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第百八十話 無表情の不在と新しいトラブル

 

「エリンジくん、大丈夫かな……」


 リリアが不安そうに呟いた。


 ルドーとクロノがそれぞれ食堂に戻ったその日の昼食、三段チキンサンドを頬張るルドーの横。


 リリアは視線を下に向け、スクランブルエッグとコーンポタージュをなんとか食べようとしていた。

 だが先程からずっと憂鬱そうに溜息ばかり吐いて、最初の一口から手が進んでいない。


 エリンジはこの日、朝からエレイーネーを不在にしていた。

 とうとうムスクが玉座を務める為、ジュエリ王国にて戴冠式が行われているのだ。


 シマス国ウガラシの一件は、他の同盟国連盟にも重い影を差した。


 他国王都にて凄惨な事件が起こった、そのすぐ後での戴冠式。


 ジュエリ王国は警戒から、当初の各国王侯貴族の招待を中止。

 国内貴族の招待だけという最低限の戴冠式に変更し、厳粛にそれを実行しているという。


 ジュエリ本国にエリンジの父、デルメ・クレイブ公爵がいる為、エリンジは必ずしもこの戴冠式に参加する必要は本来なかった。


 エリンジの目的は、ムスク国王から古代魔道具「心理鏡」の捜索を、王命で直接賜ること。


 不老不死の女神深教を唯一攻撃が通る状態に変えるには、相手の内面を知る必要がある。

 古代魔道具「心理鏡」は、それを可能とし、女神深教を相手にする際、強力な武器となり得た。


 しかし鉄線によって奪われ、その後マデビラ辺境伯の手に渡った後、コロバとナナニラによってさらに奪取されて、その後の行方は追えていない。


 ジュエリ王国の公爵子息のエリンジでは、自主的に心理鏡を追うには、まだ立場が弱い。


 エリンジでそれなら、全く関係ない他国の勇者や聖女でしかない、ルドーやリリアは尚の事だった。


 しかしここで、ムスク国王から直々に、エレイーネーに心理鏡の捜索を王命にて依頼すれば、話は変わってくる。


 女神深教に対抗するため。

 エリンジは一人その為にジュエリ王国本国に戻り、戴冠式に臨んでいる。


 大丈夫だから任せろ。


 いつもの無表情でそう言い切っていたエリンジを、ルドーは思い返していた。


『まぁなんとかなるだろ、あれからでかい事件は今のところ起きてねぇ』


「でも、規模を縮小しても、国の重鎮の人たちは集まるんでしょ?」


「国民のお披露目は別日にして、なるべく人が集まらねぇように分散してるって、エリンジ言ってただろ、大丈夫だって」


 何も手につかない様子のリリアに、ルドーはそっと頭に手を添え、安心させるように撫でる。


 ルドーもエリンジが心配で、不安になっていない訳ではない。


 しかしここで進まなければ、いつまでたってもルドーたちは先に進めない。

 女神深教に対抗できないまま、向こうのいい様に翻弄され続ける。


 不安を押し殺して、今はエリンジを信じるしかなかった。


「わっほーい! ルドーくんルドーくん! あっリリアちゃん大丈夫?」


「な、なんでもない……」


 ブンブン両手を振りながら、メロンがイエディを連れて突撃してきた。

 ルドーの横に居るリリアの不安そうな様子に、なにやらニヤニヤしながら手を口に当てている。


「ほっほーう? エリンジ君がいなくて寂しい感じですかー?」


「えっ!?」


 メロンの指摘に、次第に真っ赤になっていくリリア。

 メロンがさらに揶揄おうと口を開いた瞬間、メロンの両頬をみよんとイエディがつねった。


「痛い痛いごめんごめん許して!」


「メロン、今、それどころじゃない」


「あっそうだったそうだった! ルドーくんルドーくん、カイムくんが!」


「カイムくん?」


「カイムがどうかしたのか?」


 イエディに諭されて、メロンがまた両手をブンブン振り回す。


 朝食と言い、今と言い、また何かカイムがらみで問題でも発生したのか。


 ルドーは残りのチキンサンドをモグッと一口押し込み、詳しく話を聞こうと、口を咀嚼させながら、改めてメロンとイエディに向き直った。


「中央ホールで喧嘩しそうだった! 今にも大暴れしそうな感じ!」


「喧嘩、許容されてるけど、相手、護衛科と基礎科」


「えぇ? 護衛科と基礎科の生徒と、カイムが喧嘩しそうだって?」


『今朝の奴はもう文句言えねぇだろ、別の奴か?』


「いやそれにしたって誰にだよ」


 メロンとイエディの話から、どうやらカイムが基礎科と護衛科の生徒に絡まれている、という話らしい。


 今朝の一件で、ベゴニーはもうカイムとクロノに、文句を言える立場ではないことは分かっている。


 つまり、今カイムが絡まれている相手は、ベゴニーではない。


 だれかカイムに絡んでくるような相手はいたっけと、ルドーは腕を組みつつ考える様に仰け反る。

 リリアもメロンとイエディの話に、怪訝そうに口を開いた。


「クロノさんいるから大丈夫じゃないの?」


「そのクロノちゃん関係なの! だからクロノちゃんだと止められる様な感じじゃなくて、カイムくん、それで暴走しそうな?」


「中央ホール、多分騒ぎになってる。止められそうなの、ルドー君だけだと思う」


「えぇ?」


『なんか知らんが面白どうだな』


 明らかな野次馬根性に、レギアがパチパチ笑うように弾ける。


 クロノが関係しているために、クロノ自身がカイムを止められない。

 つまり基礎科と護衛科に絡まれているのは、カイムではなくクロノ。


 クロノが絡まれて、それにカイムがブチギレているから、クロノでも止められないという話だ。


 ルドーでも分かる、クロノを想って真っ赤になって、机に突っ伏していたカイムの姿。

 戻ってきたばかりのクロノが、カイムにとってそういう相手が、よく知らない男子に絡まれたら、そりゃブチギレるわけで。


 だからイエディが、止められるならルドーだとメロンに伝え、援護を呼びに来たという話だった。


 ルドーはリリアと顔を見合わせつつも、カイムが騒ぎを起こしているというなら、とりあえず止めに行った方がいいかと結論を出した。


 メロンとイエディと一緒に、ルドーとリリアも足早にその現場に向かう。


 すると先の中央ホールから、ドカァンとどでかい音と衝撃が走った。


 リリアと一緒に手で顔を覆う。

 どうやら一足遅かったようだ。


「あら、遅かったじゃない」


「たった今面白いことがあったばかりだぞ貴様ら!」


 ルドーがリリアと一緒に中央ホールに飛び込めば、気付いたように振り向いて声を掛けられる。


 アリアとフランゲルだ。

 いつものウォポンとヘルシュも一緒の、フランゲル一行。


 手にポップコーンを持って、完全に観戦の体制だ。


 ざわざわと生徒達が騒ぐ。

 中央で騒ぐ数人を取り巻くように、距離を取って眺めていた。


 不安そうに見ている者から、野次馬の様に楽しそうにしている者、生徒達は様々な様相で眺めていた。

 楽しそうに笑って見ているフランゲル一行の視線を、ルドーはリリアと一緒に辿った。


 当の騒動の中心には、カイムとクロノ、それから二人の男子がいる。


 一人は昨日の合同訓練で、クロノに完膚なきまでに吹っ飛ばされた護衛科のトップ、ハイシェンシー。

 もう一人はチームを引っ張っていたリーダー、基礎科のセロモア。


 中央ホールの石造りの床に、肩まで深く突き刺さって、完全に伸びて目を回しているセロモア。

 組手でエリンジがカイムの髪に、地中深くまで引き摺り込まれた場面を思い出す。


 ハイシェンシーは、カイムの赤褐色の髪に竹刀ごとグルグル巻きにされ、宙吊りにもがいている所だった。


 混沌と化した中央ホール。

 ルドーがリリアと目を点にさせていると、ハイシェンシーが叫び始める。


「昨日の続きだ、クロノワール・レペレル! 女子は弱いだけではないと、新しい境地を俺に教えてくれた女! 俺がお前を倒す!」


「フルネームで呼ぶのやめてよ」


「だああああああああ! いい加減くたばれやてめぇ!」


「カイムも落ち着いてって」


 ダン、ダン、ダン、と。

 カイムはグルグル巻きにしたハイシェンシーを、石の床に叩き付け始める。


 衝撃に飛び散る破片。

 周囲の野次馬がさらに遠巻きになる。


 しかしハイシェンシーも耐久力があるのか、カイムの叩き付ける攻撃にも、唾を吐くものの気絶するに至っていなかった。


「その程度の攻撃、俺には耐えられるぞ! それこそ昨日の様に、一撃で倒す破壊力がなければな!」


「うるせぇっつってんだろが!」


「あーもう。カイム、無視して行こうって……」


 ルドーが見ている限り、クロノはハイシェンシーの事は眼中にない様子だ。

 しかし絡まれ方が気に食わないのか、カイムは怒り散らしながら、ハイシェンシーを髪でぶん回している。


 暴れ回るカイムに、クロノが声を掛けているが、カイムは喚くだけで止める気配がまるでない。


 攻撃があまり効いていないのも、カイムの怒りに拍車を掛けているようだった。


 カイムを説き伏せる材料が足りないと、ルドーはリリアと一緒に、まだ話の出来そうなクロノの方へと近づいた。


「クロノ、なんだよこれ、どうした?」


「知らない。興味ない」


「えぇ……」


 前方でハイシェンシーを石の床に叩き付け続けるカイムを眺める、クロノ。

 呆れる様に溜息を吐き、両手を組んだまま、気だるげに首を傾げている。


 近寄って事情を聞こうとしたルドーだが、クロノから返ってくる端的な言葉は、カイムを止める何の材料にもならない。


 クロノの返答にルドーが困惑していると、今度はリリアが声をあげる。


「ク、クロノさん、ハイシェンシーさんは戦いたがってるだけみたいだよ?」


「弱いやつに興味ない」


「えぇ……」


 バッサリと切り捨てたクロノに、ルドーはまたしても困惑の声をあげる。


 よくよく思い出せば、エリンジに絡まれても面倒に思うだけで、我介せずと距離を置いていた。

 クロノは基本この手の面倒事からは、距離を置くのがデフォルトのようだ。


 だがこれでは、カイムをやめる様に説得することが出来ない。


 事情が分からないままルドーが困惑していると、ずっと様子を見ていたのか、フランゲル一行から声が上がり始めた。


「先にやられてしまったほうは、アリアが知っていると言っていたぞ!」


「一撃必殺っておっそろし、見えなかった」


「ハイハイハイ埋もれる前に髪切り落せる自信ないです!」


「そっちで突き刺さってるのね。ファブのセロモア・ボムソブリック様よ。ホムソブリック公爵家の次男」


「ファブの公爵家? ってことはレペレル辺境伯関係って事か?」


 地面に突き刺さったまま、頭の上で星を飛ばして伸びているセロモアを指差しつつ、アリアが答える。

 ルドーが振り向いてアリアに聞き返せば、アリアはふふんと自慢げに笑った。


「当たりね。レペレル辺境伯に物凄く憧れてるって、会った事も無い遠い領地の、身分も男爵家な私にも噂が届くくらいね」


「……レペレル辺境伯に……取り次いでほしい、だけなのだが……」


「私に頼まないでよ、他当たって」


「あー……」


 アリアとの話に、頭に星を飛ばしつつも、セロモアが朦朧と声をあげた。


 どうやら彼は化け物辺境伯と名高いレペレル辺境伯に強烈に憧れ、本人に会いたいがために、レペレル辺境伯家のクロノに声を掛けた、という事らしい。


 しかしクロノはクロノ自身の家族である、レペレル辺境伯家とは距離を置いている。


 理由はルドーも知らないままだが、不快気に腕を組んだまま顔を背けたその様子に、クロノはセロモアの頼みを聞く気は全くなさそうだった。


「クロノワール・レペレル! 化け物と揶揄されるレペレル辺境伯家の娘! 倒すべき強敵にふさわしい!」


 一方ハイシェンシーは、昨日の一撃に逆に闘志に火が付いた様子だ。


 純粋な戦闘欲でクロノとまた手合わせしたがっている様子だが、クロノは全く応じようとする様子はなく、こちらからも顔を背けている。


 おおよそしつこく言い続けた二人に、とうとうカイムが痺れを切らしたといったところか。


「うるせぇっつってんだよてめぇ!」


「カイム、もう無視して行こうってば、なんで今日そんな機嫌悪いわけ?」


「うるせぇ!」


 肩をすくめながら宥める様に言うクロノに、カイムは逆に真っ赤になった。


 訳が分からないというように、困惑の視線に変わったクロノ。


 そんな二人の様子を見ていたリリアが、唐突に大きく呆れたように息を吐いた。

 ルドーがどうしたのだと視線を向ければ、リリアはちらりとクロノを見つめ、聞こえないようにと声を落とした、


「カイムくんの機嫌悪いの、お兄ちゃんのせいだよ」


「えっ? 俺? な、なんで?」


「だって今朝、クロノさんと二人っきりで話に行ったじゃない」


「なんですと!?」


 様子をニヤニヤ見ていたメロンが、聞き捨てならないとこちらにバビュンと首を向ける。

 リリアは小声で話してたのに。地獄耳か。


 大慌てでリリアに近寄って、一部始終を詳しく聞き出し始めたメロン。

 物凄く楽しそうだ。


 一部始終を聞き終えたメロンが、ガバっとこちらを向く。

 メロンから非難するような鋭い視線に、ルドーは思わずたじろいだ。


「ルドーくん、相手の居る子に手出ししちゃダメじゃん!」


「なんでだよ! 引き摺られてったのこっちだぞ! それにその手の話してねぇって!」


「話の内容は関係ないんだよ! 二人っきりで話したって事実に、カイムくんは嫉妬してるわけですからね!」


「人の気持ち勝手に代弁してんじゃねぇよ! 今度余計な事言うとぶっ飛ばすぞ!」


 ブンブン両手を振り回しながらルドーに大声で説明していたメロンに、カイムがハイシェンシーを叩き付けつつ、真っ赤になって喚き散らす。


 聞こえていたのか、いやメロンの大声は聞こえるか。


「何の話?」


 メロンの大声を聞いて、会話にクロノが入ってきて、カイムがビシッと固まる。

 ハイシェンシーが床にベシャッと叩きつけられ、グフッと声を出す。


「カ、カウンター対象が指定できない、溜まったダメージが……」


 遠距離に髪に巻かれたまま、ハイシェンシーはガクッと気を失って倒れた。


 どうやらカウンター攻撃は、近場に攻撃対象がいないと機能しないようだ。

 ウォポンのような近接タイプならともかく、中距離タイプのカイムには向かない様子。

 攻撃用の竹刀まで封じられては、相手だけでなく、地面などの環境にも、溜まったダメージが放出出来ず、全部受けたままになるということだろう。


 そんな気絶したハイシェンシーにも気付かず、固まり続けるカイム。


 流石にクロノに詳しく聞かれるのは、カイムが可哀想だ。


 リリアがなんとか誤魔化そうと、クロノに慌てて駆け寄る。


「あっ、えーと、クロノさん、ちょっとお話いい?」


「さっきから変な話ばっか持ってこられたから、まともならいいけど」


「あの、身体を鍛える方法教えてくれないかなって!」


 唐突にぶっこんだリリアに、ルドーはまたしても目が点になってリリアを見つめる。


 いつだったか、カイムにクロノの鍛え方について教えを乞うていたが、どうやらリリアはまだ諦めていなかったようだ。


 クロノにとっても想定外すぎたようで、驚きに目を見開いて固まっている。


「……身体を鍛える方法?」


「うん! 私、デメリットで攻撃魔法使えないの。自衛用の魔道具は持ってるけど、それに頼りっきりも良くないと思って」


 クロノさんみたいに戦えれば御の字なんだけど、とリリアは続けた。


 横で話を聞いていたメロンとイエディ、フランゲル一行すらも想定外に、リリアを見つめる。


 やめてくれ。

 あの規模になったリリアの平手打ちは、ルドーは浴びたくなかった。


 震えて話を聞き始めたルドーをよそに、クロノは首を傾げる。


「……私の鍛え方は、なんというか、逸脱してて、真似なんて到底出来ないんだけど……まぁ、リリアがやりたいなら、別のできる方法教えるけど」


「ほんと?!」


「でぇっ!? マジで!? マジで教えんの!?」


『おいおいお兄ちゃん、そう慌ててやんなよ』


 面倒嫌いのクロノの更に想定外の協力姿勢。


 ルドーは絶望に大きく頭を抱え、聖剣(レギア)がゲラゲラ笑い始めた。


 クロノは唐突に、制服の襟元に手を突っ込む。


 何をし始めたのかと全員で慌て始めた所で、首に革紐でかけた小さな革袋が出てきた。


「うーん、どこ入れてたっけな……」


 小銭入れのような小さな革袋を開けて、覗き込むようにクロノは中を確認していた。


 するとガランゴロンと、明らかに小さな革袋から聞こえていいものではない、大きな音が響く。


 なんだ、一体何をしているんだ。


「ちょっと! 空間拡張魔道具、しかも最高級の一番小型な奴じゃない! そんなものどこで手に入れたのよ!」


「うるさいなぁ、便利なもの使うのは別にいいでしょ。あ、あったあった」


 アリアの大声に、クロノは眉をしかめて一瞬そちらに視線を向けた。


 空間拡張魔道具。

 ルドーも噂には聞いたことがある。

 空間を魔法で制御して、大量の荷物を運んだり保管したりする、高級品に分類される魔道具だ。


 高級品の話に目がないアリアの目の色が変わったことから、クロノが持っているそれは間違いなくその魔道具のようだ。


 小銭入れ程度にしか見えない小さな袋に、クロノは左腕を全部突っ込む。

 明らかに革袋の空間が捻じ曲がっている。


「はい、これ」


「わっ、えっきゃあ!」


 クロノが中から黒い物体を取り出したと思ったら、リリアの方に放り投げる。


 革袋より大きい物体。


 クロノの様子を伺っていたリリアは、クロノから放り投げられたそれを受け取るや否や、黒い物体ごとドスンと地面に伏して動かなくなる。


「リリ!? おいクロノこれなんだよ!?」


「危険物じゃないって、うちの領地でよく使われてる奴」


『あー、傭兵が鍛えるのに使う重し袋か』 


 聖剣(レギア)の指摘に、ルドーがリリアに駆け寄りつつまじまじと見れば、身体に巻くようなベルトの付いた、大きな重しが付いた袋だった。


 ポップコーンを食べ終えたフランゲル一行の中から、ヘルシュが大きく驚愕して叫んだ。


「えぇ!? そんなド〇ゴンボールみたいな鍛え方なの!?」


「うちの領地で使ってる奴だよ。とりあえずこれで普通に動けるまで毎日つければいいんじゃない?」


「うぐぐぐ……」


「リリ、無理すんな」


「やるってば!」


「クロノちゃーん、私にも! 私にも!」


「えー?」


 固まったままダラダラ冷汗をかき続けるカイムを尻目に、今度はメロンがクロノに群がっていく。


 カイムの傍には目を回して地面に埋まったままのセロモア、大量の髪に絡まれたまま、うつ伏せに倒れるハイシェンシー。


 混沌とした状況と、始まる鍛え方に関する助言。


 ルドーはもう何も考えることが出来なくなって、とりあえず誤解だけは解いておこうと、固まるカイムの背後にそっと足を進めた。


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