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第百五十話 突発瘴気の魔物暴走《スタンピード》

 

 爆発するように発生した瘴気から、大量の小規模魔物が流れ溢れるように発生した。


 目撃した周辺住民が悲鳴をあげて一斉に逃げ惑い始め、建物の中にいた住民も血相を変えて飛び出してくる。


 前方を走っていた女神像破壊犯は一瞬足を止めたものの、身体にカゲツが付けた痺れ草を生やしたまま、進路も変えずにそのまま瘴気に突っ込むようにまた走り出す。


「おい! 魔物もいんのにそっちは流石にあぶねぇって!」


 前方を建物よりも高い高さでもくもくと覆う瘴気に向かって走る女神像破壊犯に、ルドーは叫ぶ。


「なんなんだよ! なんで急にあんな瘴気が出てきた!?」


『突発瘴気の魔物暴走(スタンピード)だ! 喚いたってなんにもならねぇぞ!』


 訳もわからず叫んだルドーに、聖剣(レギア)がバチバチと雷を迸らせながら叫び返す。


 突発瘴気の魔物暴走(スタンピード)


 かつてルドー達が入学直後に行った、ランタルテリアでの魔道具製造施設でのボランティアで、イスレ神父とクロノが話しているのを聞いた。


 魔物の発生源は瘴気。


 その瘴気が突然前触れもなく出現することで発生する、魔の森とは関係ない突発的な魔物暴走(スタンピード)だ。


 間の悪いことに、女神像破壊犯を保護しようとしたたった今、それが発生してしまったようだ。


「止まれ!」


「魔物が見えてねぇのかよてめぇ!」


 瘴気に向かって走り続ける女神像破壊犯に、自殺行為だとエリンジとカイムが叫んだ。


 エリンジが走り叫びながらハンマーアックスを横に振るう。

 ガチンと柄から発射されたハンマーアックスの頭が、横回転しながらブーメランのように弧を描いて女神像破壊犯を狙う。


 ハンマーアックスの頭の回転音に気付いた女神像破壊犯は、身体を仰け反らせて動きを止め、正面の瘴気から噴き出す魔物も放置して、警戒するように顔だけ振り返り、青い目を細めている。

 その体から生えた痺れ草から、花粉のような黄色い粉が周辺を舞い続ける。


 街道で逃げ惑う住民に、襲い掛かろうと飛び上がり始めた小規模魔物を、レッドスパイダー先生が片刃剣を振るって一瞬にして一網打尽に霧散させた。


『ランティベリの住民に告ぐ! 突発瘴気の魔物暴走(スタンピード)が発生した! 居合わせたエレイーネーで対処する! 住民は南側に避難せよ!』


 レッドスパイダー先生が、通信魔法で無差別に周辺に飛ばした。

 おそらくランティベリ全域に一斉に通信魔法が飛んだようだ。


 護衛科は対人戦闘が主となることが多く、その為魔法に不慣れな人間も多い。

 だが通信連絡は必須事項になるため、護衛科でも通信魔法は使えなければ話にならないのだ。


 通信魔法に反応するように、ルドー達の周辺だけでなく、ランティベリ全域から悲鳴があがり、逃げ惑うような足音が聞こえ始めた。


 レッドスパイダー先生が更に片刃剣を振るって、溢れ続ける魔物を屠り始める。


 瘴気から飛び出して、今にも襲いかかろうとしていた周囲の小規模魔物を、カイムが髪の刃で次々ザクザク切り落としていく。


 エリンジのハンマーアックスの頭が、女神像破壊犯の行く先を足止めするように、回転しながらその前方を不規則に浮遊しつつ、溢れる魔物を叩き、切り裂く。


 顔だけこちらに向けていた女神像破壊犯は、改めて身体ごとこちらに向き直り、青緑の大鎌を右手に持って地面に切っ先を軽く突き刺しながら、邪魔立てするなとばかりにこちらを睨み付けている。


「俺たちは危険人物に狙われてるあんたを保護したいだけなんだって! 女神像を破壊してたことに関しても、女神教は理由があるから咎めないって言ってるんだ! 今なら魔物からも守れるから! 頼むから投降してくれ!」


 ようやくこちらを向いた女神像破壊犯に、ルドーは訴えかけるように叫んだ。


 エリンジが手を挙げてハンマーアックスの頭を制御している中、魔物も対処しなければならなくなった状況に、全員が魔物の動きも警戒しながら焦るように彼女を見つめる。


 女神像破壊犯の背後で溢れ続ける魔物は、既にエリンジのハンマーアックスの頭だけでは対処しきれない量になりつつある。

 今はまだ小規模魔物だけだか、やたらと濃いあの瘴気濃度では、中規模どころか大規模すら出てくるのは時間の問題だった。


 女神像破壊犯は、その口と鼻を覆う金属製のマスクのせいで、ルドーの訴えに返答してこない。


 全員が警戒する中、女神像破壊犯が動いた。


 身体ごと視線をこちらに向けたまま、右手で青緑の大鎌を引き抜いて、素早くぐるりと回転させた。


 そのままドスンとまた刃を石畳に突き立てたと思ったら、大鎌の柄の先部分に近い空中に、ブワッと白い魔力の塊が二つ発生する。

 そのままビスビスと発射された白い魔力の塊は、ハンマーアックスの頭に飛んでいってバシンと弾き飛ばした。


 魔法攻撃の衝撃、上空へ高く弾き飛ばされたハンマーアックスの頭に、全員が一瞬気を取られる。


「カイにぃ! 魔力が、前見て!」


 ベシベシ叩くライアの叫びに、全員がはっとして視線を戻した。

 正面にいた女神像破壊犯は、さらに大鎌の柄でこちらを狙うようにガチャンと構え直したと思ったら、途端にマシンガンのような大量の魔力弾がルドー達に掃射された。


 ダダダダダと、見たことも無い攻撃速度の弾幕が襲い掛かる。


『吸収した魔力を攻撃に転用してるぞ! さっき吸収されたから気を付けろ! 防御魔法効かねぇぞ!』


「ものすげぇめんどくせぇことになってるじゃんかよ!」


 バチリと叫んだ聖剣(レギア)の警告に、防御態勢に入ろうとしていたエリンジとカイムが顔を顰めた。


 防御魔法を突破する聖剣(レギア)の雷魔法を吸収されたせいで、こちらの防御魔法は貫通されるようだ。


 激しい弾幕攻撃に、全員が一斉に散開する。


 攻撃の直前になんとかハンマーアックスの頭を引き戻して柄にガチンとハメ直したエリンジも、追撃の隙が無いような激しい魔力の弾幕に逃げ惑い始めた。


 開けた街道で、街路樹の影や壁付近に伏せて、なんとか攻撃を掻い潜る。


 大量の魔力弾の掃射に、周囲の石畳や住居の建物が爆発するように破壊され、街路樹をなぎ倒し、ついでとばかりに小規模魔物に命中して弾けて霧散していく。


 余りの規模の攻撃に、カゲツが逃げながら悲鳴をあげた。


「カイにぃ! あれ!」


 ライアの叫びに、街路樹の陰でルドーが目線を向ければ、瘴気からとうとう大規模魔物が出現していた。

 周囲の建物よりは一回り小さいものの、攻撃が当たればひとたまりもない。


 大きな長いワニのような口、前世で見た肉食恐竜のような、二足歩行の爬虫類のような姿をしたそれが、縦に長い瞳孔で周囲を見渡しながらのっそのっそとはい出てくる。


「くそが! 間に合わねぇ!」


「おい! 危ないって!」


 全員が防御魔法の効かない弾幕攻撃に、それぞれが距離を取るように散開して地面に伏していた。


 大規模魔物の目の前で後ろを向いている女神像破壊犯に、誰も間に合わない。


 大きく雄叫びを上げて、グワッと牙だらけの大きな口が、その真下にいた女神像破壊犯に襲い掛かる。


 大規模魔物の大きな影が自身にかかって、視線を上にあげてそれに気付いた女神像破壊犯が素早く動く。


 青緑の大鎌を振りかぶるように大きく身体の周りで回転させれば、また大鎌の刃がバキバキと分裂した。


 青緑の鎖に繋がれた、ギラギラと光る分裂した大鎌の刃は、ジャラジャラと音を鳴らしながらまるで蛇のように肉食恐竜型の大規模魔物に巻き付き、肉包丁が肉を切り落すように、ざっくりとその魔物の身体に深く食い込む。


 振りかぶった勢いのまま、女神像破壊犯が更に身体を回転させ、ジャラジャラと鳴る分裂した大鎌を鞭のように振り回せば、恐ろしい勢いで恐竜のような大規模魔物はそのまま空中に吹っ飛ぶように振り回され、食い込み巻き付く大鎌の刃をそのままに、石畳に大きく叩きつけた。


 衝撃に大きく抉れて破片が飛び散る石畳の上で、その体に食い込んだ分裂した大鎌の刃が、ザクッと更に肉体にめり込み、とぐろ状に大規模魔物をズパンと切り落した。


 とぐろ状に切り落された肉食恐竜型の大規模魔物が霧散していく。

 大鎌の柄を大きく振って、切り落して外れた大鎌の刃が鎖に引っ張られてガチンガチンと戻って、また元の青緑の大鎌が形成される。


『マジかよ、こりゃ相当手ごわいぞ』


 ルドー達が誰も手を貸さずとも、こいつはあっさりと大規模魔物を倒してしまった。

 古代魔道具を模した武器とはいえ、魔法をまるで使わずに、それを可能としてしまうとは。


 それぞれが散開して石畳に伏せたまま、その事実に呆然としていると、女神像破壊犯はその場で素早く大鎌を回転させる。

 すると背後の瘴気から溢れていた魔物に次々線が入り、大量の魔物が一斉に切り刻まれて霧散した。


 どうやら古代魔道具を模したあの武器は、魔物の対処も十分可能らしい。


 それぞれが地面に伏せている中、女神像破壊犯はもう邪魔するものはいないと、そのまま走り出して止める間もなく瘴気の中に突っ込んでいってしまった。


 頭を抱えて住宅の壁際に伏していたカゲツが、それを見た瞬間バタバタと大慌てで叫び始める。


「早く止めてくださいや! あの痺れ草は遅効性、瘴気の中で効き始めたら動けなくなって不味いですや!」


 カゲツの言葉にルドー達は大慌てでそれぞれ立ち上がる。


 目の前で瘴気に突っ込んでいった相手を追おうと瘴気に向かって走るが、また小規模魔物が大量発生して行く手を阻まれてしまう。


 ルドーが聖剣(レギア)、エリンジがハンマーアックス、カイムが髪の刃でそれぞれ小規模魔物に対応して霧散させる。


「もっと早く言えよそれ!」


「しかしあの瘴気濃度では視界が悪くて追えんぞ!」


『俺も離れたらわからん。先にあの瘴気なんとかしろ』


「瘴気なら浄化だろ! リリ……あれ、リリ?」


 聖剣(レギア)がそもそもの魔物暴走(スタンピード)の発生源を何とかしなければ追えないと指摘した。


 聖女の浄化魔法でしか、瘴気は対処できない。


 ルドーが振り返って、そこで初めてリリアがその場にいないことに気付いた。


 一瞬認識できないように呆けた後、ルドーは魔物も瘴気も忘れて周囲を見渡し叫び始める。


「リリ? リリ!? 嘘だろさっきまで一緒にいただろ!?」


「落ち着け!」


「……問題ねぇ、はぐれただけだ。さっきの通信聞いて慌ててこっち向かってらぁ」


 クバヘクソでの誘拐事件が脳裏を過って慌て始めたルドーの肩を、エリンジが掴んで落ち着かせる。

 その間に髪で通信魔法を使ったのか、耳付近が白く光り始めたカイムの言葉に、ルドーはほっと胸をなでおろした。


「カイにぃ、瘴気でもう見えないよぉ。追っかけないの?」


「あの濃度は闇雲に追っかけてもあぶねぇよ、ライア」


 ライアがカイムの背中で瘴気の塊を指差しながら声をあげたが、先が見えない程の濃度の高い瘴気が、風に吹かれても渦巻くように鎮座し続けているそこでは、いつ大規模魔物が襲ってきてもおかしくない。


 先程の大規模魔物が発生した直後なら尚更だ。


 魔物が生み出され続ける中、視界も悪い濃度の瘴気内で大規模魔物複数囲まれるのは危険だ。


「無理に追うなと言ったはずだ、今は魔物に対処しろ!」


 レッドスパイダー先生が片刃剣を振るって、瘴気から発生し続ける魔物に霧散させた。

 魔物はまだ瘴気に発生し続けている。


「ごめんお兄ちゃん!」


『もう置いてかないでよ!』


 しばらく全員が魔物にそれぞれ対処して戦闘を続け、ようやくリリアと、ガラガラと荷車を引いたノースターが合流した。


 リリアは襲い掛かってくる小規模魔物を即座に浄化魔法で霧散させつつ、目の前にそびえ立つような瘴気を見上げた。


「残りの魔力じゃ、この濃度に大きさじゃ全部は出来ないかも……」


「リリア、俺の魔力を使え!」


「エリンジくん!?」


「元々お前の魔力だろう、今は浄化の方が必要だ!」


 エリンジに対する魔力補充の魔力伝達の影響で、リリアの魔力が少なくなり、浄化魔法の効果が弱まっていた。


 ならば注いだ魔力をリリアに戻せばいいだけの事。


 ついでに魔力伝達で魔力を増幅させて威力をあげようと、エリンジがリリアの手を掴んで、虹色と白の魔力が混ざり、循環するように二人魔力伝達し始める。


「魔力伝達の時間稼ぎだな!」


「避難中の住民に被害を出すんじゃないぞ!」


「カイにぃ! おっきいのまた出てきた!」


「くそが! どんどん増えやがって! 後ろ援護しろ!」


 先程見た肉食恐竜のような大規模魔物が、今度は複数発生し始めた。

 のそのそと瘴気からはい出てきたそれに、ルドー達が対処しようと身構え、小規模魔物の方を何とかしてくれと、カイムがノースターとカゲツに叫ぶ。


「うえっ!? こっちもですや!?」


『この辺り一帯植物生やして!』


「えぇ!? えぇいなるがままですや!」


 荷車を置いて近寄ってきたノースターの魔法文字に、カゲツが両手を振り下ろした。


 途端に様々な種類の植物が、大量に壁になるように大きく伸びる。


 ノースターが懐に手を突っ込んで、色とりどりの魔法薬の瓶を素早く次々投げつければ、植物に当たって割れた瓶の中身が降りかかり、石化するようにガチンと音を立てて色を変える。


『抑え込んだ! 逃走経路も無くなったけど! はい酸性魔法薬これ投げて!』


「物騒なもん投げ渡してんじゃないですや!」


 硬く石化した植物の壁に、小規模魔物が足止めされている所に、ノースターとカゲツが二人で酸性魔法薬をポイポイと投げる。

 魔物に当たって瓶が砕け、振りかかる液体が即座に小規模魔物を次々溶かして霧散させていく。


 ルドーが聖剣(レギア)を振り下ろし、雷閃を次々と空中から放って、大規模魔物を即座に貫き霧散させていく。


 カイムが髪を魔力を帯びたドリル状にギュルリと変形させて次々発射して、大規模魔物を爆発霧散させていく。


 だが倒した傍から次から次へと、大規模魔物が発生し始めていた。


 小規模魔物の溢れる量もどんどん増してきている。


 レッドスパイダー先生が片刃剣を振り下ろして、街道から住宅の上に逃げようとしていた小規模魔物を逃がすまいと大量に片刃剣を振りかぶって狙い撃ちし続ける。


「準備できた! お兄ちゃん!」


「全員一旦下がれ!」


 リリアとエリンジの掛け声に、ルドーとカイムが道を開けるように後ろに下がった。


 リリアがエリンジの手を握ったまま両手を前に広げ、淡い虹色の浄化魔法が渦巻く波のように大きく溢れて大量放出される。


 湧き出ていた魔物が即座に次々霧散していき、そのまま巨大な瘴気を覆うように、浄化魔法で霧散させていく。


 消えていく瘴気に女神像破壊犯がいないかと、ルドーはリリアのすぐ右脇で必死に目を凝らした。


「……あいつ! 上だ!」


 カイムが叫んで指示した方向を、浄化魔法を続けながら全員が見上げる。


 青緑の大鎌の柄に跨った女神像破壊犯は、柄の先からロケット噴射のように魔力を放出させながら、遥か上空を飛行していた。


 どんどん小さくなっていくその陰に、飛行魔法が使えない現状では、誰も彼女に追いつけなかった。


 女神像破壊犯に、またまんまと逃げられてしまった。


 浄化魔法に消滅していく瘴気に、全員が小さな点になっていくその姿を凝視し続ける。


 やがて全ての瘴気が浄化魔法に消滅して、魔物暴走(スタンピード)は終息する。


 その場で全員が疲労に大きく息を吐く中、ノースターが石化した植物にまた別の魔法薬をバシャッとかけて、石化植物をグズグズに枯らして植物壁の撤去をし始めた。


「ルドにぃ、カイにぃ、逃げられちゃった?」


「くそがぁ、空飛ぶのは反則だろが」


「あれを捕まえるにはいるな、飛行魔法が」


「……だなぁ。聖剣(レギア)、お前飛べる?」


『さぁな、やったことねぇ。お前次第だルドー』


「俺次第ってなんだよ……」


『ランティベリの住民に告ぐ。魔物暴走(スタンピード)は終息した。瘴気も魔物も対処したためもう安全だ。戻って大丈夫だ』


 結局女神像破壊犯の保護が徒労に終わってルドー達が項垂れる中、レッドスパイダー先生がランティベリの住民へ報告の通信魔法を入れた。


 避難先だろうか、大きな歓声が少し遠くで聞こえる。


「……あの、え、エリンジくん……」


「なんだ」


「その、手、もう、放して……」


「ん? あぁ悪い」


 顔を赤らめたリリアが、少し声を震わせながらエリンジに訴える。

 そう言えば咄嗟の出来事とはいえ、エリンジが魔力伝達の為に自分からリリアの手を掴んでいた。


 リリアの指摘に初めて気づいたように、エリンジはあっさりと手を放している。

 多分こいつに他意はない、多分。


 リリアが顔をさらに赤らめながら、握られていた手を胸の前で抑えたところで、そういえばとルドーは声を掛けた。


「リリ、さっきまで一緒にいたのになんで急にはぐれたんだ?」


 ルドー達のすぐ後ろを走っていたはずのリリア。

 普通にしていればはぐれる距離ではなかった。

 その事をルドーがリリアに問いかけると、途端にリリアの表情が曇った。


「……その、違うといいんだけど、違ってなかったら不味いかなってものを見かけて……」


「不味いもの? 何見たんだ?」


「その、前に、瘴気痘の核? を植え付けてきた、包帯の人、みたいな人を見かけて……」


『……なんだと?』


 曇った表情のリリアの言葉に、ルドーはエリンジとカイムと共に戦慄した。


 瘴気痘の核を植え付けた、薄汚れた包帯グルグル男。


 クロノがその様相を知っていた事から、そいつも女神深教である可能性が高かった。

 フィレイアで暴れたあの女性だけでなく、他の女神深教と思われる相手も出張ってきた。


 女性保護施設サクマは、瘴気で爆破された。

 リリアとアリアはあの時瘴気痘の核を植え付けられている。

 そして魔の森に隣接していないランティベリで、突発瘴気の魔物暴走(スタンピード)


 立て続けに起こったその男周辺での、瘴気の動き。


 まさか瘴気を自在に操れるなんて、そんな可能性はないだろうか。


 既に転移魔法で逃げられてしまったと言い終えたリリアの言葉に、末恐ろしい何かを感じて、ルドー達はその場に立ち尽くした。


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