第百七十五話 全科目合同訓練.2
『さぁー!!! 早速開始されたので、各チームの動きを見て行きましょう! おぉーっと、まずデポージーチーム、キングの駒の周囲を全員で囲んで動かない! これは他のチームが潰し合って疲弊した所を狙う、漁夫の利作戦かー!!?』
「あの、なんで俺ここにいるんです?」
「だってルドー、一人じゃなんか寂しいじゃないか。これは解説に役に立たないし。だから呼ばれてない時は解説よろしくー!」
「えぇ……」
チーム分けがかなり難航した後、ようやく開始された全科目合同訓練。
いつからいたのか、上空でネイバー校長が、両手で扇子を仰ぎながら、楽しそうに紙吹雪を散らしている。
特別枠となったルドーは今のところ、どのチームにも呼ばれていないため待機だ。
が、なぜかネルテ先生に呼ばれて、実況テントで先生の横に座らされている。
どうやらネイバー校長、スペキュラー先生を解説役に抜擢していたようだ。
流石にスペキュラー先生を解説役は、人選がおかしい。
あまりにも話が長すぎて、開始早々ネルテ先生に簀巻きにされた。
スペキュラー先生はしゃべり続けつつ、ルドーの後ろに転がされている。
「魔法科! 行けぇ! 全速前進!」
『おぉっと、早速動いたチームがいるよ! セロモアチーム、魔法科全員に前進指示だ! 偵察もなしにこれは吉と出るか凶と出るか!? どう思います解説のルドー君!』
「えぇ……解説確定なんすか?」
ルドーの疑問に、ニカッと笑ったネルテ先生。
無言で拡声音声魔道具を向けられ、ルドーも渋々解説し始める。
『えーっと、火力があるやつがいればいいんじゃないですかね。エリンジはその点十分だろうし、でも今回は他が不安っすかね』
『逆にいうとこのチーム、あいつしか火力ないぞ』
フィールド上の様子を見ながら、考え込みつつなんとかルドーは言葉を絞り出す。
四方の十六マスのうち、正方形に四つに分けた、縦横八マスがチーム最初に配置される範囲。
自陣前方の、他三方向どこも攻撃出来るように配置されたのは、エリンジ、リリア、カゲツ、ノースターの四人。
早速行けとばかりに、背後の盤外にいる、基礎科の生徒が大振りに手をあげて、大声で叫ぶ。
「マスを確保しつつ、キングの駒を奪取せよ! 取ったほうが断然有利だ!」
「上等だ、やってやろう」
「わ、わぁ、エリンジくんすっごいやる気……」
「あややや! 戦闘得意じゃないのですや!?」
『でも指示されたし、行くしかない?』
言われるがまま、四人が一斉に他チームのマスに向かって走り出した。
このチームの護衛科は、二人がキング駒の傍で待機し、残り二人はどちらもサポートできるようにと、中央に二人配置されている。
同マス内での戦闘は、長引いた場合、そのマスに他生徒が合流することもルール上可能。
戦闘が発生したら、きっと護衛科も援護に回ってくる配置だ。
『一方相変わらずデポージーチーム動かない! 範囲に早速入ってきたカゲツとノースターにされるがまま、どんどんマス目を取られていくぞ! 動く気がないのか!?』
『漁夫の利を狙うなら、戦力温存もありなんすかね』
『固まってちゃいい的になる気もするがな』
ネルテ先生が最初に言っていたのは、アリア、フランゲル、メロン、イエディのチーム。
護衛科と一緒に、キングの駒を囲っていて動く様子がない。
一応、同マスに生徒が複数遭遇で強制で戦闘訓練となるが、別に移動中に攻撃をしてはいけないというルールはない。
移動しつつ、相手を牽制する攻撃は全然ありだ。
「いやああああああああ!!! こっち来ないで! こっちには来ないでええええ!!!」
甲高い女子の声がうるさい。
サラサラの亜麻色の髪、遠くからも良く目立つ桔梗色の瞳。
めちゃくちゃ大人びて美人な基礎科の女子が、物凄い声量で、涙を撒き散らしながら泣き叫んでいる。
泣き叫ぶ様子で美人な顔が台無しである。
同チームの基礎科の女子生徒が、慣れた様子で耳を塞いでいる。
しかしカゲツとノースターが順調にマス目を攻略しているのに、チームメンバーも完全放置。
護衛科の生徒も、フランゲル達も、完全に困惑している表情を浮かべている。
だが指示がない以上、全員どうしようもないのだ。
このチームはしばらく動きそうにない。
「おい! 動けと命じているだろ! まずは偵察しつつ、他チームの周囲マスを確保するんだ!」
「指示優先って言われたけど、絶対にやらないといけないとは言われてなくない?」
「てめぇ最初からそのつもりだろが」
『おぉっと、問題が発生しているチームもいるぞ! ベゴニーが指示しているのに相手が動かない! クロノー! きみいつもそうだね!?』
『あぁー、イベントだし素直に指示聞くかと思ったら、やっぱそうでもないか……』
『授業はボイコットするし脱走はするし、緊急時以外まるで言う事聞かねぇもんなあいつ』
一方慎重に周囲の様子を探ろうと指示した基礎科に対し、頑として動かない宣言をしたクロノと、わかっていた様子のカイム。
二人のその様子に、基礎科と護衛科全員から驚愕の反応をされている。
だが魔法科の全員からは、ですよねーと、逆に納得の表情。
叫ばれる声に、どうやら昨日食堂で文句を言ってきた奴のようだ。
それに気付いて、遠目にルドーはよくよく観察する。
大きな声で怒鳴り散らしているのは、白縹色のショートボブに、飴色の鋭い釣り目の青年。
先程のネルテ先生の実況から、ベゴニーとかいう相手らしい。
動く気が全くない様子の二人。
一体どういう風の吹き回しで、カイムとクロノはそこについた。
「えっあっ待って待って!? 指示を無視して動かないつもりですかお二人!?」
「ハイハイハイフォローしますフォローします!」
ヘルシュとウォポンがその様子に大慌てで、動かない二人の援護に回っている。
だがこのままだと、前線が少なくジリ貧では。
中央に一人、サポート役に徹した護衛科が一人居るが、彼も想定外の様子でおたおたしている。
他の護衛科三人は、キングの駒を守るように囲っている。
だが想定外の事態に、サポートがいるのではと、指示役の基礎科にチラチラと視線を向けていた。
その優柔不断そうな様子に、ルドーはリリアの護衛を名乗り出ていた、あの三人組だと思い出した。
『なんとか二人で、入ってくる相手に対応しようとしているが、この人数不利はどう動くかー!?』
『ヘルシュとウォポン、完全にカイムとクロノの援護に回る気満々だったみたいだな……』
『当てが外れて大慌てだ、傑作だぜこりゃ』
走り込んできたエリンジとリリアに、ヘルシュが慌てて対応しようと走り出す。
牽制の為に剣を振り下ろして発生させた風魔法は、エリンジのハンマーアックスに難なく防がれてしまった。
反対側に居たウォポンが、フォローしようと走ろうとする。
「そっちが反対に走ってどうする!」
斜めの反対位置にそれぞれ配置されているので、ウォポンがヘルシュをフォローしようとすると、片側が手薄になる構造だ。
ベゴニーがそれを指摘して、なんとかウォポンの動きを止める。
「おい! そこの二人動けって!」
「こっちの指示に従わなくてもいいから入ってくれって、そう言われたからチーム組んだんですけど?」
「最初に言われた通りにしかしてねぇっつの」
「だれだ!? そんなこと言ってチームに勧誘したやつは! いやお前だよなヒルガ!」
面倒事を嫌う二人に、都合よく調子のいい事を言って、勧誘したやつがいるようだ。
なるほど、それならカイムとクロノは頷いてチームに参加する。
ベゴニーが怒り散らしながらガバッと背後を振り向くと、冷汗をかいて逃走を図る基礎科生徒が一人。
女子生徒も含めた残り三人、全員でそいつを取り囲んで、タコ殴りにし始めた。こわい。
『場外乱闘している間にも盤面は続くよー!』
「魔法科さんは、同マス戦闘は避けて! なるべくマスの確保に集中して!」
「自陣マスの確保ですわね」
「これならまだ戦闘が苦手でも動きようがあります」
『こちらバンティネカチームは、まず自陣の色を確保する確実性から始めているぞ!』
『ぶっちゃけこれが一番無難な気がする』
『戦闘で人数が減るなら、まぁ避けるのが一番だしな。つまらんが』
慎重な動きを見せるバンティネカチームは、基礎科の中にオリーブの姿が確認できる。
配置された護衛科に、サンザカの姿も見え、少し変わった配置をしている。
他チームと一番接敵しやすい、自陣フィールド前方の中央。
そこに一人立っているのは、魔法科ではなく、護衛科の生徒だ。
トゲトゲした緑の短髪に、やたらキラキラした芥子色の大きな瞳をした釣り目。
身長がかなり高く、右手に持った竹刀で、背中をトントンと叩いている。
一番近い位置にいる動かないクロノに、呆れた視線を向けた後、こっちに来るかとウォポンの方に、ワクワクとした視線を向けた。
どうやらこいつは戦闘好きのようだ。
剣を扱う人間ばかりの護衛科で、あえての竹刀。
更には接敵する可能性の高い、前方中央配置。
魔法科相手にも、十分通用するとして配置されたのだろうか。
だとしたらかなり警戒する相手となる。
中央にサンザカがサポート役として配置され、残りの二人の護衛科が、キングの駒の護衛役だ。
「マスを走ることで範囲を確保、だが転移魔法で移動してはならないルールはない!」
「あぁっ!? そりゃないっしょ!」
『おぉーっとここでエリンジ動いたー! 転移魔法でキングの駒まで一気に近寄る!』
走り寄るヘルシュの目の前で、エリンジがハンマーアックスを構えたまま、転移魔法を使う。
目の前で消えた相手に、ヘルシュが慌ててキョロキョロと辺りを見回している遥か背後。
三人の護衛科生徒が囲むキングの駒に向かって、エリンジが大きく振りかぶった。
「エリにぃー!」
「いっけぇー!」
「やっちゃぇー!」
三つ子の大きな声援が聞こえる。
恐ろしい量の魔力が込められたハンマーアックスに、同マス接敵した護衛科生徒が、情けない悲鳴をあげた。
「くそ! ヒルガ、あの二人を何とかしろ!」
「えっ、俺? マジ!?」
「お前が勧誘したんだろ! 相手の前に特別枠召喚!」
『来たぜ!』
「でぇっ!? このタイミングって時間稼ぎかぁ!?」
ベゴニーの指示に、ターチス先生が即座にルドーに遠方から手を伸ばす。
エリンジの目の前に、ルドーが召喚された。
即座に聖剣を空中でぶん回し、大量の雷魔法を放出させながら、目の前に迫るハンマーアックスに向かって振り上げた。
バチィンと、雷魔法と虹魔法が反発して、衝撃が大きく弾けた。
「はーい、場外。ガレガルガ君、リタイア」
『おぉっとここで初リタイア! エリンジの目の前にいた、護衛科のガレガルガ、呆気なく場外に吹っ飛ばされるー!』
いつの間にやら、手にしていた旗を振り下げたヘーヴ先生に、ネルテ先生の拡声音声が続く。
ルドーとエリンジの攻撃に、護衛科の生徒、ガレガルガがぶっ飛んでいった。
マス目どころかそのままフィールドから外にぶっ飛んで、ドシャッと落下してガレガルガは気絶したようだ。
即座にマルス先生とクランベリー先生が駆け寄って、えっほ、えっほ、と担架で救護テントに運ばれていく。
「おい! 何しているきちんと守れ!」
「いや時間的に今の厳しいって!」
エリンジがキングの駒に攻撃するのと、ルドーが召喚されるのはほぼ同時。
ギリギリ駒は守り切ったものの、同マスで隣接した、場所も少し違う護衛科の防衛までは、ルドーには厳しかった。
だがこいつは許してくれないようだ。
「時間的に厳しくても守るのが魔導士だろう! 一体授業で何を学んでいる!」
「なるほど、最もだ」
「いやいやいや基準が高すぎるって!」
指摘された声に、エリンジは納得して、ルドーは大きく声をあげた。
攻撃のまま、空中でくるりと身を翻して着地したエリンジに、リリアが追いついて来る。
不味い、今の状態で魔力伝達は厄介だ。
阻止しないといけない。
「雷閃!」
即座にルドーが手を振り下ろし、空中の聖剣が追従する。
空中に発生した大量の雷閃が、エリンジを牽制しつつ、リリアから距離を取らせるように次々と放出されていく。
中央にいた護衛科が、援護しようと駆け付けようとするも、雷閃に圧倒されて近寄れなくなる。
『リタイアを出すも、特別枠ルドー、なんとかベゴニーチームのキング駒奪取を阻止! そのまま大量牽制の構えだが、制限時間内に打開は出来るのかー!?』
ネルテ先生の拡声音声が響く。
ルドーとエリンジの攻防に、様子見をしていた他チームの基礎科と護衛科が驚愕していた。
「ルドーが対処してるけど、制限時間終わったら、エリンジ相手にあの護衛科じゃ厳しそうね」
「んだよ動くのか?」
「えー、めんどくさいじゃん」
「ちょいちょいちょい! そこのお二人さん! 追加交渉いいすか!?」
ルドーとエリンジが牽制し合う中、動かず見ていたカイムとクロノに、ヒルガと呼ばれた基礎科男子生徒が、タコ殴りのボロボロ状態で声を掛けていた。
『おぉーっと、ここで状況打開に、ベゴニーチームヒルガ、動かない二人に更に追加で交渉を掛ける! これはルール上何の問題もないよ! さぁ交渉は成功するか、失敗するかー!?』
「追加交渉?」
「その、なんでも言う事聞きますから! 指示に従って訓練にご協力を!」
「えぇー? やらなくていいって話だったじゃん」
「めんどくせぇ」
動かないままのカイムとクロノに向かって、動いてくれと、ヒルガが交渉し始めた。
だが話が違うと、二人は追加交渉に不服気味に顔を背けている。
『あぁーっとカイムとクロノ、二人聞く気が全くない! これは交渉失敗かー!?』
聞こえる会話と拡声音声。
二人に動かれると流石に厄介だと、ルドーと対峙しながら、エリンジとリリアが背後を警戒し始めた。
「ルドー相手だけでも面倒だ、カイムとクロノまで相手してられん」
「二人ともー! そのままゆっくり休んでてね!」
ガキンと聖剣にハンマーアックスを振り下ろし、バチバチと魔力の鍔迫り合いをしながら、ちらりとエリンジが背後に視線を送る。
雷閃で近寄ろうにも近寄れないリリアが、振り返って二人に向かって、口に手を当てて大きく呼びかけていた。
ヒルガがこれは不味いぞと、大慌てでボロボロの顔を二人に向けて叫ぶ。
「それじゃ俺がまたボコられるんですけど! あの、あっちのお子さんたちが気に入るような、限定スイーツでどうです!?」
『ここでヒルガ、まさかの保護科のおチビちゃんたちにスイーツの提案だぁー!!!』
「スイーツ!」
「お菓子!」
「食べたい!」
「「「カイにぃー!!! クロねぇー!!!」」」
客席から響く、三つ子からの懇願の叫び。
これは流石にカイムもクロノも動く。
カイムがボキボキと首を鳴らし始め、クロノが大きく両手を広げて背を伸ばした。
「三ヶ月」
「え?」
「限定スイーツ三ヶ月」
「やるのかやらねぇのか」
「えぇいままよ! 了承しました!」
「よーし、乗った!」
「たっぷり持って来いや!」
「「「やったぁー!!!」」」
三つ子の喜びの声と共に、カイムとクロノが動き出した。
『よかったねおチビちゃんたち! さて、カイムとクロノがようやく動き出したぞ! この状況をどう対処するのかー!?』
ひとまずエリンジとリリアを対処しようと、一人狼狽える護衛科生徒も無視して走り近寄るカイムとクロノに、ベゴニーが即座に指示を出す。
「男子は男子、女子は女子で対処しろ!」
「二対一か」
「おい、攻撃こっち当てんじゃねぇぞ!」
「分かったカイム! 聖剣、制限時間あといくらだ!?」
『知らん、わからん』
「うっあっおっ、お手柔らかに!?」
「はいはい、わかってるって」
正面から振り下ろされる、聖剣による雷魔法と、背後からのカイムの髪の刃。
エリンジは振り下ろされた聖剣をハンマーアックスで押さえながら、次々と背後から襲い掛かる髪の刃を防御魔法で防いでいた。
「ほい、場外」
「やだ、すっごい優しくされた……」
「はい、リリアさんリタイア」
『ここで次のリタイアー! リリアがクロノにあっさりと場外に連れ出されたー!』
ひょいっと、まるでぬいぐるみでも運ぶかのように、クロノはリリアの両脇を抱え、そのままマス外の場外にそっと降ろした。
特に怪我もしていないリリアは、即座にターチス先生の転移魔法で、フィールド外に連れ出される。
「挟み撃ちか、体勢を立て直す」
エリンジがそう言った瞬間、転移魔法でその姿が消えた。
同マスで発生した戦闘は、場外に行けばリタイア。
つまりエリンジは転移魔法を使っているが、まだマス内のままだ。
この場合、エリンジはマス内にいるルドーに対処しなければならないのだが。
「あっ」
『はーい制限時間だぁー! カイム、援護間に合わず! そのマスはセロモアチームの色になったよ!』
カイムがエリンジとルドーのマス目に辿り着くより先に、ルドーの召喚が解除された。
気が付けばルドーはまたネルテ先生の隣に戻っており、同マス内にいた相手が消えたため、そのマスは自動でエリンジのセロモアチームの色に変わった。
「配置指示した通りにキング駒を守れ!」
「罠を仕掛けようと無駄だ! 探知魔法で分かる!」
「ひええええ!」
近寄るエリンジの傍で、何かがパチンと消し飛ぶ音がした。
エリンジの話から、どうやらなにか仕掛けられて、それを強行突破されたようだ。
仕掛けてきた護衛科の生徒に、エリンジはズンズンと足を運ばせる。
「おい! こっちシカトしてんじゃねぇ!」
カイムの大声と共に、エリンジに向かって回転するドリルが発射され、エリンジがまたしても転移魔法でそれを避けた。
空中で爆発するカイムの髪のドリル。
「罠ってっても色々あるからさぁ!」
下にいた護衛科の生徒が叫ぶ。
上空からバチンと弾ける音。
『おぉっとぉ! これは対人警護の基本の基本! 転移魔法自動迎撃罠だぁ!』
「そのままふっとべや!」
「くっ、体制が悪い! だがこのまま終わらせはしない!」
転移魔法を使ってキング駒に近寄ろうとしたエリンジに、自動で罠が発動した。
探知魔法の範囲外。
空中に設置されていた罠に吹き飛び、エリンジはキング駒を通り過ぎる。
エリンジは吹き飛びながら、大量の虹魔法を、空中で同マスになった護衛科二人に放つ。
「「うわああああああああ!」」
虹魔法の爆発に、周囲が見えなくなる巨大な爆炎。
爆発に護衛科二人の悲鳴が響く中、ヘーヴ先生の静かな声が響く。
「エリンジ君、ナデリス君、ソウギンコス君、三人同時に場外リタイア」
『なんとぉ! エリンジと護衛科二名、ナデリスとソウギンコス! 全員戦闘マスから外れて同時にリタイアだぁ!』
空中で体勢を変えられず、転移魔法を封じられたエリンジが、悪あがきで放った虹魔法。
それによってベゴニーチームは、護衛科を一人だけ残し、キング駒の守護を失ったのだった。




