、倫理観の外れ過ぎた使い方をし続けるのは古代魔道具に良くないらしい。


「ルドー! 古代魔道具ならお前しかできない!」


「実績あるでしょ、頼んだよ」


「お兄ちゃん!」


「おっしゃ任せろ! やるぞ聖剣(レギア)!!!」


『はっ、後悔すんじゃねぇぞ!!!』


 渦巻く魔物と瘴気の中心で、空中に回転し続けている古代魔道具を見やる。

 こいつを破壊する。心の中でそれだけ考える。


「壊れろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 ルドーが聖剣を大きく振り下ろすと、古代魔道具の上から雷閃よりもずっと太い、極太の雷の柱が発生して叩き落ちる。

 周囲が真白になるほど攻撃の余波を周辺にまき散らしながら、ルドーは真っすぐ古代魔道具を眩しさの中でも目を見開いて見つめ続ける。

 その視線の先で、ボロボロと、枝の先から朽ち果てて行くように、黒い炭のようになって少しずつ霧散していく。



『……逃げ、て』



 不意に聖剣(レギア)越しから、ルドーの頭に響く女性の声が聞こえた。

 まるでたった今破壊した古代魔道具が発したように。


 雷の柱が飛び散るように終わると同時に、古代魔道具が発していた瘴気は弾けるように消える。



 ――――だが、大型魔物暴走(ビッグスタンピード)は止まらなかった。




「っ……だめだ! 通常の動きに戻った!!!」


 その場でクロノが大きく叫んだ。

 古代魔道具の瘴気に当てられて大きく変化しながらその周囲をぐるぐると回り続けていた魔物が、一斉にこちらに振り向く。

 周囲は既に魔物に包囲されていた。

 大量の魔物が一斉にルドー達に襲い掛かる。


「うらあああああああああああああ!」


 ルドーが聖剣を振り上げて、周囲一帯に雷閃が降り注ぐように放つ。

 空間が開けた隙にリリアが結界魔法を張って、拳に握られているままの男も一緒に全員を包み込んだが、押し寄せてくる魔物は結界魔法がはち切れそうな程周囲に密集して何も見えない程に群がってくる。

 ビタがトラストと手をつないだまま結界魔法越しに逃げる空間を作ろうと地面から壁をいくつも生やすが、魔物はあっという間に乗り越えて破壊してくる。


「エリンジ! 転移で一旦離脱できるか!?」


「……クロノ」


「領地で慣れてるから捨て置いていいよ」


「だめだよそんなの!」


 悔しそうな顔をしてクロノの名を呼んだエリンジの様子からルドーも察した。

 エリンジでもクロノに転移魔法が効かない。

 足を引っ張っている自覚があるのか、クロノは肩をすくめつつあっさり見捨てるよう進言してきて、進言通りに結界魔法から外に出ようと歩み始めたのでリリアが大声で掴みかかり叫んだ。

 防御転移魔法は致命傷を一度だけ無効化して転移する。

 だが目の前に迫る魔物は牙や爪で攻撃しようと結界に振りかぶるのみ、致命傷になるまでどれだけ酷い攻撃を受けるかわからない。

 ミシミシと結界魔法がひび割れ、破壊される直前にリリアが何度も何度も内側に結界魔法を張り直している。

 キシアとノースターが先生たちに救援の通信魔法を発しているが遠くて間に合いそうにない。

 ルドーとエリンジも何度も結界越しに魔法を放ち続けているが、かつてないほどの数を倒しているのに倒しても倒してもすぐに埋め尽くされ、魔物が多すぎてキリがなかった。

 聖剣(レギア)が威力を上げろと叫び続けている。



 どうすればいい、どうすれば全員助かる。




「よろしくお願いしまあああああああああああああああああああす!!!!!!!!」


 突然の叫び声に轟音が続いて、周囲が大きく揺れた。


「えっ、なになに、なんなの?」


 全員が衝撃に地面に叩き付けられて呻いている中、リリアの呆然とする声に顔を上げると、結界の周囲が不思議空間に包まれていた。

 パステルカラーの、なんだろう、大きな積み木にヘンテコな目や口や手足が付いた何かが大量に押し寄せて、魔物を押し戻していく。

 降り注いできた光に上を見上げると、夜だったはずの空に様々な色に光るオーロラが舞いながら、万華鏡のように光り輝いていてとても眩しく思わず手で覆った。


「いい加減そのふざけた魔法の使い方をどうにかしないか!」


「さぁはじまりましたーパタパタ選手権大会! 一位を勝ち取るのはどのもぎぽっくりになるのか!?」


 次の瞬間、大量の虹魔法が空を埋め尽くす勢いで放たれる。

 結界魔法の周囲にいた魔物を押し返した不思議物質に結界ごとルドー達が運ばれるように流される中、その虹魔法は魔物の津波に次々と命中して何万の勢いで駆逐し尽くしていく。


「……やっと来たか」


「いや遅すぎるわ……」


『ほんとふざけてんな』


 ルドーとエリンジが二人揃って腰を抜かすようにその場にしゃがみこむ。


 結界魔法の遥か上空、ネイバー校長とデルメが次々と魔法を放って魔物の波を駆逐し続けていた。

 全員がその異質な様子を呆然と眺めながら結界ごとどんぶらこどんぶらこと運ばれ、分裂してどんどん増えていく摩訶不思議物質が、魔物に抱き付いたと思ったらぎゅっと抱擁して次々と霧散させていく。

 なにをどうすればそういう魔法の使い方になるのか。


「全員無事かい!?」


「負傷者はいません」


 ネルテ先生が大慌てで魔道具飛行しながらすぐ上までやってきていた。

 エリンジが即座に返答した様子に胸を撫で下ろすように息を吐いた後、空中でルドー達に追従しながら上を見上げて校長とデルメを見つめる。


「あぁーもう……ほんと負けるよ、参ったなぁ……」


「いつもここ一番て時にやってくれますからねぇ、はぁ……」


 ネルテ先生の傍に、飛行魔法で先生方が次々と集まってきて、ヘーヴ先生が項垂れながら溜息を吐く。

 大型魔物暴走(ビッグスタンピード)の魔物を次々と、発生した魔物と同じ勢いで不可思議物体を大量製造して津波を発生させ、次々とハグして霧散させていくネイバー校長は圧倒的だった。

 エリンジの父親、デルメは至極真面目に虹魔法を大量に叩き込み、大きく爆発させて同じだけの数の魔物を次々霧散させている。

 どちらも人外の領域に足を踏み入れていた。


「……助かった?」


「みたい……」


「はぁ、やっと休める……」


「つ、疲れましたわ……」


『(来るならもっと早く来てほしかった……)』


「全くですわ、校長という立場でありながら!」


「謝罪する」


「いやエリンジお前が謝る必要ねぇから」


 ルドー達全員気が抜けて結界の中に座り込む。

 先生たちに見守られながら、不可思議空間でネイバー校長とデルメが大型魔物暴走(ビッグスタンピード)を沈めていく様を見ながら、いつかあそこに辿り着けるかとルドーとエリンジは眺め続けていた。


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