第二百十七話 歴史に消えた闇
「キシアちゃんを泣かせた罰として、ルドーくん、エリンジくん、アルスくん三人で、夕食調理の担当をしてもらいます!」
「えっ!? お、俺、止めようとした方なんだけど……」
ビシリとメロンに指差されて、ルドーは困惑の声をあげた。
アルスの勝手な侵入行動で深く傷ついたキシアは、走り去ったあと泣き出してしまったようだ。
純粋なキシアを、普段から大切に扱っていると思っていたアルスが泣かせた。
女子たちはそれだけで、一致団結してしまった。
レーションが主体で、台所も設置されていない旧傭兵舎。
そこにメロンが雑木林などで手に入れてきた、大量の食材を積み上げられている。
ルドー達三人は、原始的な料理を、魔法科全員分用意する羽目になった。
「問答無用! 結果的に泣かせたのは一緒でしょ! そういうわけで、三人で全員分の料理してもらうからね、私は一応監修するけど!」
「メロン、摘まみたい、だけでしょ」
ビシリとイエディに突っ込まれつつも、メロンは監視の手を緩めない。
ルドーの背後から、ゴゴゴゴゴと、地響きのような音が聞こえる。
振り向いてはいけない。
きっとリリアが、過去最高の恐ろしい笑顔を浮かべているから。
ルドーの背中の鞘の中で、聖剣が怯えたようにバチバチ弾け続けている。
リリアの剣幕に、いつも何かしら察しの悪いエリンジも、今回ばかりは顔色が悪い。
ようこそエリンジ、お前もめでたくこちら側だ。
今は口を開いて合理性をしゃべってはいけない。
それは火に油を注ぐ行為だ、エリンジもようやく察したようだった。
「……キシア、今は?」
「ビタちゃんがついてるよ。んもぅ、あんないい子泣かせないでよね!」
心配そうな表情で声をあげたアルスの頭に、メロンはビスビスとチョップを大量にお見舞いする。
反省したように、アルスは小さく下を向いた。
「巻き込みたくなかったんだよ、俺の個人的な理由だし……」
「だからそれは、キシアちゃん本人に言ってあげなって!」
「アルス、逆の立場なら、貴方は、どう感じる?」
「……情けなく思っちゃうかな」
「それが、わかってるなら、よろしい」
どもりながらも、イエディの言葉は強い。
ビスビス頭をチョップされ続けるアルスも、ようやくしでかしたことに向き直り始めた。
問題は、クロノが提示した場所の調査が、まだ残っているということ。
クロノはあの後、自分はレーションだけでいいといって、また部屋に閉じこもってしまった。
人外なほど暴れ回るのに、クロノは異様なほど食が細い。
以前のルドーのように、精神的に喉がものを受け付けない状態になっているのだろうか。
クロノが閉じこもってしまったので、今はカイムが近場で様子を見ている。
お風呂場建築組は、疲れ切っていて動けない。
助けは求められそうにないので、ルドーたちは諦めて調理作業に取り掛かった。
しかしここで、想定外の伏兵が混ざっていた。
エリンジである。
エリンジは、ジュエリ王国クレイブ公爵家の一人息子。
歴とした貴族である。
最強の魔導士になれと、虐待まがいのスパルタ教育を施されているが、根は温室育ちの貴族。
料理などしたことが無かったのである。
中途半端な知識に、効率厨が合わさって、とんでもないことになった。
「食材に洗剤を付けて洗うな!」
「なぜだ、殺菌には効率的だろう」
「弱火で煮込むの、火力上げちゃダメだって!」
「こちらの方が、時間が短くなるんじゃないか」
メロンの指示の元、料理をし始めたルドーとアルス。
初めての調理で、頓珍漢なことをしでかし始めたエリンジのフォローに、終始振り回され続けた。
聖剣がゲラゲラ笑っては、後ろにいるリリアの圧に黙り込んでいる。
おい、この人参の切り方はなんだ、全部繋がってるじゃないか。
効率を求めて、一回で切ろうとするな。
「すごいね、あそこからよく巻き返せたよ」
「スープ、紫になった時、もうだめかと思った」
可哀想なものを見る目に変わった、メロンとイエディの賞賛が聞こえる。
エリンジ振り回されながらも、ルドーとアルスはなんとか野菜スープを完成させた。
エリンジの余りの厄介ぶりに、後ろから刺さる視線の先にいるリリアの方向から、哀愁漂うため息が聞こえた。
恐る恐るメロンに味見という名のつまみ食いをされたが、食にうるさいメロンから及第点を貰えたので、まずまずといったところ。
夕食が出来たという事で、歓声のあがるお風呂場建築組の方に運んでいく。
歓声があがっているということは、お風呂場は無事に完成したようだ。
歓声と共に、何人かが吹っ飛ばされる様子も確認できる。
傭兵団のしごきも、建築しながら続いていたようだ。
調理中と食事の運搬では、ルドーたちも流石にしごきの対象にはならなかった。
度重なる肉体労働で、回復魔法が使えないまま。
這う這うの体で食事に近寄る建築組に、順番に器を回していった。
トラストは現場監督をしながら、傭兵団に一番吹っ飛ばされたのか、伸びて動かなくなっていた。
「ふーん、まぁ、悪くはないわね」
「うちの料理人の方が、まだうまいものが作れるな!」
「うるせぇ! 文句あるなら食うなよ、フランゲル!」
「ハイハイハイ、おかわりご希望します!」
一番うるさいフランゲル一行に、おかわりをよそってから、ルドーも食事にありつく。
少しアクが残ったような渋みはあったが、紫の酸っぱい謎のスープから持ち直したにしては、上々だろう。
「まぁ、その、なんだ、頑張ったんだな」
「やめろや、ボンブ。中途半端な慰めしてんじゃねぇ」
なんとかフォローを入れようとするボンブに、カイムが苦言を呈した。
逆に悲しくなるからやめてほしい。
狼男の姿で、鼻がよく利いていたのか。
ボンブは調理が始まってから、臭いに反応して、何度も何度も確認しに来ていた。
「料理店を開くのはオススメしませんやね」
『僕は食べられればなんでもいいや(-_-)』
「まともに食事とる習慣を付けてからいいなさいや!」
ふむふむと、野菜スープの味のランクを吟味するカゲツ。
その横で、ノースターがグルグルメガネを曇らせながら、味も分からず掻き込んでいた。
余った建材の上に腰かけて、全員で食事を囲む。
少し目を腫らしたキシアも、ビタに寄り添われながら野菜スープを啜っていた。
キシアも泣いた後で、あまり触れられたくはないだろう。
ルドーは色々と考えた後、そう言えばと口を開いた。
「先生、辺境伯ってこっち来ないんですか?」
「あれで多忙だからね。あくまでレペレル辺境領の大型魔物暴走見学遠征であって、辺境伯との面談じゃないし」
ケラケラ笑いながら、五度目のおかわりをした野菜スープを、ゴクゴク飲んでいるネルテ先生が答える。
メロンはもう十杯目だ。
明日の分の野菜スープは、もう残っていないだろうな。
「い、色々と、見識を広めたく、お話は、したかったのですが……」
「大丈夫か、トラスト」
「ぼ、僕にも一杯、ください……」
「とっている、安心しろ」
「あははは、現場監督お疲れ様」
ようやく意識が戻ったトラストが、地面をはいずり、メガネを歪めたまま手を必死に伸ばす。
エリンジとアルスが、トラストを引き起こし、野菜スープの器を渡して、ふらつくトラストをビタの横に座らせていた。
「貴族としての公務と、大型魔物暴走の対処。辺境伯はとてもお忙しい身なのです」
「まぁ強く成るための話が聞けるなら、僕も話聞いてみたかったけど」
「なんたって化け物辺境伯だからな!」
「それを越えてこその最強の魔導士だ」
「エリンジお前、やっぱり道場破りしたかったんだな?」
『かなり楽しい見世物になっただろうな』
ルドーたちがわいわい話していると、傭兵団の様子が変わった。
全員が一斉に警戒の表情に変わって、中央魔森林の方向を見つめている。
「空気が変わりました」
レーションをもぐもぐ食べていたサラセパも、座っていた建材から立ち上がった。
言われてみれば、空気が冷たいような、肌にまとわりつくひんやりした空気が漂う。
「来るのかい?」
「はい、皆さま警戒を。今回は規模が大きそうです」
傭兵団たちがどやどやと、武器を携え、足取り早く中央魔森林の方向に走り出した。
横で様子を眺めていたサラセパが、どうぞご武運をと、両手を組んで小さく呟く。
カシャッと音がして、クロノが割れた自室の窓から飛び降りてきていた。
カイムとボンブの横に並んだあと、同じように中央魔森林の方に顔を向けている。
「五日規模。かなり大きい」
「おっ、お嬢様、わかるのですか!?」
「……」
「お、教えてくれない……」
クロノは相変わらずサラセパのことはガン無視のようだ。
落ち込んだサラセパが、ズンと暗くなってるのに、まるで眼中にない。
周囲が大型魔物暴走が始まると緊張が走る。
そんな中、ネルテ先生が立ち上がって、パンパンとその両手を叩いた。
「さぁみんな! 見学遠征の本領だ、辺境伯や傭兵団の皆さんの邪魔をしないよう、距離を取りつつ現場を見に行くよ!」
「うええええ!? 行くんですかぁ!?」
「上空から眺めるとか、そういうやつじゃないの!?」
「そんなことしたって、現場の空気はわからないだろう?」
ヘルシュとアリアの抗議は、ネルテ先生にあっさりと却下された。
「レペレル辺境領の皆さんは、大型魔物暴走対処には慣れてる。でも万が一という事もあるから、全員撤退方法は必ず確保しながら向かうんだよ! ボンブ」
「なんだ?」
「生徒達の安全確保、手を貸してくれるかい?」
「あぁ、問題はない」
対象範囲が広範囲になりそうなため、ネルテ先生はボンブにも、見回りの協力を取り付けていた。
食事をとり終えた全員は、ビビり散らしながら、それぞれが集団を形成しながら、大型魔物暴走の現場へと急行する。
鬱蒼とした、光の少なく足場も悪い、中央魔森林を奥へと進んでいく。
ルドーがエリンジと顔を見合わせ、クロノの方をちらりと見る。
するとクロノもこちらに気が付いた様子で、一瞬小さく頷かれた。
傭兵団が士気を高めるように、大声をあげて走っているのが聞こえ始めた。
どうやらルドーたちの、エレイーネーの魔法科に様子を見に来ていた傭兵団は、あれでほんの一部だったようだ。
あちこちの広範囲から響き渡る大声。
相当な人数が、中央魔森林の方向に向かっていた。
突撃を叫ぶ声と共に、遠くから魔法が炸裂する爆発音が響き渡る。
ドロドロと大きな地響きが轟く。
前方から森を飲み込むような、真っ黒な魔物の津波が押し寄せてきていた。
「辺境伯は今どこにいるの!?」
「さてね、自分で探すことだ!」
誰が叫んでネルテ先生が答えているのか、もうこの騒音の中では、何がなんだかわからない。
余りにも広い範囲の戦闘。
見学をしようとする全員が、その圧倒的な勢いにのまれながら、自然と散開して散り散りになっていった。
遠くの方に向かって走り始めたクロノを、エリンジとアルスが追いかけていく。
「お兄ちゃん! どこにいくの!?」
後ろでリリアがキシアと共にいながら、ルドーに向かって叫ぶ声が聞こえる。
遠く離れていくクロノを、鬱蒼とした森の中見失うまいと、ルドーは先を走るエリンジとアルスの後に続いた。
『……だーいぶ走ったってのに、まだ大型魔物暴走の音が聞こえるな』
「どんだけデカい規模なんだよこれ……」
「初めて見たけど、おっそろしいな……」
「ここに魔物は来たりしないのか」
「人数が多い傭兵団の方に行ってる。よっぽど近付いて来なければ、こっちには来ないよ」
かなりの距離を走り続けたルドーたちが息を切らす中、けろりとした表情で、クロノは一定の方向を見ながら説明した。
クロノは大型魔物暴走の現状も、かなり距離があるのに分かっているようだ。
そしてクロノは今度は横の方向を振り向く。
かさりと音がしてルドーたちが振り返ると、カイムが赤褐色の髪を揺らしながら、ペタペタと素足を鳴らして付いてきていた。
「随分わかりやすく走ったもんだな、くそが」
「……カイムにとっても、あんま気の良い場所じゃないと思うんだけど」
「あぁ?」
「クロノ、昔調べようとした場所といったな、どこだ」
「そこ」
エリンジの指摘にクロノが指差した方向は、大きな樹木が一本生えていた場所だった。
樹木の根元に、以前ルドーたちが遺跡探索をした時のような、苔まみれの蔦まみれになった、石造りの階段が地下に続いている。
指差した手を下ろしたクロノは、中に入ろうとしないまま、説明を続ける。
「かなり古いし、一度私が入ったから、罠はもう機能してない」
「岩の劣化が激しい、年代の特定は……いや、可能か」
「エリンジ、なんか見つけたのか?」
「見ろ、劣化しているが表札のようなものが落ちている」
「えーとなになに……“カスタレア王室研究施設”?」
「あぁ? 王室の施設だぁ?」
エリンジが地下入口近くに転がっていた、鉄板のような表札を見つけていた。
ルドーとアルスは見下ろし、なんとかかすれた文字を判読する。
読み上げた内容に、カイムが怪訝な表情を浮かべた。
カスタレア王室、なんだかどこかで聞いたような。
ルドーがうんうん悩んでいると、エリンジが呆れた無表情で指摘した。
「三百年前のものだな。かつてファブに隣接して、三百年前に滅びた軍事国家」
「あぁ、そうだ! 学習本で見たんだ!」
「見ても思い出せなきゃ意味ないけど?」
アルスから痛い指摘をルドーが受けていると、聖剣が低い声をあげながらパチリと弾ける。
『王室研究所で胸糞悪い情報ねぇ、きな臭ぇきな臭ぇ』
「クロノ、事前に調べた時の情報ってなんだ?」
「魔物の繁殖が可能かどうか、軍事転用を考えて研究してたって感じ」
聖剣の意見にルドーが確認して出てきた話に、全員が口をつぐんだ。
魔物の軍事転用。
そんな末恐ろしい考えで、さらには繁殖まで考え、研究していた国があったのか。
「……学習本には、カスタレア王国は、魔物暴走で滅んだとしか書いてなかったな」
『かなりやべぇ研究してたっぽいな。滅んじまうわそりゃ』
「おい、俺にとっても胸糞悪い情報ってなんだよ」
アルスと聖剣が考察する中、カイムがクロノに噛みついた。
ただでさえあまり良くない情報だが、ここからさらに、カイムにとっても気が良くない場所というのはなんだろう。
漠然とした嫌な予感に支配されつつ、ルドーたちはクロノの言葉を待った。
「私がここを見つけたのは、まだ十歳のころ。だから、その時は魔人族について知らなかった」
十歳の少女が、魔物蔓延り大型魔物暴走が頻発する、中央魔森林をうろついていた。
その事実に誰も疑問を持たないまま、少し落ち着こうと息を吐いたクロノに、カイムがさらに噛み付く。
「もったい付けんな、さっさとゲロれや」
「今なら、被害に遭ったのが、当時の魔人族だってわかる」
「……あぁ?」
「カスタレアの人間は、たまたま捕えた魔人族の女性を、魔物の進化派生だと誤解した。捕まえた魔物と無理矢理まぐわらせて、交配実験してた記録があったの」
「……はぁ? はぁ!!?」
一瞬何を言われたのか、ルドーたちにはわからなかった。
それはカイムも同じだったようで、理解を拒むような声をあげた後、どす黒い空気を纏って、クロノに信じられないとばかりに掴み掛る。
要はこの地下には、そんなおぞましい交配実験の記録が、びっしりと大量に残されていたらしい。
まるで家畜の交配実験のような、淡々とした記録で。
人間のような反応を示す魔物。
そう記録された女性と、魔物の交配実験の記録。
当時十歳のクロノは、気分が悪くなった。
女神深教との情報のつながりも見当たらず。
それでここの調査は、早々に打ち切ってしまったのだ。
「なんでっ、そんな、なんでもっと早く言わねぇ!!!」
「どうにもならないんだもの。三百年前だよ、もう遺体もどこにあるかわからない……」
掴み掛ったカイムに、クロノは悲痛な声で答えた。
そのまま当時のことを思い出したくないように、大きな木の根元に座り込む。
クロノはもう中に入って、調べる気にもならないようだ。
三百年前の魔人族の同胞に対する、あまりにもな仕打ち。
カイムは怒り狂って、行き場のない虚しさを当て付けるように、近場の木に髪の刃をぶちあてて薙倒していた。
「……エリンジ、調べるか?」
「クロノ、そこまで広くはないんだろう」
「十歳の私でも、一日かからない規模。そんなに大きくないよ」
「王室研究所なのに?」
『ルドー、足元見ろよ。あちこち岩が削れてる』
「……本当はもっと大きい建物で、滅びた後に風化しちゃって、地下しか残らなかったんだ」
聖剣とアルスの指摘通り、ルドーがよくよく周囲を見渡せば、建物の基礎だったような岩が、茂みの中にあちこち埋もれていた。
一番闇深い、最奥に隠されていた場所が、地下だった為に三百年経っても残っていたのだろうか。
エリンジが先行して、地下へと続く階段を下りていく。
見張るような姿勢で、座ったまま手を振ったクロノと、まだ息が荒いカイム。
二人を一瞥した後、ルドーも続いていくアルスの後を追った。
地下に降りた先は、クロノが言っていた通りかなり狭く、三つの部屋しか見当たらない。
一つは既にエリンジが入って、古ぼけた黄色い資料を、崩さないように漁り始めている。
別の部屋では、クロノが言っていた交配実験の記録があったのか、アルスがどんどん青い顔に変わりながら、それでも情報を探して読み耽っていた。
ルドーは二人が手を付けていない、一番奥の方の部屋へと足を運ぶ。
長年地下に放置された研究施設は、埃まみれで、吹き込んだ雨風のせいか、大分状態が悪い。
国の薄暗い部分を取りまとめていた地下だったのか、裏帳簿のようなものや、当時の裏組織のようなものとの記録。
今はもうとっくになくなって、役に立たなさそうな情報ばかりが、乱雑になって捨て置かれている。
「クロノに言われた通り、例のあれとはあんま関係なさそうだな……」
『骨折り損か。まぁ、調べて満足したなら、それもありか』
「だなぁ。エリンジとアルス待って戻るか……ん?」
埃っぽい黄ばんだ本を、適当に手に取ってバラバラと開いていたら、見覚えのある文字が目に入って、ルドーの手が止まった。
“古代魔道具についての仮説について”
『ルドー、どうした?』
一瞬だけ目に入った文字に、ルドーはもう一度本をバラバラと捲る。
そうしてルドーが見付けた記録。
カスタレア王国が、軍事国家であったゆえに、古代魔道具に目を付けて、軍事転用できないか、他国にバレないよう極秘研究していた記録だった。
“古代魔道具の、無尽蔵魔力の再現実験”
“どれも効果は薄い、だが人間を使った実験にのみ、似たような現象を確認”
“……以上のことから、古代魔道具は、人間の魂を吸収、エネルギー源としている可能性あり”
「……え?」
かすれたり破れたりして、全ての文字はルドーには判読不可能だった。
しかし人体実験をした結果、古代魔道具の無尽蔵魔力に対する、似たような現象を確認したと、確かにそう書かれている。
どういう内容の実験をした。
その結果どうして人間の魂を吸収してると、それをエネルギー源にしていると結論付けられた。
「古代魔道具がどのようにして作られたか、知っていてそれを振るっているのか!?」
勇者狩りの言葉が、またルドーの頭に響いた。
聖剣は、古代魔道具の製造方法についてどころか、古代魔道具について口を噤み、詳しく語ろうとしない。
何の疑問もなく、ルドーは聖剣を振るい続けてきた。
だが、古代魔道具は、一体どうやって動いている。
『ルドー? どうした?』
「この記録があるなら、まさかここに……」
聖剣の呼び掛ける声も聞こえず、ルドーはあたりを見渡した。
首を振って、ルドーが怪しいと思った、資料が積み重なって山になっている場所に、即座に跳び付いて掘り進める。
『おい、おい、ルドー、どうした?』
「……やっぱり、あった」
外からの風に吹き付けられて、風に舞った紙の資料が集まった場所。
その下に、一部分が砕かれた、何かを保管していたようなガラスの箱があった。
「“古代魔道具、空想の魔導書保管庫。持ち出し厳禁”……ねぇけど」
『古代魔道具ぅ!?』
聖剣もバチッと困惑に叫ぶが、肝心の古代魔道具が見当たらなかった。
ガラスの箱は、一部が割れて、その中は空っぽ。
クロノがこれに気付いていたら、説明を求めた時に何か言うはず。
おおよそ調査を打ち切って、ここには気付いていなかったのだろう。
この研究施設が放置されるようになってから、三百年。
その間に、大型魔物暴走頻発地帯のすぐ傍のこの場から、この古代魔道具、空想の魔導書を持ち出した奴がいるのだろうか。
ルドーが思考に沈んでいると、外から大きな悲鳴が聞こえた。
カイムの声ではない。
なら対象は一人しかいないが、だとすると何が悲鳴をあげさせた。
『この反応……ルドー、待て、おい!』
聖剣の声にも何も考えず、ルドーは条件反射で来た道を戻って、階段を駆け上がった。
エリンジとアルスも悲鳴に気付いて、ルドーの後に続く。
駆け上がった階段の先、中央魔森林の中は、様変わりしていた。
おぞましい殺気。
空間を支配する、圧倒的な魔力量。
ギョロギョロと動く大きな目が、不気味に周囲を見ているようで見ていなくて。
ワスラプタで雷竜落を放ち、その一撃とワスラプタの崩壊で、てっきりルドーは倒したと思っていた。
消滅を確認したわけでもなかったのに。
悲鳴を上げ続けるクロノに、カイムが大慌てで駆け戻って来た。
歩く災害のボスが、左手に重厚な本を引き摺りながら、クロノの右腕をめきめきと折り潰していた。




