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第二百五話 砂の底の不穏



「あーくそ、なんつー数だよ……」


「流石に慣れてるじゃん、お疲れカイム」


「お化け魔物倒したー?」


 ワスラプタ地下、上から二層目、エリンジとリリアが即座に離脱した階層。

 そこに突入したカイム、クロノ、ライアは、集合墓所に大量発生していた、遺体に取り付く小型魔物を一掃していた。


「にしても、数が多いから敢えて集めて、集合させて衝撃加えて遺体から追い出して、集合巨大化させる、ね。誰が最初に考えたの、そんな倒し方」


「知るかよ。あの魔物は森の滅びた人間の住処根城にしてるタイプだ。魔人族の居住区増やすとき、討伐するのは日常茶飯事なんだよ」


 魔物の発生する瘴気の覆う中央魔森林で暮らす魔人族は、滅びた人間の建物を改装し、居住区にすることが多い。

 魔人族の人数が増えて住処を探す際、建物の中で死亡した人間の亡骸に、この魔物が取りついている事があるのだ。


「なるほどね。でも流石にこの数一人で集めるのは、想定外っぽかったけど?」


「……本来は魔人族でも編隊組む数だよ、くそが」


「へー、凄いじゃんカイム。お疲れー」


「カイにぃおつかれー」


 軽い口調で労うクロノとライアに、疲労で壁にもたれ掛かったまま座り込んでいたカイムは、ジトリと視線を向ける。


 しかし実際、カイムの疲労はかなり溜まっていた。


 最後に集合巨大化した魔物の討伐はクロノに任せたものの、階層丸々頭蓋骨に取り付いた魔物で埋め尽くすような数。

 集めるだけでもかなりの徒労を要したからだ。


 疲労で休むカイムを労わりつつ、クロノは警戒を怠らず、周囲に赤い視線を走らせる。


「でも数が多くて思ったより時間取られたから、そろそろ下の層が見つけちゃってるかな」


 下の階層の気配を探っているのか、視線を下げて呟くクロノ。

 途端にライアが大声をあげる。


「えぇー!? お宝ライアが見つけたいー!!!」


「そうはいっても早い者勝ちだからね、ライア」


 長い紫の髪を左右に靡かせて、慌てるように両足を踏み鳴らし始めたライア。

 そんなライアを、クロノはポンポンと頭を優しく叩いて宥めすかす。


 カイムの様子を労わって、ライアにせがまれても動こうとしないクロノ。

 そんなクロノをカイムがじっと見つめていると、クロノは突然グルリと斜め上の方を向いた。


「……カイム、なんか、デカいのがこっち来てる」


 黒い帽子の鍔を握り、赤い瞳を怪しく光らせてそう呟いたクロノに、カイムは休みつつ顔をしかめる。


「……例のあれかよ」


「うぅん、違う……」


 警戒するクロノに、クロノが怯える相手である女神深教かと、カイムは問いかける。

 だがクロノは首を振り、怯える様子もない事から、そうではないとカイムは判断した。


「あれじゃないけど、ただ……」


「ただ? んだよ?」


「あれと同じくらい、気配、デカい」


 遠くを見つめるクロノの赤い瞳が、不安そうな色を浮かべている。


 女神深教の、不老不死の祈願持ちではない。

 だがそれと同格の何かが、ここに向かって近付いてきている。


 カイムは休息をやめて立ち上がった。


「先、急ぐぞ」


「まだ疲れてんじゃないの?」


「今の話聞いて、んな事言ってられっかよ。てめぇも下に降りる方法探せ」


「……オッケー。ライア、みんなに追いつくよ」


「分かった! お宝さがし、巻き返す! クロねぇあっちが怪しい!」


「はいはい」


 ライアが指差した方向に、カイムとクロノは歩き始める。

 周囲を警戒する表情で、無邪気なライアを守るようにしながら。


「……カイム、この気配、前に一回森で感じた事ある」


「あぁ? 森で?」


「うん。トルポの鉄線殲滅戦の時。ただ、あの時は向こうが遠ざかって行って、私は遭遇したことがないから、何か分からない」


 そう話すカイムとクロノの足は、自然と少しずつ早くなっていった。







「結論から言えば、管制室も水源も、この階層には存在しません」


 探知魔法での捜索を終えたトラストが言い切った。


 エリンジとリリアの合流後、改めて探知魔法を使い階層内をくまなく探したが、発見には至らず。

 道中、線連相手に戦っていた教師たち何人かとも遭遇し、情報交換した末に出した結論だった。


「ワスラプタ表層の罠も止められない、水源も見つからない、この場合どうすればいいのですや?」


 ワスラプタがこんな状態では、マー国の水不足問題は一向に解決しない。


 その被害を受ける現地民のカゲツが、一番困った表情をしていた。


「水源も先に押さえられない、罠の解除も出来ない。今できる事はなんでしょうか」


 キシアの一言に、全員が一斉に考え込む。


 線連の数は多いが、今のところ水源を発見されている様子はない。

 水源を確保して国を乗っ取ろうとする線連側、阻止に動くエレイーネー側、どちらもなにも見つけられていなかった。


 今いる階層に、水源も、ワスラプタの罠を制御する管制室もない。

 ならば線連が次に建てる作戦は何かと、必死に思考を巡らす。


「止めるといっていた、あいつは見つかったのか?」


 エリンジがアルスに向かって問いかける。


 そもそも線連が動いた大元、マー国王族の生き残りのレモコのことを指していた。

 レモコをマフィア組織から引き離そうと動いていたアルスは、口を結んで静かに首を振る。


「いや、管制室や水源を探すのと一緒に探してたんだけど、どうにもこの階層にいないみたいで」


「ワスラプタの罠に、線連も巻き込まれています。同じように、その人も罠に巻き込まれた可能性は高いかと」


 アルスに続くように、トラストも大きく頷く。


「こうなってくると、水源を探すより、そいつか古代魔道具の方を押さえる方が賢明かもしれん」


 無表情で語るエリンジに、その場の全員が顔を見合わせる。


 争点の大元である水源を誰もが抑えようとしていた。

 だがこれだけ探しても、敵味方お互い見つけることが出来ない現状。


 敵である線連も、水源の場所が分からない。

 ならばむやみに探して更なる罠を踏むより、元凶を抑えてみてはと方向転換を提案していた。


「確かにこれだけ時間を労した後でしたら、方法を変えるのも一つの手ではありますわね」


『相手側も、見つからなさ過ぎて焦って来た感じだよね』


 エリンジの提案に、キシアが肯定的に頷いて、ノースターも相手の様子と共に、魔法文字で空中に投影した。


「何も発見できない焦りで、探知魔法を使えるトラストさんを狙ってきたのですものね」


「全く、自力で何もできない犯罪者集団には、ほとほと嫌になりますわ」


 トラストを狙ってきた、幻覚魔法をつかう女性の行方は掴めないまま。

 おおよそ幹部と思われる実力の相手だった。


 そんな相手が観測者の役職を持つトラストを狙うなら、線連側に、観測者の役職持ちは、少なくともワスラプタの地下にはいない。


 入り組んだ二重構造になっているこの階層。

 観測者の役職持ちのトラストでなければ、管制室も水源もこの階層にないと、断言することはできない。


 つまり、水源と管制室を探す線連は、まだしばらくこの階層に、その両方がないと気付く事は出来ず探し続ける。


 敵の戦力が分散する今なら、レモコと古代魔道具を出し抜けるかもしれない。


「問題は、そのレモコも古代魔道具も見つからない、ってとこかな」


 レモコを探し続けているアルスが、お手上げだというように両手をあげて呟く。


 この階層は、他の階層と移動できそうな通路部分が、空間ごと粉々に崩れて埋まっていた。


 修繕魔法は、空間を覆っている妨害魔法に阻まれ、機能しない。

 また空間自体が脆くなっているため、瓦礫を破壊しようと攻撃を加えれば、階層そのものが崩落し、全員が潰れてしまうと予測できた。


 エリンジとリリアが降りてきた、二重構造の裏通路の縦穴で、上に戻ることは可能となった。

 だが縦穴の下には、冷気を発する魔石に、砂が埋もれて埋まっているだけ。


 これより下に更なる階層があるなど、この階層にいる人間は誰一人考えられなかった。


「お兄ちゃん、どこいったんだろ……」


「カイム、クロノ、ヒルガもいないままだろ」


 心配そうに呟いたリリアに、エリンジは淡々と告げた。






 長い階段を登り終わったルドーの目に入ってきたのは、見上げる程天井の高い通路のような空間だった。

 階段を登っただけでへたり切ったヒルガと、息を切らした様子のニグに、その場に留めるように伝え、カンテラを片手に周囲の様子を伺う。


「なんだろうなぁ、壁画みたいなもんがあったようにも見えるけど」


『砂で削れちまって、全然わかんねぇな』


 見上げるような高い天井や、それを支える壁には、装飾の塗装が施されていた形跡があった。


 しかしそれも大量に落下している砂に削られたのか。

 何が描かれていたのかもわからない程、下地の岩の状態に削られている。


 この空間がこの状態になってから、かなり長い年月放置されていることが、ルドーにも容易に想像できた。


「……やっぱ瘴気があんな。ニグ、ヒルガ、離れるなよ」


 カンテラの明かりにうっすらと浮かぶ黒い煙のような瘴気に、ルドーは顔を顰める。


 聖剣(レギア)の反応がないことから、ルドーは周囲に魔物がいないと判断した。

 瘴気に小さい悲鳴をあげたヒルガと、不安そうな表情を浮かべるニグを後ろに、広い通路を歩きはじめた。


「こんな手入れされてない場所のどっかに、古代魔道具に封印されてる、ワスラプタの水源とかあると思うか?」


「えっ、俺? 俺に聞いてんすか?」


「お前以外に誰がいるんだよヒルガ」


 誰もいない周囲を見渡した後、自分自身を指差したヒルガに、ルドーは呆れたように眉を顰めた。


「いやいやいや! だからワスラプタはそもそも王家管轄でして、その知られてない地下空間なんて、いくら俺でもわからないですって!」


 ブンブンと手を顔の前で全力で振って否定するヒルガに、それでもとルドーは食い下がる。


「噂とかなんかあるだろ! 俺に全く情報がない現状、ヒルガの方がまだマシなんだよ!」


「俺の方がマシって何!?」


「いいから! なんでもいいから思い出してくれよ!」


 大声をあげて言い合うルドーとヒルガの声が、広い空間に反響する。

 パラパラと砂が振動で舞い落ちた。


「何か探してるの?」


 言い合いを続けるルドーとヒルガの横で、ニグが怪訝そうに顔を向ける。

 そういえば説明をしていなかったと、ルドーはニグの方に視線を向けた。


「いやな、俺達、ワスラプタの封印された水源を探しに来たんだ」


「封印された水源を? なんでまた」


「その水源を狙ってる悪い奴らが現れたから、先に見つけて、ついでに封印もぶっ壊すってことかな」


「封印を壊す? 王族じゃないのに出来るの?」


「まぁ、一応方法はある」


 怪訝そうな視線を向けてくるニグと話しながら、先の分からない広い通路を歩く。


 そう言えばニグも、祖父を探してワスラプタを訪れた、と話していたことをルドーは思い出した。

 ワスラプタに祖父が住んでいたなら、マー国でも他領のヒルガより、ワスラプタの情報には詳しいかもしれない。


 そう考えたルドーは、ニグの祖父の捜索の件もあり、改めてニグに詳しく話を聞き始めた。


「ニグはおじいさん探して、ワスラプタに来たんだよな」


「うん、無事だといいんだけど」


 祖父の話を出した途端、ニグは心配そうな表情に変わった。

 その表情に、リリアの顔がルドーの頭に浮かぶ。


 どうにも他人事に思えなくなってしまったルドーは、さらにニグに話を聞いた。


「一人で村からここまで来たって、仲良かったのか?」


「うん。私の家、農家なんだけど、力仕事が多くて。私は上手く出来なくて、それでよく怒られてたの。でもおじいちゃんが家に来てるときは、女の子に力仕事は難しいだろうって庇ってくれて」


「家に来てたのか」


 ワスラプタからニグの家のある村は、それなりに距離は離れているらしい。

 それでも、折りあいの悪い両親とニグの関係を心配して、祖父はよくニグの家を訪れていたそうだ。


「おじいちゃんは両親とも、元々あんまり仲は良くなかったんだけど。私を庇うようになって、私の教育に口出しするなって、余計険悪になっちゃって」


「あー、色々あるもんな……」


「おじいちゃんの足腰が悪くなって、村に来れなくなったら、ようやく厄介払い出来たって、お見舞いにもいかなくて」


 思ったより複雑なニグの家庭事情に、安易に聞くべきではなかったかと、ルドーは少し後悔した。


 ルドーと同じく、ヒルガも気まずそうに目を泳がせている。

 一方でニグはなんでもないという表情で、話をさらに続けた。


「足腰が悪くなって会えなくなっても、おじいちゃんからは手紙が届いてたの。私も毎回返事を出してて、それがここ数年ぱったりなくなって」


『そんで様子見に来たって訳ねぇ』


 相槌が打てないルドーやヒルガとは対照的に、聖剣(レギア)がパチパチと弾けた。

 ニグは相変わらず聖剣(レギア)が喋ることに慣れないようで、怪訝な視線を向ける。


 だが真面目に話を聞いていただけの聖剣(レギア)に、ニグは特に何も言う事はなく、そのまま視線を正面に戻した。


「おじいちゃんに会いに行きたいって両親に言ったら、じゃあ路銀分は稼げって言われて。それで農業の手伝い一生懸命してたら、こんなに遅くなっちゃって……」


「まぁ、慣れてなかったり、向いてない奴がやると大変だもんな、農業」


 暗い話題から逸らすようにルドーが言えば、ニグは驚いたように顔を上げた。


「わかるの?」


「俺も一応、農村出身だし」


「えぇっ!? あんだけ化け物みたいに強いのに、戦闘民族の家系じゃないの!?」


 自身がチュニ王国の片田舎の農村出身だとルドーが話せば、ニグは驚いたように目を見開き、ヒルガはもっと大きく声をあげた。


 残響がうるさく響く。


 ルドーは指を耳に突っ込みながら、わけのわからないことを喚くヒルガに、ジトリと反論する。


「なんだよ戦闘民族の家系って」


『農村出身だが、コイツの親は医者夫婦だぞ』


「余計わかんない! なんで戦えてるのこの人!?」


 ヒルガの大声に、空間に残響が響いて、パラパラと砂が落ちる。

 喚くヒルガのうるささに、ルドーが顔を顰めつつ、ニグの方を向く。


「向いてない農業しても、会いたかったんだな、ニグのおじいさんに」


「……うん」


「じゃ、やっぱりおじいさん探すの手伝わねぇとな」


「えぇ? マジっすか?」


 空気の読めない発言をしたヒルガに、流石に看過できないと、ルドーはバシッと頭をひっ叩いた。


 痛みにバタバタ砂まみれの地面を転がるヒルガを放置し、困惑の表情を浮かべているニグを、ルドーはちらりと確認する。


「……本当にいいの?」


「いいって。どうせ出口も水源も探さないといけないんだし、探し人一人増えた所で変わらないだろ」


『遠慮すんな、ルドーは今断っても勝手に探すお人良しだ』


「どういう認識だよそれ」


 揶揄い口調で軽く弾けた聖剣(レギア)に、ルドーはガックリと肩を下ろす。

 きょとんとした表情のニグは、はじめて安堵したようにくすっと笑った。


「……ありがとう」


「まだ見つかってないんだから、礼はいいって」


「俺の意見ガン無視しないでくれませんかぁ!!!」


 砂の上の地面で暴れていたヒルガが、起き上がりざまに大声で叫ぶ。

 大声に残響が響き、またバラバラと砂が落ちる。


 同時に、ボトリ。

 ヒルガの頭に、砂より大きな黒い何かが落下した。


 ヒルガの頭の上でうねうね動く黒い物体。

 ルドーとニグの視線は釘付けになり、当事者のヒルガは叫んだ表情のまま、どんどん顔色を青くしていく。


「ああああああああああああ!!! 魔物おおおおおおおお!!!」


「おい! 走るなって!」


 爆発したように大声で泣き叫んだヒルガは、パニックを起こして走り逃げた。

 頭に付いた、蛇型の小規模魔物がうねうね蠢いたまま。


 走るヒルガに叫びながら、ルドーは蛇型魔物が落下してきた方向を見上げる。

 天井付近の崩れた穴に瘴気が溜まり、そこから蛇型小規模魔物が溢れ出てきていた。


「ニグ、魔物だ! 走れ!」


「う、うん!」


聖剣(レギア)、なんで警告しなかったんだよ!?」


『いやぁ、ちょうどいい位置に落ちそうだったもんで、つい』


「ついじゃねぇだろついじゃ!」


 ヒルガを追ってルドーとニグが走る中、聖剣(レギア)がゲラゲラと笑う。

 天井の穴から出てきた蛇型魔物が、背後でボトボト落ちてくる音を聞きながら、正面を走るヒルガに怒鳴りつける。


「待てよヒルガ! 逃げたらお前の頭の魔物、どうにも出来ねぇだろ!」


『あ、やべ。あそこ罠があるぞ』


「えぇ!?」


 警告にバチッと聖剣レギアが雷に弾けたと同時に、ヒルガが地面の何かをガコンと踏み込んで、そのまま岩の床がバコンと開いた。


 頭に蛇型小規模魔物をぶら下げたまま、虚無の表情になったヒルガ。


 数刻遅れてヒルガが泣き叫んで開いた穴に落下し、ベシャッと潰れる音が響く。


「お助けええええええええええええ!!!」


「あぁもう! 言わんこっちゃねぇ!」


 ルドーが慌てて駆け寄り、穴に落ちたヒルガを上から確認するも、カンテラの明かりが届かず薄暗いせいで、中が上手く確認できない。

 聖剣(レギア)がそれでも危険を察知したように、パチッと小さく弾ける。


『中に魔物多数だ。こっちより多いぞ』


「私、ここで待ってる」


 背後を確認したニグが、ルドーの裾を引っ張って告げる。

 蛇型の小規模魔物はいるが、砂にからめとられ、上手く移動できず距離が開いたままだった。


「悪い! すぐ戻るから離れるなよ!」


 カンテラを渡してニグの頭に手を置いた後、ルドーは穴に飛び込む。


 敵対探知を即座に発動させれば、灯りもなく暗い中、魔物の黒い反応が次々とルドーの視界に飛び込んでくる。


「雷閃!」


「ああああああああ!!!」


 轟音と共に、真白な雷の極太放射攻撃魔法が発射される。


 雷光に照らし出され、頭を抱えて泣き叫びながら蹲っているヒルガの位置を、ルドーは確認した。


 時折雷魔法で魔物を一撃で霧散させて倒しつつ、ルドーは即座にそこへと走り寄る。

 そのままバシッとヒルガの頭に付いたままの蛇型魔物を、聖剣(レギア)で叩き落とした。


「自力で対処できねぇんだから、いい加減勝手に動くな!」


「すいましぇん……」


『やれやれ。瘴気は対処できねぇんだから、さっさと元居た場所に戻るぞ』


 魔物は一掃出来たものの、この空間に薄ら充満する瘴気は、ルドーにはどうにもできない。

 壁や床を攻撃して、雷魔法で明かりを時折確保しながら、ニグの居る、落下してきた穴の方へとヒルガと一緒に戻る。


 怯え泣くヒルガに呆れながら歩いていると、不意に上の方から、ガシャンとガラスが割れる音がした。


「……ニグ?」


『ん?』


 ここに来るまでの間、ガラスが割れるような音を発するものは、灯りを照らしていたカンテラしかない。


 誤って落としたならまだいいが、カンテラを落とさざるを得ないような何かが起こっていたとしたら。


「ニグ!? おい、聖剣(レギア)!」


『っ!? よくわからんがよくねぇぞ、急げ!』


 状況を確認しようとルドーが声を掛ければ、聖剣(レギア)は警告を発した。


 ニグになにか良くないことが起きている、それだけはルドーにも理解できた。


「ニグ!? おい、返事しろって!」


「おうふっ!?」


 慌てたルドーは、暗闇の中ヒルガを手探り、問答無用で肩に担ぎあげた。

 そのまま音の下方向に走り、聖剣(レギア)を勢いよく地面に向かって振り下ろす。


「雷閃!」


「せめて一言言ってからにしてええええええええ!」


 雷の砲撃魔法を下に向かって発射し、ルドーはヒルガを抱えたまま、元居た穴の傍に向かって上昇する。

 嫌な予感に胸騒ぎがしつつ、あっという間に穴を抜けた先でルドーが見たもの。


 雷閃の雷光に照らされたそれは、割れて火の落ちたカンテラ。


 そして大きな血だまりに、引き摺られた血の跡だった。


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