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第百七十七話 全科目合同訓練.4

 

『さぁーて、護衛科トップのハイシェンシーがリタイアして、未だに健在なのは、デポージーチームだけだぁー! 相変わらず固まったままだけど、そろそろ何か動くかー!?』


「やめてええええええええ!!! こっちに注目させないでええええええええ!!!」


『なんかもう、向いてないんじゃないかなって思うんですけどアレ……』


『なにしに来てんだあいつ』


 ハイシェンシーがクロノにぶっ飛ばされて数刻。

 特別枠の召喚もないまま、盤面は次に移動していた。


 防衛ではなく、明らかに攻撃役として配置していたハイシェンシーを、呆気なく撃破されたバンティネカチーム。


 今のところ損失のないデポージーチームに次いで、魔法科の脱落は無しだ。


 だが想定外の実力を目の当たりにして、目の前に鎮座しているクロノにどう対処すればいいか。

 基礎科たちが集まって話すも、対策が思いつかず途方に暮れ始めていた。


 クロノの正面にいるバンティネカチームの魔法科は、アルスとキシア。


 今のところ、クロノとカイムの居るベゴニーチームは、人数不利を気にして様子見をしている為、攻撃指示は出ていないのでまだ動く気配はない。


「アルっちゃん、キシっちゃん、向こうが動かない限り待機やで!」


「うん、そうさせてもらうよ」


「動かれたらもうおしまいですわね」


 対策が思いつかないので、オリーブはとりあえずの待機を、アルスとキシアに叫んだ。

 クロノの赤い瞳にじっと見つめられ、蛇に睨まれるように、アルスとキシアは身をすくませていた。


 一方フランゲルによる反撃をくらったカゲツは、ようやく身体に燃え移った火炎魔法が収まったのか、ゼーハー荒く呼吸をしながら何とか態勢を整える。


 傍に寄ったノースターによってバシャッと回復魔法薬をひっかけられ、光って馴染みながら火傷が治るのを確認してから、どうしようかと二人で首を傾げた。


『カゲツとノースター、動かないデポージーチームに苦戦している! これはこれで攻略しずらいからありなのかー!? しかし相性の問題でもあるぞ!』


『少人数に対して集団だから、地味に対処しにくそうだな』


『火力が低いのもネックになってんな』


 固まるデポージーチームの集団に、各個撃破が失敗して、カゲツとノースターが悩むように同じ方向に首を傾げている。


「一人ずつ引き剥がすのは確かに合理的ですや。しかしあの火力がこっち来るとなると、私では厳しいですや」


『植物は火炎魔法に相性が悪過ぎるもんね』


「いやああああああああ!!! もうあっち戻ってくださいよおおおおおおおお!!!」


 デポージーの叫ぶ声がうるさい。


 フランゲルに反撃を大雑把に指示したものの、デポージーは泣き叫びながら、またキング駒を守護して囲み直すように指示し直していた。


 せっかくの追撃チャンスを不意にされて、フランゲルは両手剣を構えたまま完全に混乱している。


 どうやらデポージーは先程の叫びの通り、そもそも戦闘している場面を見る事そのものが苦手な様子だ。

 発生したフランゲルとの戦闘に、可能な限り顔面を背け、しかし他の女子たちにもっとよく見ろと、三人全員に羽交い絞めにされて、恐ろしい声量で泣き叫んでいた。


 座学メインの基礎科在籍だ、普段は問題ない。


 だが今回の訓練の様に、基礎科は前線で魔導士の戦闘指揮を執ることも少なくない。


 泣き叫ぶ彼女の様子から、そのような進路先に進む気は全くないのだろう。

 だが、いつ魔物や瘴気の脅威に曝されるか分からないこの世界では、ある程度対処出来る力は、持っている方が生き残りやすい。


 訓練でも、経験があるのとないのとでは雲泥の差。


 この経験はデポージーにとっても、益になる体験のはずだったが。

 あそこまで羽交い絞めにして、無理矢理見せるのもどうかとは思う。悪化させてないか。


「私では相性最悪すぎますや。バトンタッチよろしいですや?」


『うーん、僕もそんな自信ないんだけど……』


 パチンとお互い手を叩いて、カゲツとノースターが選手交代の合図だ。


「火炎魔法が一番強いと見た! ならばそこを倒せば突破口に繋がる!」


 動き始めたノースターに対し、シンゲツが目標をフランゲルにと指示を送る。


 ノースターは本人の攻撃魔法が乏しい為、魔法薬による戦法がメインだ。


『カゲツがノースターにバトンタッチだぁ! さて、火炎魔法に対する魔法薬での攻略は、魔法薬の方が圧倒的有利になったが、フランゲルはどう対処するのかー!?』


「なにぃ!? 向こうの方が有利だとぉ!?」


『えっ、そうなんだ?』


『そもそも液体だし、消化剤とかもあるからな。火元に誘爆する奴とかもあるし、厳しいんじゃねぇか』


 ネルテ先生の実況に、聖剣(レギア)の補足が入って、ルドーはなるほどと解説席で一人頷く。


『とりあえず様子見!』


「何のこれしきぃ!」


「なっ、飛行魔法だと!?」


 飛行魔法が使えると思っていなかったシンゲツから、驚愕の声が発生していた。


 懐から色とりどりの魔法瓶を、一気にフランゲルに向かって投げつけたノースター。

 しかしフランゲルは即座に両足に火炎魔法を纏い、一気に高く上昇してそれを躱す。


 得物を外した魔法薬の瓶が、マスの地面にぶつかってガシャンガシャンと次々に割れ、中の魔法薬がぶちまけられて混ざり合う。


 紫、緑、灰色、オレンジと。

 色とりどりの煙が混ざり合って発生して、効果がわからずアリアたちが警戒している。


 今のところ魔法科で唯一飛行魔法が使えるフランゲル。


 注目の無かった余り物の生徒が、そこまで出来たのかと、傍に居たシンゲツと、遠くチームの基礎科にいるセロモアが、驚愕に口を大きく開いた。


「ふはははははは! 当たらなければどうという事も無いわ!」


『うーん、まぁここまでは想定の範囲内かな』


 上空に飛行するフランゲルの高笑いを見上げながら、ノースターが何やらペンのような形のスイッチをポチッと押した。


 するとガシャガシャとノースターの背後で機械が組み立てられていき、あっという間に背中に背負うタンクと、蛇腹に繋がるホースの、ノズル型の放射魔道具が背中に組み上がった。


『おぉーっと、ここでノースター、魔法薬強化に放射魔道具を取り出したー! これはルール的に微妙なところ、ネイバー校長ぉー! どう判断しますかー!?』


「面白いからおっけーにょん!」


『許可が下りましたー! ルール上問題ないそうです!』


 上空で両手の扇子で応援の舞を踊っていたネイバー校長は、ネルテ先生の指摘に、ドンドンパフパフと効果音と共に紙テープをさらに派手にまき散らした。


 音楽はダメでもこれはギリギリセーフなのか。


 校長の反応に、真面目に考えるのがばかばかしくなって、ルドーは明後日の方向に思考が引っ張られる。


「ルールではないだろうが貴様ら!」


『校長判断じゃもうなんでもありじゃん……』


『出したもん勝ちだな、楽しくなってきたぜ』


 空中で抗議の声をあげたフランゲルに、流石に可哀想な気がしてルドーも同調する。

 あれが許可されるなら、もうなにが出てくるかわからない。


 サンフラウ商会のオリーブもいるのだ、もし商会商品を全部出されたら、盤面をひっくり返されるかもしれない。


『まだテストしてないから、試運転させてね。放射―!!!』


「どわああああああああ! やめないか液体は! 俺様は泳げないのだぞ!?」


 ガチャンと手元のノズルのレバーを引いて、ノースターが放射魔道具を発射した。

 高圧洗浄機のような、恐ろしい圧力の魔法薬が大量発射され、当たればもれなく溺れるフランゲルが、悲鳴をあげて逃げ惑う。


 空中を逃げ惑うフランゲルに、それを魔法薬で狙うノースター。


 いくら広い各マスのフィールドでも、上に向かって圧縮放射される液体は、かなりの範囲にまき散らされている。


 一ヶ所に集まって囲んでいれば、それは当然近場で巻き添えを食うわけで。


「わぁー!? 逃げる方向考えて! こっちにも来たこっちにも来た!」


「水じゃない、魔法薬。なにが入ってるかわからない、躱して!」


「ちょっと! 制服に染みでも出来たらタダじゃ置かないわよ!」


 降りかかる液体に、キング駒を囲んでいた、メロン、イエディ、アリア、それから護衛科の四人が反応して、それぞれマス内で逃げ惑い始めた。


 放射魔道具から発射される魔法薬は、かなりの範囲にまき散らされる。


 その様子にノースターが思いついた様に、空中にピコンと電球を魔法文字で発生させた。


 ガシャンと手元のノズルレバーを作動させると、どうやら使っていた魔法薬が切り替わったらしい。


 今度は液体ではなく、シャボン玉のような、大量の細かい泡が噴出され始めた。


『おぉっとここでノースター、大量範囲に何やら泡状の魔法薬を放出し始めたー! これには一体どんな意図があるというのかー!?』


『廃棄建造物に使う引火剤だから、そのまま降りてくるとみんなで火の海だよー』


「うぇっ!?」


「まずい、飛行、足、炎ある」


「フランゲル! 今は降りて来ないで!」


「なんてことをしてくれたのだノースター貴様ぁ!!!」


 足元から空中に漂う、大量に散布された泡状の引火剤。


 かなりの広範囲をそれで覆われてしまい、フランゲルは飛行魔法から下のマスに降りることが出来なくなった。


「イ、イエディ! これ私たちも封じられてない!?」


「魔力の爆発、下手したら引火する」


「わぁ! どうしよう何もできなくなったよ!?」


「前方の魔法科男子! 手薄になっているセロモアチームのキング駒を狙え!」


『おぉーっと、ここで人数不利に状況を見ていたベゴニーチーム動いたぁー!!!』


『手薄になった隙をついたな』


『このまま突破すりゃかなり動くぞ』


 ノースターとフランゲル達の攻防に注目が集まっている内に、ベゴニーが大声で指示を出した。


 前方の魔法科男子、すなわちカイムが、叫ばれた指示にボキボキ首を鳴らしつつ、ブワリと髪を広げてセロモアチームの方へと迫る。


 カイムがどんどんキング駒に近寄り、中央待機していた護衛科の男女二人を、反撃する暇も与えず、髪で掴んで放り投げた。


 抵抗も出来ずに高く上空に放り出され、護衛科二名が悲鳴をあげる。


「レオトパくん、シーラさん、場外リタイアー」


『カイムがセロモアチームのキングに一直線だぁー! 女子にも容赦のない対応、このままキング奪取なるかー!?』


『いや先生、カイムは生け垣に放り投げてる辺りかなり優しい対応っすよあれ』


『そうなのかルドー! いやはや一見わかりにくいね! 不器用さんなのかな?』


「いちいち余計な事言ってんじゃねぇよ!」


 広いフィールドでも、外側に近い自陣中央マスにいたためか、魔法科の校舎側のすぐ傍に植えられていた生け垣は比較的近い。

 そこにカイムに放り投げられた護衛科生徒が落下していた。


 緩衝材に落下させる当たり、カイムもかなり気を使っている様子だ。


「あぁー!? もうキング駒護衛の護衛科しかいませんや! 私手が空いてます戻っても!?」


「ぐっ、しかしこちらも人数が多い。こちらにいたまま動かずに遠方対処しろ!」


「なんつー滅茶苦茶な指示ですやぁ! えぇいこうなったらデメリット覚悟ですや!!!」


 カゲツがそう叫んで、ヤケクソ気味に両手を地面に当てると、そこからコンクリート製のマスが、ボコッと大きく割れた。


 そのままマスの下を、大きななにかが潜って、コンクリート製のマスをボコボコ破壊しながらカイムの方に向かう。


 その一方で地面に手を付けたままのカゲツの全身に、ボコボコと赤くて丸い団子のようなものが、大量に発生し始める。


 走るカイムの足元まで迫ったそれが、ドゴォンと大きな音を立ててマスの下から姿を現した。


 まるで巨大なレタスのような頭に、大量の蔦を生やし、なぜか鋭い牙が奥までびっしりと付いた、巨大な口を持つ食人植物が、カイムに向かって襲い掛かる。


 まさに怪獣映画のような様相。

 迫るカイムの危機に、三つ子が一斉に大声をあげる。


「「「カイにぃー!!!」」」


「ケッ、舐めてんじゃねぇぞ!」


 迫ってきた食人植物に、カイムは即座に大量の髪の刃を叩き込み、食人植物はあっという間にみじん切りになった。


 一斉にカイムへの称賛が三つ子から叫ばれる。


「あやー!? どうしてこうも相性の悪い人とばかり!」


 大きな地響きを立てて倒れた、ズタズタにされた食人植物に、カゲツが全身に真っ赤な団子を発生させながら悲鳴をあげる。


 次の瞬間、爆弾が破裂するように、カゲツの身体の赤い団子が一斉に弾けた。


 遠い実況席まで漂ってくる刺激臭。


 デメリットで発生する唐辛子爆弾が、一斉に弾けた様子だった。


 カゲツの姿が見えない程、赤い霧のような、見ているだけで喉が痛くなる、大量の唐辛子紛が散布される。


「カゲツさんリタイアー」


『おぉっとー! カゲツ、デメリットの唐辛子爆弾で自滅だぁー!!!』


『あんなんなるのか、おっそろしいデメリットだな』


『全力でやれば結構な火力になりそうなのに、なんか惜しいな』


 顔が見えない程真っ赤な粉まみれになって、倒れたカゲツ。

 それをまたクランベリー先生とマルス先生が、口元を布で覆った状態で担架に乗せ、これまたえっほ、えっほと運び始める。


『引火剤を撒いたと言ったけど、こっちが火を付けないとは言ってないよね』


「なんだとノースター貴様!? この量で正気か!?」


「あっあっ! ちょっとそれは不味いよ!」


「この量、こっち、ただでは、すまない」


「ねぇこれでもまだ待機なの!?」


「いやああああああああ! そんな量の炎見せないでええええええええ!!!」


 まるであわあわの泡風呂に放り込まれたような状態になってきた、護衛科も含むアリアたちデポージーチーム。


 引火剤が飛び散って近寄れず、空中でフランゲルが一人狼狽える中、ここに火種になる魔法薬をひとさじと、ノースターがガチャコンとまた魔法薬を切り替えて放つ。


 放たれる火の付いた魔法薬。

 魔法薬放射魔道具が、まるで火炎放射器のようだ。


 必死にアリアが炎を結界魔法で包んで、メロンとイエディが遠くに叩き落とす。


 一方でカイムが、セロモアチームのキング駒を守る護衛科にとうとう辿り着いた。

 流石に護衛科二人でカイム相手は分が悪過ぎる。


 顔を顰めたセロモアが、その様子に大きく声をあげた。


「やってくれたな! 特別枠召喚! 相手を倒せ!」


『やっとだぜ!』


「カイム相手か、不足はねぇな!」


 ターチス先生が手を伸ばし、ルドーがカイムの目前に召喚された。


「雷閃!」


 即座に聖剣(レギア)を振り下ろし、大量の雷閃を叩き込む。


 古代魔道具の貫通を恐れ、カイムは大きく跳んで後退した後、激しく左右移動して、大量の雷閃を必死に避ける。


「ルドにぃー! がんばれー!!!」


「カイにぃー! 負けるなー!!!」


「どっちも頑張れぇー!!!」


 観客席から三つ子の声援が響く。


 雷閃を避けきったカイムが、即座にコンクリート製の地面に髪を突っ込み、ルドーの周辺に大量発生させて、髪がわさわさ蠢きだす。


「流石にその動きは読んでた!」


『予想通りだぜ!』


 ルドーは大きくレギアを振り下ろし、地面に雷閃を叩き込む。


 地面に吸われて本体まで届かないものの、ルドー周辺の蠢く髪には連鎖し、まるで草が枯れて行くように、髪が一斉に雷閃に焼き切れていく。


 ルドーの動きにカイムは舌打ちしつつ、ズボリと髪を引き抜き、今度はドリルの形状へと変化させる。


 大量発射された髪のドリルを、ルドーは即座に雷の盾を展開し、様々な色の魔力爆発を難なくいなす。


「隙ありです!」


「なにぃ!?」


『あぁっとぉ! ここでバンティネカチームだぁ! カイムとルドー、二人の交戦の隙をついて、潜伏魔法で隠れていたサンザカが、セロモアチームのキング駒を奪取ぅ!!!』


 ネルテ先生の実況に、ルドーとカイム、そしてデポージーチームと戦闘中のノースターも大きく振り返った。


 まるで陽炎の様に身体を揺らめかせて、視認しにくい状態になったサンザカが、セロモアチームのキング駒を守る護衛科にも気付かれずに攻撃を通していた。


 奪取されたキング駒に、ノースターと残りの護衛科二名が即座に転移魔法でフィールド外に送られ、大量のマスがぱっと、バンティネカチームの色に変わった。


 フィールド外のセロモアチームの基礎科生徒たちが、一斉に落胆し、それぞれが悔しそうに激しく地面を叩きだす。


「さっすがやね、ティネっちゃん」


「サンザカさんの潜伏魔法のお陰ですよ」


 してやったりという顔で、オリーブとバンティネカが微笑む。


 奪取対象を失ったカイムが面倒くさそうに顔を顰め、起こった出来事で制限時間を越えて、また解説席に戻ったルドー。


 バンティネカチームによって、セロモアチームは脱落した。


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