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第百八十二話 広がる罠騒動

 

 三つ子によって、クロノに嫌がらせをしている犯人捕獲作戦に巻き込まれたルドー。

 項垂れながらも、いつまでも座り込むわけにもいかないので立ち上がった。


「とりあえず不届き者を探そうではないか!」


「ふとどき!」


「みつける!」


「捕まえる!」


 後ろで三つ子を盛り上げ始めたフランゲル。変な言葉を教えるな。


 協力することになった以上、ルドーも考えなくてはならない。


 とりあえず問題点として、そもそもの犯人が誰なのか。

 そして犯人が判明したとして、捕まえた後どう反省させるか。


 考えるべきはこの二点だろうか。


 エレイーネー内で起こっている以上、犯人はエレイーネー内にいるはずだ。


 巻き込まれてしまったからにはと、諦めたルドーが問題定義する。


「いやでも、クロノいねぇのに、どうやって犯人見つけるんだ?」


 そう、被害者はクロノ。

 そしてクロノは今、エレイーネーにいない。


 現場を押さえるために罠を張っても、被害者がいないので、エサがない状態。


 罠を張っても意味がないのではと、ルドーは指摘したのだ。


「そんなの犯人に目星つければいいだけじゃない」


「目星て……ライア、わかるか?」


「わかんない! 名前知らない!」


 アリアの返答に、ルドーがライアに聞いてみる。

 だが元気にいっぱいに、分からないと告げられてしまった。


「いやいやいや罠はかけようとしてたんだよな?」


「魔力ならわかるよ!」


「顔より魔力て、難易度あがってね?」


『魔力が多いと人の顔より、まず魔力で覚えちまうんだな』


 聖剣(レギア)の指摘、だがルドーは更に訳が分からなくなる。


 ライアは魔力が多すぎる影響か、人の顔より魔力がまず見えるようだ。

 相手の顔は覚えていないが、魔力は覚えている。


 原理はよくわからないが、どうやら誰が犯人かは、ライアが魔力で分かっている様子だった。

 犯人が分かっているから、狙って罠を仕掛けているという事だった。


 しかしそこまで聞いて、ルドーはある疑問が浮かんだ。


「いや、犯人分かってるなら、罠じゃなくて直接捕まれればいいんじゃ……?」


「追いかけたよ!」


「でも逃げられた!」


「捕まんないの!」


 既に一度捕まえようとはしていたらしい。

 だが逃げられてしまったと、三つ子は悔しそうに語った。


 三つ子は体力が著しい。

 基礎訓練の鬼ごっこアスレチックで、カイムとクロノ以外、三つ子は誰も捕まえられない。


 その三つ子が捕まえられない。

 つまり犯人は、かなりの身体能力の持ち主ではなかろうか。


「あーそれで罠で捕まえようってことになったんだね」


「なるほど! 賢いではないか!」


「「「かしこい!!!」」」


 ヘルシュとフランゲルが三つ子を茶化す。

 やめろ調子に乗らせるな。


 三つ子が罠を仕掛けた経緯は分かった。

 だがルドーが逆さ吊りされたのも、共有区の廊下だ。


 つまり、基礎科も護衛科も被害者になり得る。


「いや、いろんな人が通るからな? まさかあちこち既に罠仕掛けてたりしないよな?」


 危険だと思ってルドーが指摘すれば、三つ子はゆっくりと首を後ろに回した。

 うん、既に設置済みらしい。


 ルドーは叫んだ。


「回収ー! 危ないんで先に回収からー!!!」


「「「えぇー!!!???」」」


「えぇー、じゃない! 危ないから! 罠、どこに何個設置したんだ!?」


「あちこち!」


「たくさん!」


「覚えてない!」


『数ならかなりあるぞ』


「ああああああああ……」


 パチパチ笑って指摘したレギアに、ルドーは頭を抱えた。


 ルドーが逆さ吊りにされたような罠を、三つ子は既に大量設置した後だった。


 まずい、非常にまずい。


 王国貴族の多い基礎科の生徒が引っかかれば、下手したら国際問題に発展しかねない。


 先日の全科目合同訓練で、ある程度意思疎通できるようにはなった。

 だが国を背負ってやって来ている基礎科、恥を受ければ流石に黙っていないのでは。


「全部回収するぞ! どこに設置した!?」


「えぇー!?」


「せっかく作ったのにー!」


「犯人逃げられちゃう!」


「犯人より他に被害が出るの! お前らも回収協力しろ!」


 振り返ってびしりと指差して指名したルドーに、他人事の様に見ていたフランゲル達が大声を上げ始める。


「ハイハイハイ協力いたします!」


「えぇっ!? マジっすか!?」


「なぜ俺様がそんな使用人のようなことをせねばならんのだ!」


「そうよ、そっちで回収しときなさいよ!」


「お前らも協力するって言っただろ! 発言撤回させないからな! いいから協力しろ!」


 面白そうな事だからと、フランゲル達は自分から首を突っ込んだのだ。

 逃がしてなるものかと、ルドーは足蹴にしながら指示を飛ばした。


 脅すように聖剣(レギア)を振り下ろし、廊下にバチンと雷を一撃落とす。


 悲鳴があがる。

 フランゲル達自身で言い出した事、ようやく協力体制に入った。


 こうして犯人捕獲作戦から、罠全撤去作業へと移行した。

 聖剣(レギア)と三つ子の指示に、回収作業に奔走するルドー達。


 だがルドーは、本領を発揮した三つ子の実力を、まだ知らなかった。


 全科目が利用する共有区画を中心に、次々と発生していく罠の数々。


 歩けば落ちてくるタライ。

 フランゲルの頭に直撃して、痛みに頭を抱える。


 曲がり角に設置されたトラバサミ。

 ウォポンが足を見事に挟まれ、ハイハイ痛みに叫んでいる。


 壁から大量に発射される吹き矢。

 ヘルシュが悲鳴をあげて、必死になんとか避けきった。


 飛んでくる大きな網。

 アリアが頭から被って、大声で文句を言いながらなんとか脱出した。


 色々と飛んでくる、紐に括りつけられた罠の数々。

 聖剣(レギア)が警告しないので、全部ルドーの顔面に直撃した。


 回収というより、罠を全部踏んでいっている状態。

 フランゲル一行と一緒に、ルドーも次々と引っかかっては悲鳴をあげ続けた。


「もう! なんなのよ! 髪崩れちゃったじゃないの!」


「崩れても可愛らしいから問題はないぞアリア!」


「ここで惚気ないで! 心臓に悪いよフランゲル!」


「ハイハイハイお次はどこですか!?」


『そこに落とし穴あるぞ』


「先に言えってああああああああああああ!」


 落下しそうになる穴の端に、ギリギリガシっと捕まって難を逃れた。

 いつの間にこんな巨大な穴を掘った。


「間一髪ねぇ」


「おちなかった!」


「ルドにぃ強い!」


「次はもうちょっと大きく!」


「大きくじゃない! やめなさいこんなこと!」


 キャビンに抱えられたままくすくす笑う三つ子に、穴から這い上がりながらルドーは叫ぶ。


 聖剣(レギア)を振り下ろして雷魔法で罠を壊しながら、疲弊しつつ次の罠へと向かう。

 滑稽な様子に、ずっとゲラゲラ爆笑している聖剣(レギア)。うるさい。


 そしてとうとう食堂の方から、大きな悲鳴が聞こえた。


「リリ!?」


 聞き慣れた声の悲鳴に、ルドーは大慌てで食堂に向かう。


 目に飛び込んできたのは、先程のルドーと同様、足を紐で括られ、逆さ吊りにされた状態のリリア。

 スカートが捲れないように必死に押さえながら、食堂の少し高い天井から吊るされたロープに、罠の反動で揺れてプラプラしていた。


 それを見た瞬間のルドーの動きは早かった。


 聖剣(レギア)を即座に、ロープに向かってぶん投げる。

 バシッと紐を叩き切ると同時に、聖剣(レギア)はガキンと天井に突き刺さった。

 悲鳴をあげて落下したリリアを、なんとか下に走り込んで抱き留めた。


 衝撃にグエッと情けない声が、ルドーの口から洩れる。


「お兄ちゃんありがとう、大丈夫?」


「いってて、大丈夫だけど……うわぁ」


 リリアの悲鳴と姿に、ルドーはそれしか見えなくなっていた。

 しかしリリアの無事を確認してから、改めて食堂を見渡せば、酷い状態に変わり果てていた。


 食堂に訪れた生徒が、あちこちに設置された罠に、盛大に嵌まりまくっている。


 リリアと同じように吊り下げられ、トラバサミに挟まれ、吹矢にぐったり気絶して。

 色んな生徒が被害に遭って、あちこちに屍が累々と転がっていた。


 トラストが大きな網に引っかかって、脱出しようともがいている。

 キシアとビタとアルスが、それぞれ罠をなんとか掻い潜ったのか、既にぐったりした状態だった。


 ルドーがリリアと一緒に呆然とそれを眺め、腕輪越しに手を伸ばせば、雷がバチリと走る。

 バシッと取り戻した聖剣(レギア)が、またゲラゲラ笑い始めた。


 フランゲル一行も一緒になって笑い始めた。

 お前らもさっき引っかかっていた方だろ。


『傑作傑作! いやぁ、おもしれぇ景色してるな』


「いや笑えないって」


「お兄ちゃん何か知ってる? 食堂がこんなになってて、今みんなで原因を探ろうとしたんだけど……」


「それでみんなして罠にはまっちまったと」


「トラストくんが気付いたんだけど間に合わなくて……」


「まったく鍛錬が足りませんよあなた達は!」


 ルドーがリリアを抱えたまま話していると、鋭い声が聞こえてバシュンと風切り音が鳴った。

 罠に吊り上げられていた、護衛科の男子生徒がぼとぼとと地面に落下する。


 その前に剣を構えた状態のサンザカが、猛然とした表情で立っていた。


「この間の合同訓練の後で、この失態。どれだけ護衛科の恥を晒せば気が済むというのですか!」


「まぁまぁ、しっかし只事じゃなさそうだが。なんだ敵襲か?」


 サンザカの横に並んだハイシェンシーが、竹刀で背中を叩きつつも、警戒するような視線を回す。


 二人共既に、それぞれが護衛している、オリーブとバンティネカを、安全圏で待機するように距離を取って待たせていた。


 警戒するような二人の様子に、ルドーはリリアを立たせ、自分も立ち上がりながら項垂れる。


「いやー、あの、敵襲じゃないんです……」


「うん?」


「はい?」


「お兄ちゃん原因分かってるの?」


「ライアたちなんだよこれ……」


 大きく息を吐き出しながら、項垂れつつルドーは事情を説明する。


「……つまりあの女に、何やら不穏な事をしている輩がいて、そいつをとっ捕まえようとして、こうなっているというわけだな?」


「まぁそうだけど。危ないから回収しようとしてたんだよ」


「ここに来るまでにもかなりの数があったぞ!」


 状況を理解したサンザカとハイシェンシーに、フランゲルが豪快に笑いながら報告した。

 全員が一瞬ジトリとフランゲルの方を眺め、大きく溜息を吐いたところで、トラストが網から脱出してくる。


「そ、そういうこと、でしたら、ぜぇ、観測者の、探知で、はぁ、お、お手伝いが……」


「トラストさん、息があがってますわ。まず深呼吸なさって」


「その状態じゃ、見つかるもんも見つからないって」


「全く、いつまで経っても体力が付きませんのね」


 這いつくばって息も絶え絶えなトラストに、キシアが落ち着かせようと両手を前に掲げる。

 アルスとビタが同調するように声を掛ける中、ルドー達が走ってきた中央ホールからも、また悲鳴が上がり始めた。


 その場の全員が、ゆっくりとその悲鳴の方向に視線を向ける。


「……あっちから来たよな、なんでまだ罠があるんだ?」


『だって全部解いてねぇからな』


「言えよ! 分かってんなら!」


「まだはんぶん!」


「いっぱい仕掛けた!」


「これできっと捕まる!」


「あぁもう! お前らカイムが帰ってきたら全部報告するからな!」


「「「わぁー! ごめんなさいいいいい!!!」」」


 流石にカイムの本気の説教は怖いらしい。

 ルドーの言葉に、三つ子は揃って大きく謝り、キャビンにしがみ付き始めた。


「えっ? お兄ちゃん、カイムくんいないの?」


「クロノと一緒にまた外出て行ってるんだよ」


「戻った途端に忙しい奴らだとは思わんか!」


「一応夜には戻ってくるらしいわよ」


「えぇ? また無断外出されてますの?」


「全く本当に手に負えません二人ですわね」


「道理で三つ子が暴走しちゃったわけだよ」


 ルドー達が話している間に、また中央ホールから次の悲鳴があがった。

 犠牲者が増え続けている様子に、バンティネカと一緒に机の下に退避していたオリーブから声が上がった。


「というかちょっとオーバーすぎるやん、先生に報告案件なんちゃう?」


「この程度の罠、看過できない方が問題ですよ」


 背後から低い声が聞こえて、全員が振り返る。

 あがる悲鳴に様子を見に来たのだろうか、そこにはヘーヴ先生が立って眺めていた。


 しかしヘーヴ先生から聞こえた先程の言葉に、その場の全員が動揺して狼狽える。


「えっ? つ、つまり先生、放任すると……?」


「基礎科だって、政敵の暗殺や襲撃など日常茶飯事でしょう。護衛科も、それを対処するための科目。魔法科は言わずもがな。この程度、問題にすらなりません。こちらは手出ししませんので、自力対処するように」


「ええええええええええええ!?」


 驚愕の声をあげる全員。

 そんな全員に目もくれず、ヘーヴ先生は夜食用のパンを数個手に取り、もぐもぐ咀嚼しながら立ち去っていった。


 ヘーヴ先生によって、三つ子の罠は正当化されてしまった。

 エレイーネーとしては、これくらい自力対処できなければ、逆に問題だと言われる。


 でも確かに言われてみれば、ネルテ先生もケラケラ笑いながら「頑張りな」としか言わない姿が、その場の魔法科に即座に想像できた。


 つまり、エレイーネーの教師陣からの助けは期待できない。

 正当化されたことで、国際問題の危険は回避できたが、これはこれで問題だった。

 その場の全員が大きくがっくりと項垂れる。


「……ハイシェンシー、協力してあげなさい。事態が静まらなければ私も安心できません」


「了解しました……」


「サンちゃん、頼んだで。うち、ここでティネっちゃんと休んどくさかい」


「分かりました」


 バンティネカとオリーブの命令で、ハイシェンシーとサンザカも協力体制に入った。


 とりあえず罠を除去しなければ、話は先に進まない。

 数の多い罠に、ルドー達は別れてそれぞれ対処することになった。


「えーっと、数が多そうな中央ホール付近は、僕が探知で見付けます」


「食堂付近は引き受けよう。他の基礎科の対処もせねばならないからな」


「同じく、同行します」


「俺様たちは図書室方面を回ろうではないか!」


「そんじゃ俺たちは残りの廊下とか虱潰しに行くか……」


 トラスト、ビタ、キシア、アルスは中央ホール。

 ハイシェンシーとサンザカが食堂近辺。

 フランゲル一行が図書室周辺。

 そしてルドーとリリア、キャビンと三つ子が残りの廊下。


 数の多い罠に対処するために、班分けが決まった。


「珍しくやる気じゃないフランゲル」


「他の者が役立っておるのに、俺様が役立たんでどうするのだ!」


「ふふ、そうね。かっこいいわよ」


「ナチュラルに惚気るのやめてくれます!?」


「あの、ここからでもざっと三十ほど見えるんですけど」


「そんなにあるの? 頑張ったんだなぁ」


「褒める所ではありませんわよ!?」


「全くこれだから嫌になりますわ」


「とりあえず罠探知の魔道具だな」


「反応多いです。なにがどれに反応しているやら」


 それぞれの場所に向かう会話を聞きながら、ルドーも聖剣(レギア)に向かって声を掛ける。


「頼むからもう言わないのやめてくれよ聖剣(レギア)


『えぇーつまんねぇな』


「怒るよ?」


『あっはい。真面目にやります』


 ニコニコの危険笑顔を向けられ、聖剣(レギア)がビリッと震えた。

 ようやく真面目に罠を指摘してくれるようだ。

 ルドーの懇願は聞かなかったのに。解せぬ。


 範囲の一番広い廊下をあちこち回って、罠にかかった生徒を救出し、解除して回る。

 聖剣(レギア)の警告で罠に引っかからなくなったものの、その数の多いこと多いこと。


 というかここまで的確に分かっていたなら、最初から教えろ。


 全ての罠がようやく解除され、ルドー達が食堂に戻ってきた頃には疲労困憊だった。

 窓の外を見れば、日がとっぷり暮れて真っ暗になっている。


 既に作業を終えた、トラスト、キシア、ビタ、アルスがぐったりと床に座り込んでいた。

 サンザカとハイシェンシーも少し疲れた様子で、椅子に座ってバンティネカとオリーブに労われている。


「……これ何の騒ぎ?」


「カイム! 遅いって! もっと早く戻って来いよ!」


 クロノの声が聞こえて振り返れば、怪訝な表情でこちらを見つめながら、カイムとクロノが食堂に入ってきた。

 無断外出からようやく戻ってきたところのようだ。


 勢い良く詰め寄ったルドーに、カイムが若干顔を引き攣らせる。


「んだよ、俺になんか用かよ」


「ライアたちだよ! 大変だったんだって!」


「あぁ? チビどもがどうしたんだよ」


「あー、なんか色々罠設置してたやつ?」


 詰め寄られてわけが分からない様子のカイムの横で、クロノが驚愕の一言を告げた。


「知 っ て て 放 置 し た の か ?」


 ルドーの大声に、全員の視線がクロノに集中する。

 カイムでさえゆっくりとクロノの方を向いた。


「何の話だよ、聞いてねぇぞ」


「や、なんか三人で罠沢山設置してて。楽しそうにしてたし、いいかなって」


「よくねぇよ! 被害甚大だって! 止めろよ!」


「チビどもぉ!!!」


「「「うわぁん!!! ごめんなさいいいいい!!!」」」


 クロノとルドーの話を聞いて、カイムが即座に三つ子を叱り飛ばした。


 途端にキャビンにしがみ付く三つ子。

 ガミガミとカイムの説教が続く。


「てめぇもてめぇだろが! なんで黙ってんだよ!」


「楽しそうだったからって言ってんじゃん。キャビンも止めなかったし」


「キャビン!」


「悪かったわよぉ。罠設置が悪い事だって思わなくってぇ」


 カイムはそのまま、報告しなかったクロノとキャビンにも噛みつき始める。

 キャビンは大丈夫そうだが、クロノは本当に眼中にない態度だ。

 頼むから反省してくれ。


「あー、お取込み中申し訳ありませんが、ちょっといいですかー?」


 ぎゃんぎゃん喚くカイムと、平然と受け流すクロノ。

 二人の様子に全員力が抜けて呆けていると、食堂の入り口から声が掛かる。

 入口の壁に手を掛けたヘルシュが、おずおずと様子を伺っていた。


「ヘルシュ、図書室方面の方だよな、問題発生か?」


「あー、問題といえば問題かなぁ。あのー、捕まりました」


「捕まるって何が」


「あの、例の、不届き者。多分」


 ヘルシュの声に、全員が沈黙した。


 そもそもの三つ子の罠騒動の原因。

 クロノに嫌がらせをして、三つ子が捕まえようとした張本人。


 図書室方面で、その犯人が、三つ子の罠に捕まった。


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