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第二百三話 地下迷宮管制室捜索班

 

 迷路のような構造をした通路は、あちこちで人が押し合い、戦いながら駆け巡っていた。

 他の階層とは違い、石畳で出来た通路に砂は少なく、比較的管理が行き届いた空間。


 この階層のどこかに水源がある可能性が高い。


 先行していたエレイーネー側も、マフィア組織線連も、水源を確保しようと走り回っては戦闘を行い、必死に探し回っていた。


「わぁ、ちょっと人数多くて嫌になっちゃうよ」


「言っている場合じゃありませんわよ! 通信魔法も使えないまま、援護も呼べませんのに!」


 狭い通路で背中合わせにキシアとアルスは構えながら、挟み込むように囲まれた線連の連中たちと対峙していた。


 それぞれが小型の武器型魔道具を手に、こちらを押し込めようとじりじりと間合いを詰めて迫ってきている。


「キシア、後ろの方任せてもいい?」


「私に任せるとおっしゃいますの?」


「もちろん、最近凄く頑張ってたから、いけるよ。大丈夫」


「あぁもう! 調子の良い事ばかりおっしゃいますのね!」


 顔を赤らめながらキシアが叫ぶと同時に、じりじりと間合いを詰めてきた線連の連中がわっと一斉に襲いかかる。

 アルスは両手を前に出し、軽く集中して形状を頭にイメージした。


 周囲の空気が一気に冷え込む。


 氷魔法で作り上げた槍を手に、アルスは向かってくる線連相手に突っ込んだ。


 鍛えているとはいっても、未成年で非力な腕力では、向かってくる戦い慣れたマフィア相手に、アルスでも太刀打ちできない。

 だがそんなことを言っていては、魔物に一人で対処できないまま、レモコをマフィアから引っ張り出すことも出来ない。


 アルスが氷魔法の槍を振るえば、次々と線連の当たった箇所が凍り付く。

 最低限の攻撃だが、一気にパキパキと凍り付く攻撃に、凍傷の痛みに悲鳴をあげてバタバタ倒れていく。


「金属製の武器持ってると、皮膚に張り付いて剥がれなくなっちゃうよ!」


 氷魔法の槍の攻撃を武器で受けようとした線連に、意気揚々と攻撃を繰り出し、武器ごと相手の手を凍り付かせながら、アルスはそう叫ぶ。

 魔力が少なく、道具に頼って戦っていたマフィア連中は、その一言に一気に怯んで距離を取り、遠距離の魔法攻撃に切り替え始めた。


「あぁもう! 余計厄介にさせてどうしますの!」


 飛来して爆発する遠距離魔法を、アルスとキシアがそれぞれ防御魔法を身体に張って防ぎつつ、今度はキシアが正面に来た線連に集中する。


「要は武器が弱点なのでしょう!」


 振り下ろされた武器型魔道具を、編み込まれた深緋色の髪を靡かせながらスルリと躱し、流れる動きでそこに手を向ける。

 拡散魔法を武器型魔道具に集中させれば、ドカンと大きく爆発して、武器型魔道具は一瞬にして粉々に砕け散った。


 武器を失った線連は一瞬怯んだものの、今度はキシアに対して拳を即座に振り上げてくる。

 しかし振り上げた拳は、空中で突如としてピタリと固まった。


「私が使えるのは、何も拡散魔法だけではありませんわよ!」


 振り上げた線連の男の拳が、魔法によって空中に吸い込まれ、動きを封じられていた。

 拡散魔法の真逆、収束魔法によって、振り上げた男の腕を、空中に吸着させて固定していた。


 キシアは動けなくなった男の目の前に、小さな拡散魔法の球体を発生させて後ろに下がる。

 十分下がったところで、動けない男の目の前で拡散魔法を発動させれば、大きく爆発して、直撃した線連の男は倒れて動かなくなった。


「さぁ、お次はどなたかしら?」


「ほらやっぱり、背中預けても大丈夫」


 キシアに怯み、同じように遠距離攻撃に切り替えたキシア側の線連。

 挟み撃ちになるような遠距離攻撃に、狭い通路で避ける場所もないまま、アルスとキシアはその場にしゃがみこむ。

 周囲で爆発する遠距離魔法を、時折防御魔法で防ぎながら、キシアは視線を巡らせた。


「拡散魔法と収束魔法を見た後に、遠距離魔法の攻撃を集中するのは、悪手ではありませんこと?」


「余裕そうだねキシア、任せていい?」


「えぇ、すぐ終わりますわ」


 キシアが手を上に伸ばして集中すれば、収束魔法によって、線連の連中が放つ遠距離攻撃魔法が、一斉に一ヶ所に集まり始めた。

 その動きに線連が一旦攻撃をやめるも、時既に遅い。


 キシアは収束した攻撃魔法を、お返ししますと言わんばかりに、拡散魔法に切り替え、線連の方に一斉に投げ返した。


 連続する爆発と悲鳴が、狭い通路を覆うようにあがる煙に響き渡る。


「――――ふぅ、お粗末様ですわ」


「これで、ある程度は引けを取らなくなったって言えるかな」


 戦闘を続け、爆発に倒れ、煙をあげながらピクピクしている大量の線連の連中を眺めながら、キシアとアルスがそれぞれ呟く。


 狭い通路を挟むように、周囲を囲んでいた線連の連中を返り討ちに出来た。


 魔物相手に四苦八苦していた入学時を思い出して、しみじみとアルスは腕を組んで頷き、キシアはほっとしたように両手で胸を押さえる。


「アルスさん! 私、今日はお役に立てましたでしょうか?」


「もちろんだよキシア。お役どころか大活躍」


 おずおずとアルスに声をかけたキシアに、アルスはにこやかに答えた。

 途端に嬉しそうにはにかんで笑いながらも、足の先まで真っ赤にさせたキシアは汗を飛ばし始めた。


 そこに聞き慣れた声が飛び込んでくる。


「アルスさん! キシアさん!」


「こちらにいらっしゃいましたの! 全くあちこち探しましたわ! これだから手のかかる、ゆっ友人は!」


「トラスト、ビタ」


 栗毛眼鏡のそばかす少年と、紺色の長髪を携えた少女が駆け寄って来ていた。

 バタバタと走り寄ってくるチームメンバーに、アルスとキシアは顔を向ける。


「お二人共ご無事でしたのね」


「この程度の者に引けを取るような無様、晒すわけありませんでしょう。全くこれだから心配症の方は」


「ぼっ僕たち、伝令と合流を、頼まれているんです!」


 走り寄って来たビタに、キシアもすぐに駆け寄った。

 友人と呼ばれて嬉しそうにしていたキシアは、もじもじとしながらビタに小さく声を掛ける。


「ビタさん、私、友人ではなく親友とお呼びしたいですわ」


「べべっべ別にどうしても呼びたいとおっしゃるならお構いなくってよ!」


 途端に真っ赤になってそっぽを向いたビタを眺め、アルスは息も絶え絶えなトラストの背に手を当てつつ、言葉を反復した。


「トラスト、伝令と合流って?」


「合流は、ぜぇっ、落下ではぐれた生徒で、はぁっ、集まるようにって、ネルテ先生から……」


「そこまで走ってないでしょう、これだから体力がない殿方は嫌ですわ」


 呆れたように溢しつつも、ビタは息のあがったトラストに近寄って回復魔法をかけ始める。


 ネルテ先生からの指示と聞き、アルスは周囲を見回して確認する。

 だが見慣れたタンクトップのラフな姿は見当たらず、どうやらネルテ先生は、トラストとビタと一緒ではない様子だった。


 アルスが周囲を見回している間に、回復魔法で大分マシになったのか、ようやくトラストが顔を上げた。


「あっ、ありがとうございます、ビタさん」


「ふん、パートナーとして当然のことをしたまでですわ」


 トラストにお礼を言われて、ビタは顔を背けた。

 わかりやすく耳まで真っ赤になっている様子をアルスはちらりと確認した後、トラストの方に向き直る。


「そんでトラスト、伝令の方は?」


「この階層のどこかにある、管制室の発見と制圧です」


 回復魔法で息が戻ったトラストの話に、アルスとキシアは疑問の表情を浮かべる。


 トラストの語るネルテ先生からの指示。


 見る限り古い構造の通路に、似付かわしくない管制室という言葉を聞いて、キシアが声をあげる。


「管制室?」


「はい、遺跡階層がこの規模だと、ワスラプタ表層の罠か、水源位置の管理をしている管制室があるはずだと」


 ワスラプタそのものを罠に変化させた状況。

 それを行ったのが一人の人間か、それとも複数か。


 どちらにしても、それだけ巨大な規模だと、制御するにはある程度の魔力か、機構が必要になってくる。


 遺跡都市であるワスラプタに、元々その機構が組み込まれているとしたら。


 朽ち果てた資料らしき紙が散乱した部屋が点在する、管理区画のようなこの階層。

 そのどこかに、表層の罠を制御できる管制室がある可能性が高かった。


 ワスラプタの罠が、本来水を使ったものであるならば、当然、水源も関わってくる。


「線連の方々も、そこを狙って動いていると思ってよいとのことでしたわ」


 一通りトラストの回復を終えたビタも、視線を戻して話に入ってくる。


「要するにそっちに行けば、レモコもいる可能性が高いってことか。腕が鳴るね」


 アルスの本来の目的は、因縁のある同郷のレモコを、マフィア組織線連から引き上げること。


 あくまで私情ではある。

 だがマー国王族の生き残りと断定され、線連が所持しているマー国の古代魔道具を使用する可能性が高いならば、ある程度人となりを知っている人材も必要。


 無理をして暴走しないようにと、ネルテ先生からの苦言を噛み締めながら、バシ、と拳を掌に叩き込み、アルスは意気込む。


「ネルテ先生と合流した際、交戦中の線連も状況に混乱している様子でした。おおよそこの状況を作り出したのは、線連でもないことは予測できます」


 トラストの説明に、アルスとキシアはこの場に来た時のことを思い返す。


 エレイーネーの教師陣と同行し、マー国の封印された水源を狙うマフィア組織線連と対峙するため、ワスラプタに到着した。


 偵察隊からの連絡が無くなり、戦闘音もしないワスラプタ。

 不審に思いつつ近寄った瞬間、ワスラプタが区画ごとひっくり返った。


 いつから遺跡都市のワスラプタ表層が、そのような罠の状態になっていたかは定かではない。


 ワスラプタそのものが罠と化し、巨大すぎる規模に、エレイーネーの教師陣も想定外が過ぎた。


 気が付けば全員がバラバラに、地下のどこかに散らばって倒れていたのだ。


 アルスとキシアが状況を再確認している間、トラストは続ける。


「妨害魔法が相変わらず働いていて、通信魔法が使えないので、口伝での連絡を取るよう指示されました」


「なるほどね、それで生徒で集まるよう合流して、可能なら管制室を探せってことか」


「妨害魔法のせいで、広範囲の探知魔法が使えませんから、先生方と手分けする必要があるという事ですわね」


 トラストの説明に、アルスとキシアは納得したように頷く。


 線連の数が思ったより多く、且つ偵察が機能せず規模が分からないまま。

 その状態で、生徒をばらけさせて行動させるのは、戦力に不安しかない。


 その為、トラストはたまたま合流できたネルテ先生から、そのように口伝するよう指示を与えられた。


 今後の方針が固まって来たところで、アルスはトラストに問いかける。


「ネルテ先生はその後どうした?」


「線連の相手がその場に複数いたため、対処しつつ奥の方を探索するとおっしゃっていました」


「なので私たちは指示通りに、別方面に向かって他の方々を探していたという事ですわ」


 トラストとビタは、パートナーとして近くで行動していたためか、地下でもすぐ合流できるところで倒れていた。

 時折線連の連中と邂逅して、魔力伝達の変化魔法で、周囲の壁や床を変化させて拘束させつつ移動している所で、線連の連中複数と戦闘中のネルテ先生と出くわす。


 そうして戦闘の合間に飛ばされた指示に、あちこち走り回って、アルスとキシアを発見したのだった。


「なるほどな、じゃああと見つかってないのは、カゲツとノースターか」


「……あそこから生えてきている植物、そうじゃありませんの?」


 キシアの指摘に全員が振り向くと、わしゃわしゃと伸びてくる蔦が、廊下の先に視認できた。

 こんな水気も日の光もない場所で、植物は自然発生しない。


 カゲツの役職、ハーブセラピストによって生やされる、植物魔法の蔦だ。


「あぁもう! マー国で密かに囁かれていた、遺跡都市ワスラプタの旧都市に明らかには入れたっていうのに、砂ばっかりで商売になりそうなものが何一つ存在しませんや!」


『お宝さがしに来たわけじゃないでしょ?』


「歴史的資料でもいいんですや! 認証が取ればそれだけでもうがっぽがっぽ!」


『ここまで来るとすがすがしくて嫌になっちゃう( ˘•ω•˘ )』


 大声をあげて、短い薄茶髪をひらひらさせながら、幼児体型でぴょんぴょん飛び跳ねるカゲツ。

 喚きつつその場にいた線連を複数、手をグイッと上げて蔦にがんじがらめにさせていく。


 グルグルメガネのすぐ横で、ピカピカと空中に魔法文字を光らせて応対するノースター。

 ノースターは背中に担いだ放射魔道具から、蛇腹状のノズルを蔦に絡まった線連に向け、魔法薬をブシャーッと勢いよくぶっかける。

 即座に蔦がバキバキと岩のように硬くなり、蔦に絡められた線連の連中は、起き上がるどころか身じろぎ一つ出来なくされていた。


「カゲツー、ノースター、こっちこっちー!」


「おやおや! 皆さんお揃いで!」


『問題なさそうだね、良かった』


 アルスの声掛けに気付いたカゲツとノースターが、即座にこちらに走り寄って来た。

 トラストが駆け寄ってきたカゲツとノースターにも、同じように事情を説明する。


「……なるほど! 話は分かりましたや。この全員で、管制室を目指せばよろしいのですやね!」


『場所わかるの?』


「マー国内でもワスラプタの地下空間は、それこそ噂レベルのおとぎ話に近い存在! わかるわけないですや」


『( ˘•ω•˘ )』


「まぁ、かなり古そうですものね、ここ」


 マー国出身のカゲツの返答に、グルグル眼鏡越しに不服そうにしているノースターを、キシアはまぁまぁと宥める。

 一方でトラストは、不安そうに視線を下に向けた。


「手分けしている先生方が見つけてくれれば、御の字なんですが」


「迷路みたいに入り組んでいて、その上かなり広いんですのよ。だから私たちにも制圧指示が出たんですわ、ちょっと考えればわかるでしょう?」


「……そうですね、すみません」


「なななな、落ち込ませようと、いい、いったわけでは」


 眼鏡を曇らせどんよりと落ち込み始めたトラストに、ビタが大慌てで訂正に入った。


「しかし迷路構造ですと、逆に怪しいですや」


「大事なもんは隠してそうだよね。トラスト、周囲の探知はどう?」


「たしかに、さっきから妨害されても可能な範囲の探知魔法を使っていますが、周囲の構造、なんか変なんですよね」


 キシアとアルスの指摘に、トラストは改めて顔を上げると、眼鏡越しに瞳を黄色く輝かせ、観測者の役職越しに探知魔法を使い始めた。

 全員がその様子と話しに、怪訝そうな視線を向ける。


「変って?」


「壁越しに、水路とはまた違った通路があるんですよ。二重構造って言うんですかね、そっちもかなり入り組んでますが」


 さらに詳しく調べるように、トラストは壁の方へと近寄った。

 横でキシアが確認するように、同じように珊瑚色の瞳に魔力を宿らせて探知魔法を使う。


「……私の探知では何の反応もありませんわ」


「ひょっとして、観測者の強力な探知じゃないと発見できない?」


 キシアの言葉に、確認を取るように他の者も探知魔法を使うが、同じように何の反応もなかった。


 観測者は、探索に特化した役職となる。


 その役職効果で見つけられない二重構造の通路ならば、同じ役職を持たない先生方も、同様に見つけられないのではと、その場の全員が辿り着いた。


「先生方で観測者って、スペキュラー先生だけだよね」


「戦闘中なのも相まって、話、聞き出さないよねそれ」


 恐ろしく話の長いスペキュラー先生は、基本、時間のある安全地帯で緊急報告以外、話は無視される傾向が多い。


 探索に特化したトラストと同じ観測者の役職持ちなのに、それが遺跡探索という一番使い勝手のいい場所で、使われても情報共有されにくいのだ。


 通信魔法が妨害魔法に遮断され、先生方が各々線連と対峙しながら探索を進めている状況では、尚の事情報共有が難しい。


「……管制室の制圧を指示されてるんだし、俺達でそっちは調べよう」


「捜索の過程で先生に会えれば報告、それでいいと思いますわ」


「ついでに、いい感じのお金になりそうなもの見つけましたら、報告をばお願いしますや」


『聞かなくていいよ(-“”-)』


「ほら、あなたが頼りですのよ、しゃきっとしてくださいまし」


「えぇっと、頑張ります」


 眼鏡越しに瞳を黄色く光らせて探知魔法を使うトラストを先頭に、足並み揃えて全員が歩き始めた。


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