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第百九十一話 勇者狩り対策

 

 ルドーが医務室で目を覚ました時点で、モルフォゼでの戦闘から、既に数日経過していた。

 カイムと一緒にいるというクロノに、ルドーは勇者狩り対策で気配の話を聞こうとした。


 しかしまた無断外出でもしているのか、その日の内にクロノは見つけられなかった。


「クロノ、前から言ってた気配とか言う奴! あれのやり方教えてくれ!」


 運動着を着た、アスレチック訓練前の運動場。

 翌日の基礎訓練前、ルドーは戻ってきていたクロノを捕まえた。


 カイム、三つ子と一緒にいたクロノに、ルドーはそう声を掛ける。


「気配の探り方を教えて? いや、普通に嫌だけど」


 クロノは、ルドーの頼みを一刀両断してしまった。


『ありゃま、取り付く島もねぇな』


 クロノの余りの即答に、聖剣(レギア)が困惑してパチッと弾けた。

 横に居たカイムは怪訝そうに顔を顰め、三つ子たちはきょとんとクロノを見上げている。


 そこまでクロノに拒絶されると思わず、ルドーはつい大声をあげた。


「でぇっ!? 頼むって、勇者狩り対策に必要なんだよ!」


「いや、あれは真似されたくない。他の方法にして」


 顔の前でそう言って手を振るクロノは、帽子の下の赤い瞳が、本当に嫌そうにしている。


 しかし、転移とはまた違った移動方法を使う勇者狩りにルドーが対抗するには、何かしら居場所を割り出す方法が必要不可欠。


 その為には、最初に勇者狩りを言い当てたクロノの気配の探り方が、ルドーにはかなり有効に見えた。


 拒絶するクロノに、ルドーは両手を合わせて顔の前に置き、頼み込むように更に言葉を続ける。


「協力してくれって! 勇者狩りを倒せないにしても、あの古代魔道具取り返すのは、あいつら対策に必須事項になるから!」


「あぁ? どういうことだよ?」


 ルドーの話の意図が見えず、カイムがクロノの隣で顔を顰めて疑問の声をあげる。


 あいつら、女神深教の祈願持ち。


 情報規制で喋ることが出来ない、女神深教の話題を伏せてルドーが出せば、クロノは一瞬びくりと、怯えるように体を震わせた。


 横に居たカイムがすぐそれに気付き、クロノを落ち着かせようと、肩に手をかけてゆっくりと撫でる。

 それでもルドーの言葉を遮らず、その真意を問うように、カイムもじっとルドーを見つめる。


 なんらかのトラウマで、クロノが怯えて戦いを拒否する相手、祈願持ちの対策に必要になる。

 それはクロノにとっても利になる話のはずだ。


 ルドーは両手を合わせたまま、頭を下げて必死に懇願する。


 だがクロノはルドーの話を聞いても、帽子の下の顔を顰めるだけで、全く協力する姿勢が見られない。

 様子を見守るカイムが、ルドーとクロノを見比べて首を振っている。


 無言の拒絶を貫くクロノ。

 ルドーは頭を下げたままの姿勢で、どんどん焦りを募らせていった。


「勇者狩りの古代魔道具が必須? お兄ちゃんどういう事?」


「何を騒いでいる」


 ルドーとクロノの問答に、近くで準備運動をしていたリリアとエリンジも近付いてきた。

 怪訝そうな視線を向ける二人に、ルドーを強力な助けが来たと、ガバリと顔を上げた。


 振り返って人指し指を差しつつ、ルドーはリリアとエリンジに、ある可能性を説明する。


「いやさ、勇者狩りが持っている古代魔道具、探知特化なんだろ? つまりそれ、同格の古代魔道具も、探知できるんじゃねぇかと思って」


「あいつらの対策になる心理鏡を、勇者狩りが持っている古代魔道具で探せると?」


「そういうこと」


 エリンジのまとめに、ルドーは頷いて同意を示した。


 勇者狩りが持つ古代魔道具が、心理鏡捜索に使えるのでは。

 医務室で目を覚ましてから、ルドーがずっと考えていたことだ。


 分かっている情報は少なく、未知の部分が多い規格外のオーパーツ。

 それが古代魔道具だ。


 鉄線残党によって奪われた、ジュエリ王国の古代魔道具の一つ、心理鏡。

 女神深教の祈願持ちを倒す、相手の心理を探る方法に、有効とされている古代魔道具がそれだ。


 古代魔道具は、魔力のない者ですら扱えるほど、無尽蔵の魔力を内包している。

 そのため探知系の捜索魔法が阻害され、魔法で探し出すことが出来ない。


 しかし、探知特化の古代魔道具なら同格の古代魔道具を、魔法で探し出すことが出来るのでは。


 現在心理鏡を所持しているコロバとナナニラは、中央魔森林を逃走している。


 大陸の半分という、広大な範囲を覆う中央魔森林。


 魔人族が暮らしているとはいえ、未開の地も広い。

 群生する魔物も数多く、歩く災害も闊歩する。


 そんな場所で魔法も使わず、手掛かりもない捜索は、下手すると年単位の規模になってしまう。


 しかし心理鏡を古代魔道具で探知できるならば、捜索は一気に短縮される。


 その為に探知特化の古代魔道具を取り戻すには、それを持つ大元、勇者狩りをどうにかする必要があった。


 話を聞いたエリンジは、ルドーの推測に納得し、協力する姿勢を見せないクロノに非難の視線を向ける。


「理由は論理的且つ十分だ。何故協力しない」


「気配探知は、私が逃げ延びるためのもの。使えるやつが多いほど、向こうに情報が渡る可能性が高くなる。そういう方法で逃げてる奴がいるって、あいつらに目星を付けられるのは嫌なの」


 エリンジの視線に、クロノは目を細めながらそう答えた。


 魔法を使わずに、危険な相手の位置を割り出す方法。


 確かにそれは、相手に知られない自衛手段として、かなり使い勝手がいい。

 祈願持ちに極度に怯えているクロノが、その情報が相手に渡る可能性を考慮するのは当然。


 クロノの答えに、エリンジはまだ納得のいかない無表情を浮かべた。

 ルドーもクロノの返答に納得しつつも、なんとかならないかとさらに食い下がる。


「そうは言っても、やっぱり勇者狩りの対策には有効だと思うんだって」


『俺ですら位置が上手く割り出せなかったからな』


「どっちにしろ、これは私にしか使えない方法だから。教えようがないよ」


「そっち先に言おうよ、クロノさん……」


 あの気配が何だとかいう方法は、クロノにしか使えないものらしい。

 だからどちらにしろ、ルドーには教えられないと言い切られてしまった。


 クロノにしか使えないなら、ルドーにはどうしようもない。


 がっくりと肩を落としたルドーに、リリアが労わるようにルドーの肩を撫でつつ、クロノに困った声を掛けた。


 話し合いの末に肩を落としたルドーを見て、三つ子が心配そうに、ひょこひょこルドーに群がってくる。


「ルドにぃ、クロねぇに虐められてる?」


「いや、先に何か話しかけてきたのルドにぃ」


「ルドにぃ、男はカイにぃみたいに強くないとダメだよ!」


 わらわらと群がる三つ子に、それぞれポンポン叩かれ、ルドーはなぜか励ましの声を掛けられる。

 そんなに情けない姿に映ってしまったのだろうか。


 ルドーが三つ子の兄カイムに視線を向ければ、珍しく憐みの深緑の視線が向けられた。

 普段粗暴なカイムのその視線が、ルドーにグサリとさらに追撃する。


「ほんとにね、強くないとダメだよ」


『弱いままだとすぐおっちんじまうぜ』


「クロノも聖剣(レギア)も、三人に便乗するなよ!」


「ほらー、そこもう時間始まってるよー。さっさとはじめろー」


 いつの間にか現れていたネルテ先生の指摘に、ルドー達は大慌てでアスレチック訓練を開始した。


 アスレチック訓練を終えた後、ルドー達は相変わらず地面に倒れ込んでいた。


 なんとか一周こなせるようになってきた人数が増える中、腕輪型魔道具によって、自動で追加される訓練内容。


 涼しい顔をしたクロノ以外が、びしょ濡れの疲労困憊で、屍累々とあちこち散らばっている。


「気配探る前に、まず基礎体力どうにかしなよ」


 息も絶え絶えに倒れている全員に、クロノは余裕の表情で水を飲みつつ、呆れた視線を向ける。


 お前のような化け物と一緒にするなと、三つ子以外の全員の心の声が一致した。


 ぞろぞろと立ち上がりつつ、全員が座学の行われる五階の教室に向かい始める。

 ルドーもゆっくりと身体に鞭打ち立ち上がっていると、クロノがスタスタと歩み寄り、上から声を掛けてきた。


「はぁ、でもまぁ、さっきの話は一理ある。勇者狩りをなんとかしないといけないのは同じか。わかった、協力する」


「なんだよ。協力するなら、最初からそう言ってくれよクロノ……」


「気配の探り方教えるとは言ってないよ。他の方法で協力するって言ってる。しばらく魔法訓練の組手よろしく、ルドー」


「えぇ?」


 想定していなかったクロノの協力方法に、ルドーはつい素っ頓狂な声をあげた。


 ルドーが弱いから、物理的に叩き上げるということだろうか。


 確かにそれも有効な手ではある。

 勇者狩りに、聖剣(レギア)の雷魔法の攻撃は効かなかった。

 同じくなぜか聖剣(レギア)の攻撃が効かないクロノとの戦闘は、参考になる部分も多い。


 だがそれは、あまりにも力業過ぎないだろうか。


「ルドーくん、ルドーくん、死なないでね!」


「メロン、それは、言い過ぎ。多分、手加減されると思う」


 メロンとイエディの、全く悪気のない言葉がルドーには逆に痛い。


 ルドーとクロノの会話を聞いた面々が通り過ぎ様に、御愁傷様と、哀れむ視線を向けられ、人によっては声をかけられる。


 フランゲル一行、揃って手を合わせていくんじゃない。不吉だからやめろ。

 ヘルシュの後ろにいる、一向に加わった様子の、頭に羽の生えた魔人族の少女も、慌てて従うように拝もうとしている。そんなこと丁寧に教えるな。


 ルドーは勇者狩り対策をしたいだけなのに、朝からどうにも散々だ。


「あぁもう! また朝食抜いたんですやね! 食べろと言ってますや!」


『いや、朝は食欲湧かない(;´・ω・)』


「わかなくても食べるのが仕事人というものですやよ! 自己管理位きちんとしてくれませんかや!」


 ルドーが席に座るや否や、カゲツのノースターが争い始めた。


 特効薬の魔法薬開発で、行動を共にすることが多くなった二人。

 この二人は、割と私生活がずさんなノースターを発端に、争いが増えてきている。


 カゲツによって、ノースターは口にホットドッグを突っ込まれた。

 ノースターがグルグルメガネを、混乱するようにさらにグルグルさせている。


 二人を尻目に始まった座学の授業。

 ルドーは何か手掛かりはないかと、勇者狩りについて調べ始める。


 個人によって学習過程が異なる魔道具の学習本。

 パラパラと捲るページの歴史部分に、それらしい記載を発見することが出来た。


 勇者狩りリカルド。

 二十年前突如として、各国の勇者を次々と襲った凶悪犯として記載されている。


 彼が襲うのは勇者のみ。

 周辺住民や勇者の知り合いなど、勇者を助けようとした相手には、全く手出ししていない。


 実際ルドーが襲われた際、ルドーの傍に居たエリンジとカイムも、同様に襲われていなかった。

 勇者狩りのこの特徴は、変わっていないと考えていいだろう。


 学習本の記載によると、勇者狩りの犯行はナイフによる刃物のものばかり。

 死角からの不意打ちが基本だが、その襲撃方法が独特で、居場所を把握するのが困難だったと記載されている。


 古代魔道具を持っていなかった、二十年前の記載だ。

 つまりあのよくわからない移動方法は、勇者狩りの能力だと推測できた。


 度重なる襲撃に、とうとう当時のランタルテリアの勇者が犠牲となる。

 国を守る勇者が殺され、実害が大きいと周辺各国も認識した。


 当時は勇者以外を狙わない特性をついて、なんとか捕獲することに成功したという。


 学習本を目で追って、ルドーはなるほどと活路を見出す。


 勇者狩りは勇者しか狙わない。

 つまり同行している誰かしらに、捕獲を頼めばまだやりようはありそうだった。


 昼食を挟んだ後、ルドーはクロノと組手となる魔法訓練となった。


 身体を伸ばすようにぽきぽきと準備運動を始めたクロノを正面に見つつ、ルドーは両脇に視線を投げ、疑問の声をあげた。


「エリンジ、カイム、なにしてんだよ」


「勇者狩り対策の組手だ。参加させろとクロノに直談判した」


「えぇ?」


「三対一であいつに勝てるか、興味もあらぁな」


「えぇー?」


 ハンマーアックスを携えるエリンジと、髪をブンブン振り回し始めたカイム。

 意気込み十分の様子のエリンジとカイムは、ルドーとクロノの組手に、ルドーの味方として参加してくるようだ。


 三対一、普通に考えれば卑劣極まりないが、ルドーにはそれでもクロノに勝てる情景が思い浮かばない。


 ルドーはネルテ先生の方をちらりと見る。

 ケラケラ笑いながら手を振ってボンブといるネルテ先生の様子から、どうやらこの三対一の組手は許容されているようだ。


 それならばと、ルドーも聖剣(レギア)を背中から引き抜き空中に浮遊させ、軽くブンブン振り回した。


『勇者狩り対策に組手か、何する気なんだかね』


「んー? 説明いる?」


 トントンと爪先で地面を叩いたクロノが声をあげる。

 ご丁寧に説明してくれる様子のクロノに、ルドーはエリンジとカイムと顔を見合わせ、同意するようにゆっくり頷いた。


「まぁ、単純に言えば疑似戦ってとこ」


 襟元から、また例の空間拡張魔道具の革袋を取り出したクロノ。

 あーでもないこーでもないといいながら、腕を突っ込みつつ説明を始める。


「疑似戦?」


「一応、気配であの時の君たちの戦闘は大体把握してる。そこからの勇者狩りの、暗殺者としては致命的な弱点があった事も見えてたんだけど、何か分かる?」


「致命的な弱点?」


 疑問を投げ続けるルドーが、またエリンジとカイムに、何か気が付いたかと視線を合わせる。

 エリンジもカイムも、クロノの話とルドーに向けられた視線に、該当が思いつかないと目を細めて首を振った。


 ルドー達が問答している間に、クロノはあったあったと、小さな革袋からサバイバルナイフを取り出した。

 それは勇者狩りが使っていたものと、型こそ違うものの、ほとんど同じような大きさのものだ。


「敵対者としてみると当たり前なんだけど、暗殺者としてみると致命的な弱点があったわけよ。簡単に言えば、殺気」


「殺気?」


「うん、常時殺気駄々漏れ状態。ルドーも防ぎきれなくても、それで攻撃に何度か気付けてたでしょ」


「あー、確かに」


『かなり強烈な殺気垂れ流してたな、確かに』


 クロノの説明に、ルドーと聖剣(レギア)が納得の声をあげた。


 確かに暗殺者としてみると、獲物に気付かれる程の殺気が漏れている状態は致命的だ。

 勇者狩りはそれも無視できるほどの技量があったわけだが、逆に言えば、隠し切れないその殺気は、ルドー達が付け入る隙に繋がる。


 しかしそこまで説明されても、クロノが何をしようとしているのか分からない。


「殺気駄々洩れ状態で、死角からの突然の奇襲。あの時の勇者狩りの動きを、完全じゃないけど、ある程度模倣してあげるから、対処できるように戦ってみなって話」


 そう言ってクロノは、手の中でサバイバルナイフを一通り回した後、小さく息を吐いて、それを構えてルドー達に向き直る。


 するとその瞬間、勇者狩りに向けられた時と同じ、強烈な殺気がルドー達三人に突き刺さった。


 向けられる強烈な殺気に、あの時の事を思い出して、ルドーはどっと冷汗が溢れ出す。


「エリンジとカイムは、あの時同様に攻撃からルドーを守りつつ、勇者狩りをしとめられるように動いてみて。それじゃいくよ」


 そう言うが早く、ルドー達の目の前にいたクロノの姿が、瞬きと共に消えた。


『来るぞ!』


 バチッと警告する聖剣(レギア)に、ルドーははっとして雷の盾を展開した。

 しかしどこから攻撃が来るかわからず狼狽えていると、ビッと風切り音がして、ルドーの右首元にナイフの刃先が当てられた。

 冷たいナイフの刃の感触に、冷汗が一粒、ゆっくりとルドーの顔から滴り落ちる。


「これで一回死んだね、次」


 クロノはいつもの淡々とした口調で話しているのに、発せられる殺気は変わらないまま。


 エリンジがハンマーアックス、カイムが髪の刃で、反撃するようにクロノを狙うが、あの時の勇者狩りと同じように、瞬時に消えてしまう。


『おっそろしいな。確かに完全な動きじゃねぇが、ここまで再現できるとは』


「勇者狩りとクロノでは、全く同じじゃないって事か?」


『動きの分からなかったあの時の奴と違って、あいつは見えない速度で素早く移動してるだけだ。ただ早すぎて、俺も追い切れねぇから状況はあんま変わらねぇな』


 警戒してバチバチ回る聖剣(レギア)に、エリンジとカイムと背を合わせて円になりつつ、ルドーは周囲を見渡す。


 クロノは、聖剣(レギア)でも追えないほどの、見えない速度で移動しているだけ。

 勇者狩りのあのよくわからない移動とは、クロノ本人も話していた通り、根本的には違うようだ。


 どこから攻撃が来るか。


 三人で周囲を必死に見渡すが、それらしい姿が捕えられない。


『上だ!』


 あの時と同じ聖剣(レギア)の警告。


 しかしクロノの動きの方は早く、ルドーは反応するよりも先に、また後頭部を掴み掛られ、うつ伏せに地面に叩き付けられる。


「二回。ほら、もっとちゃんと対応しないと」


 背中につきつけられるナイフと殺気も、あの時のまま。


 反撃に出たエリンジとカイムの攻撃が、また虚しく何もない空を切った。


「あーくそが! ここまであの時と同じかよ!」


「クロノは直接見てないはず、模倣が過ぎる」


 勇者狩りと同じ攻撃の避けられ方に、カイムとエリンジが舌打ちする。


 あの時の勇者狩りと同じく、一方的過ぎる攻撃に、ルドー達は翻弄され続けた――――。




「あーあ、これで十回。やる気あるの?」


 魔法訓練終了の鐘と共に、背後の首元に、ナイフの切っ先が当てられる。


 ルドーとエリンジとカイム、三人掛かりで挑んだはずなのに、勇者狩りを模したクロノに、全く手も足も出なかった。


 ケラケラと笑うネルテ先生が、パンパンとその手を叩いて終了の合図をする。


「うーん、クロノお見事! 殺気も含めて完璧な模倣だったね」


「目で探したって見つからないんだから、戦いながら別の探し方考えなよ」


「無茶苦茶言うなって!」


 ネルテ先生の賞賛に肩をすくめつつそう言ったクロノに、ルドーは一方的過ぎたこともあってつい噛み付いた。


 でも確かにクロノの言う通り、模倣されているとはいえ、あの動きは目で追っていたのでは足りない。


 ルドーの横に居るエリンジとカイムも、攻撃が一度も当たらなかった事実に、かなり悔しそうに歯噛みしている。


 どうやらクロノの普段の組手は、今の戦闘から、かなりの手心が加えられていた様子だ。


「ま、協力するって言ったからね。しばらくはこれ続けて、活路見出せばいいよ」


「勇者狩りそのものは探さなくていいのか?」


「あっちが勇者狙ってるんだよ。ルドーがエレイーネーから出れば、向こうから襲いに近寄ってくるでしょ」


 だから勇者狩りを探す必要はないと、クロノはそう言い切った。

 きゃあきゃあ歓声をあげて走り寄ってくる三つ子の方へ、クロノはいつもの調子で歩いて行く。


「……それ、つまり、対策出来ねぇと、俺外出れないって事?」


『あれまぁ、厄介になっちまったな』


 皮肉めいてゲラゲラ笑い始めた聖剣(レギア)に、ルドーは愕然と立ち尽くす。


 怪我こそしていないが、走り寄って来たリリアを横に、ルドーは自身の現状を再確認した。

 勇者を狙ってくる勇者狩りを何とかしなければ、ルドーはエレイーネーの外に出られない。


「目で追うな、か。試行錯誤がいるな」


「あーくそが、散々じゃねぇかよ」


 エリンジとカイムも、難易度の高い対策に、悩むように頭を抱え始める。


「……だれか、知らねぇうちに、またとっ捕まえてくれねぇかな」


「それは無理だと思うよ、お兄ちゃん」


 現実逃避したルドーに、リリアから容赦のない否定が入った。


 組手を見ていた面々から、お疲れ様と、労いと憐みの視線が向けられ続ける。


 一瞬で移動する相手、死角からの攻撃、目で追わずにそれを発見する方法の模索。

 難易度の高すぎる攻略に、ルドーもとうとう頭を抱えてうめき声を上げた。


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