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第百七十二話 移り変わる日常

 医務室での話し合いからの翌日。

 同盟国連盟にシマス国で起こった一件の一部始終が報告されたそうだ。


 クロノから説明された話は、どれも事実だったとしても信じられないようなことばかりで、そのまま同盟国連盟に説明しても、疑われるばかりでまともに取り合わないだろうことは予想されていた。


 なにより女神深教の情報をそこまで詳細に報告して、向こうがどういう行動を取るのか予想が付かない。


 そのためウガラシで目撃されたことのみを、忠実に報告するに留める形になったそうだ。


「はぁー、これで何連続だ?」


『五通目だな、新記録じゃないか?』


「いや一日に何通送ってくるんだっつの……」


 座学が終わった休み時間。

 食堂に向かったルドーは、顔面にベシリと当たった依頼状の封筒を見て大きく溜息を吐いた。


 歌姫の情報を求めていた依頼状もぱったりとなくなり、ネルテ先生の検閲もなくなったので、個別指名の依頼状は、エレイーネーに届くや否や、本人に飛行魔法で自動的に届くようになっている。


 顔面にぶち当たった二通の依頼状、依頼主はマー国とグルアテリア。


 この二国は、エレイーネーの同盟国連盟への報告で、ルドーの持つ古代魔道具の聖剣(レギア)が、シマス国の古代魔道具、復活の首飾りを破壊したことに対して、情報を求めて連絡を取り付けてきていた。


 古代魔道具で古代魔道具を破壊できる事実は、とうとう同盟国連盟に知れ渡った。


 それに対して、古代魔道具を持つ国で、情報を求めてマー国とグルアテリアが動いた。


 自国の古代魔道具に手を出すなという警告なら、最初の一通で十分。


 つまりこの二か国は下手したら古代魔道具を破壊してくれという依頼か、ひょっとしたらルドーの想像もつかないようなもっと酷い厄介事の可能性が高い。


 エレイーネーの報告直後に急に依頼状が届き、その中身もほとんどあってないような曖昧さから、ルドーは何となくそれを察したが、他国の古代魔道具をチュニ王国の勇者がどうこうしようとするのは国際問題に繋がる。


 よってルドーは面倒なことになったのも相まって、届く依頼状を片っ端からチュニ王国のジャーフェモニカ宰相宛に転送していた。


 シマスの女神像降臨式の際、スペキュラー先生によって転移魔法でチュニ王国に戻されたジャーフェモニカ宰相は、特に被害もなくそのまま通常業務を再開したそうだ。


 仕事が増えて苛立つジャーフェモニカ宰相が眼鏡を押さえる姿がルドーの頭に浮かぶ。


 しかし国際問題になるので仕方ないから全部転送しろと言ってきたのは、最初の依頼状を手にした際に相談連絡を入れた相手であるモネアネ魔導士長である。


 申し訳なさを感じながらも、モネアネ魔導士長の指示ですとルドーが一筆添えて転送すれば、ジャーフェモニカ宰相の矛先はそちらに向いたのか、最初に転送した際の恐ろしく長い抗議のような説明を求める返事が一回返って来たきり届かなくなっている。


 グルアテリアからのものは最初ヘルシュにつき返して詳細を聞こうとしたが、ヘルシュ本人も詳細は知らされておらず、何なら連れてきてくれと内容も伝えられずに言われちゃったと返された。


 ヘルシュもルドーと同じ勇者でこそあるものの、その内容もわからない胡散臭い話に、流石にルドーも首を縦に振る事は出来ない。


 その為ルドーはヘルシュにまた届いたぞと毎度毎度報告しつつも、面倒に感じながらもその二通の依頼状をジャーフェモニカ宰相に転送し続けていた。


「先生たちがまだシマスのウガラシ復興に当たってて自主学習でも、暇って訳でもねぇんだけどなぁ」


『あの王室ならそろそろキレそうな気もするがな』


「いやいやいやキレて国際問題になったら何のために依頼状を転送してんだよって話だって」


 血の気が多いあの王室だと、そろそろプムラ陛下が詳細を聞いて、内容も曖昧なのに我が国の勇者連れて来いとかうちの勇者を舐めているのかと言い出しかねない。


 そうなってはジャーフェモニカ宰相に転送している意味はないと、ルドーはいい加減少し抗議しようと、食堂に辿り着くなりフランゲルと一緒にいるヘルシュに近寄った。


「ヘルシュ、今日もう五通も届いたぞ。いい加減にしてくれってグルアテリアに言ってくれないか? 多分そろそろチュニ本国の抑えが効かなくなる」


「えぇ? 今日一日で? 流石にちょっと過剰だなぁ、あの曖昧な内容じゃ失礼すぎるし。わかった、こっちからもちょっと苦言入れとくよ」


「助かるわ、ありがとな」


「ほんと参ったもんだよね」


「勇者ってのも国背負って難儀よねぇ」


「それは聖女も同じだろアリア」


「私はいいのよ。ファブはほとんどレペレル辺境伯が守ってくれてるもの」


 私の領地中央魔森林の真逆の海沿いだしと、謙遜もなく言い切ったアリア。


 ただ本人はこう言いつつも、入学最初期の浄化さえ使えればいいという態度とは打って変わって色々と魔法を覚えてはいるので、リリア程ではないものの、聖女としては及第点になってきている。


 ルドーは今度はアリアの横で、豪快に丸鶏のタンドリーチキンを頬張るフランゲルに視線を向ける。


 シマスでの一件で、パピンクックディビションの魔道具で魔力を奪われて落下したフランゲルだが、離脱したヘルシュとウォポンの乗るムーワ団の飛行魔道具によって救助されていた。


 アリアが一緒に落下した魔道具を空中でなんとかキャッチし、クロノの助言を聞いていたために、魔法を使わずウォポンの剣で即座に破壊。


 助言通りその場でフランゲルは魔力が戻ったために問題なく過ごせていた。


 ただパピンクックディビションが使っていたあの魔道具は、縁祈願(ゆかりきがん)と違って魔力が不可逆的に奪われるというものではなく、一時的に魔力の最大量を奪うというもの。

 個人差はあるが、大体二週間から一カ月程度で奪われた魔力が戻るという魔道具だったそうだ。


「古代魔道具関連か、そういえばわが領地シュミックにて、新しい古代魔道具を発見したという報告を受けたぞ!」


「えっ!? 新しく発見された古代魔道具!?」


「初耳だよフランゲル!?」


「ハイハイハイとっても興味あります!」


 古代魔道具関連で最近ヘルシュに声を掛け続けていたためか、フランゲルがそこから思い出したように話す内容にその場のルドー、ヘルシュ、ウォポン、アリアが驚いてフランゲルを見つめた。


「おっそろしく大きくてな、そのせいで海中から出てきたというのに動かせんらしい」


「動かせない程大きいって、遺跡の大鍋以来か」


『でかいと場所が必要になる上動かすのも難儀だからな』


「今は調査中で詳しい事は分からん! だが問題がありそうなら破壊を頼んでいいか!」


「いやだから俺だけだと判断できねぇってそれ……」


「そうか! ならとりあえず調査待ちだな!」


 ヘルシュとの会話をここ数日すぐ傍で聞いていたはずなのに、ゲハゲハ笑いながらそうルドーに頼んでくるフランゲルに、呆れた声をあげた。


 古代魔道具が瘴気の発生源になることはまだ公表されていないが、フランゲルは最初に破壊した古代魔道具の大鍋から瘴気が大量発生していた現場を見ている。


 自国のすぐ近くでそれを連想するどでかい古代魔道具が発見されたなら当然の懸念だが、ルドーには残念ながらそれを判断する権限はない。


 希望するなら国を通してくれと言ったルドーの言葉はフランゲルに届いているだろうか、高笑いし続けるその様子に甚だ疑問である。


「ルドにぃ!」


「ここにいたの」


「あっちこっち探した!」


「見つかった! カイにぃおなかすいた!」


「先飯食ってるぞ」


 ライアとレイルとロイズを引き連れて、クロノとカイムが食堂に入ってきた。

 ルドーを見かけるなり走り寄ったライアの後ろでクロノが声を掛け、レイルとロイズを連れたカイムが先に食事を選びに離れていく。


 珍しく用事がありそうな様子のクロノに、ルドーは何だろうと首を傾げつつ近寄ったた。


「リリアを図書室の方で見かけたけど、あれ、放っておいていいの?」


「あー……悪い、しばらくリリの好きにさせといてくれないか」


「思いつめてそうな顔してたけど。まぁ、ルドーがそういうなら大丈夫って事ね」


「心配かけてるな……ありがとなクロノ」


「別に。今の状況で取り乱しても良くないと思っただけだし」


「リリねぇ大丈夫?」


「だってさ。ライア、ご飯選びに行こう」


 そう言ってライアを連れてカイム達の方へ歩いて行ったクロノを見ながら、ルドーは双子の片割れであるリリアに思いを馳せる。


 医務室でのクロノからの話。

 両親が亡くなった原因であるケイソ病が、人為的に起こされたという内容に、リリアはかなりショックを受けている。


 ルドーも最初こそショックを受けたものの、人為的であっても結局は病気。


 例え人為的であろうとなかろうと、両親は苦しむ患者の為に尽力しただろうし、そして同じ結末を辿っただろうと、ルドーは寮の自室でしばらく考えてそう納得して立ち直った。


 何より両親が亡くなったのはもう九年近く前の事。

 今更その原因が変わったところで、戻ってくるわけでもない。


 ただ両親の死に、その当時かなり取り乱していたリリアは、クロノの話をルドー程簡単には受け入れられなかったようで、図書室でケイソ病について改めて詳しく調べ始めた。


 エリンジも傍についているし、情報に詳しいトラストにも話を聞いているので、一人で思いつめて落ち込むことはないだろう。


 なによりこの状態になったリリアは、ルドーが傍に居ると逆に取り乱して悪化するので近付くのが厳禁なのだ。


 おおよそ図書室でまた調べ物をしているであろうリリアを思い、溜息を吐きながらルドーも食事を選び始める。


『色々大変だな兄ちゃん』


「リリは両親が死んだ直後酷かったからな、気持ちを整理するまでかなり時間がかかった。傍で寄り添えたら良かったんだけど……」


『見たことないくらい暴れたもんな。正直驚いたぜ、思いっきりぶん投げられててよ』


 思い出すようにゲラゲラ笑い始めた聖剣(レギア)に、ルドーは呆れて首を振った。


 改めて言われたことを思い返したのか、医務室を出てしばらくしてから、リリアは突然取り乱してルドーを放り投げた。


 覚えのある行動にルドーは難なく受け身を取ったが、見たことがないリリアの行動に、傍に居たエリンジの目が点になったのを覚えている。


 こうなってしまってはどうしよもないと、ルドーはその時エリンジに、傍に居るとまずいから頼むと伝え急ぎ離れた。

 それから今日まで、授業の際も視界に入らないよう後ろに回るなどして距離を取っている。


 時間が解決するしかないリリアの問題に、しかし時間がとられることに少し焦るようにルドーはまた溜息を吐く。


「エリンジのとこの心理鏡を探す理由が更に出来たってのに、連絡取れないのはちょっと不便だけど、リリの問題だししゃーねーよなぁ」


「ルドにぃまた一人ー? 一緒に食べよー!」


「おう、ライア。助かるー」


 リリアとエリンジと共に行動しない為単独行動が多くなったルドー。


 エレイーネー内のため安全なものの、狙われている相手が多い状態なので、なるべく誰かと行動したいというのが本心ではある。


 一人でいると毎度の如くライアが声を掛けてくれるので、ルドーはカイムとクロノの様子を見ながら、両手を振って招くライアの隣に座らせてもらっていた。


「ルドにぃ今日のそれは何ー?」


「ん? チキンステーキエビフライ定食」


「おいしそう!」


「明日食べる!」


「また豪勢にいってるもんだね」


「テメェは毎度毎度それで足りるのかよ、もっと食えよ」


「私食は細いのよ。足りるから気にしないでカイム」


 ガツガツと肉きのこ炒めをかき込むカイムの指摘した先を見れば、おにぎり一つと味噌汁に漬物しかないその様子に、ルドーも少し心配になる。


 あれだけ化け物並みに暴れているのに、それでエネルギーは賄えるのだろうか。


 クロノが一週間倒れていた後もあって、ルドーも見ているだけでかなり不安になってくる。


『例の二人組の情報、森の方はねぇのか』


「アーゲストには確認取ってらぁ。なんもねぇよ」


「転移魔法使えるんじゃね。見つけてもすぐ転移で逃げられる」


「厄介だよなぁ、今日まで情報まるでなかったんだし……」


 背中で聖剣(レギア)がまたパチパチ弾ける中、ナイフとフォークでチキンをつつきながら、またルドーは小さく溜息を吐く。



 相手と会話して取り乱すような言葉を掛ける。



 医務室での話し合いで今のところ推察されている、女神深教の祈願持ちに対する対抗策。


 その為には相手の内情が必要になってくるが、魔力に関して分かりやすかった縁祈願(ゆかりきがん)はともかく、他の三人はまだ何が地雷になるか未知数だ。


 しかしあいつらには聖剣(レギア)、古代魔道具の攻撃は、再生されはしたものの防がれはしなかったのだ。


 それならば同格の心理鏡の効果も期待できるし、そこから相手の内情を探るきっかけに繋がる。


 女神深教を倒す条件がこれで合っているかはまだ証明されていないが、それが可能なら大きな打開策になるのだ。


 その為盗まれたままの心理鏡を、なんとしてでもコロバとナナニラから取り返す必要があった。


 エリンジの魔力も完全に戻り、その魔力を取り戻すそもそもの理由であった心理鏡の捜索。


 それが今ルドー達に課せられた、授業以外の課題になっているのである。


 ルドーは今のところ、役職デメリットのせいで探索魔法は何一つ使えないし、何も情報の進展がない。


 エリンジとも会話してその捜索方法を改めて検討したいのだが、リリアがあの状態ではどうにもならないと、ルドーは立ち直るのを待っている状況だった。


「クロねぇ! クッキー! もう一回作って!」


「僕もまた食べたい!」


「サクサクのクッキー!」


「えぇ?」


「おぉっとぉ、その言葉待ってましたぁー! 私にもください!!!」


 一足先に食べていたためか、食事が終わったライアが声をあげて、レイルとロイズもごね始めた。

 三人の言葉に横から両手をブンブン振り回すメロンが乱入してくる。


 突然の乱入者にカイムが迷惑そうに顔を顰めて唸り声をあげるも、クロノは赤い瞳を心配そうにメロンの方に向けた。


「メロン、もういいの?」


「だいじょーっぶ! そりゃウガラシは気の毒だけどさ、生まれた街のクバヘクソは守り切れたわけだし! 出来ない事考えたって仕方ないから、出来る事を全力でやろうとですね!」


 母国シマスの王都ウガラシから始まった今回の一連の出来事。


 メロンは当然ショックを大きく受けていた。

 あれだけの人数の被害だ、ショックを受けない方がおかしい。


 ウガラシで出来た事はなかったのかと、メロンはずっと不安そうな表情で下を向いていた様子がしばらく続いていたが、あれだけの規格外にもう既に終わってしまった事。


 どれだけ悔やんだところで犠牲者は戻って来ない。


 それならばその悔しさをバネに、同じ事態には絶対にさせないよう力を付けるのだと、メロンはようやくいつも調子を取り戻したようだ。


「だからって、クッキー食べるのは、違うと思う」


 ブンブン両手を振り回し続けている後ろで、一人冷や冷やしながらイエディも追いついて来る。


 食い意地の張ったメロンの様子に、クロノは困ったような色の瞳を浮かべて頬をポリポリかいた。


「なんでメロンが知ってるの?」


「あの後色々とね! カイム君も食べたがってたよ?」


「えぇ?」


「だああああ! んな事言ってねぇだろ!」


 口を手で押さえてニヤニヤしながらメロンが言えば、カイムは顔を真っ赤にして噛み付く。


 二人の会話に完全に困惑の色を浮かべてカイムを見つめるクロノの赤い瞳に、ルドーはここ最近ずっと感じている違和感を覚えながらも、その様子を観察していた。


「めんどくさいから、いらないなら作らなくていい?」


「がっ……うっ……く、くれ……」


「えぇ? まぁいいけど……」


 ブスブスと顔から煙をあげながらも、なんとか必死に言葉を絞り出したカイム。


 ルドーの視点から見える顔面が真っ赤になったカイムの様子は、どうやらクロノの位置からはその長い髪に隠れて絶妙に見えていないらしい。

 らしくないカイムのその反応に、クロノは困惑しながらも了承の旨を返していた。


 ニヤニヤしながらその様子を眺めていたメロンが、クロノの返答に横で大きくガッツポーズを決めた瞬間、無言でイエディにみよんと頬を抓られて両手をブンブン振り回す。


「メロン、あんまり干渉しない」


「痛い痛いごめんごめん許して!」


「あっ! なるほどそう言う事か!」


『なんだ急に』


 ずっと感じていた違和感に悩んでいたルドーが、あることに気付いて声をあげたので、聖剣(レギア)がパチンと反応して、周囲もルドーの大声に振り返る。


 ルドーはまじまじとクロノの方を見ながら、やっぱりそうだと確信した。


「なーんか表情分かりやすいなと思ったら、クロノお前感情全部目に出ちまうんだな」


「あぁ?」


「うっ……なによ悪い? 言ったでしょ貴族向いてないって……」


 だから隠してたんじゃんと、項垂れるようにクロノは肩をすくめる。

 ルドーの指摘にカイムが目をぱちぱちさせて、じっとクロノの瞳を見つめた。


 図星をつかれた様子のクロノは、ルドーの話にカイムにじっと瞳を見つめられて、赤い瞳に動揺の色を浮かべて目を逸らした。


 じっと見つめていたカイムの深緑の瞳が、驚くように大きく見開かれる。


 どうやらカイムもルドーの指摘に、クロノの瞳からその事に同じように気付けたようだ。


 ここ最近ルドーがずっと感じていた違和感。

 どうにも以前と違って、クロノの様子がやたら分かりやすくなっていた気がしていたのだ。


 原因は何かと改めて考えながらルドーが様子を見ていれば、以前はずっと帽子で隠していたその赤い瞳が、やたら正直過ぎるほど感情が乗っていたことに気付いた。


 クロノ本人も自覚して隠していたその瞳を、帽子で隠さないようになった。


 そこにはきっとクロノの少なくない信頼も生まれ始めていたのだろうと、ルドーはニヤリと笑ったカイムを眺めつつ結論付ける。


「……はーん、確かにわかりやすいわ」


「やめてよ、改めてそんな見ないでって……」


「んだよ、今更隠してんじゃねぇよ」


 まじまじとカイムに瞳をじっと見つめられ続けて、クロノは激しい動揺を瞳に浮かべてまた帽子を目の下まで引き下ろす。


 途端に不機嫌になったカイムが帽子に掴み掛り始めて、クロノは必死にカイムにやめさせようと両手を伸ばしてその手を抑え始めている。


「イチャイチャ?」


「そうなの?」


「カイにぃすっごい楽しそう!」


「ルドー君ナイスアシスト!」


「いやそういうつもりじゃねぇんだけど……」


 二人の様子にニコニコしているライアと、それを聞いてきょとんとするレイル、カイムの表情に楽しそうな大声をあげたロイズ。


 ニヤニヤしているメロンが、ルドーに向かって両手でブイブイグッジョブしてくる。


 お互いの主張に、こちらの会話も聞こえなくなった様子のカイムとクロノがさらに暴れ始める。


 自身の違和感をスッキリさせただけなんだけどなぁと、ルドーはいい加減食事がひっくり返ると、暴れる二人を止めに回った。


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