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第二百四話 管制室の真実、降りてきた希望

 


「はっはぁー! もっと研究しがいのある攻撃型魔道具でも持ってきたらどうかね!?」


「ちょいとギラン! この空間がどの程度で崩れるかもわからないのに、砲撃魔法を安易に撃たないどくれよ!」


 青白い極太の閃光が、線連を大量に薙ぎ払っていく様子を遠目に、ネルテは大声をあげた。


 隊列を組んでいたはずのエレイーネー教師陣は、ワスラプタ表層の罠によって、地下通路内をバラバラに配置された。


 他の学年とも合同での編成が、これで全部台無しである。


 攻撃規模に慌てて走り去っていく線連を追いかけていく、唯一近くにいた教師のギランに、ネルテの横にいたボンブが大きく溜息を吐いた。


「無駄だ、あの人間は魔道具のこととなると、人の話を聞く様子がまるでない」


「わかっちゃいたけど、ね!」


 ネルテはそう言って振り向きざま、背後に忍び寄っていた線連の一人に、巨大な緑の魔法の拳を練り上げ、殴る動きで叩き込んだ。

 強烈な一撃に、線連の相手は遠く吹っ飛んでいき、遥か彼方の通路の壁に叩き付けられて動かなくなる。


 もっと興味の湧く魔道具を持った相手はいないかと、ギランが遠く走り去って行くのを眺め、ネルテが倒した線連を縛り上げていると、背後から強烈な衝撃音が連続した。


 ネルテが振り返れば、通路の先から溢れかえって来た複数の線連たちを、ボンブが赤黒い魔力を練り上げて、両手を次々振り下ろし、袋叩きにしていたところだった。


「わぁ! そういうボンブもいつになくやる気じゃないか」


「ここにいる人間どもに、魔人族を誘拐していた鉄線と同じ匂いを感じただけだ」


 怒涛の攻撃にバタバタと倒れた線連の連中を睨み付けながら、ボンブが狼の鼻を上に向け、周囲の臭いをかぎ分ける。

 狼男の姿のボンブが忠犬の鼻の役職で、周囲から悪意を探り出し、潜伏する線連の正確な場所を割り出していた。


 かつて同胞である魔人族の救出のため、魔道具施設を襲っていたボンブ。

 同じようなマフィア組織である線連に、ボンブは少なからず苛立ちを感じている様子だった。


 ネルテはボンブを慰めるように、言葉を否定せずに声を掛ける。


「まぁ、マフィア組織がやるようなことだ。同じ事を繰り返される前に、その芽は早いうちに積んでおいたほうがいい」


「……なぁ、ここに本当に管制室はあるのか?」


「どういう事だい?」


 周囲に首を向け、上げた鼻を動かし続けていたボンブは、解せないような表情で顔を下げてネルテの方を向いた。


「この空間、マフィア組織以外から悪意を全く感じん。何一つ臭ってこない」


「あれだけの規模の罠を表層に設置しておいて、悪意が全くないって事かい?」


 ワスラプタの表層そのものが罠に変えられていたのに、そこに悪意がない。


 俄かには信じられないが、ワスラプタが防衛反応でこの状態になったならば、考えられない話でもない。


「あまりに古すぎて、悪意の匂いも消えた可能性もあるが……」


 考えうる可能性を挙げて、ボンブは首をひねる。


 ワスラプタがいつからこの状態になっていたのか。

 マー国からの報告は全くなかったので、まるで予測が立たない。


 マー国は封印された水源から、水不足に荒れた国内の治安維持でてんやわんやの状態。

 ワスラプタの調査に人手を割けるほど、余裕はなかった。


「……なんだろうね、何か大事なことを、見逃してる気がする」


 ボンブの話と自身の感じる違和感に、ネルテは顎に指を添える。


「何か根拠でもあるのか?」


「女の勘さ」


 ニカッと笑ったネルテに、ボンブは頭を抱えた。






 管制室を探していたトラストたちは、また線連の集団と会敵し、交戦を続けていた。

 襲い掛かってくる線連に攻撃しようとしたアルスが、カゲツの蔦植物に絡み取られ動けなくなった。


「うわっ!?」


「あぁー!? 申し訳ないですや!」


 誤ってアルスを拘束したカゲツは、あわあわしながら謝り倒して蔦の拘束を解除する。


 眼鏡の奥で黄色く瞳を光らせながら、周囲を視線で見渡してトラストは叫んだ。


「敵の動きが何か変です! 警戒してください!」


『確かになんか変だけど、具体的にどうおかしいの!?』


 蛇腹のノズルを構えたままのノースターが、注意文のように空中で魔法文字を派手にビカビカ光らせる。


 先程から、線連に向けた攻撃がなぜか当たらない。


 遭遇した集団の練度が高いのか、攻撃はまるで霞のように消えて躱され、外れた攻撃が仲間の方へと誘導される。

 同士打ちを何度も狙われる動きに、全員が次第に攻撃を少しずつ躊躇するようになっていった。


「攻撃の避けられ方が人外じみておりますわ」


 瞬きの一瞬で消える相手に、攻撃対象を見失って、ビタが構えたまま歯がゆそうに呟く。


 ビタの扱う変化魔法は、壁や床を変化させ、巨大な塊や拳で殴りつけるもの。

 万一味方に直撃すれば、その味方が気絶しかねない威力に、攻撃が出来ず歯噛みしていた。


 ビタの意見に、カゲツが顔の前で手を振る。


「いやいやいや、クロノさんみたいな人外、敵にポンポン出て来られたらたまりませんや!」


「あれを知ってるせいで、可能性がないと言い切れないのが酷いね」


 化け物じみた身体能力を持つクロノを、同じ科目生徒として持つ魔法科。

 その化け物っぷりの実態を目の当たりにしているせいで、これが人の動きとして可能なのか、その場の全員判別がつかなかった。


「いえ、これは何かカラクリがある動きです。問題は本体が捕えられないので、観測者が上手く機能できないという事ですが……」


 トラストの観測者は、対象を認識できなければ意味がない。

 しかし先程から攻撃を仕掛ける線連に、観測者が上手く働かなった。                             


 見えているはずの敵に効かない観測者に、トラストは明らかに違和感を感じていた。


 ただ問題は、人外の動きをするクロノも、あまり観測者が効いた手ごたえを感じた試しがないこと。


 本当の規格外ならば、観測者を使っても意味などないのではないか。


 薄らと感じる焦りに、トラストは頭を振ってそれを否定しようと、必死に黄色い魔力で周囲に目を凝らす。


 既視感。


 こちらの攻撃がまるで通らない線連の動きに、トラストは何となくそんなことを感じていた。


「きゃあっ!?」


「キシア!」


 爆発音がしてトラストが振り向くと、キシアが自身の拡散魔法の爆発に巻き込まれていたところだった。


 爆発に後ろに吹き飛んだキシアに、アルスが咄嗟に抱き抱えて受け止め、傷の様子を確認している。


 おかしい。

 拡散魔法を高頻度で使用するキシアは、相手の距離なども考慮し、キシア自身に攻撃の余波が届かないよう十分計算してから動いているはず。


 ただ避けられた程度で、あそこまで攻撃の余波を受けるようなことはしないはず。


 それに攻撃を避けた線連は、かなりの大柄の男だった。

 霞のように消えるにしても、キシアがそれを考慮しないはずはない。


「不覚を取りましたわ、私がこのようなミスを……」


「大丈夫だからキシア、喋らないで」


 キシアは頭から血を流しているものの、意識ははっきりしている様子だった。

 抱き抱えたアルスが、手を掲げてキシアに回復魔法を施し始める。


「ビタさん、魔力伝達を! 探知の範囲を広めます!」


「わ、わかりましたわ!」


 キシアの負傷に狼狽えていたビタは、トラストの掛け声にはっとして駆け寄って来た。


「援護しますや!」


『二人に攻撃通らないように!』


 ビタと手を繋いで、トラストとビタの二人で魔力を循環させ始めた。

 そこにカゲツとノースターが前に走り寄って、警戒するようにそれぞれ構える。


「……どこいきましたや?」


『攻撃避けて消えた後まだ出てきてない、隠れてる?』


 狭い入り組んだ通路を、全員が攻撃を警戒して視線を巡らせる。


 そこでトラストはあることに気付いた。


 攻撃をしようとする素振りはあった。

 でも今のところ誰も、遭遇した線連から直接的な攻撃を与えられていない。


「探知――――! やっぱり、幻覚魔法です!」


 魔力伝達で範囲を拡大した探知魔法に、今まで警戒していなかった何もなかった場所に、人がいることが引っかかった。


 トラストが魔力伝達で増幅した魔力で、観測者を集中して判明した情報から、逆効果の魔法を次々発動して無効化する。


 線連の集団が霞みのように次々と消え去っていき、そこににっこりと笑った、背の低い女性が姿を現した。


「先程の集団は全て幻覚です! 幻覚と戦って同士討ちを仕向けて、自滅するように仕掛けられていたんです!」


「どうして私たちが対峙する相手は、卑怯者しかおりませんの!」


 判明した相手の情報に、ビタが憤慨して叫んだ。


 トラストが感じた既視感の正体。

 かつて鉄線殲滅戦で、透明化魔法を使用する相手と戦った際、同じように攻撃性に違和感を感じていた。


 はっきりと見えない相手からの動きに、どことなく既視感を感じていたのだ。


「幻覚魔法で同士討ちを狙ったという事は、種がバレた今は丸腰という事ですや!」


『一気に畳みかける!』


 意気揚々と構えたカゲツとノースターに、にこりと笑った女性は、真正面から走り込んできた。

 カゲツが即座に動きを止めようと、植物を大量に生やす。


 カゲツよりは大きいものの、平均身長より小さい女性は軽やかに身を翻し、スルスルと蔦の隙間を掻い潜ったと思ったら、ひらりと足をしなやかに動かしてカゲツを蹴り飛ばした。


 しなやかな流れる動きに、カゲツは大きく吹っ飛ばされ、通路の奥の壁にドカンと叩き付けられる。


 その動きにノースターも女性に向かって、魔法薬をノズルから放出した。

 だが女性は足をあげてくるくると後方に回転していき、時折当たったと思ったら、幻覚魔法が霧散して消え、踊るように華麗にその全てをいとも簡単に躱してしまった。


 攻撃ができないから幻覚魔法を使う人間の動きではない。

 戦い慣れた人間が、幻覚魔法を応用して戦闘する厄介な動きだった。


「あいたたたたた……力強くないのに、思ったより遠くまで飛ばされましたや」


『まずい、これ普通に強い人だ』


 黙ったままニコニコ笑って佇む女性に、全員の警戒度が一気に上がる。


 何一つ言葉を発する様子のない女性は、まるで狙い定める相手を指定するかのように、ゆっくりと人差し指をトラストの方に向け、そして次に通路の方を指した後、女性自身を指差す。


 “管制室の場所を、お前が探して教えろ”


 一言も発しない女性から、ジェスチャーでそのように言われた気がした。

 その場にいる全員が、トラストと同じように女性からそう感じ取った。


「聞く必要はないからな、トラスト!」


「二人掛かりで押さえますわ!」


 回復魔法を終えたアルスと、血を拭ったキシアが即座に反応する。

 トラストを抑えられたら、管制室制圧が敵側に回る。


 仲間を守る気持ちと、相手の意図を阻止するという目的意識で前に立った。


「うわっ!?」


 アルスが走り込んで、氷魔法の槍を振り下ろした瞬間、女性は軽やかな動きで身を翻す。

 空を切った氷の槍の勢いのまま、アルスは背中を掴まれて勢いを利用され、さらに勢いを増してぐるりと回されながら、キシアの方に向かって放り投げられた。


 攻撃を構えていたキシアは、飛んできたアルスに咄嗟に拡散魔法を中断せざるを得ず、その行動で回避が一歩遅れて、アルスともども勢いに吹き飛ばされて壁に激突した。


「ただの卑怯者ではないとおっしゃいますの!?」


 ビタが女性を捕まえようと、変化魔法で地面から細い管を伸ばして檻のように囲おうとしたが、檻が完成したと思ったら女性は囮の幻覚。

 霞のように女性消えたと思ってトラストが慌てて探せば、女性はノズルを構えたまま、攻撃できずに狼狽えていたノースターの目の前に迫っていた。


 女性の手の甲の一撃で、ノースターの腕ごとノズルを上に向けられ、次にさらに追撃がノースターの胸部と肩に二撃入る。


 ノースターが衝撃によろけた瞬間、女性が縦回転してノースターの背後に回ったと思ったら、空中に跳んでくるりと回って足の一撃を繰り出し、気付いたノースターが咄嗟に横に跳ぶ。


 攻撃の一瞬をついてノースターがノズルを向けて魔法薬を発射するも、またしても霞むのように幻覚が消えて姿が見えなくなる。


「後ろですノースターさん!」


 トラストが叫んだがもう既に遅く、女性はノースターが振り返るより先に足でノースターに組み付いて、グルグルとその周囲で身体を回し、その勢いでノースターを天井に勢いよく叩き付けた。


 ガン、ガン、と天井と床に叩き付けられたノースターは、うめき声をあげた後、そのままガクリと気を失って、放射魔道具を抱えたまま動かなくなった。


「トラストさん! 先に進んでくださいまし!」


 ビタが即座に大声をあげて、背後の壁に手を付ける。

 変化魔法で壁がガコンと動き、即座に大きな新しい通路が出現した。


「隠されている方の通路へ! 入り口は私が閉じます、そうすればあの方は追って来られませんわ!」


「分かりました、ビタさんも一緒に!」


 ビタの叫びを聞いて、女性が即座にこちらに走り寄り始める。

 幻覚魔法でどれが本物かわからないよう、どんどん同じ女性の影を増やしながら迫る女性に、トラストは壁に隠されていた二重構造の通路の方へと飛び込んだ。


「ビタさんも早く……!?」


 息を切らしながらトラストが振り返った先に見えたのは――――壁。


 二重構造の通路の、元居た通路側とつないだ道は、ビタが通ることなく既に閉ざされていた。


「ビタさん!?」


「この方を足止めする人間も必要でしょう、それくらい考えればわかる事ですわよ!」


 壁越しに、ビタの叫ぶ声が聞こえた。

 最初から、ビタはトラストを二重構造の通路に通した後、自分は足止めとして残る算段でいたのだ。


 アルスとキシアが倒れ、ノースターも気絶している。

 相手はかなりの手練れ、このままだとビタもただでは済まない。


「でもそれだとビタさんが!」


「良いから早く管制室をお探しになって! ここで倒れた方々の犠牲を、無駄にするおつもりですの!?」


「そういうことなら時間稼ぎお手伝いしますや!」


「……犠牲じゃない、まだこっちも動けるよ!」


「頼みましたわトラストさん、早く!」


 壁越しに、カゲツとアルスとキシアの声も聞こえる。

 両手を握りしめ、壁に押し付けたトラストは、覚悟を決めるように大きく深呼吸した。


「分かりました! 皆さん無理はしないように!」


「誰に向かっておっしゃっておりますの!」


 ビタの叫びを背に、トラストは通路を走り始める。

 先程までいた手入れされた空間と違い、砂にまみれて足場の悪い、長い間誰もいなかったような空間。

 光魔法を片手に通路を照らし、妨害魔法でも可能な範囲で探知魔法を使って、トラストは管制室を探し、入り組んだ通路を走り回る。


 息を切らし、無理に走って喉から血の味がし始め、脇腹に痛みが走り始め、砂に足を取られて時折転んでも、即座に跳び起きて、走るのを辞めない。


 しかししばらくして、円形にくりぬかれた、真っ暗な縦穴に辿り着いた。

 そこから周囲には、伸びる通路が見当たらない。


 上にも下にも続く、闇に囲まれた縦穴は、明らかにこの階層だけのものではないが、それはこの階層は、ここから先のない行き止まりになっている事も示していた。


「まさか……そんな、管制室自体が、存在しない……?」


 トラストが通路に侵入してから、ここまでずっと一本道だった。

 ワスラプタの罠でこの階層に降りてから、探知魔法で二重構造の通路をずっと探っていた他の場所も同じ。


 この階層の規模がどれだけなのかわからないが、これだけ入り組んだ構造をしていると、もうどこかで少しでも痕跡が発見できてなければおかしかった。


 ワスラプタ表層の罠を制御する管制室が存在しない。

 辿り着いた事実に、トラストはただただ絶望した。


「管制室がないなら、水源も発見できない。この階層に水源らしきものも見当たらない。どうしよう、このままだとビタさん達みんなが……」


「きゃああああああああああああ!!!」


 壁にもたれてズルズルと崩れ落ちたトラストが、何か見落としはなかったかと必死に考えていると、突如として悲鳴が聞こえる。


 聞き慣れた声に上を見上げれば、トラストにとって希望の光が縦穴の上から降りてきていた。


「うーん、一方的な蹂躙ってきっついなぁ」


 攻撃に傷付いて、少しずつボロボロになっていきながら、アルスが呟く。

 倒れたノースターを人質に取られないように保護しながら、全員で攻撃から身を守るように固まっていた。


「せめて俺の氷魔法が当たれば、多少はマシなんだろうけど」


「トラストさんがいないと、幻覚魔法の無効化自体が出来ませんわ」


「まったく、自分に力がないとおっしゃって、本当の強さに自覚がないから嫌になりますわ」


「実体がありませんから、こうやって固まっていれば幻覚の同士討ちは回避できますが、このままだとこちらの攻撃も届かずジリ貧ですや」


 女性はニコニコ笑ったまま、ひたりとビタを指差し、次に壁を指差す。


 “さっきのように、さっさとあけろ”


 黙ったままの女性のジェスチャーに、その場の全員が顔をしかめる。


 先程から受け流して威力をあげる攻撃に、身長が少し低い小柄な体型。

 女性は戦い慣れて厄介ではあるものの、単体での攻撃力はそこまで大きくはない。


 どうやら、彼女だけではこの通路の壁を突破できないようだ。


「あとは状況を改善するか、逃走できればいいんだけど」


「どこまで幻覚の範囲内かわかりませんのに、逃げ切れますかや?」


「動いた瞬間、こちらの動きから逆算して動かれてますわ。タイミングを見て逃げませんと、下手すると全滅しかねません」


「……いざとなれば、私が簡易シェルターも作れますが……」


「それだとトラストの方に行かれちゃうよねぇ」


 トラストに威勢よく足止めを叫んだ以上、自分だけが安全圏にいる方法を、ビタは取りたくないと唇を噛んでいた。

 コツコツと、笑う女性が近付くヒールの音が響く。


「この程度で苦戦するか」


 近付く女性に全員が警戒して構えていると、背後の壁の中から声が聞こえた。


 全員が振り返るより先に、ぶわりと囲む結界魔法が張られ、同時に虹色に輝く巨大な砲撃魔法が通路を包んだ。


 歩み寄って来ていた女性の表情が焦りに変わる。


「エリンジくん! せめて伏せろとか、一言言えないの!?」


「お前が結界を張るだろう、問題はない」


 エリンジの言葉に、リリアがスパンとその頭を叩く。

 背後からの砲撃に穴が開いた壁の中から、トラストが引き連れたエリンジとリリアが這い出してきていた。

 ハンマーアックスの柄で地面をコツコツと叩くエリンジは、無表情のまま通路に視線をむけて、女性が先程までいた場所を睨み付ける。


「かなりの手練れか、逃げ足が速い」


「えっ、逃げられたの!? トラストくん探知は?」


「……引っかかりません。すみませんリリアさん。エリンジさんの言う通り、逃げられました……」


「遅いんですや合流班! なにしてたんですや!」


 トラストが引き連れて現れたエリンジに、カゲツが憤怒の形相でびしりと指差す。

 しかしエリンジは答えた様子もなく、フンと小さく鼻を鳴らした。


「幻覚魔法の使い手など、空間すべてを砲撃すればいいだけのことだ」


「それは貴方みたいなゴリ押し戦法の効く、魔力バカにしか出来ない方法ですや!」


「まぁなんであれ、エリンジ、助かったよ」


「正直言いますと、かなり厳しかったですわ」


「ノースターくんは、うん、気絶してるだけ。大丈夫」


 気絶したままのノースターにリリアが駆け寄り、診察魔法の魔法円を確認した後、即座に回復魔法を施す。

 リリアの回復魔法に、うめき声を上げ始めたノースターにほっと一息ついたところで、トラストは背を向けているビタの方に近寄った。


「……管制室のほうはどうなさいましたの」


「見つかりませんでした、というより、この階層には管制室がない可能性が高いかと……」


「それでノコノコ戻ってまいりましたの」


「だって、ほっとけませんでしたから……すみません」


 ビタ横に並んで、ゆっくりと頭を下げたトラスト。

 その様子を見たビタは、肩を震わせて真っ赤になった。


「もう! 弱いままなのに、そういうところですわよ!」


「えっ?」


「あーはいはい! とりあえず管制室はこの階層になかったってことで、方針ちょっと考えよう! エリンジとリリアも合流した事だし」


 困惑するトラストと、ぷいっと顔を背けたビタに、アルスが慌てて駆け寄ってくる。


 ワスラプタの罠を制御する管制室は存在しない。


 判明した事実に、全員が驚愕しながら、次の行動を考え始めた。


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