表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/234

第百九十六話 対策の成果

 

 ルドー達がヒルガに追いついた頃には、マー国の小さな村はずれに到達していた。

 まるで廃墟のように崩れて汚れ、砂色の煉瓦建物が何軒か立ち並ぶ、村とギリギリ呼べるような場所。


 活気も何もない、あちこちにゴミが散らばる、どうにも治安の悪そうな場所だ。


 刺すような強烈な日光と熱に、砂漠からの照り返し。

 熱気にあてられた中、ヒルガを追いかけ走り続けたルドー達は、クロノを除いて全身真っ赤の汗だく状態だった。


 カイムに背負われたライアが、涼しい顔で楽しそうに冷やかす。


「つっかまーえたー!」


「てめぇいい加減逃げるのも大概にしろや!」


「同行指名したのはそちらだ。今更蒸し返すな」


 熱気に当てられたまま走り続け、顔を真っ赤にさせたカイムと、走り続けて息が上がり、肩で息をしていたエリンジが、ヒルガに詰め寄っていた。


 エリンジの虹魔法に追い立てられ、ヒルガはとうとうカイムの赤褐色の髪に捕まった。

 胴体を縛られて無様に倒れているヒルガは、にこやかに笑いつつも、冷汗をかいて必死に弁明し始める。


「あっあっ、いやいやいやあのね? なんか戦闘で皆さんお疲れかなと思いましてね、休憩できる場所をですね?」


「……怪しい」


「嘘臭い」


『言い訳がましいな』


「いやん信用されてないわ俺!」


 ぼたぼたと額から落ちる汗を、ルドーはリリアと共に拭いつつ、今思いついたような言い訳を話すヒルガについツッコミを入れた。

 リリア、ルドー、聖剣(レギア)に立て続けに否定され、ヒルガは必死の表情に変わる。


「回復魔法が使えるし、腕の一本くらいいっとく?」


「腕より足だろ、また逃げられんのうぜぇわ」


「あらやだいつものお二人凄い怖い会話してる待って待って!?」


 カイムの隣で、クロノが両手をボキボキ慣らしながら不吉に呟く。

 真っ赤なままのカイムは、顰めた顔をヒルガに向けて、狙う場所を吟味し始めた。


 二人は既にヒルガから、全科目合同訓練の際に三ヶ月限定スイーツを三つ子に渡す話を、無理矢理取っちめて敢行させることで、ギリギリ反故させないようにしている。

 ヒルガに対して一番信用がないのが、カイムとクロノの二人といえるだろう。


「回復魔法など使うな。魔力の無駄だ」


 ようやく息を整えたエリンジも、いつも以上に眉間に皺を寄せていた。

 ハンマーアックスを構えたまま、無表情でヒルガを見下ろす。


 途中から逃げるヒルガに、魔力の無駄も気にせず、虹魔法を大量放射して激しく追い立てていた。

 反省を促すその攻撃に、エリンジはこれで、かなりヒルガに譲歩している方だ。


「三人とも程々にね?」


 リリアが危険なニコニコ笑顔に変わり、暴力的な事を言い始めた三人を止める気配もなかった。


 天使的な良心の人だろうと、優しそうな雰囲気に、リリアを舐めてかかっていたのだろう。

 怒らせると一番怖いのが、リリアだとも知らずに。


 リリアのニッコリ笑った一言に、ヒルガはヒッと悲鳴をあげた。


「うわああああ! 味方が一人もいない!?」


「そりゃあのタイミングで逃げりゃそうなるだろ」


「みんな怒ってプンプン!」


「すみませんごめんなさい出来心なんです許してください!」


 カイムの髪に胴体を巻かれたまま、器用に平伏して、土下座するような姿勢で謝り始めたヒルガ。

 王侯貴族の通う、礼儀作法を弁えた、由緒正しき基礎科生徒の姿は微塵も感じられない。


 余りにも必死に謝る姿に、ルドーは流石に気の毒になって、怒気を放つ全員に振り返った。


「なぁ、もうこう言ってるし、反省してるみたいだから許してやらないか?」


 ルドーが両手を前に出してそうとりなせば、全員から一斉に大きな溜息と、項垂れるような反応が返された。

 お前はそう言う反応をするよな、という呆れた視線が全員から一斉に集中し、ルドーは逆に困惑する。


 ルドーの話を聞いて、ヒルガはぱあっと希望に顔を輝かせ始めた。

 しかし聖剣(レギア)ですら、流石にどうかとパチパチ雷が弾けている。


『一発ぐらいいいんじゃねぇか?』


「ひっ! 反省します反省しますもう勝手に逃げませんからぁ!」


「信用ならねぇぞこいつ」


「スイーツの件も、何度も何度も逃げ回ってるからね」


 ヒルガの弁明にも、カイムとクロノは不審な目を向けている。

 本当にこいつを信用するのか、そんな視線がルドーに向けられていた。


「いや、俺も警告言わずに雷竜落ぶっ放しちまったのもあるし」


 不審の目をヒルガに向け続けるカイムとクロノに、ルドーは自身の不手際も添えて弁明する。


「それにこいつ基礎科だから自衛できないだろ。もう逃げないっていうなら、混乱しての逃走って事で、とりあえず一回は許してやってもいいんじゃないか?」


「もう、お兄ちゃん……」


「一回ねぇ」


「ケッ、てめぇの頼みだ。今回だけだぞ」


「仕方ない、妥協案だ」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ルドーの説得で、ようやく全員が握っていた拳を下ろした。


 カイムの髪に縛られたまま、ルドーに感謝の平伏をするヒルガに応対する。


「リリア、カイムに回復かけてくんない?」


 エリンジが改めて周囲を警戒して確認する中、唐突にクロノがリリアに声を掛けた。


 ずっと顔が赤いままのカイムに、リリアはクロノの指摘もあって、診察魔法で確認し始めた。

 しかしカイムはライアを背負ったまま、面倒そうにそれを避けようとする。


「あぁ? いらねぇ」


「いるでしょ、軽く熱中症になってる」


「あっ、ほんとだ。ちょっと待ってね」


「カイにぃだいじょうぶー?」


 クロノの指摘に、リリアが診察魔法の魔法円を確認し、回復魔法をかけ始めた。

 ずっとカイムの顔が赤かったのは、熱中症だったからのようだ。


 以前にもカイムはマーの砂漠にいた際、フラフラと意識が朦朧になって一番影響を受けている。

 どうやらカイムは高温には弱い様子だ。


 文句を言いながらも、大人しくリリアに回復魔法を掛けられ、少しずつカイムの顔色が戻って行く。


「なぜここを選んだ」


「いやその、ほんとに一応休憩できる場所をって、一番近い村をですね……」


 カイムがリリアに回復魔法を施され、ヒルガの拘束がようやく解かれた。

 すかさずエリンジが逃げ場所を選んだ理由を問い質す。


 だが地元の為地理に詳しいヒルガは、純粋に近場だったこの村に逃げ込んだだけらしい。


 ルドーはエリンジとヒルガの会話に、周囲を改めて見回す。


 あちこちに散乱するゴミ、そこら辺に倒れて寝ている地元民、ハエがたかっていそうな腐った食べ物。

 あまり治安がいい場所には見えない。


 建物が少ないためか、住民の数も少ないのだろう。

 ルドー達の方には目もくれず、倒れたまま眠りこけている。


 エリンジは周囲を一通り眺めた後、疑うような無表情でヒルガに問いかける。


「休憩できるか、お前はここで」


「あっえっとー、村の様子までは知らなかったもんで……」


「どっちにしろ村の人巻き込むから、あんまり長居出来ないって」


 休憩のためといいつつ、物取りでも出そうな悪い空気の村に、エリンジはまたヒルガの印象が悪くなったようだ。

 どんどん深くなる眉間の皺に、ルドーはそもそも長居できないと指摘した。


 今ルドー達は勇者狩りが襲ってくるのを待っているのだ。

 勇者狩りは勇者以外は狙わないとは言うが、不測の事態が発生すれば、何が起こるかわからない。

 地元住民が近くにいる場所で、戦闘することは避ける方が良かった。


 ルドーがそう思って、一休みが済んで村から離れようと提案するが、その時クロノが不意に顔を上げた。


「……どうやらもう手遅れっぽい。ルドー、カイム、エリンジ」


「来たか」


「村の正面方向、あちこち移動しながら」


 村のほとりで、クロノは赤い目を砂漠の方面を凝視しながら告げた。

 あちこち移動する標的に、視線と一緒に顔が動いている。


 標的である勇者狩りが、ルドー達の方向に向かって来ている。


 ルドー、エリンジ、カイムは即座に戦闘態勢に入れるように、村から離れるように前に出た。


「リリは村の方守りつつ下がってろ」


「お兄ちゃん、無茶しないでよ」


 背後からリリアの不安そうな声がかけられる。

 一方でカイムもクロノの方へ走り寄った。


「ライア、クロノ頼んだ」


「わかった!」


「そこ普通逆じゃない?」


「その方が言う事聞くんだろが」


 戦闘に巻き込むまいと、そしてルドーと同じ勇者であるライアを、危険のないよう一番強いクロノにカイムは預けた。

 カイム自身に何かあっても、ライアだけはクロノが守ってくれるようにと。


聖剣(レギア)、分かるか?」


『一瞬一瞬すぎて、相変わらずさっぱりだ』


「やっぱ難しいか。()()!」


 ルドーは聖剣(レギア)を正面に構えたまま、大きくそう叫ぶ。

 バチッと聖剣(レギア)から大きく雷が空間に弾けた。


「カイム、あれいけるか!?」


「もうやってらぁ! だが動き見えてからじゃねぇと追い込めねぇぞ!」


「そっちは来てからだな、エリンジ!」


「いつでもいける」


「よっし、そのまま待機だ!」


「近い、来てるよ!」


 ルドーがカイムとエリンジと確認作業を続ける。

 ライアを抱きかかえたクロノが、リリアとヒルガの前で二人を後ろに下がらせつつ叫んだ。


「なになになにが始まるんです!?」


「ヒルガくん、あぶないから後ろ下がってて!」


 クロノの後ろで、リリアが自衛できないヒルガをさらに後ろに下がらせる。

 村に影響が出ないようにと、即座に結界魔法を大きく張り巡らせた。


 勇者狩りの姿は相変わらず見えない。


 転移魔法とは違う魔法での移動方法。

 ただ、モルフォゼで気配を見ていたクロノが言うには、転移魔法のように移動して、即座に攻撃して消える、という方法とはまた違うという。


 移動してから攻撃するまで、転移魔法とは違い、時間がかかっていた。

 だからこそ勇者狩りはいつも死角から攻撃し、ルドーが殺気に少なからず反応することが出来ていた。


 狙うとしたら、その移動から攻撃までの時間だ。


「ぬぅっ……!?」


 バチバチと弾ける音が連続的に響いて、ルドー達は咄嗟にその方向を向いた。

 そこにはモルフォゼで見た勇者狩りが、古代魔道具の羅針盤を構えない状態で、雷魔法に全身を弾かれていたところだった。


 かかった。



「動いた、カイム!」


「どっからでも来やがれ!」


 勇者狩りは、バチバチと雷に弾かれながらも、こちらに向かって走って来ていた。


 敵だと認識した相手の魔力を探知する、攻撃魔法しか使えない、ルドーの敵対探知。

 そこからの応用。


 こちらに殺気を向けてくる相手は――――敵。


 殺気を向けてきた相手に、聖剣(レギア)の雷魔法を遠隔で自動発動させる。


 すなわち――――敵意迎撃だ。


 勇者狩りは、あの古代魔道具の羅針盤を構えていなければ、聖剣(レギア)の攻撃は防げていなかった。


 盾のような大きさの古代魔道具。

 サバイバルナイフを駆使して奇襲をかけるには、攻撃に邪魔になってくる。


 どういう方法かわからないが、攻撃の際に近寄ってくる時、あの羅針盤は構えていなかった。

 奇襲的な戦闘方法から、攻撃と防御は同時に行いにくいとルドー達は分析したのだ。


 そしてそれは、攻撃を行ってくる移動時点でも同じ。


 一度攻撃さえ当たれば、聖剣(レギア)の雷魔法は防御魔法を貫通する。

 今更羅針盤を取り出しても遅い。


 勇者狩りの動きは、以前のような、どこにいるかわからない動きではない。

 相変わらず予備動作もなく忽然と消える。

 だが前回の襲撃と違い、現れた瞬間、殺意に反応してバチバチと雷魔法が自動迎撃する。


 前回の襲撃と同じような不意打ちは、もう勇者狩りには出来ない。

 ならば勇者狩りが次に行動するなら、攻撃を受けても強行する奇襲。


 こちらに向かって来ていた勇者狩りが、また唐突に消えた。


「消えた! カイム!」


「その動き止めたらぁ!!!」


 勇者狩りは、死角を狙って不意打ちの攻撃をしてくる。

 ならばその死角に、罠を張り巡らせればいい。


 張り巡らされていた透明化した髪が、一気に勇者狩りに襲い掛かる。

 歩く災害も止める程、強力に強化した髪。

 それを透明化魔法で視認できない状態に変化させる。


 勇者狩りが奇襲を狙う死角に、その透明化魔法で視認できなくした、強化した髪を張り巡らせた。


 罠を仕掛ければ、あとは獲物がそこに突っ込んでくるのを待つだけ。


 ルドーの背後に回った勇者狩りは、敵意迎撃にバチバチと弾けながら、強化髪の罠網にまんまと雁字搦めになった。


「エリンジ!」


「いつでもこい!」


「雷閃!」


 ルドーは振り上げた聖剣(レギア)を、その場で大きく振り下ろした。

 途端にエリンジに向かって、轟音と共に大量の雷魔法が降り注がれる。



 魔力伝達の要領で、古代魔道具聖剣(レギア)の攻撃魔法を取り込めないか。



 何度目かのクロノとの勇者狩り疑似戦の組手で、エリンジはそんなトチ狂ったことを提案してきた。


 エリンジは今回初めて思いついたわけではない。

 魔力を奪われ、魔力伝達でリリアの魔力を補充してもらっていた時、ふと思いついていたそうだ。


 ルドーとの組手で何度も何度も、あえて攻撃をわざと受ける様にしていたのも、これが可能かどうか試すため。

 そうしてクロノと勇者狩り疑似戦で実践し、見事発動させることに成功していたのだ。


 バチバチと弾ける雷魔法が、強大なエネルギーがエリンジの身体に収束していく。

 全身が雷魔法に光り輝き、エリンジ本来の虹魔法と合わさって、強大な輝きを放っていた。


 轟音を轟かせ、まるで落雷のような速度で、エリンジは勇者狩りにハンマーアックスを構えて突っ込んでいった。


 カイムの強化髪に捕らえられた勇者狩りは、ハンマーアックスの一撃を防ぎきろうと、古代魔道具の羅針盤を取り出し構えた。


「その動きは読めている!」


 古代魔道具の攻撃は、古代魔道具であれば防ぐことは可能だ。

 ならばその防ぐ動きの裏をかくにはどうすればいいか。


 一度目の攻撃が本命だと、フェイントを掛ければいい。


 ハンマーアックスによる攻撃が来ると防ぐ構えを取った勇者狩りは、当たる直前で大きくハンマーアックスを上空に投げ上げたエリンジの動きを読み切れなかった。


 魔法攻撃ではない、強化した肉弾攻撃を、羅針盤で防ぎきれない勇者狩り本体の位置に叩き込む。


 何度も何度も、肉弾戦特化のクロノと組手し、その度に敗北してきたエリンジだからこそ、的確にその強烈な一撃が入った。


 周囲一帯を吹き飛ばすような衝撃波が、攻撃の当たった勇者狩りから発生する。


 同時にエリンジの体内の雷魔法が、これでもかと勇者狩りに一斉に雪崩れ込んだ。

 みぞおちに当たった右手の拳から、大量の雷魔法が勇者狩りに叩き込まれる。


 古代魔道具の羅針盤を持ったままの勇者狩りが、白目をむいて大きく口を開けて唾を吐き出し続ける。


 ようやくまともに勇者狩りに攻撃が通った。

 これでなんとか倒れてくれと、ルドーははやる気持ちで、雷魔法に輝くエリンジを見つめ続ける。


 雷魔法を取り込んだエリンジが、どんどん出力をあげるように、轟音と光が強烈になっていく。


「ぐっ……この、ああああああああああああ!!!」


 真白になっていく空間に、勇者狩りの断末魔が響く。

 光りに両手で目を覆いながらも、ルドーはエリンジの方向を必死に見守り続けた。


 大きな耳鳴りと共に、雷魔法が集束する。


 バタンと倒れた音にルドーが目を見開けば、煙をあげた状態で、エリンジがその場に倒れていた。

 取り込んだ雷魔法の魔力が、バチバチと周辺に小さく弾けている。


「エリンジくん!」


 リリアが叫んで即座に駆け寄る。


 魔力伝達の要領で聖剣(レギア)の雷魔法を取り込むと言っても、大元が無尽蔵の魔力を持つオーパーツだ。

 加減してエリンジに雷閃を撃ち込んでも、エリンジの肉体そのものへのダメージは相応に大きい。


 勇者狩りは、黒く焼け焦げ大きく煙をあげた状態で、白目をむいて仰向けに倒れていた。

 手元に構えていた古代魔道具の羅針盤も、取り落とすようにその場に少し離れて落下していた。


「おっしゃああああああああ! 勇者狩り確保おおおおおおおお!!!」


『ヒュー! 相変わらず滅茶苦茶してくれるぜ!』


 モルフォゼであれだけ苦戦した勇者狩りは倒した。

 作戦通りの成果に、ルドーは雄叫びをあげながら大きく右手を掲げる。


「やったぁー! クロねぇ、カイにぃ、エリにぃがやったぁ!!!」


「アホ! とっととそいつの古代魔道具取り上げろ!」


「エリンジくん! エリンジくんしっかり!」


 倒れた勇者狩りを、カイムが即座に強化した髪で縛り上げ始める。

 倒れたエリンジにリリアが横にしゃがみ込み、ようやく回復魔法をかけ始めた。


 回復に声を上げ始めたエリンジに、ルドーは功労を称えようとエリンジに向かって走り寄り始めた。


 空中を漂う砂の量が、多くなってきているとも知らずに。

 地面で寝ていた村の住民が、変化した空気に起き上がって、のそのそと村の建物の中に入っていく。


「っ……!?」


「クロねぇ!?」


 ルドーが勇者狩りの方を見ていると、唐突に背後からどさっと何かが崩れ落ちる音が響いた。


 ライアの声にルドーが振り返れば、クロノがライアを強く抱きしめたまま、赤い瞳に恐怖の色を浮かべてカッと見開き、ガタガタ身体を震わせ地面に崩れ落ちている。


「転移魔法……違う、本体じゃない……何か送り込んできてる……」


「おい、クロノどうした!?」


『あの反応まさか……』


 ブツブツ呟き始めたクロノへのルドーの呼びかけに、カイムも勇者狩りの全身をぐるぐる巻きにした髪を維持したまま、ガバッとこちらを振り返る。


 クロノが怯える時は、今までの経験から女神深教の祈願持ちに対してだけだ。

 つまりクロノは、不老不死の祈願持ちの気配を、この付近のどこかで感じ取った。


「……あぁ? くそ、こんなタイミングで! チッ、てめぇら舌噛むなよ!」


「カイムもどうし、うわぁ!」


「なになになんなのぉ!?」


 ルドーがクロノの方を注視していると、唐突に胴体部分がグイッと引き寄せられた。

 ヒルガの情けない悲鳴も聞こえる。


 カイムがルドー達全員に向かって髪を伸ばし、胴体を掴んで周囲に集めたと思ったら、途端に髪を大量に展開する。


 一体何事かとルドーが思った瞬間、グワッと風が舞った。

 視界がどんどん黄色く染まり、真っ暗に変わっていく。


 砂嵐だ。


 勇者狩りを倒れたままに、カイムは砂嵐に巻き込まれないよう、全員を髪で掴んで寄せ集め、その場に髪をドーム状に広げて包み、シェルターを展開したのだった。

 髪のシェルターの中で全員がそれに気付いて狼狽える中、カイムは髪を伸ばしたまま、ライアを抱き押さえて震えているクロノの方へと駆け寄った。


「クロねぇ……」


「おい、どうしたクロノ。何があった」


「この砂嵐でも強引に、転移魔法で突破してきた……巨大魔力、つまりあれは、縁祈願(ゆかりきがん)……」


 聞き覚えのある名前に、ルドー達はぞっとして立ち尽くす。


 リンソウでエリンジとネルテ先生から魔力を奪い、ルドーがウガラシの時にあと一歩という所で取り逃がした縁祈願(ゆかりきがん)


 それが今、何らかの方法を使って介入してこようとしている。


 醜い鉤鼻の老婆の姿が、ルドーの脳裏を掠める。


 髪のシェルターの外では砂嵐が吹きすさみ、とても状況を確認することなどできない。

 カイムが拘束した勇者狩りも、咄嗟の事にその場に置いてきてしまっている。


 落ち着かせるようにしゃがんだカイムに両肩を掴まれ、クロノは恐怖を吐き出すように、荒く呼吸をし始めた。

 落ち着き始めたクロノに、ルドーも近寄って話しかける。


「クロノ、縁祈願(ゆかりきがん)がここに来てるのか?」


「……本体は来てない。何か転移魔法で投げてった。……多分、歩く災害」


 クロノの告げた言葉に、ルドーは外の様子が分からず狼狽える。

 どこか遠くで、吠えるような雄叫びを聞いたような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ