第百九十話 原初の泉と重なっていた不幸
さらさらと、静かな水の流れる音が聞こえた。
ぐっすりと心地よく眠り込んだような、深い微睡み。
薄らと瞳を開けたところで、ルドーは自身がうつ伏せに倒れていることに気が付く。
居心地よく寝ていてぼやける視界に、ふと疑問が浮かんだ。
ここはどこだ。
その疑問が頭に浮かんだ瞬間、微睡んでいたルドーの頭が、急にすっきりとした。
どこまでも続くような、真っ暗な空間。
明かりもないはずなのに、それでもルドー自身の手ははっきりとわかる。
うつ伏せになっている先のその手をじっと見ながら、ルドーはゆっくりと起き上がった。
警戒心は、なぜか全くなかった。
どこまでも真っ暗な空間なのに、目の前がやたら輝いて眩しい。
サラサラと静かな水の音が、そこから響いてきていることに、ルドーは気付く。
目の前の眩しい空間を確認しようと、ルドーはよくよく目を凝らす。
するとそこにあったのは、噴水のように中央に水が噴き出している、光り輝く小さな泉だった。
眩しさに目を細めながら、ルドーはゆっくりと泉に近付く。
サラサラと流れる水の音は、この静かに湧き立つ中央の水から発せられていた。
流れる水に、しかしまったく動きのない鏡のような湖面。
ルドーがそこを覗き込めば、困惑した三白眼の、癖毛の黒髪姿の自分自身が覗き返す。
恐ろしいほど澄んでいるのに、その水底は全く覗うことが出来ず、どこまで深いかまるで分からなかった。
「……なんだここ。あれ……俺何してたんだ?」
ここに来るまでの記憶がはっきりしない。
なにか大事なことをしていた気がするのに、頭に引っかかるだけで、ルドーには何も思い出せなかった。
『まだ、戦い続けられる?』
不意にルドーの頭に声が響いた。
どこまでも澄んでいて、無垢で、しかし芯のあるしっかりとした声。
声の主は一体どこかと、聞かれた問いに答えずにルドーは周囲を見渡す。
すると真正面の輝く泉、中央の噴き出す水の前に、小さな少女が水面に佇んでいた。
水面がまるで地面のように、ひたりと素足を乗せて佇む少女。
見た目の年齢は、ライアたち三つ子と同じくらい幼い。
水浅葱色の、若草のようにさわさわとしたショートカット。
赤朽葉色のクリっとした大きな瞳が、じっとルドーを見上げていた。
『まだ、戦い続けられる?』
同じ事をまた問いかけられる。
問われる意味が分からず、ルドーは泉のほとりに立ち尽くした。
「一体何を……うっ!?」
質問の意図を問おうとした瞬間、ルドーの頭に激痛が走った。
瞬時にルドーが倒れる直前の、勇者狩りと病祈願との戦いが、断片的にフラッシュバックする。
向けられた殺気。
防がれた奥の手。
対処できない相手。
思い出しただけで、ルドーは冷汗がどっと噴き出す。
『まだ、戦い続けられる?』
同じ問いかけが繰り返される。
静かな声の問いかけに、ルドーはまた、波が引くように冷静になった。
普段のルドーの状態では、このようにならない。
このよくわからない空間が、何かしら作用しているのだろうか。
じっと見上げる少女に、ルドーは困ったように頭に手を当てつつも答える。
「そう言われてもな……俺基本巻き込まれてるだけだし」
『手を離せば、農村民に戻る。持ち続ければ、巻き込まれ続ける』
ルドーの答えに、少女はさらに続ける。
かなり以前に聖剣にされた警告と、同じ内容。
それを訳の分からない場所で、面識のない少女にされている意味が分からない。
怪訝に思って眉を潜めつつ、それでもルドーは答える。
「そんでも、勇者になっちまったもんは、もうどうしようもねぇし。今更戻るのも無理だろ」
ルドーは、ただ古代魔道具の聖剣レギアを持っているだけではない。
聖剣レギアを手にしたその瞬間、女神によって勇者の役職を授けられたのだ。
勇者になってしまった以上、ルドーはもう戦いから逃げることが出来ない。
それは、国を背負った勇者という役職に付せられた運命だ。
「それに俺だけが戦いをやめたって、リリが聖女のままだ。きっとリリは、俺が諦めるような状況でも、諦めようとしない。きっと諦めた俺を守るために、リリは前に出ようとするんだ。なら、そんなリリを守るためにも、俺は戦い続けなけりゃならない」
じっと見上げてくる赤朽葉色の瞳を、じっと見つめ直す。
リリアを守るために戦う。
ルドーが戦う理由は、いつだってそれが原点だ。
サラサラと水音が響く。
しばらくして、少女はルドーをじっと見つめたまま、更に続けた。
『人を殺す覚悟はある?』
「え?」
『人を殺す覚悟はある?』
繰り返された少女の声に、ルドーは言葉を失った。
人を殺す覚悟。
少女は一体何を問いかけてきている。
動揺するルドーに畳みかけるように、少女は続ける。
『何の罪もない、助けを求めている人を、殺す覚悟を、背負える?』
「な、なにを……」
『時間はまだある。でも、進むなら、戦い続けるなら、その覚悟を背負わなければならない』
表情も変えず、淡々と訴える少女に、ルドーはどう答えればいいかわからない。
『戦い続けるなら、いずれ知る時が来る。真実を知って尚、戦い続けるなら、その覚悟を背負って』
「なにを、なにを……?」
視界がどんどん白くなる。
少女の赤朽葉色の瞳だけが、じっとこちらを見ている。
何も見えなくなった中で、サラサラと水音だけが響き続けた。
「ルドー! どこに行っていた!」
焦燥を滲ませたエリンジの叫び声に、ルドーはベッドから飛び起きた。
バランスを崩してそのまま重心が崩れ、呆気なくベッドから落ちて床にガツンと衝突する。
「いってぇ!」
「お兄ちゃん! 心配ばっかりかけて!」
『わけがわからねぇ、消えたと思ったら戻りやがった。転移に近いがどうなってる?』
後頭部を強打して、痛みに頭を変えるルドーに、バタバタとエリンジとリリアが駆け寄ってきた。
痛む後頭部に、リリアが手をかざして回復魔法をかける。
パチパチと唸った聖剣に、ルドーは訳も分からず首を傾げた。
見覚えのある室内、何度も横になった覚えのあるベッド。
どうやらルドーはエレイーネーに戻り、医務室で寝かされていたようだ。
ベッド脇に立てかけられた聖剣が、心配していたようにパチパチと弾ける。
先程呼び掛けられた、エリンジとリリアの必死の声に、聖剣の困惑する声。
嘘をつかれているとはどうにも見えないし、二人共そんな嘘をつくような人柄ではない。
だがベッドをもぬけの殻にしたと言われても、ルドーはベッドから移動した覚えがなかった。
「なんだよ、俺寝てただけだぞ」
「その寝ていたベッドをもぬけの殻にしたのは誰だ」
「えぇ?」
「お兄ちゃん、ベッドで寝てたはずなのに急にいなくなって! 心配したんだよ!?」
『どこ行ってたんだよルドー』
「いや俺、ベッドから出た覚えねぇけど……」
更に詰め寄ってくるエリンジとリリアに、ルドーは困惑の視線を返した。
先程見た不自然な泉の光景は、夢だったのだろうか。
それともルドーが知らない間に、その空間に招かれでもしていたのだろうか。
ルドー自身が、あの場所に移動した身体の感覚が全くなかった。
寝起きのはっきりしない頭では、どちらが本当なのか、ルドーには判別がつかない。
「……あー、結局、トルポの特効薬はどうなった?」
話題を逸らすように、ルドーはそもそもの発端を問いかける。
そんなルドーの思惑を見透かすように、リリアとエリンジは揃ってジト目でルドーを睨む。
しかししばらくすると大きく溜息を吐いて、それぞれ話し始めた。
「特効薬は開発された。問題ない」
「今キシアさん主導で、各所に量産配布してるところなの。その内収まるって」
「そっか。犠牲者もないうちだったし……よかった」
リリアとエリンジの話に、ルドーはほっと胸を撫で下ろした。
当初の目的であった、トルポで流行り始めていた、ケイソ病から発展した疫病。
その特効薬開発の為の、ノースターの魔法薬の運搬。
特効薬が開発され、ようやく疫病が集束に向かい始め、解決の兆しを見せ始めていた。
キシアがトルポの貴族に特効薬を配り、疫病から回復した貴族が、貴族が病に倒れた隙に領地に蔓延り始めた鉄線残党を、片っ端から捕まえ始めている。
町の治安が悪化したために、そのまま特効薬を配っても、市民に安全に配られない可能性を考慮してだ。
鉄線の残党を捕まえたり追い払った領地から、順次市民にも特効薬が配られ始めているという。
ルドーとリリアの出身、チュニ王国で流行り、医者両親が奮闘の末亡くなったケイソ病。
その発展型だったトルポの疫病問題は、もう下火になるだろう。
話に安心したルドーは、今度は別の事を話し始める。
「そんで、結局あの後何があったんだ? どうなったんだ」
「リリアが浄化魔法で、一帯の病原の煙を浄化した。俺もルドーも含めて、もう問題もない」
「リリが? 浄化魔法で?」
病祈願によって全員が苦境を強いられたあの時、後方から発せられた、包むような淡い白い光。
あれはリリアの浄化魔法で間違いなかった。
エリンジの説明に、ルドーは驚いてリリアに視線を向ける。
「クロノさんが教えてくれたの。『あの病気の煙には、浄化魔法が効くから、全力で使え』って」
「……クロノが?」
リリアの説明に、ルドーは小さく呟いた。
クロノは病祈願がいる間、結局表に出て来なかった。
モルフォゼの中で怯えるように震えたまま、しかしルドーの危機に掴み掛ったリリアに向かって、そう助言したという。
説明しているリリアが、少し心配そうな表情に変わった。
「リンソウの時みたいに、すごく怯えてた。動かそうとしても、梃子でも動かなくて」
「一番の戦力だ。倒せないあれ相手にしても、出てきて戦うべきだった」
「エリンジ、そう言うなって。リリ、クロノは?」
「落ち着いた後で、カイムくんに知らせてる。今は一緒にいると思う」
苛つき始めたエリンジを抑えつつ、ルドーはリリアから説明を受ける。
怯え続けていたクロノは、病祈願が立ち去っても、しばらく震えていたという。
リリアがクロノの状態を伝え、慌てたカイムが駆け付け寄り添うことで、クロノはようやく落ち着きを取り戻したのだそうだ。
やはりクロノは、女神深教の祈願持ちに詳しかったあたり、祈願持ちに対して何かしら問題を抱えている。
無表情のまま顔を顰めたエリンジが、舌打ちするように吐き捨てた。
「肝心な時に役に立たん」
「だからそういうなってエリンジ」
「倒せない怖さも乗り越えての強さだ」
「……多分、そういうのじゃないと思う」
吐き捨て続けるエリンジに、リリアが苦言するように溢す。
それでも意味が分からないと、眉をあげたエリンジ。
「あれ、倒せないから怖がってるって感じじゃないだろ」
理解しないエリンジに、ルドーもリリアを援護するように続けた。
「多分、クロノはあいつらに何かしらトラウマ抱えてるんだ。だからあいつら相手の時だけ、クロノは異様に怖がる」
「トラウマがあるなら、尚更乗り越えるべきだ」
尚も食い下がるエリンジに、リリアが呆れた表情で、その頭をスパンと叩いた。
ルドーもため息を吐きつつ、まだ理解しないエリンジにさらに続ける。
「そう簡単に乗り越えられれば苦労しないんだって。それが出来ないから困ってんだろ、俺も」
ルドーも、ルドー自身が覚えていない、前世がらみのトラウマがある。
思い出して乗り越えるか、廃人になるかの二択しかないようなトラウマが。
そのトラウマのせいで、ルドーはまともに勇者の魔力が使えないし、そのせいでまだ魔力伝達が出来ない。
エリンジはかつてルドーのこのトラウマを考慮して、リンソウで心理鏡をルドーに使おうと動いた。
トラウマは、生半可なことでは解決しない、心の奥深い問題だと、ルドーはエリンジにそう伝えた。
「……簡単に乗り越えられない、か。それもそうか」
ルドーの説明に思い当たる節があり、ようやく理解したのだろう。
納得した無表情を浮かべたエリンジを眺め、ルドーはまたため息をついて、さらに話を続けた。
「俺襲ってきた勇者狩りと、あの煙のやつはどうなった?」
『残念ながら、どっちも逃げた後の足取り不明だ』
「今先生達が反応を追ってるけど、手掛かりなしみたい」
パチンと弾けた聖剣と、不安そうに告げたリリアに、ルドーは苦い表情を浮かべる。
ルドーを襲った勇者狩りと、その後からやってきた病祈願。
勇者狩りは、突如現れた病祈願との戦闘で、武器を失ったために撤退した。
だが、病祈願があのタイミングで退いていった意味がわからない。
病祈願そのものが広めたトルポの疫病。
それをなんとかするための特効薬開発を、病祈願は妨害しに来たわけだ。
妨害を妨害するように、リリアが浄化魔法で、病祈願が撒き散らしていた病原の煙を浄化した。
つまりリリアは、病祈願の邪魔をしたわけだ。
攻撃してくるならまだわかるが、そこで撤退する理由は何なのか。
いくらルドーが考えても、結局病祈願が撤退した理由は分からない。
勇者狩りも病祈願も逃走した今、どうすることも出来なかった。
「そんでもって勇者狩りが持ってる古代魔道具だなぁ」
分からない問題を放棄したまま、ルドーは次の問題を思い出すように口を開く。
「グルアテリアの奴だとするなら、グルアテリアに直接依頼されてるし、あんなのが持ってるのも危険すぎるし、取り返さないといけないぞ」
『取り戻せんのかねぇ、あの変な移動方法するやつ』
案ずるように、ベッド脇の聖剣がパチパチと弾ける。
形状不明、盗まれた経緯も不明。
とりあえず危険なので、見つけたらこちらで保管するか、場合によっては破壊してくれと、ルドーに依頼されていた、グルアテリアの古代魔道具。
それが勇者狩りとかいう、考えられる限り一番危険な相手の手に渡っている。
ただでさえかなりの手練れだった上に、同格の古代魔道具を所持されているせいで、まともに聖剣の攻撃が通用しなかった。
今まで聖剣に頼りきりで、ルドーはずっと戦い続けてきている。
古代魔道具の聖剣を持っているが故に、ルドーは同じ古代魔道具が破壊できる。
それを理由に、グルアテリアはエレイーネーを通して、ルドーに依頼してきた。
しかし依頼されたルドーにとって、同じ古代魔道具で攻撃を防ぐ勇者狩りは、今一番相手にし辛い状態といえた。
勇者狩りと呼ばれ、勇者を狙ってくる以上、勇者であるルドーも狙われ続ける。
狙われる以上、対策は考えなければならない。
ベッドに腰を下ろしたルドーは、考え込むように頭をガシガシ掻き毟った。
「あの移動方法が古代魔道具由来か、そうじゃないか。それだけでも面倒さが段違いになるな」
『本人の能力だとすると、古代魔道具奪い返しても、まだ面倒なままだな』
「でも、その勇者狩りがシジャンジュ監獄から脱獄したよりも、グルアテリアの古代魔道具が無くなってた時期の方が早いんでしょ? それなのに、どうして勇者狩りが古代魔道具を持ってたの?」
「その件だが、グルアテリアの古代魔道具を奪ったのは、鉄線残党のようだ」
リリアと話し合うルドーに、エリンジが無表情のまま告げる。
どういう事かと振り返ったルドーとリリアに、エリンジは二人の反応を見て話を続けた。
「トルポで捕まえた鉄線残党から情報が出た。どうやら古代魔道具が勇者狩りに奪われたのは、トルポで俺たちがモルフォゼに辿り着く、つい一時間前の出来事だったらしい」
「でぇっ!? そんなピンポイントで、俺達あれに遭遇したのか!?」
『タイミングが最悪過ぎるな』
エリンジの話にルドーは驚愕し、聖剣がパチリと大きく溜息を吐いた。
グルアテリアから古代魔道具の羅針盤を奪取したのは、間違いなく鉄線の残党だったらしい。
ジュエリ王国から古代魔道具を二つ奪取したことで、鉄線残党は調子に乗ったのか。
平和ボケして警戒心がなかったグルアテリアからも、まんまと保管庫に侵入して奪取したそうだ。
その古代魔道具の羅針盤を利用して、鉄線残党は、トルポで疫病の特効薬を開発しそうな施設に目星を付けようとしていた。
ルドー達が特効薬の為の囮作戦を敢行するよりも、前の出来事だった。
そうして古代魔道具の羅針盤を秘密裏に搬送中、シジャンジュ監獄から脱獄して逃走を続けていた、勇者狩りと鉢合わせた。
「激しい戦闘の末、一方的に勇者狩りに蹂躙された上に、古代魔道具のあの羅針盤も奪われた。それでも本来の目的の、疫病の特効薬の方を何とかしようと、今回の一件に繋がった」
「あー、鉄線残党が集まってるところに、脱獄した勇者狩りがエンカウントしたって事か……」
エリンジの説明に、ルドーも何故勇者狩りが突然現れたのか納得した。
脱獄して逃走中だった勇者狩りが、鉄線の残党から古代魔道具、あの羅針盤を奪い取った。
一方的に蹂躙され、古代魔道具を奪われた鉄線の残党は逃走。
実際のところは特効薬の開発阻止しようと、鉄線の残党は動き続けていたわけだが、それを勇者狩りが追いかけたために、ルドー達の前に現れたのだ。
『向こうに取っちゃラッキーだったわけだな。マフィアの残党が持っていた古代魔道具を奪えた上に、目標の勇者がたまたま追っかけたマフィアの先にいた訳なんだからよ』
皮肉めいた聖剣の声に、ルドーも項垂れつつ同意する。
ルドー達にとって色々な不幸が重なって、あの状況が作り出されたわけだ。
「情報を吐いた鉄線残党によれば、あの古代魔道具は、探知に特化しているらしい」
「それで俺が勇者だって、一目で見抜いて攻撃してきたって事か?」
「だろうな。一番厄介なものを奪われたものだ」
「それ、ここ、大丈夫?」
「あの古代魔道具には、探知や攻撃を防ぐ機能はあっても、攻撃性は今のところ見られん。そもそもエレイーネーは敵対組織が入らないよう、ありとあらゆる防護策が施されている」
『とりあえずここは安全だってこったな』
ルドー達がいるエレイーネーは安全だと聞いて、リリアがほっと一息ついた。
探している古代魔道具のうちの一つの行方は掴めた。
だが状況は進展しているようで、後退しているようにも見える。
グルアテリアの依頼を達成するには、あの勇者狩りをなんとかしないといけない。
対策を考えようと、ルドーは指で頭を叩きながら、勇者狩りに遭遇した状況を思い返す。
「……あれに一番最初に気付いたの、クロノだよな」
「変な気配がするとか言っていたあれか」
ルドーの声に、エリンジが同意して頷く。
モルフォゼで鉄線残党に対処していた時、クロノは一番遠くにいた勇者狩りの存在を言い当てた。
ルドー達では、消えた後どこにまた再出現したのか、目の前の至近距離でも全く追えなかったのに。
変な気配がある。
あの時クロノはそう警戒するように、周囲を見渡しながら声をあげていた。
「……気配か。クロノ、詳しく話さなかったけど、やり方ちょっと聞いてみるか」
勇者狩りの異様な動きが、追えるか、追えないか。
それだけでも、対策の仕方はぐっと違ってくる。
病祈願はまだ心理鏡が手に入っていない為、現時点で対策は出来ない。
ならば対策出来そうな方から、ルドーは動こうと腰をあげる。
『何の罪もない、助けを求めている人を、殺す覚悟を、背負える?』
夢のような空間にいた最後の言葉が、耳を掠める。
目下に迫る問題に、ルドーはクロノと話をしようと医務室から外に出た。




