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第百九十三話 助言に悩む日常

 


「うーん、攻撃効かないやつに対する対策かぁ」


 休日の食堂での昼食。

 ルドーはダブル照り焼きバーガーを咀嚼しながら、今後の魔法訓練の組手をどうするべきか考えていた。


 この間のエリンジとクロノの衝突もあったが、ルドーは相変わらず、エリンジ、カイムと共に、勇者狩り擬似戦を続けている。


 クロノとしては、一刻も早くルドー達に強くなってもらいたいらしい。


 寸止めでは危機感が薄れるかと、クロノはわざわざリリアに許可を取り、組手の際にルドー達にある程度攻撃を加えるようになった。


 あくまで疑似戦の為、クロノの化け物身体能力で、殴る蹴るなどはされていない。


 ナイフの柄での軽く叩かれる程度ではあるが、手加減されていても、一瞬意識が飛ぶほどの攻撃。


 ルドーは倒れては聖剣(レギア)の雷魔法でバチリと身を焼かれ、意識を取り戻す行為を、組手の間繰り返していた。


 ナイフの扱いもある程度出来る様子のクロノ。

 それも女神深教への恐怖心から覚えたものなのだろうか。


 度重なる魔法訓練の組手の対策を考えながら、ルドーはガブリと照り焼きバーガーを頬張る。


 ルドーはモルフォゼで襲われた勇者狩りの動きを、改めてじっくりと思い返す。


 エリンジとカイムの攻撃は、全て躱され空気を切っていた。

 だがルドーの持つ聖剣(レギア)の雷魔法の攻撃だけは、勇者狩りの持つ古代魔道具によって防がれ続けていた。


 つまり、勇者狩りは聖剣(レギア)の雷魔法は防げはするが、避けきれないという事か。


「勇者狩りは、多分古代魔道具をあいつから取り上げれば、聖剣(レギア)の攻撃は通るんだよな」


『雷竜落防いだのは古代魔道具だしな』


「要は、古代魔道具を勇者狩りから取り返せれば良いわけで、必ずしも勇者狩りを倒す必要性はないんだよな」


『問題はあれが強過ぎて、倒さなきゃそれが出来そうにないってこったな』


 聖剣(レギア)の出した結論に、ルドーはまたがっくりと首を項垂れる。


 目的を達成するためには、手段をどうにかしなければならず。

 手段を達成しようとすると、今度は目的が邪魔してくる。


「うーん、古代魔道具を持った状態の勇者狩りを、どうやって倒せばいいのやら……」


 まるで見えてこない突破口に、ルドーはもぐもぐとダブル照り焼きバーガーを咀嚼しながら唸る。


「次はエリンジの方に俺様は掛けるぞ!」


「それじゃあ僕はルドーの方かな」


「ハイハイハイあえての同率狙いです!」


「……人の訓練で俺たちの誰が何回倒れるかとか、変な賭け事するなよフランゲル!」


 攻撃をどう通すかルドーが唸っていると、少し離れた机を囲んだフランゲル一行が賭け事を開催していた。


 その内容は、魔法訓練のクロノとの組手で、誰が一番気絶して倒れるかどうか。


 ルドー達が真剣に取り組む真面目な訓練を、フランゲル一向にエンタメ消費されている。


「嫌ならば倒れなければよいではないか!」


「倒れたくて倒れてるんじゃないんだってこっちは!」


「あんまり大きな声出さないでよ、この子が怖がるじゃない」


 ルドーがフランゲルと言い争い始めたところで、同じ机を囲んでいたアリアが苦言を呈した。


 真っ赤になった顔面を隠すように、頭の羽がばさりと顔を覆った魔人族の少女。

 プルプル小さく震える彼女を労るように、食堂の椅子に座ったまま、アリアが少女の肩を抱えていた。


 怖がらせたと非難の声を聞いて、ルドーは素直に頭を下げて謝る。


「あ、悪い。大丈夫か?」


「なんとか逃げ出す癖は脱したところよ。ほらメギク、こいつはルドー。周囲に振り回される苦労人だから、貴方も好きなだけ振り回すが良いわ」


「どういう紹介の仕方してんだよ……」


『まぁ間違っちゃいないな』


「えぇ……」


 アリアは抱えていた魔人族の少女、メギクに、ルドーを紹介した。


 アリアとヘルシュの二人で対応するようになったメギク。

 彼女は人と対面した瞬間赤面し、呼吸が止まるという重度のあがり症だったらしい。


 そのせいでルドー達の誰もが声を掛けても、メギクは脱兎のごとく逃げ続け、まともに会話が出来なかった。


 三つ子の罠騒動の際、メギクは偶然伏せていたため比較的マシな状態で、その後はカイムについての会話だった為、あがり症が多少抑えられていたそうだ。


 アリアとヘルシュと行動するようになったメギクは、最初はかなり落ち込んでいた様子だった。


 アリア曰く、メギクは勇者聖女症候群での「通過儀礼」という状態を脱したらしい。


 だが魔人族の国の平和を左右する聖女の役職を授かっているのに、まともに魔法使えないほどの酷いあがり症。


 メギクはルドー達のような訓練ではなく、とりあえず人馴れしろという臨時措置がエレイーネーにてとられている。


「というか、フランゲルもヘルシュも勇者だろ。同じ勇者なんだから、勇者狩りに狙われるのも同じだし、二人も勇者狩りを模倣してくれてるクロノと組手するべきなんじゃないのか?」


 ルドーの殺し文句に、フランゲルとヘルシュは揃って顔を真っ青にさせ、両手を顔の前で激しくバタつかせ始めた。


「あんな化け物相手、同じ化け物のルドーがするのが筋というものだろう!」


「残念ながら、僕まだ攻撃力乏しいんだよね。無理無理」


「お前らそんなんで勇者やってけんのか?」


 必死に出来ない理由をつらつら述べるフランゲルとヘルシュに、ルドーは呆れた視線を投げる。


 勇者狩りを何とかしなければ、ルドーと同じ勇者の役職持ちの、フランゲルとヘルシュも狙われる。

 エレイーネーから外に出られない事は、二人ともルドーと同じはずなのだが。


 賭け事を勝手に開催された溜飲を下げつつ、当事者なのに他人事のお気楽な様子のフランゲルとヘルシュに、ルドーは呆れて首を振った。


「そもそもグルアテリアの管理が杜撰だったから、古代魔道具が勇者狩りに渡るなんて事態になってんだぞ、ヘルシュ」


「あっはい。それはもう、当事国勇者として猛省しております。はい」


 ルドーの指摘に、神妙な表情で委縮し始めたヘルシュ。


 大元を辿れば、グルアテリアがもっと厳重に古代魔道具を保管していればよかった話だ。

 そうすればグルアテリアの保管庫から、あの羅針盤の古代魔道具が鉄線残党に奪われず、鉄線残党から勇者狩りに奪われることも無かった。


 少なくとも、古代魔道具を持たない勇者狩り相手なら、モルフォゼの時点でも、ルドーはもう少し戦いようがあっただろう。


 国の失態の当事者として反省の色を示すヘルシュに、ルドーは更に問い質す。


「じゃあ勇者狩りから取り返すくらいしたらどうだ?」


「無理無理無理無理! さっきも言ったけど、僕魔力の制御が出来てきただけで、攻撃力はまだ乏しいんだって! 古代魔道具持ちに対抗する術がないよ!」


『ここまで潔いと逆に気分いいぜ』


 途端に大慌てで全否定したヘルシュに、聖剣(レギア)がもはや天晴れと、パチンと雷を鳴らした。


 全力で出来ないと両手を振るヘルシュに、やれやれとルドーは首を振り、がぶりとまたダブル照り焼きバーガーを頬張った。


「うーん、戦えないにしても、対策考えるくらい協力してほしいもんだぞ」


「ほう、俺様の偉大なる頭脳が必要と見えるな!」


「そう言う事なら、危険もなさそうだから協力させてもらうよ」


「ハイハイハイ関係ないけど協力しますよ!」


「安全になった途端に元気になりやがって!」


 戦闘による助力ではなく情報提供だけ求めれば、フランゲルもヘルシュも途端にいつもの調子に戻り、ついでにウォポンも大きく手をあげた。


 ルドーは思わずダブル照り焼きバーガーをむせかけ、ゴクッと大きく喉を鳴らしてなんとか飲み込む。


 フランゲル達の態度はどうしようもない。

 それよりも建設的な話をしようと、ルドーは話を続けた。


「あぁもう、まぁいいや。こう、瞬間移動みたいな感じで、動きが追えないんだ。なんか対策思いつくか?」


「組手でやっているやつだろう、無理だな!」


「それやらねぇと対処できねぇのに、初手で諦めんなフランゲル!」


「うーん、瞬間移動みたいなやつだよね。見てる限り対処しようがないと思うんだけど」


「ハイハイハイとりあえずぶん殴ればいいと思います!」


 対策方法について議論しようとするも、役に立たないような回答。

 何となくわかっていたものの、役に立つ様子のないフランゲル一行に、ルドーはがっくりと肩を下げた。


「でもまぁ確かに。そんな強敵やっつけたらかっこいいわよね、フランゲル?」


「ふははははは! 紅蓮の炎で返り討ちにしてくれようぞ!」


「うーん、火炎魔法で焼き殺すか。確かに通じそうな手ではあるな」


『ふざけた回答なのに物騒な変換する上、割と最適解なの腹立つな』


 アリアによっておだてられ、調子に乗ったフランゲルの宣言に、ルドーは確かにと納得する。


 聖剣(レギア)の雷魔法は古代魔道具に防がれたが、火炎魔法の熱と酸欠まで防ぐことは出来るのだろうか。


 古代魔道具に何が出来て何ができないか。

 それはその古代魔道具次第な所もあるため、試行錯誤が必要だ。


「うーん、後は瞬間移動の定番として、相手に触ってると一緒に移動するから、使えなくなるとかあるよね」


「それはラノベの話じゃないの。実際はどうかわからないわよ」


「いや、確かに試してねぇなそれも」


『まぁあの移動法に接触も何もなかったからな』


 今度はヘルシュの考えに、ルドーも一理あると頷いた。


 攻撃を防ぐことも出来ない勇者狩りの移動方法。

 そもそも接触することが、かなり難易度の高い行為と言える。


 ヘルシュとアリアの会話を聞いたルドーは、ある一つの結論を導き出した。


「やっぱ自分でうだうだ考えててもダメだな。よし、ちょっと他の皆にも意見聞いてみるか」


「そうよ、こんだけ個性が濃いクラスなんだから、使えるものは使いなさいよ」


「アリア、お前もどっちかっていうとかなり濃い方だぞ」


「あらやだ、失敬ね!」


 ぷりぷり怒り出したアリアに、ルドーは礼を言って一気にダブル照り焼きバーガーの残りを大きく頬張った。


 アリアを宥めるフランゲル一行にルドーは軽く礼を言った後、とりあえずと適当に話を聞こうと廊下をぶらつく。


「勇者狩り対策ですか。たしか何かの役職持ちだったと記憶してます」


「さっすがトラスト、情報には詳しいな」


 ルドーが廊下をぶらついていると、図書室から出てきた様子の、トラスト、ビタ、キシア、アルスと鉢合わせた。


 ルドーが事情を説明し、勇者狩り対策に何かないかと聞けば、すかさずトラストはそう答えて話を続ける。


「二十年前の情報な上に、そのままシジャンジュ監獄に収監されましたから。勇者狩り本人は、あまり詳しく調べられなかったと記憶しています」


「あー、本来脱獄できない、死ぬしかない場所に入れられたもんな」


「脱獄自体がイレギュラーのようなものですものね」


「転移魔法とはまた違う移動かぁ、世界は広いもんだよね」


 トラストの詳しい説明に、ルドー、キシア、アルスが続けて声をあげる。


 ランタルテリアの勇者を殺害し、エレイーネーと同盟国連盟総出で捕らえられた勇者狩り。


 詳しく調べて逃がす機会を得るよりも、簡素に調べてさっさとシジャンジュ監獄に投獄したほうが安全だと、当時はそう処分されたという。


 奈落に近い海上に建てられたシジャンジュ監獄からの脱獄。

 女神深教の厄祈願(やくきがん)という、規格外からの攻撃で破壊されてからの脱獄というイレギュラー状態。


 勇者狩りを捕えることが出来たとしても、また同じように監獄を破壊されては意味がない。


 捕まえた後の対応も、今後の課題になってくる話だ。


「全く、飛躍が過ぎます。後の話より、まずどう捕まえるかの話を、ルドーさんは聞きたいのではなくて?」


「あっ、確かにその通りですわ。申し訳ありません」


「いや、助言聞いてるだけだから、謝るようなことじゃないって」


 ビタの指摘に、キシアがしゅんと顔を下げる。

 気にしてないからとルドーは取り成し、とりあえず何か考えはないかと話を戻す。


「うーん、直接本人に会えれば、観測者でなんの役職持ちか解析できるんですけど」


「手練れ相手にトラストさんでは厳しいでしょう、他の方法はありませんの?」


「殺気を探る方法っていうのは、残念ながら前例がありません……」


「だいたい探知でなんとかなっちゃうからな」


「うーん、言われてみれば雷竜落を撃つ前、現れる際の敵対探知は出来たんだよな」


『問題は探知出来たとして、ほぼ同時に攻撃くらう事かね』


 トラスト達の話に、ルドーは雷竜落を当てようと、勇者狩りを狙った時を思い返す。


 あの時、ルドーが使える、敵対者に対する相手の魔力を探る敵対探知は、確かに機能していた。


 雷竜落に防がれた衝撃にほとんど忘れかけていたが、勇者狩りのあの移動方法に、探知魔法は攻撃を未然に防ぐ手段としては有用かもしれない。


「なんにしても居場所を探り当てる方法ですわよ、何か考えはありませんの?」


「すみません。前例がない以上、ご参考になるようなことは……」


「謝るようなことではないでしょう! 悪くないのに謝るのは悪い癖ですわよ全く!」


「……ありがとうございます、ビタさん」


「べっ、べべべべつに私は常識的な話をしただけで、トラストさんを慰めようとしたわけでは」


「うんうん、こういう感謝、深く刺さっちゃうよね」


「アルス何の話してんだ?」


「気にしなくていいよ」


 トラストに向かって真っ赤になったビタが、わたわたと両手を振り回している。

 話が脱線した上、アルスが何を話しているか、ルドーにはわからない。


 だがとりあえず、殺気を放つ相手の居場所を探す魔法は、前例がないため該当がないようだ。


 トラストの話から、ルドーはそう結論付けて話を戻す。


「うーん、そっか。敵対探知で攻撃時場所は探り出せたから、その延長で攻撃される前になんかできないかと思ったんだけど」


「強くなる方法なぁ。俺も今色々試行錯誤してるとこだけど、ルドーってどうやってそんな強くなってんの?」


「俺? 色んなやつに貰ったアドバイスとか思い出しながら、がむしゃらにやってるだけだって」


『毎度毎度ぶっ飛んだ考えするから、見てて笑えてくるんだなこれが』


「おい聖剣(レギア)、俺は娯楽じゃねぇって」


「がむしゃらであそこまでねぇ。にしてもアドバイスか。それで色んなやつに話聞いてるわけね」


 逆にアルスに質問されたルドーの返答に、納得したような表情で、指を顎に当てるアルス。


 アルスはウガラシでの、レモコという面識あるマフィア所属少女との一件から、力を付けなければ捕まえる事は出来ないと、以前に増して魔法訓練に力を注いでいる。


 単独での戦闘力が乏しいと、氷魔法の使い方をあれこれ模索しているのだ。


 また、モルフォゼの一件で、キシアにも心配をかけて思い詰めさせていたと、アルスは気付いた。


 根を詰めすぎて、キシアに心配ばかりかけるのも良くない。

 そう思ったアルスはいつもの調子に戻りつつ、魔法訓練に明け暮れている。


 心配をかけたとアルスに謝罪されたキシアも、お互い様だと謝り返し、いつもの調子に戻っている。

 そして少しでもアルスの力になるようにと、パートナーとして一緒に魔法訓練に心血を注いでいた。


「それでしたらメロンさんに聞いてみてはどうですの? 魔力の残滓の流れを読むのは得意でしょう?」


 ルドーが話を聞いて悩んでいると、キシアがそう提案してきた。


 メロンは聖女誘拐騒動の際、誘拐されたリリアの魔力の残滓を割り出し、その居場所を見つけるという離れ業をやってのけている。


 居場所を探る魔法の参考なら、確かに聞く価値はあるだろう。


 ルドーはキシアや話をしてくれたトラスト達に礼を言って、今度はメロンの元に訪れる。


「消える相手に、攻撃される前に居場所を割り出すかぁ。私がその場にいたら、流れが見えて分かるんだけどなぁ」


 キシアに提案され、食堂に近い廊下で大量の食糧を抱えていたメロンとイエディを見かけたルドーは、事情を話して詳しく話を聞けないかと声を掛けた。


 メロンがその場にいれば、少なくとも勇者狩りがどういう動きをしていたか、流れを見て判別できるという。


 かなり進展できそうな話に、ルドーは期待してさらに問いかけた。


「その流れっていうの、どうやって見てるんだメロン」


「こう、ぐわーっと目を見開いて、ぐぐーっと集中したら、キラキラーって見える感じ?」


「メロン、何一つ分からない」


 イエディの的確なツッコミに、メロンはきょとんと首を傾げた。


 アバウトでしかないメロンの説明では、ルドーにもイエディにも、やり方が何一つ分からない。

 どうやらメロンは魔法を論理的ではなく、感覚的に扱っているらしい。


 メロンの反応に、聖剣(レギア)も頷くようにパチパチ弾ける。


『まぁ魔法ってそういうもんだよな』


「お前はそう言うよな、毎度毎度感覚でやれって言いやがって」


「うーん、ルドーくんの使う、敵対探知? で、常時相手の居場所を割り出せたりしないの?」


「そういや、雷竜落当てようとした時、何もない場所に突然出てきたんだよな……」


 敵対探知で場所が分かったなら、それを使い続けることで、移動方法をある程度割り出せるのでは。


 そう指摘したメロンに、ルドーはあの時の勇者狩りとの戦闘を思い出す。


 転移魔法ではないが、転移魔法のように、予備動作もなく忽然と消え去り、何もない空間に突然現れる魔法の移動方法。


 勇者狩りは予測のできない移動方法を使うからこそ、不意打ちの死角からの攻撃が凶悪。

 その凶悪な攻撃に備えて、勇者狩りの移動先を割り出したいというのがルドーの考えだ。


 確かにルドー自身が敵だと認識する魔力を探知する敵対探知を、常時発動させるのも一つの手。

 敵対探知を常発動させるとして、そこから相手の殺気に自動反応することは可能だろうか。


 魔法訓練の組手でも、クロノに対してルドーは敵対探知を使ったことがない。


 勇者狩り対策のためにも、これは要検証だと、ルドーは今日の訓練で試してみようと考え始める。


「デメリットで行動、制限されるなら、また魔法薬も、検討してみたら」


「あぁそっか。回復魔法薬はまだ貰ってるけど、そういやほかの魔法薬って何あるか知らないな」


 ルドーに探知系の捜索魔法が使えないのは、女神に役職を授かった際の、攻撃魔法以外が使えなくなるデメリット。


 女神によって制限されてしまった役職デメリットは、基本的に誰にもどうすることもできない。


 武器型の古代魔道具聖剣(レギア)でも、この役職デメリットは適応される。

 下位互換である通常の魔道具では、捜索魔法も同じく使えないままかもしれない。


 その為まだ可能性のある魔法薬を検討してはと、イエディは提案したのだ。


「私も最近、攻撃型魔道具、試してみるようネルテ先生に言われた」


「今ねー、イエディと一緒に、シャーティフでいい職人がいないか、色々周ってるとこ!」


 持っていた食糧をイエディに押し付け、ブンブン両手を振り回し、元気にメロンがそう報告した。


 ネルテ先生に直接指摘されたなら、その方が適切だとイエディは判断されたのだろう。


 聞き覚えのあるランタルテリアの地名に、ルドーはおや、と対策の思考を止める。


「シャーティフだったら確か、エリンジがあのハンマーアックス作ってもらった職人がいたぞ」


「ほんと!? どうする、イエディ」


「その話は、興味ある。後でエリンジくんに、直接聞いてみる」


「よっしゃー! 俄然やる気出てきた! 早速聞きに行こイエディ。ありがとー、ルドーくん!」


「メロン、歩ける、まって、メロン」


 ルドーの指摘に、善は急げとばかりに、メロンは食料を抱えたままのイエディを、ズルズルと引き摺って行った。


 ブンブン手を振り回して遠ざかっていくメロンに軽く手を振って、ルドーは寮の方へと足を向ける。


『探知系の魔法薬は何個かあるけど、敵対者に対する奴は、やっぱ当てないと意味ないかな』


 魔法薬製作で寮の自室に籠りきりの、ノースターの部屋の扉を、ルドーは叩いた。


 事情を説明して適した魔法薬はないかときいたルドーに、ノースターはそう魔法文字を空中に浮かべる。


『まぁ魔法薬は基本当たらねぇと意味ねぇからな』


「うーん、その攻撃を当てるために居場所探ろうとしてんだけどな」


『捜索系魔法薬は、どっちかというと失せ物探しに使う事が多いんだよね(`・ω・´)』


「無くしたら困るものにぶっかけておいて、なくしたらそれで探すって事か?」


『うん。それでも効能は長続きしないから、貴重品にはあんまり向かないんだけど』 


 明らかの部屋の中にあるのに、どれだけ探しても見つからない。

 そういった無くしたら困るものに事前に魔法薬をかけ、反応する魔法薬をさらにかけることで、その場所を割り出すという魔法薬があるという。


 確かにその魔法薬を、致命傷を狙ってくる、殺気駄々漏れの勇者狩りに二回もぶっかけるのは、かなり無理のある話だ。


 ノースターの話に、ルドーはがっくりと肩を落とす。


「思ったより簡単にはいかねぇなやっぱ……」


『動体視力があがる魔法薬とかならあるけど、使ってみる?』


「お、それなら勇者狩りの動きがより見えやすくなるか?」


「また勝手に新作魔法薬を、何に使おうとしてんですやああああああああ!」


 ルドーがノースターに魔法薬を手渡されようとしたところで、横からカゲツが吹っ飛んできて、ノースターに華麗にドロップキックをお見舞いした。


 体力もなく体幹もないノースターは、幼児体型のカゲツのドロップキックにもあっさり吹っ飛ばされ、部屋の中へと吹っ飛んでいき姿が見えなくなる。


 どんがらがっしゃんどかんどかんと、魔法薬が割れて爆発するような、不吉な音が部屋の中からしたのを、ルドーは聞かない振りをした。


 小柄な体型で空中をくるんと回って着地したカゲツに、ルドーは呆然と視線を向ける。


「カゲツ、あの、協力的な魔法薬、提供してくれようとしただけなんだけど」


「騙されないでくださいや! まだノースターさんも試してない魔法薬を、治験させられようとされてたんですよルドーさん!」


 ビシッとルドーを指差して叫んだカゲツに、ルドーも想定外すぎて恐れおののく。


「でぇっ!? 効果確定されてない魔法薬、渡されようとしてたってことか!?」


『あれま、まんまと面白れぇ機会になりそうなの逃しちまったな』


「いや面白くねぇって!」


 途端にゲラゲラ笑い始めた聖剣(レギア)にルドーは突っ込みつつ、助け出されたカゲツに感謝の意を表する。


「まさか治験しようとして来るなんてな……助かったカゲツ」


「ノースターさん、魔法薬に関しては本当に才能の塊なんですが、魔法薬優先過ぎて、色々思考がぶっ飛んでおりますや。魔法薬を貰う際は、事前に詳細をお聞きしてくださいや」


「なんか色々苦労してそうだな……」


 疲れた様子のカゲツに、ルドーは労いの言葉をかけた。

 するとカゲツは火がつくように、途端に激しく愚痴を展開する。


『魔法薬作成に一日二日徹夜は当たり前! 食事は抜く、シャワーも浴びない、時間も忘れる、同じ魔法薬の精度を上げようと作り続ける、挙句の果てには私を実験台に、蜘蛛の足やら犬の耳やら、のらりくらりと人を騙して、魔法薬の実験台にし続けるんですや!』


 カゲツの怒涛の叫びっぷりに、ルドーは押されてつい困惑する。


「お、おぅ、お疲れ……」


『蜘蛛の足に犬の耳か、生えてたら傑作だったな』


「……マジで助かった。ほんとありがとなカゲツ」


 まるでその姿を見て笑いの限りを尽くしたいと、パチリと弾けた聖剣(レギア)にルドーは戦慄した。

 心の底から感謝するルドーに、カゲツはまたしてもびしりと指差して、ノースターに関して警告する。


「緊急時はともかく、普段はどこまでも魔法薬優先するので、今後はお気を付けくださいや! あぁー! また持ってきた食事食べていませんやね!?」


 魔法薬作成を優先しすぎて、ノースターは私生活がかなり壊滅気味のようだ。

 部屋の中の様子を見て、カゲツはまた怒鳴り散らしながら、バタンと中に入っていった。


 ノースターの部屋から閉め出され、ルドーはポリポリと頭をかいた後、考えをまとめようとそのまま寮の自室へと引き返す。


『参考になりそうな話あったか?』


「うーん、言われてみればってのが多いし、結局のところ擬態戦だしな。やっぱ試行錯誤するしかねぇかな」


 それぞれから貰った助言を元に、何をどう試していくか、ルドーは考え始める。


 エリンジとクロノの言い争いで、あの二人だけでなく、リリアもカイムも何となくぎくしゃくしていた。


 勇者狩りを倒し、探知特化の古代魔道具を手に入れる。

 それで心理鏡のありかを探し、女神深教の祈願持ちを倒す。


 道のりはかなり長いが、クロノの恐怖の根源である祈願持ちに対する進展があれば、このぎくしゃくも多少は改善されるだろう。


 今はお互いが話し合って歩み寄るよりも、行動するしかない。


 エリンジとカイムとも作戦会議をしなければと、ルドーは考えをまとめようと、自室の机に座って唸り始めた。


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