第百五十七話 女神降臨式
「王族相手に啖呵切るんだもん、心臓止まるかと思ったよお兄ちゃん」
「いや悪かったってリリ」
『よかったぜあれは、スカッとしたな。次は王様行ってみるか』
「うるせぇって、やめろよマジで首が飛ぶだろ」
「気持ちは分かるが少し弁えろ」
「今回は公で他にも王族がいたからどうにかなりましたが、友人の為とはいえ迂闊すぎますよ」
「うっす、気を付けます……」
「てめぇ全然関係ねぇことに首突っ込み過ぎだろ、つか俺の言う前に返事すんのやめろや」
「悪かったって、心配かけたよカイム」
「んなこと言ってねぇだろ!」
「よくわかんなかったけどルドにぃかっこよかったよ!」
「あーうん、ありがとなライア」
カイムが危険に晒されると、ついケリアノンにああ言ってしまったルドー。
冷静に考えて不敬罪で首が飛んでもおかしくなかった状況に、今になって恐れ多い事をしたと慄いていた。
次々と言われる苦言に、ルドーは大変な事をしてしまったと耳を塞ぐ。
あの後降臨式が迫っていたこともあり、一旦魔力差別についての話は中断となってルドー達は来賓室から、謁見広場が一望できる王宮バルコニーに移動を終えて、ヒソヒソ話していた。
ケリアノンの諫言に完全に意気消沈したチェンパス。
この後の処分はどうなるのかと不安に項垂れながら先頭を歩いて案内した後、ルドー達のいる魔法科の区域前方で、手すりに身体をもたれて一人どんよりと肩を落としている。
おおよそ今までそれが正しい事だと思い込んで、ずっと魔力差別の話をケリアノン含む王族に話さず情報遮断していたのだろう。
話に聞くところによれば、チェンパスもまたウガラシ出身の上層、魔力差別に対する偏った認識が少なからずある上に、あの思い込みの激しさが悪い影響を及ぼしていた。
多分悪いやつではないのだろうが、思い込みの激しさに忠誠心の履き違えなど、どうにも思慮が欠ける。
古代魔道具を所持し、実力もおおよそ高いだろうから、もう少し立ち止まって考えてくれるようになってくれればと、ルドーは密かに願った。
一緒に話していたジャーフェモニカ宰相が、そろそろ時間だと王侯貴族が集まっている区画に戻って行った。
ジャーフェモニカ宰相が歩いて行った方向、王侯貴族が集まる区画をルドーは遠くから眺める。
なんとか必死に立とうとしているムスクに、それを支えているピナも見える。
フランゲルの兄二人は余程人気があるのか、バルコニーで笑顔で手を振っているだけで、下から強烈な黄色い声援が絶叫するかのように響きまくっている。
一番奥に先程ジャーフェモニカ宰相が話していた、ランタルテリアの勇者らしい男がいるようだが、ルドーのいる魔法科の場所からはあまりにも遠くて、背が高そうだなぁくらいしかその人物像が全く把握できなかった。
ルドーは次に、あの後ケリアノンがアルスに向けて話していたことを思い返していた。
「旧ヨナマミヤ出身のあなたがエレイーネーに試験合格したと聞いた時、私は誇りに思ったのです」
「……そりゃどうも」
「社交辞令ではありません、本心からです。十年前に起こったヨナマミヤでの混乱は今も続いていて、それで今回フィレイアでの女神降臨祭の開催だと、私達王族はそう認識していました。あなた達の様相から、問題はそれだけではないと気付き、その上今あなたがエレイーネーに在籍している。これほど幸運な事はありません」
「幸運? 俺がエレイーネーに進学許可してもらったのはありがたいけど、それがなんでその話に繋がるんですか?」
「今シマス国王宮やウガラシにいるのは、魔法に長けた優秀な人材ばかりと、我々王家は認識していました。しかしその認識が間違っていたのならば、早急に正さなければなりません。ヨナマミヤの実態や、先程の魔力差別に対する認識に詳しい貴方の意見を、ぜひ取り入れていきたいのです。今回の件が終わったら、エレイーネーにて詳しく話を聞かせていただいてよろしいですか?」
「……また怒りでカッとなるかもしれないから、キシア達と一緒でいいんでしたら……」
来賓室でケリアノンとアルスが話していた内容を思い出しながら、ルドーはアルスの方を見やる。
バルコニーから群衆を見下ろすアルスの表情は硬いが、キシアとトラストとビタが必死に励まそうと色々と声を掛けている。
エレイーネーへの進学は、所属する国からの認可が必要になる。
それは義務で入学しているルドーとリリアも同じであり、入学試験を受けたならばアルスもまたそうだった。
つまりシマスの王族は、下層出身のアルスがエレイーネーに入学することを認めていたという事。
今までシマスは王族が魔力差別を認識していなかったために、問題がずっと解決しなかった。
これを機に少しずつでも解決の糸口になってくれたらいいが、根深い問題に先は長いだろうと、ルドーは小さく溜息を吐く。
「知らないって罪だよね。私ケリアノンさんの気持ち、ちょっとわかっちゃったんだもん」
「メロン」
ルドーがアルスに視線を向けていたのと同じように、その様子を心配そうに見つめていたメロンが話し始めた。
「この間のクバヘクソでのことだって、アルスにあの後詳しく説明されるまで、シマスの中でそんなことになってるなんて、全く知らなかったんだもん。安全圏でずっとぬくぬく育ってきたって事だよね、その間ずっと苦しんで、踏み付けられてきた人だっていたはずなのに」
「メロン、貴方が悪いわけじゃない」
「うん、そうなんだけどさ。私自分の魔力が多くて、それならエレイーネーに入ったらどうかって軽く言われて。たくさん美味しいもの食べれて、ついでにみんなも美味しいものたくさん食べられればいいなって、そんな考えで魔導士目指してたから。だからアルスの話聞いて、たくさん食べられなかった子って、実はもっとちゃんと周囲を探せばいたんじゃないかって、どうしてもそう思っちゃうよ」
シマス国の上層、その差別の実態を知らなかった人間からしてみれば、周囲は魔力が上手く扱える、とても栄えた素晴らしい国にしか見えないのだろう。
その裏に隠されていた、人の薄汚い本性を知らずにいたメロンには、同じように情報を遮断され続けていたケリアノンの傷付く心情がよくわかる様子だった。
少し離れた所でメロンがそう話して、イエディが慰めているのを、カゲツとノースターも気まずそうに見ている。
ルドー達もメロンのその話す様子を眺めながら、ふと疑問に思ったことを口にし始めた。
「うん? でもフィレイアにはシマスの国王来てたんだよな。色んな貴族からやっかみの声もあるだろうし、あの国王も魔力差別問題を知らないって事、あるのか?」
「あ、言われてみれば確かに」
「大体想像はつく」
「あぁ? どういうことだよ」
ふと疑問に思ったルドーの問いに、エリンジがアルスと同じように眼下の民衆を見ながら言い始めたので、どういうことかとルドーはリリアとカイムと一緒にエリンジに首を傾げた。
「国王と一緒にいたあの男だ、サジヒグ・ナイル公爵。フィレイアで見かけた時、妙に国王の視線を護衛の国魔導士に遮らせていた上、説明を求めていた声に返していたのもあの公爵だ」
「あの言い掛かり付けてきた感じ悪いくそ人間かよ、そいつが誘導してたってのか?」
「言われてみりゃ、魔力差別されたままの状況で、誰が一番得するかって言ったら、王族に次いだら高位貴族で、公爵はその筆頭なのか……」
カイムとルドーの言葉に、エリンジが肯定するように視線を向けて無言で頷いた。
あの腹の下に一物ありそうな公爵、そういえばウガラシに来て馬車に乗った時、カイムを指名して連れてくるようにと采配したのもあの公爵だった。
となるとケリアノン王女に、バルコニーでカイムに対する謝罪を提案したのもあの公爵か。
まるで差別が悪化する状況を肯定するかのようなその提案。
それでいて本人はのらりくらりと建前を作って、さも自分は善意でやっていると宣うあの男。
魔力差別によって受ける恩恵、下層を差別で踏み付けて、甘い汁を吸い尽くしている人物がいたとすれば。
その人物が権力を使って、差別問題をそのままにしようと、密かに王族から事実を隠し続けていたとしたら。
思い浮かぶ歪過ぎる形に、ルドーは思わず顔を顰めた。
「ま、まぁ、なんにせよ、今回ケリアノンさんが魔力差別をようやく認識できたんだし、アルスくんとも話していけるなら一歩前進だよ!」
『前進してんのかね』
「うまくいくならいいんだけどなぁ」
「結局俺たちは部外者でしかねぇ、どうにもならねぇだろ」
リリアがなんとか状況が変わったと喜ぼうと必死に声をあげるが、ルドーとカイムとエリンジはその予測から否定的だ。
あのナイル公爵が魔力差別問題に対して妨害工作を行っていたのなら、きっとすぐに解決しないだろうし、同じように甘い汁を吸っていた上層連中が、同じように妨害しないとも限らない。
しかしカイムの言う通りこれはシマス国の問題、ルドー達には相変わらずどうしようもない。
首を振って降臨式を待ちながら、ルドーはバルコニーから眼下の民衆を見つめる。
王都ウガラシ開催とだけあって、そこに住む住民は上層、つまり高位貴族しかいない様子だ。
ケリアノンの話していた内容から、国民の事を思っていたのは間違いないのだろうが、高位貴族しかいない制限されたこの街で、王宮から全く出ないならば、ぱっと見て住民は不満そうな様相は見られない。
あまりにも偏った情報、それを体現しているかのような群衆の様子に、ルドーはまた小さく溜息を吐いた。
そう思っていたら、ふと眼下の謁見広間に見慣れた様相の人物を二人見かけて、ルドーの視線が止まる。
向こう側もこちらに気付いたかのような反応で、一人がニッコリと微笑んで小さく手を振り、もう一人も小さくこちらに向かって堅苦しく会釈をしていた。
基礎科のオリーブと、その護衛をしているサンザカだ。
ルドーも気付かれたことに反応するように、小さくその手を振り返す。
そう言えばカゲツが前に、サンフラウ商会の発症はシマスと言っていたような。
つまりオリーブの出身もシマス国という事になるのだろう。
人情をモットーとし、お礼は倍返しでと、サービス満点の商売方法で発展し、下層にも当然のように出店しているサンフラウ商会。
その人情に応える住民もそれなりに多いのならば、シマスもきっと捨てたものではないはずだ。
「わぁー! カイにぃ! ルドにぃ! 始まった! 始まったよー!」
ルドーが考えに耽っていると、ライアがベシベシカイムの背でその頭を叩く。
謁見広間の上空が、魔法で遮られて一気に暗くなり、スポットライトのように大きく魔法で照らされ、色とりどりの魔法の花火が大量に宙に舞い散る。
ここでファンファーレでも鳴れば完璧なのに、やはり音楽に関するものは一切合切流れない。
まずは序章説明というように、拡声魔法でウガラシの歴史が、古い資料を投影魔法で空中に映しつつ軽く流れ始めた。
『シマス国はここウガラシの町から発展してきたとされ、ウガラシこそがシマスの中枢と言って差し支えない場所でした。古くは漁業の栄えた川の漁村から始まり、その周辺に集落が少しずつ集まって来たことでさらに栄えていき……』
「えぇ? 川の漁村? 川なんて見当たらねぇけど」
「ずいぶん昔に住宅地にする為に全部埋め立てたんだよ……学習本の内容だぞ……」
「始まったんだからいい加減切り替えろよチェンパス」
バルコニーの手すりにつかまったまま、チェンパスが暗く落ち込み続けていたのでルドーは思わず声を掛けた。
続くウガラシの説明を聞き流しながら、なおも落ち込み続けるチェンパスにどうにも放って置けなかったルドーは一人、暗い視界の中チェンパスに向かって近寄った。
シャキッとしろよと立ち上がらせれば、チェンパスは項垂れながらもゆっくりと首をもたげてこちらに視線を合わせてくる。
「私に情けを掛けるのか、勇者でありながらケリアノンの様の期待を裏切り、大きく失望させてしまったということの私を」
「つったって善意でやってた事だろ。やり方間違えてたけど、まだ取り返しがつくから今ここに居るんだろ、それなのにずっと落ち込んでてどうすんだよ」
「今は降臨式があるからだ。終わったらきっと処罰されるだろう、そうなったらもう私は終わりだ」
「いやさっきケリアノンさんが言ってたじゃん、学生だから大目に見るだろうって。ケリアノンさんもチェンパスのこと信頼しているから、挽回を期待してるんだと思うぞ」
「同じ勇者だからって、私が落ちぶれるのが嫌なのか? そんな気休めはよしてくれ……」
「気休めじゃないって。それに完全に処罰するつもりだったらお前のそれ、あの時取り上げるだろ」
背中の弓を指差して指摘すれば、チェンパスの落ち込んでいた空気が変わった。
勇者の役職は撤回することは誰にもできないが、あまりにも問題行動ばかり起こすならば、国を挙げて幽閉するのも勇者を管理する国の責任だ。
今回のチェンパスもそうするつもりならば、攻撃が使えるあの古代魔道具のマワの弓矢はどう考えても邪魔だった。
以前ケリアノンから拝受したというなら、問題を起こせば同じようにケリアノンはもう必要ないと取り上げるはず。
しかしチェンパスはそうなっていない、今後の働きを期待され、行動で示してくれと言っているのだろうとルドーは指摘したのだ。
チェンパスはその事実が伝わったらしく、目にいっぱいの涙を浮かべ始めたのでルドーは狼狽える。
「あぁ、ケリアノン様! この恩義、一生かけて応えて見せます……!」
「……あぁ、なんだ感極まっただけか」
身を震わせて大きく目を見開き、感涙を流し始めたチェンパスに、ルドーはどうすればよいかと頭をガシガシとかく。
励ましの言葉感謝すると、ルドーは背中をバシバシと叩かれ、ビシッと姿勢を戻して降臨式を見始めたチェンパス。
余計な事をしただろうかと訝しみながらリリアの元に戻れば、全員からジト目を返されて思わずビクッと身を震わせた。
「なっなんだよ!?」
「ほらね、あんなことがあったのにこの調子だもん」
「ほんとあいつといいてめぇといい、なんなんだよわけわかんねぇ」
「えぇ?」
「色々と助かっている身としては、何も言えん」
『その内敵にまで塩送らなきゃいいんだがなぁ』
「いや何の話してんだよ……」
「ねー見て見てルドにぃ! あれすっごい綺麗だよー!」
ジト目で見つめられつつも、全員から溜息を一斉に吐かれてルドーが混乱する中、ライアが大きく歓声をあげながら声を掛けてきたので、全員でそちらを向く。
周囲の魔法科の一同からも、おぉーと感嘆の声が次々上がるそれは、魔法で暗く覆われた上空で、天が割れるように演出された輝く光の柱の中から、大きな女神像がゆっくりと魔法で降りてくるところだった。
引率しているスペキュラー先生から、ここぞとばかりの怒涛の解説が入る。
「女神が降りてきたとされる国は既に中央魔森林に没しており現在は立ち入ることもそもそも場所がどこかも定かではありませんが当時のその鮮烈すぎる光景に語り継がれた情報は多くしかし千五百年前に起こった女神教宗教戦争時代のものですので残っている文献も数少ないためどこまでが本当にあった事なのか定かではないので実際は話にかなりの尾鰭が付いている事が予測されており」
「ひゃー、チュニで見た時よりでっけぇ!」
「凄いね! まるで本当に女神様が降りてきてるみたい!」
「流石だな、短期間であの規模を用意するとは」
「マジでこんなことが昔にあったもんなのかよ」
「あれが女神様! すごいすごいよカイにぃ!」
「これは素晴らしい絶景ですや! 記録魔道具持ってきて正解でしたや! ここからなら人の邪魔も入らないから、あとで大量に売れる画角の記録写真が撮り放題!」
『王侯貴族の人はそれで撮らなかったの?』
「何を言いますやこの人は。盗撮なんて犯罪ですや。ましてや王侯貴族のものなんて厄介ごとにしかなりませんや」
余りの絶景にルドー達がそれぞれ感嘆と感想を述べる中、記録魔道具を懐から取り出してバシャバシャとバルコニー前方で写真を撮り始めるカゲツ。
薄暗い中でいつもより光って見えるノースターの魔法文字に、光の柱に照らされジトッとした表情で答えているカゲツが見える。
確かに王侯貴族の盗撮写真の販売なんて、後々厄介な問題しか発生しないだろう。
ルドーがカゲツとノースターから視線を巨大な光り輝く女神像に戻せば、ゆっくりと降り立つそれが、事前に謁見広場に設置されていた台座にゆっくりと降り立ち、まるで祝福するかのように大きく光り輝いた。
ピークに達した謁見広間からワッと紙吹雪と大きな歓声があがる。
それを見ていた一同からも、つい口から次々と大きく歓声がそれぞれ上がった。
『あん?』
バチンと聖剣が突如として反応する。
女神像の周囲から光が広がっていく中、薄暗いバルコニー側で、雷の光がバチバチと大きく周囲を照らす。
『待て、そんなこと可能なのか? どんだけのサイズだと思ってる、自然物のはずだろ?』
「聖剣? どうかしたのか?」
「ちょっと光り抑えてくれませんかや? 逆光でうまく撮れませんや」
異常に光る聖剣に、魔法科の面々が怪訝な視線を向ける。
すると謁見広間の方から、あがる声が歓声から悲鳴へと変わった。
「なんだ!?」
「お兄ちゃん! 謁見広間の人たちが次々倒れてる!」
「攻撃か!? しかし攻撃魔法の反応などなかったぞ!」
「ねぇねぇなんか変な残滓の動き見える!」
「カイにぃ! 危ない近寄っちゃダメ!」
「何にだよライア!」
『全員あの女神像から離れろ!』
謁見広間の住民が次々とドミノのように倒れ、パニックに陥った住民が助けを求めて我先にと広間から逃げ出し始めた。
聖剣がバチンと弾けて大きな雷が走り、全員がバルコニーから王宮側に遠ざかるように横に光り走って全員慌てて仰け反る。
フランゲルが大きく仰け反ってそのままひっくり返った。
「なんだよ聖剣! 何が起こってんだ!」
『例の魔力吸い込む鉱物だ! 何をどうしやがった、あの巨大な女神像の中身全部それにすり替わってやがる! 安易に近寄ると魔力吸い切られて死ぬぞ!』
聖剣の叫びに全員が一斉に女神像に視線を走らせる。
バルコニーから見える謁見広間で倒れている人々は、女神像から近いほどに多く、そこから徐々に拡散するようにバタバタと倒れ始めていた。
「はぁ!? そんなどでけぇ鉱物どうやって用意しやがったんだよ!?」
「お兄ちゃん不味い! 範囲がどんどん広がってきてる!」
「住民がパニックで押し潰されるぞ! 誰か落ち着かせろ!」
「くっそ、やむをえねぇ! あれぶっ壊すぞ聖剣!」
『人に当たらんように調節する、早くしろ!』
「雷閃!」
ルドーが大きく叫んで聖剣を振り、即座に大量の雷閃を叩き込む。
しかし鉱物が大きすぎるのか、当たった雷魔法はまるで女神像に馴染んでいくように吸収されて消えていった。
「くっそダメか! 聖剣雷竜落ならどうだ!?」
『下に人が多すぎだ! 下手して当たれば即死だぞ!』
「だめか! 肝心な時に……!」
「お兄ちゃんあれ!」
バタバタと倒れていく住民に、ルドー達がバルコニーで狼狽えていると、リリアが上空を指差して全員が一斉にそこを見上げた。
以前ランティベリで取り逃がした際に見た魔道具による飛行。
女神像の上空でその飛行をやめた女神像破壊犯が、恐ろしい勢いで落下して巨大な女神像目掛けて突っ込む。
落下と同時に大量の切り裂く線が次々に巨大な女神像に入る。
倒れた住民たちよりも目前、巨大な女神像の目の前に青緑の大鎌を右手に持って着地した女神像破壊犯は、振り向きざまにまた大きく右手の大鎌を振るって、これでもかとばかりに大量の線がまた女神像に入る。
ビシリと女神像の頭が斜めに切り落ちる。
そのまま女神像はまるでみじん切りにされたかのように粉々に切り刻まれて弾け、中にあった紫に不気味に光る鉱物が、砂よりも小さく砕かれて大量にバラバラと謁見広間に降り注いだ。




