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第百四十八話 ローゼン公爵邸

 かなり長い距離の庭を歩いて、大きな館の扉に辿り着く。

 リリアがドアノッカーを使ってコンコンと扉を叩くのを、ルドーは荷台から離れて見守る。


 しばらくして扉が開くと、執事のような燕尾服を着た初老の男性が姿を現す。


 キシアから頼まれてカルテを届けに来たとリリアが事情を伝えれば、門兵から連絡があったのか、初老の男性は分かったというように目を瞑ったまま頷いた後、一旦入り口を閉め、しばらくしてまた扉が開く。


「お嬢様は今中でご準備しておりますので、中で少々お待ちください」


 貴族特有のやり取りだろうか、庶民出身ばかりでルドー達がなんと返せばいいか迷う中、エリンジが慣れた様子で答えて中に入っていく。


 荷車を一旦置いてルドーが中に入れば、豪華なシャンデリアが飾られた壮大なエントランスに、ルドーは口をあんぐりと開けて固まってしまった。


 エントランスのはずなのに、庶民の家なら五、六軒は軽く収まってしまうくらいには広い。

 二階に上がる両階段の脇に、優雅に花が活けられて華やかさを醸し出し、ピカピカに磨き上げられた大理石の床と、年季の入った木勢の建具、荘厳な空気の中に漂う高級感と上品さが調和している。

 大量の使用人が表情も変えずに壁際にずらりと並び、気配を消してまるで家具のように佇むその見事に訓練された様子。


 ルドーと一緒にリリア、カイム、ノースター、カゲツも、あまりの荘厳さに当てられて言葉を失くし、その美しさにライアがカイムの背で大きく目を輝かせて感嘆の声を上げていた。


 ルドーがエントランスに呆然としている間に、諸手を挙げて歓迎してくれたのは、キシアと同じ深緋色の髪をした、身なりがよく洗練された中年の男性。

 見るからに高級そうな、髪色と同じ深緋色の身なりに、周囲に控える使用人たちの、顔には出していないのに尊敬するような空気から、その人がキシアの父親、ローゼン公爵だと察せられた。


「協力感謝申し上げようエレイーネーの諸君。キシアは今準備しているところだ、客間に案内させよう」


「あの、これどうすれば……」


「連絡いただいていたカルテだね。間違いなく受け取ろう。貸し出してくれて本当に感謝する。使用人に運ばせるので渡していただいてよろしいかな」


 大きな館とはいえ、流石に屋敷の中で荷車をガラガラと引くわけにもいかない。


 びっしり詰まった木箱を四つ乗せたまま、ルドーが入口から入ろうか入るまいかと躊躇していたら、ローゼン公爵の声に使用人たちがさっと動く。

 ルドーに深々と頭を下げて許可の声をあげた後、ルドーのしどろもどろな返答と同時にテキパキと木箱を屋敷に運び込んでいった。


 そのまま別の控えていた使用人もやってきて、ルドーにバインダーで書類とペンを差し出してくる。


 貸し出しに関する契約書か何かだろうが、びっしりと小さい文字が羅列され、貴族特有のやり取りに、全く慣れていないルドーはただただ圧倒されてしまう。

 見兼ねたのか無表情のエリンジがルドーの横まで歩いてきて書類を覗き込み、一通り確認して問題ないと助言してくれたので、ルドーは指示されるまま指定の場所にサインをかいた。


 キシアの実家なので問題はないのだろうが、確認作業は怠らないエリンジもまさしく貴族だった。


 キシアとよく似た笑顔を携えたローゼン公爵に促されて、使用人に案内されるままに来客室で全員が待機する。

 見るからにかなりの高級品である調度品に、それでいてどこか落ち着いた雰囲気にまとめ上げられている来客室。


 何か一つ傷つけただけでも一生分の損害賠償が発生しそうで、貴族で慣れているエリンジと、エレイーネーの依頼で慣れている様子のレッドスパイダー先生、よくわかっていない様子できょろきょろしているライア以外が、居心地が悪そうに、ふかふかの椅子の上で落ち着かずもぞもぞと動いていた。


 待機している間にも使用人はやってきて、これまた高級品であろう紅茶が淹れられて、人数分差し出される。


 出されたものは飲まなければ失礼に当たるので、ルドーは平気な無表情で飲み始めたエリンジに倣うように恐る恐る口にする。

 かなりの香りの良さに今まで飲んだことも無い上品な味がして、今後一生また飲むことはないのだろうなぁと、しみじみしながらゆっくりと堪能してしまった。


 あちちとライアが慣れない紅茶に苦戦するのを、同じくティーカップをどう使えばいいのかと困惑しているカイム諸共、エリンジが見兼ねて使い方を簡単に教えている所で、かなり高級そうなドレスに身を包んだキシアが、年若い使用人を一人引き連れて、ようやく客間にノックして入ってきた。


「皆様お待たせ致しましたわ! 今回は本当にありがとうございます!」


「いやまだカルテ運んだだけで情報何もわかってないじゃん……」


「そのカルテの貸し出しと、ここまで運んでくれたことに対する労いですわよ、ルドーさん」


「えぇ……大分仰々しいって……」


 荷車でカルテを運んだだけなのに、それに対する労いの過剰さに、ルドーは若干引き気味だった。

 それどころか、同行しているだけで何もしていないエリンジとカイムやライアにも労っているので、疫病を解決する情報が出た訳でもないのにと、ルドーはキシアを怪訝に眺めていた。


「それで私たちは何をすればいいですや?」


『(魔法薬作ろうにも、もうちょっと情報がないと厳しいかも)』


「お二人には別室にて既に資料を準備させていただいておりますの。それを参考にしていただいて、魔法薬が作れるか、材料は何が必要か、ご検討いただければと」


「それでは善は急げという事で、早速見せていただきましょうや!」


『(今日一日で終わるかなそれ)』


「外部に出しても問題ない資料ですので、そのままエレイーネーに持ち帰っていただいて検討してもらっても構いませんわ」


『(そう言う事ならまぁ……)』


 キシアが目配せするように付いてきた使用人に視線を向ければ、その使用人が静かに頭を下げて、カゲツとノースターを案内するように扉を開ける。

 使用人に続いてカゲツとノースターが退室する中、カルテを届け終えてもうやることがないルドー達は、待っている間どうすればいいのかとキシアの方を向いた。


 視線を向けられたキシアが、ルドー達と同じように椅子に座りながら、にこりと笑って話し始める。


「この間伝えていたお礼の品は、エレイーネーに戻った時にお渡ししたのでよろしいですか?」


「あ、そういやそうだったな。うん、頼むわ。イシュトワール先輩もそろそろ戻れるといいけど……」


 フィレイアから相変わらず戻ってきていないイシュトワール先輩。

 かなり長い事フィレイアの騒動を収めようと動いているため、ルドーは実際のところ大丈夫なのだろうかと、情報を持っているであろうレッドスパイダー先生の方を向いた。


 黒と赤い彼岸花の仮面で表情は何もわからないが、ルドーの問いかけるような言葉と視線に気づいたレッドスパイダー先生は、ルドーに仮面を向けながら数回小さく頷く。


「フィレイアはようやく落ち着きつつあるが、別件が絡んできたからな。その調査に時間がかっているようだ」


「別件?」


 仮面の下から発せられた報告に、ルドー達は怪訝な表情をして視線を向けた。


 紅茶をお替りしたライアが、使用人に優しく教わりながら砂糖とミルクを追加している。


「そもそも、フィレイアの教会に何故鉄線の元幹部が襲撃してきたかについてだ。調べていたところ、どうやらその二人は今別のマフィア組織に属しているらしい。そしてその組織が現在シマス国の裏で動いているようだ」


「別のマフィア組織?」


 レッドスパイダー先生の話に、ルドー達は一斉に険しい表情に変わる。


 フィレイアの混乱は確かに簡単に収まるようなものではないが、ここまで長引いている理由の一つに、下層に情報を流して混乱を誘導しているような動きがあったからだそうだ。

 フィレイアや旧ヨナマミヤの住民の混乱に対応するのに後れを取って、そのきな臭い動きをしている裏からの誘導に気付くことに遅れていた。


 シマス国内に、上層と下層の魔力差別を助長するように動いている組織がいる。


 確かに女神教の教会を襲ったあの二人組は、フィレイアの安定化を図る女神教の動きが邪魔だったから襲撃してきたと本人たちが言っていたわけで。

 女神像の破壊や、女神深教の襲撃は、あの二人にとっても想定外だったが、結局のところ女神降臨祭は中止になって、フィレイアを筆頭に下層の状態はかなり悪くなった。


 マフィアのような裏組織にとって、とても動きやすい都合のいい状態に変わったといえる。


「……まさかその組織が線連とか言わねぇよな」


「あぁ?」


「クロノさんが警告してきたマフィア組織?」


 嫌な予感がしてルドーは憶測ではあるが可能性を挙げる。


 クロノが警告してきたマフィア組織の名前は二つ。


 ラグンセンは、ランタルテリアで最近名前を聞くようになってきたマフィア組織。


 なら依然判明していないもう一つのマフィア組織、線連がこのマフィア組織に該当する可能性はないだろうか。


 ルドーの推測に、エリンジとカイムが警戒する表情のまま疑問符を浮かべて、レッドスパイダー先生に答えを求めるように視線を向けるが、黒い仮面を横に振ってわからないと答える。


「名前まではまだ判明していない。だが情報操作ばかりで裏に潜り続けていたせいで発覚が遅れたのは事実だ。いつから情報操作されていたのか、それもまだわからないが」


「クバヘクソ周辺は急に魔力差別が悪化したと、この間の騒動でネルテ先生がおっしゃっていましたわ。ひょっとしてそれも?」


「可能性は高いだろうな」


 シマス国の魔力奪取騒動の際、元々酷かった魔力差別が、その数ヶ月前後で急激に悪化している。


 今も魔力奪取騒動こそ続いているものの、クバヘクソの魔力差別はなんとか平均に戻ってきたという。

 あの時バナスコスがイシュトワール先輩と、ベクチニセンス以外の別件が絡んでいると話していたのをルドーは覚えている。


 あの時点でマフィア組織が動いていたとみていいのだろう。


『なるほどな、襲撃に隠されたが、マフィア組織があの国で何やら動いていたからこんなに調査に時間がかかってんのか』


「その通りだ。しかも厄介な事に、件の襲撃に警戒して余計に地下に潜ったらしい。情報操作こそされているものの、それ以上の行動の足取りがつかめなくなった。今はこれ以上調べる事は厳しいだろう」


 レッドスパイダー先生はそう言って、仮面の下で大きく溜息を吐いた。


 女神深教のあの攻撃は、裏組織の人間にとっても大きな脅威なのだろう。


 鉄線元幹部で、今はその組織に属しているというあの二人組も、現場でその規格外の攻撃を目の当たりにしている。


 その攻撃に、裏組織が警戒して一時的に地下に潜ってしまった。


 一瞬だけ見えた裏組織の手掛かりが、あの攻撃によって同じく消し飛ばされた。

 情報操作してくるような厄介な相手、出来れば早めに何とかしたいが、地下に潜られて情報を遮断されては、今はもうこれ以上調べようがない状態なのだろう。


「組織の情報を掴められないってことですの……アルスさん」


 不安そうな表情でキシアが呟く。

 今はいないキシアのパートナーのアルスは、間違いなくシマスの下層出身だ。

 フィレイアがあのような惨状になって、影響がないわけではないだろう。


 新しく情報の入った裏組織の話に、キシアは連想するようにアルスの名前を呟いたようだ。


 暗い表情に変わって視線を下に向けたキシアに、この間の事も心配になったルドーは声を掛けた。


「キシア、アルスとなんかあったのか?」


「えっ?」


「いやなんか、最近一緒にいないし、それにこの間からアルスの事話すとどうにも表情が暗いと思ってよ」


 ルドーの言葉に、リリアも心配そうな表情でキシアを見つめる。


 エリンジとカイムは、ルドーの指摘に初めてキシアのその様子に気づいたように目を見開いた後、互いに顔を見合わせて、わかっていたかとお互いに首を振っていた。


 ルドーの指摘にキシアは驚いたような表情を浮かべた後、また暗い表情に変わって視線を下げる。


「私にもよくわかりませんの。ただ、急に人が変わったようになられまして」


「人が変わった?」


「この間のフィレイアの一件からですわ。母国で起こった事ですから、仕方ない部分もあるでしょうが、それにしても様子がおかしくて……」


 暗い表情で語るキシアに、ルドー達は顔を動かさず視線だけ見合わせた。


 フィレイアの状況に、シマスの下層出身のアルスが、なにかしら衝撃を受けるのは仕方のないことだ。


 だが人が変わったというキシアの言葉が引っ掛かる。


 アルスはいつも一歩引いて、少し遠くから周囲を見つめて第三者の視点で周りを観察していた。

 当事者として動くようなことのなかったアルスが、この間のフィレイアの一件で、何かに気付いて焦るように、キシアを置いて一人でなにやら調べ始めているらしいようだ。


「大丈夫かなそれ……」


「分かりませんわ。このようなことになったのは初めてで、私もどう声をかけて良いか分からないんですの……」


「それで最近落ち込んでたのか」


『あれか、巻き込まれた住民の中に知り合いでもいたか』


 ピリッと弾けた聖剣(レギア)の言葉に、場が沈黙に支配される。


 女神深教のあの女性の攻撃で、被害に遭ったフィレイアの住民は多い。

 シマス下層の孤児院出身だと言っていたアルスだが、どの孤児院かは聞いていないし、直接関係ないにしても、知り合いがフィレイアいないとも言い切れない。


 今までは文字通り他人事だったが、今回アルスにとって当事者となったのなら、そのように動くのも当然といえる。


「……いや、まだ事情わかんねぇな。戻ったらちょっと聞いてみるか」


「そうだね、キシアさんも心配してるし、話せる事情ならいいんだけど……」


「例の襲撃者の件もある。安易に調べているなら危険だ」


「焦って動いたっていいこたぁねぇ。あいつにゃクバヘクソの借りもある、いるなら力貸すわ」


 アルス本人に何かあった事は、キシアの話からも察せられた。

 だがそれが一体何なのかは、アルス本人に聞かないと分からない。


 その為ルドーはエレイーネーに戻ってから、アルスが何かしら抱えているのなら、とりあえず話を聞くことから始めようと周囲に提案した。


 女神深教の問題もある。

 リリアもエリンジもカイムも、ルドーのその意見に肯定の返事を返した。


 不安そうに視線を下げていたキシアも、ルドー達の話を聞いて、一緒に話を聞きたいと前を向く。


「情けないですわ、こういった時の為のパートナーだったはずですのに。話してもらえないからと不安に思うだけで、なにも行動に移せなかったなんて。私が真先に話を聞きに行くべきでしたのに」


「いや、君たちだけではない。我々教師が一番に気付いて対応するべきだった」


 キシアの話を横で聞いていたレッドスパイダー先生も、対応が遅れたと謝罪するように頭を下げる。

 フィレイアへの攻撃で心に傷を受けた生徒がいるならば、真先に対応しなければいけなかったと、そう言ってキシアに頭を下げたレッドスパイダー先生に、キシアは慌てるように手を振った。


「そんな! 先生方はフィレイアへの対応で手一杯でしたのに! それにまだアルスさんの事情がはっきりしませんわ! そんな頭を下げないでくださいまし!」


「事情、そうだな。私の方からネルテにも一応報告を入れておく。何かあったら頼りなさい」


 結局のところ、アルスに事情を聞かないと、この問題は前に進まない。


 レッドスパイダー先生の言葉に、キシアは励まされたように、まだ影が差しつつも小さく笑い、とても丁寧にお礼を述べていた。

 キシアの不安を感じ取るように、ライアが立ち上がりとてとてとキシアに近寄って、慰めるようにぽんぽんとドレスのスカートを小さく叩いた。


「戻りましたですや……ってなんですかこのお通夜みたいな空気!?」


『(なにか疫病に更に問題でも発生しました?)』


「いやそういうわけじゃねぇよ。まぁちょっとな」


「今は解決できないので、気にしなくてよろしいですわ」


 バタンと来客室の扉が開いて、カゲツとノースターが戻ってきた。

 二人共その両手に大量の資料を抱え込んでいるので、どうやら疫病に対する魔法薬は現時点では作れていないようだ。


 ノースターが魔法薬をどのように作っているのかは、自室で行っているため誰も詳しくは知らない。

 ただこの短時間で作らずに戻ってきているなら、魔法薬の調合は時間のかかる作業なのかもしれない。


 ノースターとカゲツの二人が戻ってきたことで、一通りの用事は終わったと、キシアも気を取り直して椅子から立ち上がった。


「とりあえず戻ってからですわね、なら今日は私からの依頼の件を終わらせましょう。ルドーさんリリアさん、カルテは一通り閲覧させてもらって、順次返却していきますわ。本当にありがとうございます」


「役に立ってくれたらいいんだけどなぁ」


「また何か必要なら言ってね、キシアさん」


 どの情報がどのように役に立つのか、今の段階ではよくわからない。

 キシアに改めてお礼を言われたルドーとリリアは、また何か協力が必要ならば声を掛けてくれと答える。


「こちらはエレイーネーに戻ってから進捗報告させていただきますや」


『(とりあえず試作品を何個か作ってみるよ)』


「報告お待ちしておりますわ、カゲツさん、ノースターさん」


 資料を抱えたままのノースターとカゲツは、逆にこれからが作業となる。

 今後の報告についてそれぞれがキシアと話し合っていた。


「私は借り受けたカルテを元に、もう少し私なりにも調べてから戻りますわ」


 疫病に関する対策は、これから調べていく段階だ。

 キシアも自国の貴族として何かできないかと、色々と手を尽くすつもりでいる様子でいる。


 とりあえずローゼン公爵邸での用事は終わったのでと、ルドー達も椅子から立ち上がり始めた。


「そんじゃあとはレイルとロイズの土産だけだな」


「古本祭りだっけ、隣の町なんだよね、キシアさん」


「ランティベリですわね。メイデンからそう遠くはないですわ。歩いて行ける距離ですが、馬車で送りましょうか?」


「あーいや、荷車あるし歩いてくわ」


「あ、そうだったね、後で返さなきゃ」


「はぁ、世話かけらぁな」


『まさかあんなに大量に本頼まれるとはな』


「知る情報は多い方がいい、本人がそれを望むなら尚更だ」


 知識欲のあるレイルの様子に、エリンジがカイムに肯定的に意見した。


 ゲッシ村から借りた荷車は、そのまま古本祭りが開催されるランティベリまで持って行くことにしている。


 相当前から楽しみにしていた古本祭りに行けないと分かったためか、レイルは行けない代わりにと、気になる本を片っ端からリストにあげてきており、流石にカイム一人でも運べない程の大量の本を頼み込まれてしまっていた。


 不自由をさせているために、その願いはなるべく叶えてやりたいというカイムの気持ちも分かる。


 リストのすべてを買い込むことは不可能だろうが、それでも可能な限りは本を買って帰りたいようなので、荷車に買った本を乗せて運ぼうという話になっているのだ。


 あの狭い保護科の寮の個室、そんなに大量に本が置けたかは、帰ってから考えるつもりだ。


 世話になったと使用人に頭を下げるレッドスパイダー先生に倣ってルドー達も頭を下げ、上品に手を振るキシアにローゼン公爵邸から見送られながら、ルドー達は古本祭りが開催されている隣町、ランティベリを目指した。


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