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第百八十八話 勇者狩りと侵入者

 

 目の前に現れた男から発せられる殺気が尋常じゃない。

 普通に佇んでいるはずなのに、隙がまるで見えなかった。


 先程ルドーに強烈な殺気を放って、何かしらの攻撃を加えてきたのは、他でもないこの男で間違いない。

 ネルテ先生の直前の通信魔法から、こいつが勇者狩りだろうことは、ルドーにも想像がつく。


 つまりこいつの目的は、チュニ王国勇者のルドーの殺害だ。


 それを理解した瞬間、ルドーはどっと冷汗が溢れた。


 勇者狩りがシジャンジュ監獄に投獄されていたのは、既に一度ランタルテリアの勇者を殺したから。

 こいつには、人を、勇者を殺した実績がある。


 先程ルドーの背後からの攻撃、動きがまるで分からない。

 人を殺したことのある相手の、全く予測できない動き。

 濁り切った灰色の瞳が、じっとルドーだけを見据えている。


 向けられる殺気に、ルドーは少なからず恐怖を抱いた。


 じっとりと冷汗で汗ばむ手の中で、聖剣(レギア)が即座にバチンと大きく弾ける。


『呑まれんな! あれは手練れだ、気合いで負けたらやられちまうぞ!』


「ルドー、一旦下がれ! カイム!」


「くそが! 急に出てきて何だってんだよ!」


 動きが止まったルドーに、エリンジが動いてカイムが応える。

 それぞれが即座に攻撃態勢に入った。


 エリンジが特効薬開発の邪魔をされないようにと、カイムが髪で縛った鉄線残党を、その都度転移魔法で所定の場所に移動させて捕えていた。

 それでもまだ転移しきれていない残党が、ルドー達の攻撃に倒れて転がり、まだこちらに迫ってきていた相手も数人いた。


 しかし残っていた鉄線残党も、勇者狩りの異常な殺気を目にして撤退を決意したのか、次々転移魔法を使ったり、Uターンして走り逃げていく。


 エリンジがハンマーアックスを振り下ろし、虹魔法が大量に放たれ、カイムが髪を鋭い刃に変えて狙い撃つ。


 しかしそのどちらの攻撃も、男に当たることはなかった。


「消えた……!?」


 エリンジが驚愕に目を見開いて声をあげる。


 先程まで男が佇んでいた場所には、だれもいなかった。

 まるで最初から何もなかったかのように。


 転移魔法の動きではない、予備動作もなく早すぎる。


 外れた髪の刃を切り落としながら、カイムが警戒しつつ叫ぶ。


「おい、剣! 今のやつ場所割り出せねぇのか!?」


『動きが変だ、直前じゃねぇと割り出せねぇ!』


「ルドー、しっかりしろ! いつまで呆けている!」


 カイムと聖剣(レギア)の会話を聞きつつ、周囲を警戒して構えたままのエリンジの叫びに、ルドーはようやくはっとした。


 気を落ち着かせるように、ルドーは大きく深呼吸しながら、手に持つ聖剣(レギア)を握り直す。


「悪い、急だったから当てられちまった」


 同じように警戒し始めたルドーに、エリンジとカイムが視線で答えつつ、それぞれが背を預ける様に集まる。


『上だ!』


 バチンと大きく聖剣(レギア)が弾けるとともに、突如として上空からルドー目掛けて刃物が振り下ろされる。

 ギラリと光った大きなサバイバルナイフが、空中で線を引いた。


 警戒していたはずなのに、余りにも至近距離の攻撃。

 急所こそ外したものの、ルドーは振り向きざまに一撃をくらった。


「っ!!!」


『ルドー!』


 ルドーの口から声にならない悲鳴があがる。


 大きく噴き出す鮮血、切り付けられた左腕が熱い。

 左腕が動かせる感覚がない。


 青い制服が、あっという間に赤く染まり上がる。

 ボタボタと滴る大量の鮮血が、地面をビチャビチャと濡らしていく。


 左上腕の思ったより深い傷口。

 焼けるような鋭い痛みにルドーは蹲り、溢れ出る血に聖剣(レギア)を握ったまま押さえた。


「なにしやがるくそが!」


「ルドー、しっかりしろ!」


 飛び降りた勇者狩りに、カイムが即座に髪の刃を叩き込むも、また同じように消えて空を切った。


 激しく痛む腕にルドーが動けない中、エリンジが警戒しつつ駆け寄って回復魔法をかけ始める。

 カイムも即座に髪を切り落とし、負傷したルドーを庇うように駆け寄って前に立った。


『転移じゃねぇ、なんだあの動きは、消えるのも現れるのも早すぎる』


「残滓は若干ある。魔法であることは確かだ。」


「動き止めねぇと蹂躙されんぞ、おい、何か考えねぇのか!」


『っ、ルドー!』


 傷口を押さえ血まみれの右手の中の聖剣(レギア)が、勝手にぐいっと動いた。

 刃物がぶつかるガキンという金属音。


 エリンジとカイムが警戒していたのに、その警戒を掻い潜って、死角から勇者狩りのサバイバルナイフが襲い掛かっていた。


 間一髪で聖剣(レギア)が防いだが、反撃に出たエリンジのハンマーアックスは、狙ったはずの勇者狩りのいた空間をブオンと空振ってしまう。


 さっきまでそこに居たはずなのに、まるでそれが正常なように、何もない空間。


 隠れる場所もない開けた海岸近くで、勇者狩りを見つけることが出来ず、ルドー達はただただ翻弄され続けていた。


「っ……くっそ、当てられて呆けてこのざまかよ」


「ケッ、文句言えるくらいには回復したかよ」


 震える息を吐き出し、びっしりと冷汗をかきながら、ルドーは顔を上げた。

 反撃に出たエリンジと交代して、髪で回復魔法をかけ始めていたカイムが、それに即座に気付く。


 エリンジもルドーに近寄って、二人掛かりで回復魔法をかける。

 周辺を警戒し、どうするべきか話し始めた。


「動きが読めなさすぎる。一旦退避したほうがいい」


「あの調子で撤退見逃してくれるかよ、背中向けたらトドメだ」


『撤退するにしても、後ろの施設じゃ中入ってこれらたら問題だぞ』


「……特効薬に手出しされるわけにもいかん」


「八方塞がりかよ」


「いや、逃げない。エリンジ、カイム、ちょっと支えといてくれ」


 血まみれの左腕が少しずつ動くようになって、ルドーは擦れていた目をこすりつつ、二人に呼び掛ける。

 逃げないと断言したルドーに、エリンジとカイムは顔を動かさず、驚愕の視線を送る。


「逃げねぇだぁ? 最初に負傷しといてなに言ってやがる」


「次の油断はないぞ、相手の精度が上がれば確実に取られる」


「あぁ、だから、手加減はなしだ。聖剣(レギア)、建物と二人にダメージがいかないよう調整って出来るか?」


『……なるほどな、余裕だ。派手にぶちかまそうじゃねぇか』


 聖剣(レギア)との会話に、エリンジもカイムもその意図を読み取った。

 腕の痛みに蹲っていたルドーを、支える様にそれぞれが肩を貸す。


 大きく息を吸い込み、ルドーは集中した。


 圧倒的な強者が、殺すつもりで攻撃してきているのだ。

 生半可な対応では、そのまま殺されて終わってしまう。

 疑問はたくさんあったが、考えている暇はなかった。


 ――――集中しろ。


 転移魔法とはまた違う、瞬時に消える移動方法。

 だが、攻撃してくる一瞬なら、その姿を捕えることが出来るはずだ。


 どうやって攻撃から逃げているのか分からない。

 なら、可能な限りの範囲を全て、一斉に攻撃するしかない。


 敵対探知。


 敵だと認識した相手の魔力を探知する、攻撃魔法しか使えない、ルドーが唯一使える探知。

 エリンジとカイムの回復魔法で、腕の痛みが少しずつ治まってくる。

 収まる痛みと同時に、視界が開け、頭が静かに、澄み渡っていった。


 風のない、凪の水面に立っている様な感覚。


 目ではなく、感覚で探り――――



 ――――捉えた。


「雷竜落!!!」



 空を雷雲が覆い、辺り一帯を落雷が覆い尽くした。






 キシアの指示に従って、清潔感のある白い建物、モルフォゼの中に入る。

 カゲツと一緒にノースターを担いで、先導する職員に続きながら、リリアは先を急いでいた。


 有象無象が多いと言っても、双子の兄のルドーは、いつも想定外に巻き込まれる。

 化け物じみた戦闘力のクロノが傍に居ると分かっていても、リリアの不安は拭えなかった。


「また変な事に、巻き込まれないといいんだけど……」


 ノースターと、彼が持つ魔法薬をモルフォゼに運び込んだ。

 職員たちと話をする為、叩き起こされたノースターとカゲツが、矢継ぎ早に白衣の職員に質問責めされている。

 話を聞いた白衣の職員が、薬品を小さな魔道具に次々入れて、特効薬の試作を作り始めた。


 ノースターを運び終えたリリアは、ルドー傍に今にも走り戻りたかった。


 しかしトルポを蝕む疫病の、特効薬の開発目途が付かなければ、この戦いの終わりが見えない。


 終わりの見えない戦いに、ルドーはきっとリリアを傍に戻そうとはしない。

 今は報告のために、リリアは耐え忍んで待つしかなかった。


 白衣の職員たちと、カゲツとノースターがバタバタと動いているのを、リリアは固唾を飲んで見守る。


「ルドーさん達の事が心配なのですか?」


「うん、お兄ちゃんすぐ無茶ばっかりするから……」


 リリアの隣で、祈るように両手を胸の前で組んでいたキシア。

 力をどうつけるべきか悩んでいたキシアと同様に、リリアもどうすればルドーの隣に並び立てるかを悩み続ける。


 今まで意地でも、リリアはルドーの隣にへばりついていた。

 そうしなければ、ルドーはリリアを離れた安全圏に置いたままにするからだ。

 一度そこに押し込まれると、その方が安全だと、ルドーはリリアを隣に並べてくれない。


 隣に並び立ちたいだけなのに。


 リリアの安全を考えるルドーが力をつければつけるほど、その距離は物理的に離れていく。


「リリア、君は聖女だ。隣に並び立つんじゃない。隣で支える方法を考えた方がいい」


 クロノから譲られた重し袋を試していたとき、リリアはネルテ先生にそう言われた。


 ケラケラと笑いながら、リリアの悩みを見透かすように。

 クロノと同じようには出来ないと、暗にそう言われた気がして。


「勇者になる前から、お兄ちゃんはいつも無茶ばっかりするの。だれかの為に動いて、巻き込まれて。どうすればお兄ちゃんの力になれるか、そればっかり考えてる」


 目の前のカゲツとノースターを見ながら、しかしリリアが考えている事はいつもルドーの事だ。


 非力な自分でも並び立て、とまるでそう女神に言われるように。

 リリアはルドーが勇者を授かったと同時に、聖女の役職を授かった。


 無茶を続けるルドーを、これで支えることが出来ると、最初は喜んだ。


 しかしいくらがむしゃらにもがいても、力の差は開いていくばかり。

 役職デメリットのせいで、攻撃魔法すらも封じられて。


 これでは聖女になる前と何も変わらないではないか。


 リリアと同じように、特効薬開発を眺めながら、キシアも思い詰めたように吐露する。


「私も、わかりませんわ。どうすれば強くなれるのか、どうすればアルスさんを支えられるか。平和に暮らしたいだけですのに、どうしてこうも理不尽ばかり続くのでしょう?」


「――――そりゃ、この世界が理不尽だからだよ」


 聞いたことのある、しかし今聞こえるべきではない声が聞こえて、咄嗟にリリアとキシアは振り返る。

 同時にキシアの目の前に、ふっと足蹴りが飛んできた。


 バリンと、ガラスが割れるような音が響く。


 背後に吹っ飛ばされながらも、キシアは踏ん張ってなんとか体勢を保った。


「聖女の結界魔法かい。今の不意打ち防ぐとは、大した反応速度なもんだ」


 艶っぽい声がその女から響く。

 胸の上部まで露出させた、今にもはだけそうな着物。

 臙脂色の髪が色っぽく顔にかかり、同じ色をした瞳が、狙うようにこちらを怪しく見据えていた。


 見覚えのある相手。

 リリアは咄嗟に張った結界魔法を破壊された感触に震える。


「鉄線の、幹部の人……」


「あぁ、あそこはもうだめだから抜けたよ。今は線連。まぁここに来たのは私情だがね」


 リリアとキシアの反応に、後ろで特効薬を開発していた白衣の集団から悲鳴があがる。

 女性の背後に、鉄線の残党とはまた違う、男の戦闘員が二人。


 転移魔法で入り込んできた脅威に、リリアはキシアと共に咄嗟に構える。


 リリアの背後から、ノースターとカゲツも反応するような音を聞いた。


「そんな警戒しなくてもいいさね。欲しいものを貰ったら、さっさと消えるさ」


「……何を探しているか、聞いてもいいですか?」


「教えるわけないさね」


 欲しいものがあったから、製薬施設のモルフォゼに入り込んだ。

 つまり、彼女が探しているのは特効薬の可能性が高い。


 鉄線からは抜けたと言うが、それが本当の事かどうか、今のリリアには判別がつかない。

 外でルドー達が対処しているであろう、鉄線の残党と、目的は同じかもしれない。


 ならば、彼女を好きなようにさせるべきではない。


 リリアはそう考えたが、リリア達が動くよりも先に相手が動く。

 ゆらりとまるで倒れる様に動いたかと思うと、そのまま一気に近寄ってきた。

 グルグルと、まるで千鳥足のように覚束ないのに、その一歩一歩がやたら力強く、あっという間に距離を詰められる。


 リリアは即座に結界魔法を展開した。

 しかしそれは以前相対した時と同じように、ガラスの様にあっさりと叩き割れる。

 バリンと足技に割れた結界魔法が、小さく光り輝きながら霧散していく。


 転移魔法で鉄線施設内に誘導されたあの時と、状況は似ている。

 しかし今は、疫病の特効薬開発のために、爆発がどんな影響を及ぼすかわからない状況。


 以前の様に魔力の残滓を地雷にして、誘爆を起こすことが出来ない。

 同じ理由で、聖剣レギアの雷魔法を溜めた、自衛魔道具も使う事は出来ない。


 攻撃を受けるのに、反撃が出来ない。


 同じ理由で構えているキシアも、魔法攻撃を戸惑っていた。

 ゆらゆらと動きの読めない女の攻撃が、リリアの目前に迫る。


『とりあえず一発!』


 ノースターの魔法文字が光り輝くとともに、リリアの目前の女性が、ドカンと大きく爆発した。

 リリアとキシアが驚いて振り返れば、ノースターは合同訓練で披露した、放射魔道具を抱えている。


 その横で驚愕したカゲツが、バシバシとノースターを叩いた。


「特効薬製作真っただ中ですや! 材料に影響出たらどうするつもりですや!?」


『この部屋の分は一通り把握したから、影響ない範囲で出来るよ』


 問題はこいつの物理だけど、とノースターは魔法文字を光らせた。


 魔法薬に精通したノースターは、特効薬を作る過程で、この部屋にある製薬材料をすべて把握したらしい。

 ガチャンとレバーを引いて魔法薬を切り替えつつ、グルグルメガネが敵を見据える様に怪しくキラリと光る。


「この程度で倒したと思われちゃ困るさね」


「っ、薬を、特効薬の製作を続けてくださいまし!」


 爆発の煙の中から声が聞こえて、キシアが咄嗟に白衣の職員たちに叫ぶ。


 今、目の前に現れた脅威に対応できるのが、ノースターしかいない。

 ならば、ノースターに戦闘を任せつつ、キシア達はサポートに回り、特効薬を開発している職員たちを守ったほうがいい。


 キシアの意図を理解したリリアとカゲツも、即座に走り寄った。

 職員に危害が加えられないよう、リリアが結界魔法を張り、カゲツが壁を作るように大量の蔦を生やす。


『魔道具を使った製薬なら、今日中に特効薬は作れる! それまでの辛抱だよ!』


「近付いた際の対策はしてなさそうさね」


 職員を守るように囲んだ、リリア、キシア、カゲツに向かって魔法文字を掲げたノースター。

 その目の前に恐ろしい勢いで迫った女性が、目にもとまらぬ速さでぐるりと踵落としを繰り出す。


 咄嗟に放射魔道具から発せられた魔法薬が女性に降り注ぎ、同時にガシャンと音を立てて、魔道具が破壊されながら、ノースターが背後に吹っ飛んだ。


「ノースターさん!」


「お前たち、この隙に例のものを探しな」


 カゲツが蔦の壁に叩き付けられたノースターに声を掛けると同時に、女性が背後の手下二人に指示を出す。


 その指示にリリアは怪訝に思った。

 特効薬の開発は目の前で行われている。


 わざわざ探す必要はない、ならこの女性たちは一体何を探しているのだろう。


 リリアが考えに一瞬気を取られていたら、指示に後ろを向いた女性が、ゆらりと臙脂色の瞳をこちらに戻した。


 そのままゆらゆらと、また動きの読めない残像が飛ぶ。

 ぐるぐると動くその軌道が、リリアかキシアかわからない、どちらかを狙うように近寄り――――


「はいよー、おまっとさん」


 ――――ドスンと、攻撃の衝撃に、青い制服のケープコートがふわりと翻った。


 女性の攻撃は、突如目の前に現れた、黒い帽子を被った相手の腕に防がれていた。


「ク、クロノさん!?」


「お兄ちゃんは!?」


「今んとこは大丈夫かなぁ」


 キシアとリリアの驚愕の声にも、クロノは平然と飄々と答える。

 一体いつここに駆け付けたのか。

 クロノが女性の蹴りを、片腕で完全に受け止めていた。


 攻撃がまるで効いていない様子に、女性は驚愕に目を大きく見開く。


「なんだい!? どこから入ってきた!?」


「正面からだけど、転移で侵入してきた奴に言われたくないかな」


 正面、建物の構造のつくりから、女性たちが現れた、リリア達の背後。

 女性がクロノの声に慌てて顔を向ければ、先程捜索を指示した下っ端が二人、床に倒れて見事に伸びていた。


「っ、なにを、一体どういうカラクリさ!」


「うーん、カラクリは、あるっちゃあるけど」


 慌てた様子の女性が、次々と攻撃を仕掛ける。

 足蹴り、腕払い、踵落とし、回し蹴り。

 周囲に衝撃が走るその全てを、クロノは平然と、涼しい顔をして片手でいなし続ける。


 明らかな規格外の相手。

 女性の顔が、どんどん恐怖で歪んでいった。


「いい加減逃げられても困るし、ほいよ」


 続く攻撃に、明らかに面倒な表情を浮かべたクロノは、焦る様子の女性の肩に、唐突にチョップを叩き込んだ。


 チョップから聞こえてはいけない、重い打撃音が部屋に響く。

 女性は途端にその場に崩れ落ちた。


 余りにもあっさりと倒したその様子に、リリア、キシア、カゲツ、叩きつけられて倒れていたノースターでさえ、呆然と佇む。


「完成だ! 試作品だが、完成したぞ!」


 倒れた三人を、クロノが硬い紐を取り出して次々と拘束していく中、白衣の職員たちから歓声があがった。


 ノースターが今日中に出来ると伝えていたものの、それはあくまで希望的観測。

 数日は要すると思われていた特効薬開発。

 想像以上に早いその開発に、リリア達も驚愕に視線を向けつつ、全員がどこか安堵していた。


 そんな中、施設全体が衝撃に大きく揺れた。


「お兄ちゃん!?」


 いやな予感が過ったリリアが大声をあげた。







「……嘘だろ?」


 目の前の光景に、ルドー達は信じられずに立ち尽くす。


 雷竜落が直撃したはずの勇者狩りは、大きく何かを掲げて、平然とその場に佇んでいた。


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