第百七十四話 全科目合同訓練.1
『はぁーい! それでは、全科目合同訓練の開始を、ここに宣言するよぉー!!!」
ケラケラと明るい拡声魔法音声と共に、パンパンと花火が打ち上がる。
空中には投影魔法で、拡声魔法魔道具を手に持つ、ネルテ先生の姿が映し出されていた。
衝立が無くなったままの、気まずい昼食の翌日。
エレイーネー一年は全て、魔法科の運動場に集合となった。
代り映えのない、全員同じ青い制服姿。
基礎科と護衛科は、初めて訪れる魔法科の校舎に、物珍しそうに顔を見まわしている。
それを遠目に、ルドー達魔法科一同も、一体何が始まるのかと、集まって様子を眺めていた。
『進行と実況は私、魔法科担任、ネルテ・アイビーがお送りするよぉ、よろしくぅー!!!』
「よろしくお願いしまぁーす!!!」
投影魔法に映るネルテ先生の手を振る姿に、メロンが両手をブンブン振って、大きく返事している。
基礎科と護衛科から、そのテンションに面食らうような反応。
それを横目に、ルドーが一体どこから投影しているのかと見渡せば、運動場奥の、魔法科校舎傍に、小さなテントが張られた、実況席が設けられていた。
『はぁい、ありがとー!!! さて、今回の合同訓練に当たって、ルール説明をまずしていくよ!』
実況席のテントの下で、そして投影魔法の画面で大きくピースしながら、ネルテ先生が魔道具に叫ぶ。
ドカンと大きい音とともに、運動場の中央が地割れを起こした。
全員が慌てて地割れから遠ざかる。
割れた地面の下から、コンクリート土台の基礎のような、とても大きな四角い、マス目が付いた競技台のようなものがせり上がってきた。
『まず、基礎科、護衛科、魔法科で、合同の四チームを作ってもらいます! そして今出てきたフィールドには、護衛科と魔法科の生徒が配置されるよ!』
運動場の中央に、大きく設置されたフィールド。
そこに事前説明用の、人と同じ大きさのマネキン人形が二つ、ポコポコンとマス目に設置された。
配置されるマスもかなり大きい。
それが縦横十六マス、全体的にかなりの広さになっていた。
『フィールドにいる魔法科、護衛科は、自分の意志でフィールドを歩くことは出来ません! 合同チームにいる基礎科の生徒、その指示に従って、フィールドを動くことになるよ!』
フィールドの外に、基礎科を模したであろうマネキンが、またポコンと設置された。
基礎科を模したマネキンが、指示するように腕を伸ばせば、同じ色をしたフィールドのマネキンが、トコトコと指示通りに動き出す。
「えっ、自分で動けないのか」
「ちょっと難しそうだね」
「指示に従うと。ふむ」
響く説明と目の前のマネキンに、ルドー、リリア、エリンジが声をあげる。
ざわつく魔法科と護衛科が、ちらちらと基礎科に視線を送った。
『歩いたマス目はそのチームのものとなります! より多くのマス目を手にしたチームが勝利です!』
フィールドのマネキン人形が、トコトコと歩いて、それぞれのマス目が違う色に光っていく。
色が塗られたマスに、また違うマネキンが通って、別の色に変わる。
どうやら色の付くマスは、何度でも色を変えることが出来るようだ。
『ここで一つ、別々のチームが同じマスに行った場合はどうなるか!』
ネルテ先生の説明に会わせて、フィールドの二体のマネキンが、同じマスでポコンと衝突した。
『この場合、同じマスに居合わせたそれぞれの生徒で、戦闘訓練となります! 戦闘訓練の勝敗は、降参するか、戦闘不能になるか、戦闘マスから出るの三つ!』
「おぉー! 戦闘訓練がここで生きるんだね!」
「護衛科もいる、対応が変わる」
説明にメロンがブンブン両手を振るい、イエディが護衛科に視線を向ける。
護衛科は魔法科と違って、要人警護がメイン。
故に魔法科の様にド派手に魔法を使わず、対人特化の戦闘技術を磨いている。
魔法科ほどではないが、魔法が使えない相手ばかりでもない。
多人数だと有利だが、一対一だと能力が未知数な部分もあり、分が悪くなる可能性がある。
『また戦闘訓練でも、基礎科の指示が最優先されるよ! 防衛に徹して待機、ガンガン攻撃、あえての敗北! その場の判断もあるけど、適切な判断を期待します!』
「自分たちで動けない以上、こちらからは戦闘は避けられないという事になりますわね」
「基礎科の指示によって対応が変わる、ですか。これは攻略の鍵になりそうですね」
ビタとトラストがふむふむと、基礎科の方にまた顔を向けた。
『そして戦闘訓練で勝ったほうがマス目を勝ち取り、負けた生徒は全体フィールドから強制リタイアとなります! 降参と戦闘不能の審判は、基礎科担任のヘーヴ先生になるよー!!!』
ネルテ先生の説明に、基礎科の生徒達が一斉にギクリと強張る。
基礎科生徒が向けた引き攣る視線を辿れば、いかにも不服だというように、真っ黒な顔に目だけが爛々と光った、ギリギリと歯軋りし続けているヘーヴ先生がいた。
「先生方も急に呼び戻されて、凄い顔しておりますわねヘーヴ先生」
「まぁウガラシは結局魔法じゃどうにもできなくて、ムーワ団が飛行して瓦礫撤去してるから、あとはシマス国に任せてもいいと思うけどね」
ギリギリとここまで響く歯軋りを聞きながら、キシアとアルスが小さく話す。
ヘーヴ先生の紹介に、護衛科と魔法科でパラパラとまばらな拍手が送られる中、ネルテ先生の説明は更につづく。
『戦闘訓練では、万が一が起きた際に対応できるよう、護衛科のニン先生とレッドスパイダー先生が待機してます!』
ネルテ先生がそう言って腕を掲げた先に、紹介された先生たちがそれぞれ控えていた。
楽しそうな顔をしたニン先生と、その横に居るレッドスパイダー先生が、それぞれ武器を構えている。
護衛科の先生たちの紹介に、護衛科からかなり規則的な拍手が送られた。
『それから降参の際は即座にターチス先生が転異魔法を使うので、ギリギリまで粘っても大丈夫だよ!』
ターチス先生はネルテ先生の説明に、お手本の様にブオンブオンと転移魔法を披露。
『また戦闘での負傷にも備えて、クランベリー先生とマルス先生も控えています! なので遠慮しないで、指示通りにガンガン戦っちゃってね!』
救護室のようなテントの横で、クランベリー先生とマルス先生が、二人微笑んで手を振っていた。
『また、フィールドにはそれぞれ、キングの駒が設置されます! 一つのチームに一つだけ、これを他のチームが取れば、一定範囲がその取ったチームの色になる、一発逆転の大チャンス! 逆にキングを取られたチームは、問答無用で全員リタイアになるよ!』
フィールドに新たに設置された、人より一回り大きさのある、チェスの駒のようなもの。
それがマネキン人形にポコンと殴られれば、フィールドの四分の一に相当する、縦横八マスの範囲が、即座に殴ったマネキン人形の色に変わった。
「あややや! これは護衛科要素ですかや?」
『攻めるだけじゃなくて守りもいるんだ』
低い身長で見えにくいと、ぴょんぴょんと跳んで様子を見ていたカゲツの声。
ノースターも思ったより広い範囲が取られると、キングの位置に注目する。
説明で分かりやすくするように、キングは今中央に置かれている。
だがネルテ先生が移る投影魔法の説明マップを見ると、どうやらフィールドの四隅の角にそれぞれ設置され、移動も不可能のようだ。
そしてその説明マップを見る限り、チーム人員の配置は自由。
これは司令塔となる基礎科の作戦が、かなり物をいうことになりそうだ。
『そうしてフィールド上に、一チームだけ残ったら、訓練終了となります! さて、ここまでで質問ある人ー!?』
「せんせー! 合同チームはどうやって作るんですかー!?」
ズバシとすかさず手をあげて、大きな声でメロンが質問する。
全員が聞きたかったであろう質問に、一斉に注目が集まった。
『いい質問です! チーム作成は簡単! 基礎科の生徒が、他の科の生徒に声を掛けて作るんだよ! ただし、チーム提案を受ける受けないは、声を掛けられた側の生徒判断! チームを作ろうと声を掛けても、必ずしも結成できるわけじゃないから要注意だね!』
「あー、なるほど。疑似的な状態ってことね」
「あぁ? なにがどういうことだよ」
「要はこっちからチームの声掛けは出来ない。受けるも断るも自由、依頼と同じって事」
横で話すクロノとカイムの会話に、ルドーもリリアと一緒になるほどと納得した。
これはあくまで訓練、運動大会ではない。
基礎科、護衛科、魔法科が、それぞれの役割分担で動く、疑似的な模倣訓練ということだ。
色の付いた陣地マスを、国や領地に見立て、それぞれの人員を配置し、攻略する。
そして襲ってくる他のチームは、さしずめ国や領地を狙う相手。
奪われるマスは、魔の森による浸食にも見立てることが出来る。
なるほど、ある意味これから将来に向けての、事前訓練という内容だ。
キングの駒はおおよそ、国の要となる王族などに見立てている。
だから奪われると、領地となる大きな範囲が相手の色となり、チーム全員が脱落になる。
それを守る護衛科を、どのように配置するかも、国政を担う基礎科にとっては大きい部分だ。
魔法科から卒業する魔導士や、勇者や聖女は、国の指示や依頼によって動くことになる。
こういった指示にどう従うか、またどのような指示が出されるか。
まるで社会の縮図のような訓練内容に、ルドーは思わず舌を巻いた。
『護衛科はそれぞれで声掛けになるけど、魔法科の生徒はパートナーを組んでいるのと、戦力の公平さを考えて、ある程度ルールを設けています! 各自確認してくださぁーい!』
「……あれ?」
ネルテ先生の発表と共に、基礎科の生徒が声掛けしやすいよう、空中に魔法科生徒のパートナーが投影魔法で映し出された。
魔法科がルールの確認と、基礎科が吟味するように見上げる中、ルドーはおかしいぞと眉をひそめる。
「あー、せんせー! 俺見当たらねぇんですけどー!?」
『えぇーなんだよ、滅茶苦茶楽しく暴れられそうだってのに』
手をあげておずおずとしながらも、ルドーは大きな声で質問した。
上空に掲げられたパートナーが、一部変更になっていたのだ。
今までルドーと一緒だったリリアは、エリンジのパートナーに。
そのエリンジのパートナーだったクロノは、カイムとセットにされている。
この二組は戦力過剰になるので、同チーム禁止と大きく銘打ってあった。
他は今まで通りのパートナーだが、そうなると一人追い出された、表記のないルドーはどうなるのだろう。
せっかく楽しそうなイベントなのにと、背中で聖剣が不服そうにバチバチ弾けた。
『はいルドー本人からの質問! ルドーは古代魔道具の影響で、戦力が過剰だ! 入ったチームがそのまま優勝しかねない! なので特別枠での参加になるよ!』
「特別枠?」
『どのチームも一回、助っ人として、一定時間ルドーを召喚することが出来る! どのタイミングでどのように投入するかは、基礎科君の判断だ。十分考えて判断するように!』
「でぇっ!? どのチームにも一回!?」
『やったぜ、全部と戦えるじゃねぇか』
ケラケラ笑うネルテ先生の説明に、ルドーは驚愕の大声をあげる。
先程とは打って変わって、楽しそうに聖剣がゲラゲラ笑い始める。
基礎科の集団からは、古代魔道具故でも除外される程規格外なのかと、吟味するような視線が向けられる。
護衛科の生徒達からは、対処するよりも逃げたほうがいいと、逃走方法を検討され始めた。
魔法科一同からは、一斉に警戒するような視線を向けられ、ルドーは大きく冷汗をかく。
『さて、ここで保護科のおチビちゃんたちのご紹介だ! おチビちゃーん! 盛り上がってるかーい!?』
「「「いええええええええい!!!」」」
ネルテ先生が拡声魔法魔道具を向けた、フィールドを挟んだ反対側に、客席が空中に浮かんでいた。
向けられた掛け声に、ライア、レイル、ロイズが、楽しそうに大声をあげて両手を振り上げる。
その後ろで腕を組んだボンブ、手を振るジャージー牛のキャビン、ビカビカ光っているザックとマイルズ、ビクついている頭に羽の生えた少女が揃っていた。
『訓練での勝利条件はさっき説明したね。それとは別に、特別審査賞として、保護科にいるおチビちゃんたちと魔人族のみんなに、適宜評価してもらうよ!』
「えーっとつまり、外部からの評価ってこと?」
「卑怯な戦法をすると、あの三人から非難が飛んでくるって事ね」
「ハイハイハイ正々堂々と戦いたいです!」
「だが戦場ではそうも言ってられんという事か、なるほど奥が深いな!」
楽しそうに手を振る三つ子たちに、魔法科一同がついつい手を振り返しながら、フランゲル一行が話し合う。
三つ子だけでなく、他の魔人族も一緒に評価となる。
つまりある程度の戦闘法や、作戦に対しても評価されるという事だ。
これはあくまで特別審査賞。
勝利条件には入っていないものの、その評価はまるで、自国に対する対応を評価する、他国の人間からの評価のようだ。
他国からの評価が気になるならば、この特別審査賞を気にしながらの攻略になり、また、気にせず卑怯な作戦を取るのも自由。
ルドーは三つ子に嫌われるような、そんな卑怯な戦い方はしたくない。
だがそれを基礎科が気にしなければ、指示は優先される。
そのような指示の基礎科生徒には、当たりたくない。
そしてどうやら他の全員も、同じ思いのようで。
魔法科一同、一斉に基礎科を警戒し始めた。
『はい、それでは質問もなくなったようなので、チーム分けと行こうじゃないか! それでは基礎科の生徒諸君、勧誘作業お願いしまぁーす!!!』
ネルテ先生の合図と共に、基礎科の生徒が動き出す。
基礎科も護衛科も、所属する生徒数は同じ、十六名。
まずは基礎科内でどのようなチームを組むべきかと、普段傍にいる護衛科に声を掛けつつ、話し合っている様子。
「うーん、俺特別枠って言われたけど、そうなるとどこ待機だ?」
『場外待機じゃねぇの。そんで呼ばれたら自動で転移される、みたいな』
基礎科が話し合う様子に、楽しくなってきたと、聖剣がパチパチ弾ける。
全てのチームに一回参加の、特別枠。
つまりルドーは、すべての相手と敵対するし、すべての相手と共闘する。
呼ばれるタイミングも基礎科次第な上、時間制限付きの、何もかもルドーの思い通りにならない状況。
「この場合一番警戒すべきは、リリとエリンジ、カイムとクロノか」
『先の二人はまぁ分かるとして、相変わらず雷効かねぇし、ルドーもまだあっちには勝てた事ないしな』
「言わないでくれよ……」
特別枠として召喚されたとして、警戒すべき相手は誰か。
エリンジは何度も組手で戦い、動きが読まれる可能性がある。
魔力が完全に戻った今、リリアとの魔力伝達でブーストがかかった状態は危険だ。
クロノには今まで一度も聖剣の雷魔法が効いた試しがないし、シマスの一件から察するに、そもそも古代魔道具の攻撃が効かないらしい。
またカイムとの組手にも、絡め手が多くて、ルドーはまだ一度も勝てたことがない。
雷竜落は、この場合使うべきだろうか。
クロノに対しては、ひょっとしたら有効かもしれないが、他の相手だと、この範囲のフィールドだと、下手したら周囲を巻き込んで、致命傷になりかねないような。
考えている間に、基礎科のチームが決まって、とうとう魔法科に声が掛かり始めた。
チームに組み込まれないルドーは、他人事のようにその様子を眺める。
やはり実力が高い、エリンジとカイムがいる二人のチームに、人が集中している。
別チームに分散しろと指示があったのだ、戦闘能力は高いのだと判断されるに十分だろう。
そんな中、オリーブが真先に、アルスとキシア、そしてトラストとビタに声を掛けていた。
オリーブが微笑みながらも、今回は残念やけどねぇと声を掛けられ、目の前を通過されたカゲツが、衝撃に固まってショックを受けている。
あの四人組は火力と探索、それぞれかなりバランスがいい。
一緒に行動することも多く連携が取りやすいので、かなり見る目のある選択をしている。
目の前をオリーブに通過されてショックを受けていたカゲツも、オリーブと接点があるため基礎科に情報があるのか、パートナーのノースターと一緒に何人かに声掛けされている。
また分かりやすく二人剣を持っている、ウォポンとヘルシュも声を掛けられていた。
一方基礎科の誰も全く声を掛けない様子なのが、フランゲルとアリアだ。
多分アリアの前期の、奇怪な行動が影響しているのだろう。
基礎科に粉を掛けに行っていたという話は、前期のルドー達にも届くほど、かなり派手にアリアは動いていた。
誰にも声掛けされず、フランゲルがダンダンと地団駄を踏んでいる。
メロンとイエディも、メロンのハイテンションがかなり引かれたのか、二人の能力もその見た目では測りかねるようで、遠巻きにされて見つめられている。
『あっちの二組揉めてんなぁ』
「決まるの時間かかりそうだなあれ」
回復が使える聖女のリリアと、入学式トップで生徒挨拶をこなしていたエリンジ。
基礎科にも顔を覚えられているこの二人は、攻撃と回復に秀でている。
なんとしても手に入れたい基礎科が色々話しかけて、リリアがわたわた困ったように慌て、エリンジはそれでも無表情だ。
魔人族のカイムは、話に聞く戦闘能力の高さを買われている。
あと意外にも、クロノも結構な数の声掛けがされているようだが、レペレル辺境伯の恩恵に授かりたいのだろうか。
どす黒い空気を放って唸り声をあげるカイムの後ろで、クロノはいつもの飄々とした調子で、世間話のように、受け流して対応している。
『あそこが決まらねぇと、他も決まりそうにねぇな』
「チーム人数より多く集まってるみたいだからなぁ、いつ始まるやら」
チームは平等に、各科目四名の参加となる。
有望な相手を引き入れる交渉術も、基礎科の腕の見せ所。
しばらくそれが続きそうだと、一人チームから外されたルドーは、とりあえず準備運動でもしようと、聖剣を空中でグルグル回し始めた。




