第百七十八話 全科目合同訓練.5
『とうとうキング駒を奪取されて、脱落したチームが出たぞ! 惜しいところで敗れたセロモアチームの健闘に拍手―!』
ネルテ先生の掛け声で、待機していた先生方からパラパラと拍手が送られた。
だが悔しそうに地面を叩くセロモアチームの基礎科生徒達は、逆に煽られるように更に悔しがり始める
『残り三チーム、それぞれここからどう動くー!?』
全科目合同訓練は、後半戦に突入していた。
残った三つのチームの動向を、ルドーは解説席から眺めて観察する。
『ここでの動きが勝敗に左右しそうか?』
『一ヶ所動かないままなのが地味に厄介になってるな』
逆に全く面白いというように、レギアがパチパチと笑うように弾ける。
デポージーチームは、相変わらず固まって動く気配がない。
ノースターとの攻防に、大量の引火剤をぶちまけられたまま。
降りることの出来ないフランゲルが、空中をぐるぐると旋回している。
指示のないまま動けない全員、まかれた泡状の引火剤を、なんとかして撤去しようと奮闘していた。
人数不利なのはベゴニーチームだ。
護衛科三人にウォポンが脱落したので、半減した人数でどうするべきかと、ずっと指揮を叫んでいたベゴニーが思案している。
ただこのチームはカイムとクロノがいるので、人数不利でも戦力は十分賄えていた。
ルドーの特別枠召喚を既に使い切ってしまったことが、今後どう響いて来るだろうか。
一番状況を動かしたバンティネカチーム。
次はどこを狙うべきかと、ヒソヒソと基礎科同士が集まって相談している様子だ。
ただ全員視線がベゴニーチームに向いている事から、おおよそ次に狙われるのはベゴニーチームの方だろう。
特別召喚枠も消費して、挽回する要素がないのだ。
ルドーでもここは狙い目だと判断するが、問題は規格外の二人がどう動くかだ。
そう思って、ルドーはカイムとクロノに順に視線を移していく。
するとクロノがマス範囲から移動しないまま、妙な動きをしている事にルドーは気付いた。
動きが指定されず、奪われたセロモアチームのキング駒を狙ったままの位置で、動いていなかったカイムと違う。
何もない空間をじっと見つめる赤い瞳が、魔法も発動せず怪しく光っていた。
見えない何かを目で追いかける様に、クロノは移動しないまま、身体ごとゆっくり回って動く。
その異質さに、ルドーは言葉を失った。
クロノには一体何が見えている。
「キング駒護衛ー、十時の方向。来てるから防衛しといたらー?」
「うぇっ!? 来てるの!?」
サンザカに指示していたバンティネカとオリーブの目が、驚きに見開かれる。
同時にベゴニーも、ガバッと指摘されたキング駒の方向に視線を向けた。
声を張り上げつつも淡々と指摘したクロノに、ヘルシュが慌てて剣を構える。
見えない相手に狼狽えつつ、それでもヘルシュが大きく剣を振り下ろして風魔法を放った。
想定外の指摘と攻撃に、潜伏魔法が解けたサンザカが現れた。
ヘルシュの風魔法をいなす様に、ガバッとその場の地面に伏せる。
転移魔法か飛行魔法か、はたまたそれ以外の移動方法か。
マスの上をどうにかしてか、走らずに近寄っていたようだ。
マスの色が変わらなかったので、その接近が分からなかった。
サンザカが地面に伏した瞬間、その場のマスの色が変えられる。
しかしクロノはなぜ魔法も使わず、潜伏魔法を使って姿をくらましていたサンザカの様子が、バッチリ見えていたのだろうか。
『おぉーっとぉ!? バンティネカチームサンザカ、先程と同じように潜伏魔法でベゴニーチームのキング駒を狙うも、ヘルシュに防がれたぁー!』
「……やってくれましたね」
「ふっ不可抗力不可抗力!」
『不意打ちしてきたのはサンザカなのに、ヘルシュ何謝ってんだ?』
『……違うと思うぞ』
地の底から響く恨みがましい声に、ヘルシュが顔を赤くしつつも大声をあげて両手を振る。
ルドーの位置からはよく見えず、攻撃をいなすために伏せたと思っていた。
だが実際は、ヘルシュの風魔法に、サンザカのスカートが捲れて黒い下着が露呈した。
真正面のヘルシュにそれを目撃され、咄嗟にスカートを押さえて伏せたのが実態だった。
サンザカが鬼の形相で立ち上がって走り、防ごうと前に出たベゴニーチームの護衛科が、スパパンと剣で切り伏せられた。
護衛としての実力は、サンザカの方が上だったようだ。
「チズキミフくん、リタイアー」
『あぁーっと、ここでベゴニーチーム、残っていた最後の護衛科、チズキミフがリタイアー! このままではもう後がないぞー!』
そのまま倒れてしまった護衛科男子を、ターチス先生が救護テントの目の前に転移させた。
サンザカはそのまま鬼のような形相で走り寄って、ヘルシュに向かって切りかかる。
「ここまで近寄れたなら問題ありません! 奪取させてもらいます!」
「ほんとごめんて! あぁもう、なんで今になってラッキースケベが発動するんだよ!」
ヘルシュが叫ぶ内容は、ルドーにはよくわからない。
風魔法を発動する隙を許さないように、サンザカが恐ろしい勢いの剣術でヘルシュを追い込んでいった。
キンキンキンと、剣技の攻防に連続した金属音が鳴り響く。
ヘルシュにとって剣は、あくまで風魔法を扱うための補助。
剣をメインに鍛えている護衛科とでは、その実力差は圧倒的だった。
攻撃を防ぐ事に必死のヘルシュは、どんどん押されて後退していき、その背後にマス範囲が迫る。
このままだとヘルシュの場外リタイアで、ベゴニーチームのキング駒を取られる。
焦りの表情を見せたベゴニーが、カイムとクロノの方に向かって叫んだ。
「くっ! 魔法科、どうにかならないのか!?」
「距離遠いわ! 先に動かしとけってんだよ!」
「はいはい。なんとかするって」
距離が遠すぎて髪が届かないカイムが吠える中、クロノが動いた。
クロノが軽く足をあげて目の前の別マスを踏み付けると、まるでメンコが裏返るように――――
――――目の前のマス範囲がバカンとひっくりあがった。
『ええええええええ!?』
『そんなのありかよ!?』
戦闘訓練に必要な広さのある大きさに、コンクリート製で重量もかなりあるはずのマス。
それをあっさりと叩き上げたクロノに、絶叫したルドーと聖剣に続く、生徒達の驚愕した大声。
流石にネルテ先生も仰天して慌て始めた。
『ああああぁー!? そんなあっさりフィールド破壊!? 地面として使うのは想定してたけど、その使い方は想定外だよクロノ!? ネイバー校長ぉー!?』
「楽しそうだし緊迫へいほー!!!」
『オッケーだって! 続けてー!!』
あっさりと出た許可に、ネルテ先生の続行指示。
ルドーにはネイバー校長がノーという基準が全く想像できない。
そのままひっくり返ったコンクリート製のマスを、クロノはいつもの調子で、足を振って蹴撃した。
脚の当たった場所から入った、蜘蛛の巣のような亀裂。
ドゴォンと砕けた大きなコンクリートの破片、それも人より大きなサイズのそれが、ヘルシュとサンザカの居る方面へと轟音とともにぶっ飛んでいく。
「ああああああああ!!! こわいこわいこわいこわいいいいいいいいい!!!」
デポージーの絶叫が響く。
でもこれは誰でも納得する。
隕石の様に大きな音を立てて迫ってくる、コンクリート片。
背後から迫ってきたコンクリート片に、流石のサンザカも慌てて退避行動に移った。
「いくらなんでも暴力が過ぎますよ!」
「待って待って! 巻き添えになるって流石に避けれないって、うわああああああああ!!!」
一歩逃げ遅れたヘルシュが、隕石の様に降り注ぐコンクリート片に、悲鳴をあげながら地面に伏せて耐えしのいでいた。
ドカンドカンと、次々積み上がっていくコンクリート片。
しばらくして、ようやくそれが収まった。
土煙をあげるその場には、コンクリート片が綺麗に積み上がってキング駒が埋め立てられて、他チームが全く手出し出来ない状態になってしまっていた。
『うわぁ! そうきたか!』
『これで防衛考える必要なくなったな、面白れぇことする』
「クロねぇー!!!」
「すっげぇー!」
「どっかーん!」
ルドーと聖剣の解説に、三つ子の声援が飛び込んでくる。
ルドーやエリンジ、カイムの規模でなければ、あのどでかいコンクリート片ごとキング駒を破壊することはできない。
ビタとトラストの魔力伝達なら、変化魔法でコンクリート片を違う何かに変えることもできるかもしれない。
だがカイムとクロノが健在の状態で、それを素直にさせてくれるとも思えない。
覆われたキング駒のコンクリート片の傍で、ヘルシュが恐怖にすくみ上って、その場に伏せたままブルブル震えている。
「いやああああああああ!!! 来てる来てる助けてええええええええ!!!」
「えっ!? と、特別枠召喚!?」
『なんとぉ!? ここでバンティネカチームかと思いきや、デポージーチームから特別枠召喚だぁー!』
「でぇっ!? どういうことだ!?」
『あー、そっち行ったか』
混沌としてきた盤面で、ルドーは突然デポージーチームに転移魔法で召喚された。
デポージーチーム陣地の中央に急に転移させられ、ルドーは聖剣を構えながらも、訳が分からず混乱する。
同時に今が最後のチャンスだと、ベゴニーは咄嗟に大きく声をあげた。
「伏せてる奴、動けないならそのまま念のため防御を続けろ! 他の二人! バンティネカのキング駒を狙えるか?!」
「カイムー?」
「左から行けや、右から攻めらぁ」
「りょうかーい」
ベゴニーの指示に対して、なんとも締まらない気楽な応酬を交わすクロノとカイム。
その空気とは裏腹に、本気で連携して動き始めた。
二人は息を合わせるように、それぞれが同じタイミングで走り出す。
「あっちに召喚ならまだわかるって! なんで今こっちに!?」
『来てるぞ正面』
「でぇっ!? あぁもう雷閃!」
デポージーチーム陣地中央。
ルドーは聖剣の警告のまま、正面に雷閃を大量に叩き込む。
敵がなにか確認しようと目を凝らした瞬間、うっすらとその姿が浮かび上がる。
敵対探知。
敵だと思う相手を探す、攻撃性の探知。
潜伏魔法で身を潜めつつ、今度はデポージーチームのキング駒を狙っていたサンザカ。
見つかっていないと踏んで向かってくる姿を、ルドーは発見した。
「そっちか! 雷閃!」
雷閃を適当に放ったが故に、ギリギリでなんとか躱されていくのを確認して、ルドーは今度こそサンザカを狙って雷閃を叩き込んだ。
五本の雷閃が渦巻きながら、一直線に走っていく。
ドォンと落雷のような音と共に、サンザカに直撃。
雷光と衝撃で、周囲が地響きの様に揺れる。
しばらくして光が収まっていくとともに、両手で防ぐように剣を構えた相手が立っていた。
黒い煙をブスブスと音をあげながら現れたサンザカは、なんとか気合いで持ちこたえようとしていたが、耐え切れずに、その場にバタンと倒れて動かなくなった。
「サンザカさん、戦闘不能リタイアー」
『ここでサンザカリタイアー! どうやら潜伏魔法を見破られたみたいだぞ!』
「ルドっちゃん、そんなこと出来るなんて聞いてへんよぉ」
「向かってくる二人のせいで、あちらの攻撃に移れません」
サンザカが倒された様子に、オリーブとバンティネカが動揺する。
ターチス先生が倒れたサンザカを救護テントに転移で直送する中、まだまだ事態は動き続ける。
また走り寄ってくるカイムとクロノに、バンティネカチームの魔法科が慌てだした。
「あわわわわわわどどどどうしましょう!?」」
「もう! 肝心な時にいつもこれなんですから!」
慌てるトラストとそれを嗜めるビタ。
二人は即座に魔力伝達を発生させ、正面に迫るカイムに対処する。
トラストとビタが二人同時に地面に手を当て、変化魔法でコンクリート片を大量に伸ばし、ボコボコと殴りつける様にぶつけようとする。
大量の伸びるコンクリートだが、カイムは完全にその動きを見切り、左右に激しく移動しつつ、髪の刃で次々切り刻んでいった。
ドコドコと切り落されたコンクリート片が、周囲に散らばる。
「こっちもこのままやとやられてまう!」
「やむを得ません! 特別枠召喚!」
『楽しくなってきたぜ!』
「あぁもう! せめてカイムの対処にしてくれ!」
制限時間になっていないものの、ルドーのデポージーチームでの召喚目的は達成されていた。
そう判断したターチス先生が、ルドーをバンティネカチームの方に転移魔法で召喚する。
『バンティネカチーム、ここで特別枠ルドーの召喚だぁ! だが相手は二人、ルドーはこのままこの状況を打開することが出来るのかー!?』
「邪魔だってんだよ!」
「そういう役割だからな! 雷閃!」
動きの速いカイムに、雷転斬は当たらない。
走り迫るカイムの真正面に転移したルドー。
即座に聖剣を下から振り上げて、下方から斜めに次々発射され、カイムの前方空中から大量に一斉斉射する。
攻撃の貫通を恐れ、カイムが一旦後ろに大きく後退した。
『ルドー、雷撃でベゴニーチームカイムを大幅牽制! 古代魔道具の攻撃は貫通するから防げないぞ! このままビタとトラストと一緒にカイム打破なるかー!?』
「あー、そっち援護行った方がいい?」
響くネルテ先生の拡声音声に、クロノが飄々とした調子で声を掛ける。
「くそがぁ! 頼むわ!」
「ん。ちょい待っててー」
「来る! キシア!」
「せめて抵抗させていただきますわ!」
「姫様姫様!」
「頑張って! 王子さまも助けて!」
キシアとアルスが動き出して、ザックとマイルズがビカビカ発光する。
そのまま正面に走り寄るクロノに、アルスとキシアがそれぞれ構え、魔力伝達を発生させた。
まるで氷の城にでも迷い込んだかのように、一気に周囲の温度が下がる。
クロノに向かって放たれた、巨大な氷塊。
建物よりも大きい、周辺に勢いよく冷気の煙を発する氷塊が、パキパキとどんどん凍り付くように、その棘の先を鋭くしてクロノに迫る。
しかしクロノは走る勢いに任せて、軽く構えて真正面から殴りつけた。
恐ろしい威力の衝撃に、周囲が地割れの様に大きく揺れる。
迫り来る氷塊は、その軽い動きからは想像もつかない大きな衝撃に、あっさり粉々に破壊されて霧散していく。
響くザックとマイルズの悲鳴、アルスとキシアが驚愕に目を見開いて固まる。
そのまま反対の足で振り切るようにクロノに蹴撃され、台風のような強烈な風圧に、アルスとキシアはビュオッと上空に吹っ飛ばされて行った。
マスの場外どころかフィールドの外まで吹っ飛ばされた、アルスとキシア。
二人は空中で体勢を立て直し、なんとか落下に対処するも、フィールド外にいることを知って呆然と立ち尽くしていた。
「キシアさん、アルスくん、場外の為リタイアー」
『ここで一気に二名が脱落だぁー! 実力差が圧倒的過ぎるー!』
「うへぇ、キシアとアルスの魔力伝達もかなり出来るはずなのに」
「実力は圧倒的だな、前半みたく動かない時は動かないのがネックだが」
雷閃に後退したカイムに、さらに牽制するように次々雷閃を放ちながら、警戒するように様子見しつつ会話するルドーと聖剣。
だが響く三つ子の声援を聞いて、視線を改めてそちらに向けた。
「クロねぇー!」
「ドカーン!」
「ルドにぃがんばれー!」
『あいつこっちくんぞ!』
「カイムとクロノ二人同時かよ! 流石に無理だって!」
牽制していたカイムに向かって、ルドーは大きく聖剣をぶん投げた。
そのまま視線で念じれば、空中に浮かんだ聖剣はバチバチと雷を纏い、ブンブンとカイムに向かって空中で切りかかり始める。
「本体の防御はどうする!?」
「そりゃこうするんだよ!」
目の前に迫ったクロノに、ルドーは雷の盾を展開した。
ドォンと重たい衝撃が入るものの、なんとか必死に二つの雷の盾を展開し、その蹴撃を防ぐ。
必死に防ぐ攻撃に、クロノの蹴撃の姿勢のまま、バチバチと周囲に雷が拡散した。
相変わらずクロノには、雷魔法が効いている様子が見られない。
状況が打開されると思って見ていた基礎科から、どよどよとざわめく声があがる。
「ふーん? ちょっとは考えてんのね」
「前みたいに、一撃で動けないようには、ならねぇぞ!」
「おっけー、じゃあちょっと威力増やすわ」
クロノの言葉に、ルドーは蹴撃を止めつつ焦燥に駆られた。
そうだ、クロノはずっとルドー達に対して、手加減し続けている。
まだその本気の攻撃は、誰一人見たことがない。
攻撃を抑えていた雷の盾に加わる力が、ドワッと増えた。
そのまま雷の盾ごと、ルドーはドカンと蹴り上げられ、後方に大きく吹き飛ばされる。
「「「ルドにぃー!!!」」」
三つ子の絶叫が響く。
ルドーがフィールド外に吹き飛ばされ、カイムを抑えていた聖剣のコントロールを失い、カランと音を立ててその場に落下した。
吹き飛ばされつつなんとか受け身を取ったが、全身が衝撃に軋む。
身体の痺れに、ルドーが呻きながら上半身しか起きることが出来ずにいると、無情にもヘーヴ先生の声が響いた。
「ルドーくん、フィールド外により召喚解除」
「でぇっ!? そんなルールあったのか!?」
『なんでぇ、つまんねぇの』
悲鳴をあげる全身に、ルドーはなんとか手を伸ばして聖剣を引き寄せ、バチンとその手に収めたと同時に、召喚解除の判断が下った。
もうすべてのチームの召喚枠は消費された。
ルドーはもう眺めるだけでなにもできない。
「カイム!」
「合わせろ!」
「あわわわわわ」
「あぁもう! シャキッとしなさいな!」
「クロねぇー!」
「カイにぃー!」
「いっけぇー!」
三つ子の声援を聞きながら、カイムとクロノが同時に攻撃した。
抵抗しようと魔力伝達を始めたトラストとビタ、さらにキング駒の前にいた護衛二名は、カイムがブワッと大量に伸ばした髪に叩かれて抑え込まれ、その隙にクロノが強烈な蹴撃を放った。
トラストとビタの変化魔法によるコンクリートの攻撃も、クロノの蹴撃は一撃で粉砕する。
その威力にバキンと、奥にあったキング駒が上下真っ二つに砕け散った。
『ここでベゴニーチームカイムとクロノが、バンティネカチームのキング駒を撃破ぁー!!!』
バンティネカチームがターチス先生によって場外に転移され、その範囲がベゴニーチームの色に切り替わった。
後残っているのはずっと固まったままのデポージーチーム。
守りを気にする必要もなくなったベゴニーが、クロノとカイムに指示を出す。
「全滅かキング駒奪取か、やり方は任せる! 最後のチームをリタイアさせろ!」
叫ばれた指示。
向けられたカイムとクロノ二人の視線に、デポージーが大きく叫びあげた。
「いやああああああああ!!! こないでこないでええええええええ!!!」
「いつまで言ってるのよ!」
「降りれんままだぞ! 上空から狙えと言うのか!?」
「あっあっどうしよう対処できる気しないや!」
「無理、不可能、逃げたい」
ずっとノースターの引火剤魔法薬に対処していたデポージーチーム。
恐ろしい勢いで走り出したカイムとクロノに、全員が絶望して狼狽えていた。
「いやああああああああ!!! 逃げて! みんな逃げてええええええええ!!!」
戦闘が苦手なデポージーは、全員に守りも捨てて逃走指示を出した。
デポージーの指示に、チームが困惑しつつも動き始める。
「ここで逃げろと言うのか!?」
「いいじゃない! あの二人には対処できないわよ!」
「全力で逃げるー!!!」
「待って、メロン、待って」
蜘蛛の子を散らすように、護衛科四名も含めて、全員一斉に逃げ始めたデポージーチーム。
対処出来なかった引火剤魔法薬が、逃げていく全員にぶくぶくと跡を残す。
カイムもクロノもその動きに、一瞬困惑して二人足を止めた。
悲鳴をあげてジグザグに逃げるデポージーチーム。
しばらくして捕まえるのも倒すのも面倒だと思ったのか、カイムとクロノは二人で顔を見合わせた後、そのままキング駒の方向へと走り出す。
「ああああああああああああ!! 目の前に迫ってくるうううううううう!!!」
デポージーの絶叫は続く。
そのままキング駒を先程と同じように破壊しようとした瞬間――――
――――どでかい炎が発生して、火柱にキング駒が包み込まれた。
『なにぃー!? これは、アリアについていた引火剤魔法薬だぁー!!! 足跡がまるで導火線の様に伸びてるー! フランゲルと合流して、その導火線に火が付いた形だぁー!!!』
『うわぁ! これ狙ってたのか!?』
『偶然の線もでけぇが、だとしたら運が良すぎるな』
やることが無くなったルドーは、解説席に戻っていた。
ネルテ先生の実況に、ルドーが視線を辿れば、確かに言われた通り、フランゲルの足元からついた火が、アリアの足跡をたどったように焼け焦げていた。
立ち昇る大きな火柱に、熱気が遠い実況テントまで届いてきた。
パチパチと飛んでくる火の粉の量、かなりの規模で燃え上がっている。
フィールド外のノースターが一番驚いている。
ここまで威力が出るものだと、全く思っていなかったようだ。
事を起こしたアリアとフランゲルの二人も、一番驚いた表情でそれを見ていた。
立ち昇る炎に、このまま目標を自分たちに変えられたらたまらないと、はっとして一目散に逃げ惑うデポージーチーム。
だがカイムは今それどころではなかった。
「クロノォ!!」
目の前を覆い尽くす熱気に両手で顔を防ぎながら、カイムが火柱に向かって叫ぶ。
どうやら蹴撃の為に一歩先に出ていたクロノは、発生した火柱の位置に入ってしまっていたみたいだ。
クロノのあの頑丈さや魔法が効かない様子は、炎にも有効なのだろうか。
カイムがなんとかクロノを助け出そうと髪を伸ばしているが、あがる火柱に突っ込んだ瞬間、ジュッと真っ黒に焼け焦げてまるで歯が立たない様子だ。
『えっ、これ、大丈夫か……?』
『あいつの反応掴めねぇからな、わからねぇ』
『ク、クロノー!? 大丈夫かい!? ちょっと救助―!!!』
上がり続ける、恐ろしい勢いの火柱。
「クロねぇ! クロねええええ!!!」
「ライア落ち着いて!」
「クロねぇちゃんならきっと大丈夫だ!」
三つ子からもクロノを呼ぶ悲鳴のような声が響き始めた。
逃げ惑っていたデポージーチームも、その異常さにようやく足を止め、狼狽える様に全員火柱の方を見つめ始める。
「ちょちょちょー!? だれか! だれか水持ってないの?!」
「この威力の火柱じゃ水じゃ効かないわよ!」
「火、操って、消す、出来る?」
「出来んわそんなこと! 炎はいつも自然鎮火しかしとらん!」
全員が狼狽えて教師たちも慌て始めた中、強烈な打撃音が火柱の中から発生した。
「あーもう、流石に炎の中じゃ視界が悪い……」
「「「クロねぇー!!!」」」
竜巻のような突風が発生して、燃え上がっていた火柱が一瞬にして消し飛ぶ。
脚をプラプラさせたクロノが、ケホケホと煙にむせつつその場に佇んでいた。
カイムが慌てて駆け寄っているが、ルドーが見る限り、あれだけの威力の火柱に、制服すら燃えている様子がない。
本人の耐性は分かるが、制服まで燃えないとは何がどうなっている。
『クロノー、大丈夫ー? 負傷はないかいー?』
ネルテ先生の呼びかけに、クロノはカイムの横で手を伸ばして親指を立てた。
その様子に安心したように、ネルテ先生はケラケラ笑い出す。
『はーい、そういうわけで、クロノがデポージーチームのキング駒を撃破ぁー! これによってベゴニーチームのみとなったため訓練終了ぉー! 結果発表になるよぉー!!!』
ネルテ先生の笑い声に、全員が驚いてクロノの背後を見れば、粉々に砕け散った、デポージーチームのキング駒の残骸が散らばっていた。
どうやらあの火柱の中、クロノはそれを探り当てて、蹴撃で破壊しつつ火柱を鎮火したらしい。
デポージーチームの範囲が一気にベゴニーチームの色に塗り替わる。
『さぁーて、ここで結果発表だ! みんな恨みっこなしだよ! 今回の全科目合同訓練、栄えある勝者はぁ――――
――――デポージーチイイイイイム!!!!』
「ええええええええええええええええ!!!?」
参加生徒達の驚愕の絶叫が、ネイバー校長が大量に巻き散らす紙吹雪が舞う空に響く。
ルドーが大慌てでフィールドを見直せば、あれだけ盤面で色を確保して、最後に陣地まで塗り替えられたのに、デポージーチームは全員の逃走で、自陣以外のマスをほぼ塗り替えてしまっていたのだった。




