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第五十五話 先の見えないロドウェミナの森

 転移魔法でもみくちゃになっているルドー達は、エリンジがいることにようやく気付いて訳が分からず倒れたまま呟くように声を掛ける。


「エリンジくん? あれ、なんでいるの?」


「こっちのセリフだ。なにがどうなっている」


『あの校長よっぽどふざけたやつだな』


「お前ら重いから早くどいてくれ……」


 呻くようなルドーの声に全員慌てて退く様にようやく起き上がる。


 周囲を見渡せばどこかの村の外れの様だった。

 魔の森が近いが、村の傍であるせいか瘴気は比較的薄くそこまで嫌な感じは漂っていない。


 きょろきょろと周囲を見渡してみても、転移魔法を使った肝心の校長は何故か見当たらなかった。


 そんなルドー達の様子を見ながらエリンジが機嫌の悪そうな仏頂面で問いかけてくる。


「お前たちが急に現れたと思ったここだ、説明しろ」


「いや校長の行動については上手く説明できねぇんだけどさ……」


 ルドーは校長室に至るまでのトラストとキシアの状況をエリンジにかいつまんで説明した。


 説明している間、知らない場所に放り出されたせいか、ライアは周囲をきょろきょろと見渡している。


 話を聞き終えたエリンジは緊急事態に納得したのか機嫌がある程度直っていた。


「……なるほどな、ネイバーが親父の説得に時間がかかると俺たちをとりあえず先に送り出したわけか」


「ネイバー?」


「校長だ、ネイバーモア・ブルーウォーター。あれで親父の事を友人と思っている。先生方が不在の今人手がいると思って先に屋敷に呼びに来たんだろう」


『よくわかったなあの言動で』


「昔からうちにはよく来る」


「校長が友達だと思ってるから遊びに来るって事? 言動わかんなくても意図がわかっちゃうくらいには頻繁に会ってるんだ」


「それで校長は先に様子見て来いって俺たちだけ転移させたって?」


「親父はネイバー相手だと正気を失う。しばらく来れないだろう」


「なんだか見たような光景のような……親子……」


 既視感を感じたようにリリアがぽつりとつぶやいたが、エリンジは片眉を上げただけだった。


 それよりもキシアを探せとエリンジに指摘され、リリアが慌てて通信魔法で連絡を取る。

 思ったより近くにいるらしく、リリアに先導されてルドー達は魔の森の方面へと歩き出すが、連れてきてしまったライアをどうしよう。


「あっ! こちらです、こちらですわ……ってなんでライアさんまで連れてきてるんですの!」


 先導されるまましばらく歩くと、魔の森のすぐ傍、草陰に身を隠すように屈んで森の中の様子を伺っていたキシアがいた。


 出掛けの格好からそのまま来た様子で、編み込んだ髪にお忍びの格好をしていても、高級感を隠せていない大きな帽子とフリルのついた服装が場違い感を醸し出して魔の森のほとりでとても目立っている。


 ルドー達に気が付くと手を振って呼んだが、一緒に連れてきてしまったライアを見て鋭く非難の声をあげた。


「不可抗力だって! 学校に先生もクロノもいねぇから一人に出来ねぇし! その上校長が説明もないまま気が付いたらここに全員飛ばすし!」


「もう! ライアさん、リリアさんの傍に居なさいね、結界魔法が一番強力ですし……ライアさん?」


 キシアがそう言ってライアに語り掛けるが、なんだか様子がおかしい。

 心ここにあらずと言った形で魔の森の一点だけを見つめている。


 ルドーが覗き込んでも、キシアが肩を叩いても、エリンジが目の前で手を振っても反応がない。

 リリアが不安そうに声を掛けるがそれにも反応がなかった。


「……ライアちゃん?」


「様子が変だな、トラウマでも思い出したか」


 リリアが呼び掛けても反応のないライア。エリンジの一言に一同は沈黙する。


 人狩りに関するクロノの言葉と、無理矢理に魔力を吸い取られていた実態。

 その辺りの事情をクロノが全く話さないままなので詳しいことはわからないが、この様子からライアは魔の森の中で人狩りにでもあっていたのだろうか。


 だが不安そうにそれを一同眺めていたが、キシアが思い出したかのように唐突に大声をあげる。


「はっ! 今はトラストさん達が大変なんですわ!」


「やっべ、そうだった! キシア、トラストたちどこいったんだ?」


「二人とも捕まって森の中に引きずり込まれて行ったんですの! 思ったよりその人数が多くて、私一人では魔物との戦闘も不安で森の中まで追いきれなくて……」


 不安そうなキシアの説明に一同は魔の森を見る。


 連れていかれたのはつい先ほどだろうが、森の中で転移魔法でも使われていたらもう後を追えない。

 比較的瘴気の薄い、少しだけ光の射した森の中は、奥に行くほどに鬱蒼としている。


「この森は大陸半分を覆う中央魔森林に直結している。奥に行くほど危険だ」


「つったって放置するわけにも……」


『校長と親父殿が来るのがいつになるかわからねぇしな、魔物相手なら問題ねぇが……』


 校長が到着するのを待つか、それとも森の中のどこにいるかわからない二人を追うべきか。

 どうにも決めかねて相談するようにルドー達が話していたが。


「……レイル!? レイル!!」


「えっ!? ちょっ、ライア!!?」


 突然ライアが大声を上げて走り出した。


 ボロボロと涙を溢して泣き叫ぶように何かを呼び続け、ものすごい勢いで森に突っ込んでいく。


 虚を突かれたルドー達は一瞬立ち尽くしていたが、慌てて追いかけ始めた。


 小さい体で器用に森の枝や幹を掻い潜り、森の中に慣れているのかものすごい勢いで走っていく。

 追いかけるリリアやキシアが危ないと叫びかけても聞こえていないのか反応がない。


 リリアが捕まえようと結界魔法をかけるものの、無意識に魔力の反応を感知しているのか間一髪でかわしていく。


 トラスト達を連れ去ったという集団もあるし、何より魔の森の中だ、いつ魔物が出てきても不思議ではない。ライア一人だとあまりにも危険すぎた。


 ルドー達は必死に追いかける。


 するとライアが走るその先で、何かに盛大にぶつかって目を回したのが見えた。


「うわぁ人間捕まえないで! ……あれ、同胞?」


「きゃあ幽霊!」


 唐突に柔らかそうな何かにぶつかってひっくり返ったライアに、ルドー達はなんとか追いついた。

 しかしその人物たちを見たキシアが悲鳴をあげて泡を吹いて倒れた。


 そこにいたのは人のような見た目の、それでいて青白く半透明に光っている幽霊のような姿の男が二人、その体の光を隠すように近くの茂みに入って隠れていた。


 片方がぶつかって倒れたライアを心配して、ゆっくり抱き抱えて起こしているが、目を回しているため立てない様子に困っているようだった。


 追いついてきたルドー達がライアを心配そうに見ている様子に首を傾げ、二人で顔を見合わせて話し出す。


「同胞? 人間と一緒、でも捕まえようとしてる感じじゃない。え、どゆこと? どゆこと?」


「兄ちゃんひょっとしてこいつらがエレイーネー? エレイーネー?」


「えっ?」


 二人して顔をシンクロしているように顔をこちらに向けたと思ったら、相談するように顔を見合わせる。


 エレイーネーという言葉が出てきてルドー達は驚いて立ち止まった。


 リリアが気絶したキシアと、男が抱えた目を回しているライアに近付いて回復魔法で介抱しながら怪訝な表情で見ている。


 その人とかけ離れた風貌をした男二人に、ルドーはまさかと思って問いかけた。


「お前たちひょっとして魔人族?」


「おう! 魔人族! 仲良しゴースト兄弟のザックと!」


「マイルズ!」


 隠れていた茂みから出てくるように立ち上がった瞬間大量の草木がバサバサ落ちてくるのも気にせず、二人でビシッと決めポーズを取る。


 問いかけたルドー達は一瞬呆気にとられたものの、エリンジがすぐに気を取り戻した。


「俺たちはエレイーネーだ。何故その言葉を知っている?」


「俺たち昨日の夜人狩りに遭いそうになって、でもなぜか人間が助けてくれた! そいつが言ってた、エレイーネーに助けを求めろって! 不本意だとも言ってたけど!」


「同胞がもう一人いたけどそいつ捕まった! その同胞が人質にされて抵抗出来なくなってその人間も捕まって連れてかれた! 俺たちエレイーネーがなにかしらない! だから一日ずっと隠れてた!」


「人間が助けたけど人質取られて連れてかれた?」


 話を聞いたルドーとエリンジは意味が分からず顔を見合わせる。

 気絶したキシアと目を回しているライアを介抱しているリリアも不安顔だ。


「黒い帽子被ってた! 人狩り凄い勢いで殴ってた! でもあいつら卑怯者! まだ子どもの同胞人質にして、暴れたら殺すって脅してきた! あの人間動けなくなって、人狩りに見つかってなかった俺たちに逃げろ、エレイーネーに助けを求めろって言って連れてかれた!」


「えっ……帽子? 凄い勢いで殴ってた?」


「……お兄ちゃん、クロノさん昨日から見てないよね?」


「なんだと?」


 困惑するルドーと不安そうなリリアの会話に、エリンジが低い声で返す。

 状況から考えて該当するのは多分クロノだ、道理で昨日から見かけていないはずだ。


 誰にも何も話さずに何をしているあいつは。


 エリンジもそう思ったのか、何が無茶はしないだと機嫌悪く仏頂面で呟いている。

 しかし青白く光るザックとマイルズはそんなこちらの様子も気にしないでさらに話を続けた。


「さっき別の人間が二人、なぜか人間なのに人狩りに連れてかれてた! わけわからないから移動しようって相談してた! エレイーネー助けて!」


「別の人間二人? ひょっとしてトラストとハイドランジアか?」


「話してない人間は知らない! でもこれ、連れてかれた同胞が落としていった!」


 そう言ってマイルズと名乗った魔人族の幽霊男は、小さなメガネを差し出した。

 大きさから小さな子ども用のような、トラストが使っていたのとはまた別で半月型をしている。


 エリンジがそれを幽霊男から受け取って、調べるように掲げた瞬間、ライアが目を覚ましてそのメガネを見る。


 途端に悲鳴をあげはじめた。


「ああああああああああああああ!! レイル! レイルウウウウウウ!!」


「なんだ!?」


 大声で叫ぶライアが強烈に光り輝き始め、体内から強力な魔力が溢れ出した。

 それでも構わず、錯乱状態で魔力を放出しながら叫び続けるライアに、リリアとルドーは咄嗟に手を伸ばすが、魔力が強烈過ぎてバチンと弾かれ近寄れなかった。


『魔力の暴走……よりにもよって転移魔法使ってるぞ!』


「最近転移ばっかじゃねぇか! 止められねぇのか!」


「時間が無さすぎだ!」


「ライアちゃん! ライアちゃん!!」


「ひえええ! お助け!」


「たすけてたすけて!」


 幽霊男たちが縮こまって距離を取る中、ルドー達三人は必死に手を伸ばす。


 泣き叫んでいる少女を一人にしたくない、三人の中にあったのはそれだけだった。


 抵抗することも出来ず、ルドー達三人はライアの暴走した転移魔法に巻き込まれた。


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