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第三十六話 悪夢の記念式典

 空を覆い尽くす数の魔物が塔から広がり、両翼を付けたそれが恐ろしい勢いでこちらに大量に向かってくるのが見えた。

 翼竜の姿をしたそれは前世で言う所のプテラノドンのような容姿で、真っ黒な蝙蝠が大量に飛び掛かってくるかのように鋭い牙で一斉に飛び掛かってくる。

 主要国の護衛で中央広場に集まっていた魔導士たちは未だ結界魔法に阻まれて動けず、攻撃も外に通せない。

 この国を守る勇者や聖女も見当たらないらしい、重鎮たちが叫んで探している声が今も聞こえる塔からの連続狂音の中で辛うじて聞こえてきた。


「全員! 緊急事態につき市民の避難誘導を! 場合によっては戦闘も許可する! くっそ、エレイーネーとの通信が遮断されてる、意図的か!」


 ネルテ先生が叫んで応援を呼ぼうと通信魔法を使おうとしたが、妨害魔法でも入っているのかエレイーネー本校との通信ができない様子だ。つまり応援は呼べない。


「何か来るぞ!」


「うわぁ!」


 エリンジの叫びにルドーが塔を見れば、瘴気の奥の塔の天辺に魔力が集中するように光が集まり、赤いレーザーのような大きな魔法で狙撃が入る。

 トラストに向かって発射されたそれをエリンジが何とか防御魔法で防ごうとしたが、向こうの破壊力の方が上だったようで、感触から瞬時にそれを判断したエリンジが何とかトラストを横から抱えて割れる直前に攻撃から外れ、地面に当たり大きく爆発して抉れていた。

 追撃を警戒してトラストを抱えたままエリンジが塔を注視する中、抱えられていたトラストが目を回しながらもネルテ先生に叫ぶ。


「先生! 歌姫の像です! 何か細工されてます!」


「観測者を使ったのか!?」


「すっ、すいません! 僕の観測者デメリットは使った相手に位置がばれてしまうので、詳しく分析する前に迎撃が来てしまいました!」


 塔の音と魔物を発生させている瘴気の原因を探ろうと、トラストは観測者の役職を使って分析魔法を使ったようだ。

 響き渡る腹に来るような低く不快な連続音に耐えながらトラストの話にルドーは考える。


 歌姫の伝承が本当だったならば、三百年前に歌姫が止めたという魔物を大量発生させた装置、あれは今どこにある。今なお歌姫像の傍にあり、三百年前の代物が今も問題なく使えるとしたら。

 歌姫の像に対する細工、もしそれが三百年前の魔物大量発生装置に対するものだったならば、この大量発生している魔物は三百年前の再来ではないか。

 塔の天辺にあるという細工された歌姫の像、本来石化してその装置を止めた像の細工がこの原因だとしたら、それを何とかすればこの魔物の発生も止まるかもしれない。


 ネルテ先生もトラストの話を聞いてそこに思い至ったのか、魔人族との戦闘の比ではない巨大な魔力の拳を作り上げると、塔を崩壊させる勢いで放出させるように殴りかかった。

 しかしこちらも結界魔法に阻まれてネルテ先生の攻撃が霧散されてしまった。まだ素人目線に近いルドーから見ても一般的な結界魔法の防御力ではない。


「なんだこの固い結界魔法は、塔全体を覆ってるなら破壊どころか中に入ることすら出来ない!」


 塔の破壊どころか内部に入って塔の上に登ることすら阻まれている、そうなると上に登れない以上止める手段がない。

 ここまで防御が徹底しているなら事故などではない。意図的な物だ。


 全員どうすればいいかわからず右往左往している内に魔物の軍勢がとうとう押し寄せてきた。

 イシュトワール先輩が大声を上げると、たちまち魔力で作られた巨大なドラゴンがその場に現れる。

 そのまま先輩はドラゴンに跨って飛び上がり、飛んでくる魔物に対してドラゴンが口を開いて魔法の砲撃を次々と浴びせて何百の勢いで大量に撃ち落とし霧散させ始め、その様子を見ていた他の依頼のあった三年の魔法科の生徒達も一斉に魔法攻撃を開始して迎撃する。


 悲鳴を上げて群衆が逃げていく中、ルドーが逃げ場所を探そうと後ろを振り返ると、街の外周をぐるりと囲むように同じ結界が張ってある状態に気が付いて血の気が引いた。


「街から逃がす気もねぇってことかよ」


 周囲で爆発音がして、魔物を倒そうと魔法科一年も全員が魔法を使い始める中、何か対処方法はないか必死に考える。


「えぇい一か八か、どりゃあ!!」


 ルドーも塔の天辺を狙って魔力を溜めて雷閃を撃ってみるが、ネルテ先生の時と同じく結界魔法に阻まれる。

 古代魔道具の攻撃は防御魔法を貫通するのではないのか、あの結界魔法だからダメなのか。

 あまりの事にルドーは驚愕して叫んだ。


「古代魔道具の聖剣(レギア)でもダメなのかよ!?」


『通じねぇってことはやっぱマジモンの歌姫の魔力かこれは、となると突破は無理だぞ』


「無理ってどういうことだよ!」


『無理なもんは無理だ、残念だが』


 悔しそうに諦めた聖剣(レギア)の口調に、冗談で言っている訳ではないとルドーは焦りを募らせる。


「リリア! アリア! あの瘴気は浄化できる!?」


「無理よあんな濃いの! 見たこともないし何より遠すぎるわよ!」


「私もあの距離では届きません! 近寄るのもあの魔物の量では無理です!」


 ネルテ先生が魔物の発生源を潰そうとリリアとアリアに確認するが、見ただけで異常な濃度の瘴気はとても浄化できる範疇を超えている。

 ただでさえ恐ろしく濃いのに距離まであって魔物のせいで近付けないのであればどうしようもない。


「こういう時こそ主人公が覚醒するってもんでしょ!」


「おいやめろヘルシュ貴様まだ魔力が不安定だろう!」


 ナルシストがなにやら叫んでフランゲルが止めようとした瞬間、その場にいた全員が上空に吹き飛んだ。

 ヘルシュと呼ばれたナルシスト野郎が魔物に向かって剣を振り風魔法を大量に放出したが、制御が不十分なせいで四方八方に同時に出力されたせいで、大型の魔物が吹き飛ぶ威力の風が周囲にいた全員に吹きかかったのだ。


「あぁもう一体何をやっていますの!」


 遥か上空に突然吹き上げられて悲鳴を上げる面々、キシアが飛ばされながら腕を振って、泡のような魔法が弾け飛んだと思ったら飛び上がった魔法科や、周囲にいて巻き込まれた一般人をポンポン包んでいく。

 結界魔法とはまた違う、ふわふわと浮かんだと思ったら風に乗って落下し、地面に反発するようにポンポンと飛び跳ねて、なんとか怪我がない高さでパチンと割れて弾けた。


「くそ、分断しちまった! リリ!」


「だ、大丈夫です! エリンジさんの近くにいます!」


 吹き飛ばされて広場から街の中心街の外れまで飛んできたルドーは周囲を見渡してリリアがいないことに焦りを見せたが、同じく飛んできたトラストがすぐさま観測者で居場所を教えてくれた。


「……便利だけど覗きに使ってねぇだろうなそれ」


「あ、相手にばれるって、僕さっき言いましたよね!?」


『こんな時になに言ってんだよお前ら来るぞ!』


 逃げてきた群衆を追いかけて先陣の翼竜魔物が数匹恐ろしい勢いで飛んでくる。

 まだ魔法訓練で攻撃魔法が上手く扱えないままのトラストを咄嗟に伏せさせて聖剣(レギア)を振るう。

 雷魔法を飛ばして頭を狙えば、一撃で何とか倒せたものの、更に次々飛んできてきりがない。

 雷閃をそこまで連撃出来るほどルドーも練度が足りていなかった。


「に、逃げてください! とりあえず街の外に!」


「ダメだ、結界が張られてて街の外にも逃げれねぇ!」


「えぇ!? じゃあせめて街の中のどこか安全な場所を!」


「だからそれはどこだよ!」


 起き上がったトラストが逃げ惑う人に手を振って誘導しようとするが、逃げ場所がない。

 魔物の勢いでは街中にあふれかえるのは時間の問題だ。せめて安全圏でも作れればそこに避難させることが出来るかもしれないが、初めて訪れた街でそこが何処かわからない。

 ルドーは自分よりも知識に優れたトラストに叫ぶように投げかけたが、彼も答えは持ってないようで口をパクパクさせるだけだ。

 次々飛んでくる魔物が増えていく中、飛んできた翼竜魔物がぶつかって建物が破壊され瓦礫が飛んできたのでルドー達は慌てて後退する。

 飛んできた瓦礫から走り逃げる中、突然の突風が頭の上を過ぎたと思ったら大きな音がして瓦礫が切り刻まれて粉々に散っていった。


「おわぁーお、遅刻したと思ってたらなんだいこのカオスな状況」


「ま、魔導士長!?」


 粉々に砕かれた瓦礫が誰もいない場所にバラバラ落ちていくのを眺めていたら声が聞こえて振り返ると、ルドーとリリアと一緒に村で色々と世話になっていたチュニ王国魔導士長がそこに立っていた。


「モネアネ魔導士!? 世界第三位の魔導士さんと知り合いなんです!?」


「えっこいつそんな強いの?」


「えっ僕そんな高い評価なの?」


 トラストの叫びに叫び返すルドーに首を傾げて聞き返す魔導士長。

 そういえばこいつの名前を聞くのをすっかり忘れていた。


「モネアネっていうんすか」


「ルドー君おひさー。そういえば自己紹介してなかったね、失敬失敬。で、僕転移魔法使えないから遅刻してさっき来たところなんだけどどういう状況?」


 明らかに酷い状況の中あっけらかんと聞いてきたモネアネ魔導士長に、ルドーは式典で起こった事をかいつまんで説明した。その間も次々と飛来してくる魔物をルドーは雷魔法で叩き落してモネアネ魔導士長が片手間に風魔法でザクザク切り落としていく。

 悲鳴を上げて逃げてくる群衆を後ろに見ながら、一通りの説明を聞いたモネアネ魔導士長は徐に口を開いた。


「ふむ、要は塔の天辺で歌姫像が細工されて三百年前の魔物発生装置が悪用されてこんなことになっていると」


「塔には固い結界魔法が張られてて中に入れないし破壊も出来ない。瘴気も濃すぎる上に遠すぎて浄化できないし魔物は無限発生してるし、街の外に同じ結界魔法が張られてて逃げられない。どうすればいいんですかこんなの」


「この国の聖女と勇者も見当たらないと。うーんこれはかなり用意周到に計画されてたものだねぇ」


 何十何百と迫ってくる魔物の群を、片手間に大きな突風のような風魔法で瞬時に一掃しながら言ったモネアネ魔導士長に、ルドーとトラストは一番考えたくなかった予想が明確になって狼狽する。


「式典そのものが罠だったって?」


「だろうね、国賓護衛を理由に力のある魔導士を一か所に集めて反撃できないように結界魔法で囲った。重鎮を人質に街そのものを蹂躙するのが目的かな」


 上空を覆うように増えていく魔物を風魔法で瞬時に切り落としながら塔の上を眺めるモネアネ魔導士長、街の蹂躙が目的だと聞いてルドーとトラストは顔を真っ青にさせた。


「ルドー君、さっき物凄いレーザーみたいな魔法が放たれたのが見えたけどあれは?」


「あ、それは俺ですけど!?」


「ほーう、結構な威力出せるようになったんだねぇ、関心関心」


「今それどころじゃなくないっすか!?」


 大量の魔物がまるで群体を組んでいるようになってくる中、へらへらと話すモネアネ魔導士長にルドーは苛つきを隠せず叫ぶ。


「そういや君は攻撃魔法以外は失敗するから遠視魔法で見えないのか。開いてるよ、窓」


「窓!? 急に何の話ですか!?」


「塔の天辺、歌姫像の周囲。歌姫像を使ってる影響か、あそこだけ結界が切れてるんだよ」


 ルドーは驚いて塔を見えるが、先程飛ばされた影響でさらに距離が伸びて塔の天辺は遠すぎて見えない。

 トラストの方を向くと遠視魔法を発動させているのか、目が黄色く光っている。


「た、確かに結界魔法がないです! で、でもあんな上空の狭い範囲、飛行魔法が使えても厳しい。そ、それに突破したとしてもどうすれば止まるかもわからないのに……」


「おおよそ想像はつくよ、歌姫の魔力が話に聞いてる通りなら大体伝説級で膨大だから、それを制御してるってなったら相当な魔力が必要になる。さらに言うとそんなデカい魔力、遠くに設置したら効率が悪い。近くで稼働してる魔力源を破壊すれば止まるさ」


「見てもないのにわかるもんなんすか」


「近くにないなら塔全体まで結界を張る必要はないからね、歌姫の像周辺だけで充分なはずさ」


 理由が揃っていれば証拠としては充分だとモネアネ魔導士長は笑う。

 このあっけらかんとした笑い方、一度見た覚えがあるルドーは嫌な予感がした。


「モネアネ魔導士長、行かないんすか」


「僕とルドー君だと僕の方がこの状況の魔物の殲滅に向いてるでしょ? さっきのレーザーも魔力源を破壊するには威力充分だと思うんだよね」


「結界の穴は小さいんですよね」


「僕の狙いはいつも的確だからね、知ってるでしょ」


 何をされるか理解したルドーだが、モネアネ魔導士長の方が早かった。

 逃げようとするルドーと何を話しているかわからず混乱していたトラスト諸共、モネアネ魔導士長がフルスイングして前に聞いた金属音と共に二人は吹っ飛ばされた。


「次はガチで覚えてろよおおおおおおおおおおおお!!!!!」


「なんで僕まで――――!!?」


『はーいテストテストー、どうやら街中での通信は使えるっぽいから通信しまーす。倉庫街の方に避難してくださーい。唯一拘束を逃れた魔導士の私が全力で守りまーす。エレイーネーの皆さんたちも援護お願いしまーす』


『ずいぶん気の抜けた避難命令なこった』


 二人して吹き飛ばされている間に通信魔法が聞こえ、聖剣(レギア)の呆れた声がした。


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